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鬼人の國 -風の英雄譚-  作者: 清涼飲料水
第2章「少年期 帯刀編」
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第28話「神域」

 

 あの炎は、なんだ。

 玄樹郎が振るった刀には、炎がまとっていた。

 その玄樹郎が斬った鬼の腕は、再生が止まっている。

 今もゆらゆらと、炎が彼の周りにはただよっている。

 理由は分からないが、行ける。 彼なら、目の前の鬼に勝てる。


「はあっ、そうか玄樹郎と言うのか」


 そう言って、鬼は笑みを浮かべる。

 先ほどまでの勢いは止まり、ゆったりと構える。


「貴様は、骨も残さん」

「いいぞっ、玄樹郎!」


 断続的にしか、動きは追えない。

 一太刀、一合打つ度に、どちらかの血が舞う。

 その速度は高まり、さらに速くなる。

 だが、その動きは次第に遅くなり、やがて止まり、膝をついた。


「無駄だ、もうお前は僕には勝てない」

「うお、お、おお……」


 膝をついていたのは、ドラクロアの方だった。

 玄樹郎は、先ほどまでの傷以外は一つも増えていない。


「お前には、話を聞かなければならない、命はまだ取らんが、動きは封じさせてもらうぞ」

「ク、ククク……!」


 だが、ドラクロアは笑みを止めない。

 それどころか、勝ちを確信しているかのような表情を浮かべている。


「何が、おかしい?」

「いや、何……念には念をいれて正解だったな、とね……」


 玄樹郎は、何かに気づいたように、動き。

 鬼の首に、刃を突きつけた―。


「もう、遅い」


 玄樹郎が、斬った首が宙を舞う。

 だが、その首は宙で形を変えて、血溜まりに変わり、地面にパシャリと落ちる。


「もう遅いぞ、玄樹郎」


 離れた所に、ドラクロアが姿を現わしていた。

 ヤツは、胸に手を当てて、呟く。


「『神域』よ、血を吸いなさい」


 そして、自らの胸を貫いた。

 鬼の血が滴り、その地を濡らす。

 その動きを見た玄樹郎がヤツに向かって、動き出す。

 鬼の、命を絶つために。


「『血海魔館』」


 次の瞬間、世界が変わっていく。

 周りの景色が変わり、血の海が広がっていく。

 俺には何が起こったのかさえ、分からない。


「玄樹郎、驚いて頂けたかな?」

「貴様、『神域』を……!?」


『神域』とは、なんだ?

 分からない、だが、分からなくては、いけない。

 目の前の鬼の傷はすでに治り、俺たちを見下している。


「私も、神域まで使うことになるとは思わなかったよ」

「貴様……」


 玄樹郎が、動く。

 刀を振ろうとして、そこに何かが飛んでくる。

 彼はそれを防ごうとする。


「ぐあっ!」


 それは、血の鳥だった。

 正確には血で出来た、鳥の形をした、血。


「これは神域の力の一部だぞ、玄樹郎」


 鬼は、指を玄樹郎に向ける。

 指先から、無数の血の弾丸が彼を襲う。


「うおおおっ!」


 彼はそれを全て防ぎ、否、防げなかった。

 一度弾いた弾丸が形を変え、針となり彼を再度襲い、貫く。


「もう無理だ、玄樹郎よ」

「が、あ……」


 再度、血の弾丸が彼を襲い、今度は玄樹郎はそれを防げなかった。

 彼の体をえぐり、彼の動きを完全に止める。


「もう、諦めなさい」


 やがて、ドラクロアも動きを止め、玄樹郎に語りかける。

 まるで、仲間に声をかけるように。


「玄樹郎、そうだ……特別にお前は見逃そう」

「何を、言っている貴様は……!?」

「強者は、さらに強くなる義務がある、そうだろう?」


 玄樹郎は、鬼の言葉を受けて、答えた。


「ああ、そうだな」

「なら、今すぐ……」

「だが、それは出来ない。 お前は、俺を見逃したのなら、後ろの三人を殺そうとするだろう」

「ああ、帯刀の弱体化は任務だからな」


 なら、と玄樹郎は覚悟を伝える。


「ここは引けない時だ、僕は命を賭けよう」

「ああ、残念です。 最後に言い残すことは?」

「なら、少しだけ……」


 彼はそう言って、声を絞り出す。

 まるで、この世の最後だというかのように。


「紅炎、強い者には大きな責任がある。 そう言ったな」


 紅炎は、声が出せない。

 体が固まり、俺と同じで顔を動かすのみだ。

 それでも、彼は話を続ける。


「伝えられるのはこの一度だけだ、父の背を見て学べ。 そして、お前の責任はお前が決めろ」


 紅炎は、顔を動かし頷く。

 それを見て、彼は満足そうにする。


「烈火、お前は僕たちに似て、頭はあまり良くない。 だけど、よく考えて行動するんだ。 君ならできる、分かったね?」


 烈火は、涙を浮かべている。

 彼の最後の言葉を受けて、噛み締めている。


「だけど、これだけは伝えておこう……お前たちを救って死ぬなら、僕に後悔はない。 烈火、お前はお前の道を行け、お前が決めた道なら僕は認めよう」


 烈火は、目を背けることはなかった。

 目に焼き付けるように、ただ誇り高い男を見ていた。


「アラシ、父さんには後悔はない……と。 総一郎には、約束守れなくてゴメンな、と伝えてくれ」


 そんなの、簡単だ。

 目の前の男は、誇り高く生きようとした。

 その男の言葉が、俺にも欲しい。


「君には、そうだな……二人をよろしく、頼む」


 勿論、そう言おうとしたのに声が出ない。

 だけど、彼には十分だったのだろう。

 彼は、鬼を見定める。


「玄樹郎、終わったか?」

「ああ、俺も……お前も、終わりだ」


 男は、覚悟を決め…呟いた。


「精霊よ、我が魂を燃やせ。 糧は、目の前の鬼と、僕だ」


 周りの世界が、燃える。

 血の海が、干からびていく。

 館は燃え、新たな世界が広がって、一つに混じる。


「ここは、帯刀の屋敷だ。 鬼、甘く見たな」

「しまっ……!!?」


 鬼の世界が、燃える。

 玄樹郎が、燃える。

 やがて、炎は俺たち以外を燃やし尽くし、そして世界が崩れた。


「後悔なく、生きろ」


 それが、彼の最後の言葉だった。



 ---



「三人とも、よく無事だった」


 玄樹郎様に命じられた仕事を片付け、戻った。

 その時には、すでに鬼の姿は無く、その場には三人の子供がいた。


「紅炎様、お疲れでしょう……簡易の宿を取っています」

「いい、俺にはまだやるべき事がある」


 紅炎様は、強い。

 親を亡くしたのに、なお真っ直ぐに立っていた。


「烈火様も、宿に」

「一人にして、自分で歩けるわ」


 烈火様は、ダメかもしれない。

 紅炎に比べ、彼女は心が弱かった。

 どうだろうか、彼女が立ち直ることが出来るのを心から思う。


「アラシ、久しぶり、だな」

「ええ……トドロキ、さん」


 天城 嵐、彼は、どうだろうか。

 あの大人びた少年、彼なら玄樹郎様の死をどう受け止めるのだろうか。

 そう思い、彼と話した時、俺の直感が告げた。


「僕、どうすればいいのか、わからないんです……」



 彼は、心が折れたのだと。

次の投稿で、第ニ章は終わりです。

短編などを挟みながら、三章に続いていきます。

何か感想などあれば、よろしくお願いします!!

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