第3話 「天城の一族」
この世界に転生してからもう3年が経とうとしている。
もう俺も8歳になった。
なのに、ヒバリには一本も入れることができていない。
それどころか、ヒバリはさらに強くなっているんじゃないかと最近は思う。
そんな事を思いながらも、この3年に色々なことがあった。
天城家の分家と言う人たちが父さんを訪ねてきては、俺への顔見せと言って俺にも話しかけてくる。
まだ8歳の少年の俺に敬語で謙って話しかけてくる。
その人たちの子供達と話しながら、俺は最近こう考えるようになった。
(もしかして、天城家って相当力を持った一族なのか?)
そんな疑問が日に日に大きくなったので、ヒバリに聞いてみることにした。
彼女は、色々な事を知っていて頼りになるのだ。
戦いだけではない、学問や騎士としての心の持ち方などを経験を語りながら教えてくれる。
なので、俺は彼女の勉強の時間が嫌いではない。
とまあ、訓練が終わってからヒバリに訪ねてみた。
「ヒバリ、1つ教えて欲しいことがあるんですが」
「はっ、この私に出来る事ならなんなりと」
堅苦しく返事が返される。
去年の出来事から、ヒバリはより一層忠誠心が高くなっているようだ。
なんでも、授けた刀は常に手の届く範囲に必ず置いてあるらしい。
風呂とかでも、置いてあるんだろうか。
「いえ、うちの一族って…どれくらい歴史があるんですかね」
「…」
ヒバリが苦い顔をしながら、考え込んでいる。
まずい事を聞いたかな。
もしかしたら、おいそれと話をしてはいけないのかもしれないと思った時に口を開く。
「ヒバリは、天城家以外の分家のことはあまり知りませぬ…故に至らぬ点があるでしょうが、宜しいですかな」
と思ったら、あまり知らなかったらしい。
どうやら、他にも分家と呼ばれる一族があるらしい。
分家と言うからには、天城家が1番大きいわけではなさそうだ。
「ええ、構いませんよ」
「では、失礼ながらどこから話をしたものか…」
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かつて、この世界は平和に守られていた。
そこまでの話は、俺の元居た世界と似たような話だった。
そこからが、違うのだ。
圧倒的に、違う世界なのだと思わせられる。
突然世界各国と連絡が取れなくなり、日本各地に鬼と名乗る化け物達が現れた。
その化け物はどの武器も、兵器も効かずに日本を恐怖に陥れたのだ。
そして世界は鬼の手に落ちた。
今の日本の人口は、かつての10分の1以下の数と言われている。
そんな世界に突然現れ、鬼を殺すことのできる者達が現れたのだ。
それが全ての鬼狩りの一族の長、『皇』家。
他の分家を率いて東京を奪還した鬼狩りの始祖。
その時に皇家以外に特別に活躍をした5つの一族。
皇の本家から分家を名乗ることを許された特別な一族らしい。
その1つが、天城家。
他の4つの分家も独自の方向に力を伸ばしているらしい。
そして、長い間戦いを続け、鬼を狩り続けている。
その間、奪還した地域は東京と神奈川の2つだけらしい。
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「以上が、私が知っていることですかな」
ヒバリが、そう言って話を終える。
ハッキリ言って、想像以上だ。
皇本家に、天城の分家。
だけど少しだけだけど、分かっていることがある。
たったの2つの県しか開放できていない、これは致命的だ。
この事から、鬼は強いのだろう……桁違いに。
父さんがかつて言っていた、9代目当主という言葉。
この事から、おそらく当主は最低でも8人が志半ばで力尽きてきたという事だろう。
(ん…そう言えば、1つ分からないことがある)
「なんで、僕達は鬼を殺すことが出来るんですか?」
「我々が持っている刀が鬼を殺すことのできる加護を持っているからです」
鬼を殺すことのできる加護…呪いの一種か?
もしかしたら、元は陰陽師みたいな一族だったのかもしれない。
「アラシ様、他に何か聞きたいことはありますか?」
ふむ…大体の歴史を知ることが出来たな。
他の詳しいことは、父さんに聞くべきだろう。
「ヒバリ、話してくれてありがとうございます」
「いえ、私が話せることは少ないですが、アラシ様のお役に立てるなら嬉しい限りでございます」
そう言ってヒバリは頭を下げる。
なんて出来た人なのだろうか、本当に俺にはもったいない教育係だ。
そのあとは、ヒバリと色々な話をして1日を終えた。
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夜中に目が覚めた。
少し興奮して眠れない。
昼にあんな話を聞いたからだろうか。
不安が湧いてきて、眠れないのだ。
少し庭を散歩しようと思い、扉を開けて外に出る。
父さんの離れの庭を通りかかったその時に見た。
父さんの姿をだ。
俺はその姿に話しかける。
「父さん、こんな時間に何をしているんですか?」
「アラシ!?
お前の方こそこんな夜更けにどうしたのだ?」
「えっと…少し眠ることができなくて」
「そうなのか、どれ…こっちに来なさい」
俺は父さんに呼ばれ、そばに寄る。
父さんの手には刀が握られていた。
「刀の手入れをしていたのだ」
父さんが手入れをしているのは天城七本剣が1つ、
大刀『太刀風』。
竜巻を斬ったとされる逸話を残した2代目当主が作り上げた最高傑作。
その刀を手入れしながら父さんは話を続ける。
「刀は己を映す鏡の1つだ、手入れは絶対に怠るな」
「はい、父さん」
「牙を研ぎ続けろ、時として強さは必要だ」
父が夜中にも、太刀風の手入れをしているのは俺が目覚めてから3年で3回目だ。
ということは、おそらくだが行くのだろう。
「アラシ…少し家を留守にする」
いつものように彼はこう言い放った。
「天城家9代目当主、出陣する」