第25話「交戦」
「何だあ、まだガキじゃねえか……」
目の前の赤い髪の鬼は、そう呟く。
呆れたように、軽く一息つくように。
「紅炎、烈火を連れて逃げれるか?」
「無理だな、奴を斬るしか道はあるまい」
目の前の、鬼を斬る。
簡単に言っているんが、難しいだろう。
髪に、赤くこびりついた血。
そして、鬼が纏う雰囲気だけで自分より強いだろうことが分かる。
「……!?」
「アラシ、どうした?」
「変ですね、動きがありません」
目の前の鬼は、その場から動きがない。
間違いなく、烈火を守りながらでは全滅するだろう、強者。
だが、俺は彼女を守ってみせる。
今度こそ、目の届く範囲くらいは、守ってみせる。
そう、固い決意を固める。
なのに、やはり鬼は動かない。
「あー、どうすっかナ」
やがて、重い腰を上げるようにこちらに目を向ける。
そして、ついに動いた。
「まァ、殺してから考えるかな」
次の瞬間、目の前に鬼がいた。
ヤツは、右手に持っていた棍棒を振るうように横に薙ぐ。
だが、俺は防御はしない。
「ぐおおっ!」
何故なら、ヤツと俺の間に紅炎が入っている。
彼は、鬼の棍棒を刀で受け止める。
その時に、鬼に隙が生まれるのだ。
それを見逃すことなく、俺は飛び込む。
狙うは、首だ。
「天城流、一の型『疾風斬』!!」
横に、必殺の一撃。
その一太刀は、鬼の首に食い込む。
そして、切断に―否、切断にまでは至らない。
「マズイッ!!」
すかさず、左拳が飛んでくる。
それをモロに喰らい、俺は吹っ飛んだあとに木に激突する。
「ぐはっ」
背を打ち、息が出来なくなる。
意識が飛びそうになるのを我慢し、すぐに立ち上がる。
そうしていると、目の前に何かが飛んできた。
「うおおっ!?」
紅炎だ。 紅炎が、吹っ飛ばされて飛んできた。
彼にぶつかり、もう一度俺は木に激突する。
「痛い、紅炎」
「うぐ、すまん」
一言詫びを入れると、すぐに目を鬼に向ける。
奴はつまらなさそうに、あくびをしていた。
ヤツは油断しきっている、そこを突ければまだ勝ち目はある。
「紅炎、貴方なら奴の首を切れますか?」
「いや、アラシの刀でも無理なら、俺の刀では到底無理だろう、ヤツの皮しか俺は切れていない」
ヒバリが贈ってくれた刀なら、途中までは切断できた。
だが、そこ止まりだ。
ヤツの首を切断するまでは、至らない。
「アラシ、首を切れそうか?」
「タイミングさえ掴めれば、あと一本刀を貸して貰えますか?」
「ああ、頼む」
紅炎から俺は一振りの刀を受け取る。
硬いヤツの首を斬るには、あの技しかない。
俺の今持っている、最高の技で勝負をかける。
体力が残っている、今のうちに。
「アァ、どっちから死ぬか決まったカァ?」
「生憎と、まだ死ぬつもりはありませんので」
「行くぞ、アラシッ!!」
紅炎が走り出す。
それに続いて、俺も走り出す。
「おせェゾ!!」
鬼が迎え撃つように、棍棒を振るう。
まずは、俺がそれを受ける。
二本の刀を使い、真正面から受け止める。
すかさず、そのスキに紅炎が鬼の足を狙う。
「ムッ」
嫌がるように、ヤツが後ずさる。
それを逃さず、懐に飛び込む。
「ニの型、風車!!」
縦に回転した二本の刀は、鬼の膝を切り裂くことに成功する。
だが、まだ大したダメージは与えられない。
「何しやがる、テメェらァ!!」
「うおおっ!」
棍棒を再度、振るってくる。
だが、それも紅炎が受け止めようとする。
紅炎はそれを受けて、体のバランスを崩す。
それを見て鬼は笑いながら拳を振るう。
だが、そうはさせない。
「おおおっ!!」
無理やり紅炎と鬼の間に割り込み、左腕を斬りつける。
それによって軌道がそれ、紅炎は狙ってきた拳をすんでの所で回避する。
もう少しだ、あと少し、バランスを崩すことが出来れば。
「俺を、誰だと思ってやがル!!」
「知らねえよ!」
棍棒を、さらにもう一度振るってくる。
これまでより雑な、頭への一撃。
これをもう一度防いで、次で決める。
「!?」
「あめェ!!」
だが、違う事に気づく。
棍棒を途中で止め、蹴りを放ってくる。
しまった、避けることが出来ない。
覚悟を決め、体を固める。
「クソッ、こんな所で……!?」
「アラシ、行けっ!!」
だが、ソレに紅炎が割り込む。
彼は刀を使い、蹴りを受け流そうとするが、失敗して直撃を受ける。
「死ね」
「舐めるな、帯刀を!」
吹っ飛ぶと同時に、鬼の膝を紅炎は貫くことに成功する。
それを受け、鬼が跪く。
その瞬間を逃さず、俺はヤツに飛びかかる。
「これを、待っていた!!」
「チクショウがァ!!」
ガラ空きの首に向かって、刀を横に薙ぐ。
その刃は鬼の首に、食い込んだ。
だが、これでは切断することまでは出来ないのだ。
だが、今度は違う。
もう一本の刀を振るおうとして、気づく。
バランスを崩しながらも、棍棒を無理やり振るう鬼。
「しまっ!?」
もう一本の刀で、それを受ける。
鬼の一撃を受け流すことに成功するが、刀を手放してしまう。
まずい、このままではもう二度とチャンスはないだろう。
くそっ、紅炎も近くには、いない。
どうする事も、出来ない……!
「アラシ、コレを使いなさい!!」
空中に、刀が放られる。
先ほどの声を聞いて、声の主がいるであろう、後ろを振り向いた。
そこには、彼女がいた。
赤い髪をたなびかせ、凛と立っている帯刀 烈火がそこに。
「ありがとう、烈火」
空中でそれを受け取り、刃を振り抜く。
狙うは、首に食い込んでいるもう一本の刀。
「四の型、『断空』」
「ガアァッ!!」
止まっていた刀をもう一刀で押し込み、鬼の首を切断する。
鬼の首が宙を舞い、目の前に落ちた。
俺たちは、その日鬼と戦い、そして生き残った。