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鬼人の國 -風の英雄譚-  作者: 清涼飲料水
第2章「少年期 帯刀編」
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第27話「帯刀 玄樹郎」

 

 ―失敗だった。

 ついカッとなってしまい、あの狒々と呼ばれていた鬼を斬ってしまった。

 情報を聞き出す前に殺してしまった事を反省する。


「さて……」


 トドロキにこの周囲の避難を任せてある。

 このまま終わりなのだろうか。

 そんな訳はないだろうと、考えてみる。


「目的は、まあ私かな……」


 わざわざ父さんのいない時を狙って襲撃して来たのだろう。

 それならこのまま終わる訳がない、そう自分に言い聞かせ様子を見る事を決める。


「まずは周囲の結界の修復、そして罠がないかを見ておかないとな、総一郎に協力を仰ぐか……?」


 こうなっては、一刻も早く立て直しを計らなくてはならない。

 そもそも何故、あのレベルの鬼がここまで入って来れたのだろうか。

 五家や国の中心には入って来れないように、結界が張ってあるはずだ。

 それなのに、入って来れるのは何かおかしいと、考えを持って動くと決める。


「ふむ、間違いなく……むっ?」


 足音がする。

 鬼の残党だろうか、そう思い目を向ける。

 そして、その考えが間違っていたことに安堵する。


「ああ、無事でよかった……」


 そこに居たのは三人の、子供。

 無事を願っていた、少年少女達。

 ひとまずは、無事を確認して安心する。


 ---


「そうか、裏山にも鬼がいたのか……」

「ええ、それも数人だけではありませんでした」


 俺達は玄樹郎と合流し、先程の戦闘のことを話していた。

 玄樹郎もまた、鬼と戦闘していたと聞いた時は驚いたが傷一つ負っていない所を見てさらに驚いたのだが。


「だが三人とも、無事でよかった」

「いえ、父上こそ」

「僕はこれでも帯刀の当主だよ、心配はいらないさ」


 そうだな、彼はかなり強い。

 はっきり言って、俺たちは足元にも及ばないくらいだ。

 そんな彼がいれば、安心だろう。


「お父様、それよりなんで名前持ちがこの国に入れるのかしら?」

「えっ、どういう事ですか?」


 烈火は何を言っているのだろうか、そんな疑問をぶつけて見る。


「何? アラシ、知らないの?」

「ええと、どういうことでしょうか」

「アラシ、この国には国境に結界が張られているんだ」

「ええっ!?」


 初耳だ。

 そんなものがあるなんて、知らなかった。

 父さんもヒバリもそんな事は教えてくれなかったぞ。


「ふふん、この結界はね、力の濃い鬼は入る事が出来ないようになってるのよ!」


 自慢げに烈火が語る。

 そうか、そうだったのか。

 そりゃ、そういう物が無いと鬼に対抗はできないよな。

 俺はそう考えてから、一つの考えが頭によぎる。


「玄樹郎さん、つまりその結界というのは……」

「ああ、おそらく機能が停止している、たまたまか、あるいは……アラシ、この考えは今はよそう」


 俺は、頷き肯定する。

 紅炎と烈火はまだ気づいていないようだが、もしかしたらと思い、頭の隅に考えを隠す。

 そして玄樹郎にこれからの方針を聞くことにした。


「それより、今からは何をすれば?」

「ああ、まずはこの屋敷に罠を仕掛けられていないかを調べる、君たちにも手伝って貰いたいんだが……」

「ええ、もちろ……!!?」


 頷こうとした時に、俺は気づく。

 その気配の主は、殺気を隠そうともしない。

 ゆっくりと、こちらに目を向けて歩いている。

 コートを着た、鋭い牙を持った、赤い目の男。


「三人とも、絶対に動くな」


 動こうにも、動けない。

 蛇に睨まれたカエルのように声を出すこともできず、体は固まる。

 目の前の鬼に、死を覚悟する。


「ふむ……」


 コートを着た鬼の姿が、消える。

 その瞬間、玄樹郎の姿も同時に消えた。

 次の瞬間、腕が飛んでいた。


「おお、素晴らしい……素晴らしいぞ!!」

「飛べ、鬼が」


 玄樹郎が、鬼の腕を飛ばしていた。

 その次に、蹴りを腹に放つ。

 その蹴りを受け、鬼は後方に吹っ飛ぶ。


「ああ、君は強者だな」

「貴様、名前持ちか……?」


 鬼は、いつの間にか腕がくっ付いて再生していた。

 この鬼は、さっきまで戦っていた鬼と、レベルが違う。


「強者には、敬意を払おう……」


 ふうと息を吐きながら鬼はコートを翻しながら、声を出して宣言する。


「私はドラクロア=バートリー。 主からは数字を、九つ目の席を頂いています」


「数字持ち、か……」


 数字持ち。

 鬼の中でもトップクラスの力を持つ、鬼たちの幹部。

 全ての鬼たちの中で、頂点に君臨する十三の鬼神達。


「悪いが、引けないんでね」

「強者よ、君の名は?」


 鬼の腕が飛ぶたびに、玄樹郎の肉が裂け、血が流れる。

 確かに、玄樹郎の攻撃は通る。

 だが、鬼には致命傷足り得ないのだ。

 やがて、玄樹郎の動きは止まり、鬼も動きを止める。


「どうした、強者よ」

「僕はね、自分の名前が嫌い、だったよ」


 玄樹郎は、ゆっくりと話を始める。

 まるで、自分に言い聞かせるように。


「名門に生まれ、力があった。 だけど、頂点に立っているほどでも無い。」

「否、君は強い」

「同年代の男に比べられ、父には認められず、それでも闘ってきた」

「強者には、理由がある」

「決定的なのは、彼が当主になった時だった」


 ああ、これは、彼の心の叫びだ。

 彼は、周りと比べられて生きてきたのだろうか。


「だが、僕を救ってくれたのは、妻だった」

「強者の責任を捨てたか、君は」

「紅炎だった、烈火だった。 彼らが生まれ、僕は強くなろうと思った」

「君には、がっかりだ」


 鬼の姿が、再度消える。

 次に鬼が現れた時、鬼の腕は燃えていた。


「うおおっ、君は……!?」


 鬼が跳びのき、体勢を立て直す。

 玄樹郎は構えを戻して、鬼に向き直る。

 そして、決意を告げる。


「僕の名は、帯刀 玄樹郎(たてわきげんじゅろう)。 帯刀家10代目当主にして、貴様を斬る男の名だ」



 そこには、決意を固めた一人の男がいた。

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