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鬼人の國 -風の英雄譚-  作者: 清涼飲料水
第2章「少年期 帯刀編」
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第23話「恐慌」

 

 自分はいつもと変わらずに、屋敷の門番をしていた。

 今日も門の前で立っているだけの簡単な仕事の筈、だった。

 なのに、今日は違う。

 赤い目をした鬼が閉ざされていた門を、こじ開けたのだ。


「ちくしょうがぁ!」


 目の前にいる、鬼を見て叫んだ。

 周りに数人いた同僚の一人は鬼にやられ、地に伏している。


「どうすればいいんだよ!」

「落ち着け、うわああっ」


 パニックを起こし、集団は機能していない。

 そんな同僚を見て、舌打ちしながら考える。

 どうしようかと、悩んでいるうちに気づけば鬼が眼前に迫っていた。


「ちくしょう…」


 瞬間、視界が朱に染まった。



 ---



「あ、ああ……」


 目の前の人間が、怯えている。

 一緒にいた女を、食ったから震えているのだろうか。

 なら、安心するといい。


「安心しろよ、俺はババアは食わねえからよ」

「うああ」

「まあもっとも」


 口から血を滴らせながら、答えてやる。


「バラバラにして、死なせてやるけどなあ」


 爪を立てて、目の前の女に手を伸ばした。



 ---



 目の前の、鬼の腕を斬った。

 ソレは、その一瞬動きを止めた。

 それを逃さずに、俺は追撃の蹴りを放つ。

 その鬼は後方に吹っ飛んでいった。


「烈火、動けるか!?」


 俺は、彼女にそう叫びながら鬼を見やる。

 鬼の腕はいまだ復活していないようだ。

 どうやら、ヒバリからもらった脇差で斬るとかなり、鬼にダメージを与えれるらしい。


「烈火、烈火!!」


 烈火は、震えて動けない。

 当たり前だろうか、彼女は鬼を初めて見るのだから。

 それに、突然襲いかかって来たのだ。


「クソッ!」

「ガアァ!!」


 腕を斬られた鬼が襲いかかってくる。

 俺はそれをもう一度切り裂こうとしながら、失敗したと考える。

 もう一体、鬼が飛びかかってきた。

 烈火を守りながら、ヤツは切れない。


「ちいっ!」


 負傷を覚悟して、目の前に突っ込む。

 大丈夫だ、やれる。

 多対一の戦法は、父さんに教わった。


 ―


『嵐、風を読め』

『風、ですか?』

『うむ、風を読み、そして切り裂け。 さすれば、鬼など取るに足りん』

『それが、天城の技ですか』

『うむ、それがこの技…』


 ―


「天城流、風車!!」


 縦に円を描きながら、脇差を振るう。

 狙うは鬼の、頭と首。

 鬼の攻撃をかいくぐりながら、俺は首を落とすのに成功する。


「よしっ」


 鬼は、首を落とした後に灰となって消えた。

 首を落とせば、鬼は死ぬ。

 この刀なら、やれる。

 そう思ってから、後から鬼がまた飛びかかってきた。


「はあっ!」


 迎撃しようとして、すぐに切り替える。

 だが、そこには彼がいた。


「アラシ、頭を狙えばいいのだな!」

「ええ、後ろは任せましたよ」


 帯刀紅炎、彼がいれば烈火を守りきれる。

 そう確信し、まだ数体残っている鬼の方に注意を向ける。

 まだ油断しては、ダメだ。



 ---



 死を覚悟した、門番の男はそう思って目を瞑った。

 なのに、死はいつまでも彼を襲っては来なかった。

 なので、目を開ける。


 そこには、(なた)を持った髪の長い男が、鬼を二つに切っている所だった。


「おい、落ち着けお前ら」

「と、トドロキさん!!」


 そこにいたのは、名門『帯刀』家の門番長、トドロキと呼ばれる男だった。


「刀抜いて、数人で動け。 ああ、囲むようにしてゆっくりだぞ」

「は、はいっ!」


 彼の言葉を受けて、門番達は落ちつきを取り戻す。

 そして、一体ずつ鬼を討伐していった。


「お前らは、そいつら片付けてろ」

「トドロキさんは、何を?」


 数で囲んでしまえば、鬼はそれほどの脅威ではなくなった。

 それに、トドロキが半分近くの鬼を処理してくれたからだ。

 そのトドロキが、ゆっくりと別の方に目を向ける。

 その目線の先には、大きな体をした何か。

 その目は、赤く輝いている。


「おらよっ!」


 トドロキがその鬼に向かって、鉈を振るう。

 だが、その鉈はその鬼の体には通らず、弾かれる。

 舌打ちをしながら、トドロキは距離を取るために後ろに飛ぶ。


「なんだお前、能力持ちか?」


 くつくつと、笑いながら鬼は口を開く。


「能力、ねえ」

「言葉通じねえのか?」


 いや、と鬼はもう一度口を開いて呟く。


「俺には頂いた名前がある、硬鬼(こうき)…それが俺の名前だあ」


 ゲラゲラと、鬼はトドロキを見やりながら、笑った。


「名前持ちか、最悪だな」


 トドロキは、心の中でもう一度舌打ちを鳴らした。



 ---



 世界が燃える。

 色が変わり、やがて反転する。

 それは音を立てて、やがて崩れ落ちていく。

 それはなんなのか、今はまだわからない。


 ―


「ああぁっ!」


 鬼の脚を斬る。

 それと同時に、紅炎の刀が止まった鬼の首を切り落とす。

 周囲を見張り、今のが最後の一体だと確認し、膝をつく。


「やったか……?」

「紅炎、それ言ったらダメなやつですよ」

「何を言ってる、アラシ?」


 元の世界では、それは死亡フラグだった。

 だが、しばらくしてから鬼はもういないらしいことに気づき、俺もほっとひと息をつく。


「どうやら、今ので最後みたいですね」

「全部で十、ほどか」

「ああ、それより烈火、大丈夫ですか?」


 烈火に心配を移し、俺は目を見開いて驚く。

 彼女は、汗を吐き出しながら小刻みに震えていた。

 これは、鬼に怯えているのとは違う、と先ほどの考えをかき消す。


「紅炎、屋敷に戻ろう」

「ああ、烈火が心配だ、それに鬼の報告せねばなるまい」


 そう思って、烈火に肩を貸して動こうとした、その時。


「俺の、兵隊どもをやったヤツは、誰ダァ?」


 声がした。

 そして、同時に寒気がした。

 茂みの奥から、一人の男が現れた。


「紅炎、烈火をつれて逃げろ」

「無理だ、どう考えてもアレからは逃げきれん」


 一目で分かった。

 鬼とは思えないほどの、血には飢えてなさそうな顔。

 だが、髪の色。

 それは、紅炎や烈火とは違う、こびりついたような朱。

 人間の、血の色。



 ハッキリと、分かった。

 目の前にいるのは、間違いなく人外なのだと。

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