第22話「四人」
―――最近、夢を見る。
赤い、真っ赤な空間にいる。
世界は燃えて、炎に、焔に、包まれている。
その中に、人がいる。
真っ赤な着物を着た、赤い髪の女性。
燃えている炎の中で、手招きをして、笑っている。
誰に微笑んでいるのか、何を思って微笑んでいるのか、それは誰にもわからない。
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「ねえ、ピクニックに行かない?」
ある朝、朝食を食べている途中に、赤い髪の少女がそう言った。
俺は目の前の白米から目をそちらの少女、帯刀 烈火に顔を向ける。
「ピクニック、ですか?」
「ええ、どうかしら」
ピクニック、久しぶりに聞いた言葉だな。
というより初めて口から聞いたかもしれない。
そんな事を考えているが、彼女は続ける。
「お弁当持って、鳥でも見に行きましょうよ!」
「でも、昼からの稽古とかはどうするんですか?」
「うっ……」
ムッとした顔で、彼女は俺を睨みつける。
きっとした表情を見て、俺は目をそらしてしまう。
うう、情けない。
「たまにはいいんじゃないか?」
そう、横から烈火の兄、紅炎が助け船を出してくれる。
烈火はそんな兄を見て、舌を捲し上げる。
「ほら、兄さんもたまにはいいって言ってるじゃない!」
「まあ、息抜きくらいなら」
「それに、おじいさまもいないし、お父様は書斎に立てこもっているし……退屈なのよ!」
本音が出ていたぞ、今。
まあ、たまに息抜きくらいならいいかと思い、俺は了承する。
「わかりました、ならいつ出発しましょうか?」
「準備できたら、すぐにね!」
俺は紅炎と肩をすくめながら、苦笑した。
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「お弁当持った?」
門の前で、動きやすい修行着に着替えた烈火は、俺と紅炎に尋ねる。
俺は彼女にゆっくりと頷く。
「ええ、持ちましたよ」
「水の準備も、問題ない」
「じゃあ、しゅっぱーつ!!」
彼女は大きな声をあげ、門を開いていく。
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―山の中に、四人の男がいた。
それぞれに違いはあれど、たった一つ、違いはある。
「じゃあそういう事でお願いしますね」
生気の薄い、白い顔をしたコートを着た男が他の三人に話しかける。
「ああ、任せておけよ」
「雑魚を仕留めれるレベルのヤツを殺せばいいんだろ?」
「バカは単純だな、クク」
「ああっ?もういっぺん言ってみろよ、赤頭」
問われた三人は、思い思いの言葉を発し、喧嘩を始めてしまう。
その様子を見て、やれやれといって、コートを着た男が口を開く。
「成果次第では、上に口を利いてあげますよ」
その言葉を発した直後、彼らの動きが止まる。
ぎらぎらとした目をして、コートの男を見つめる。
やがて、赤頭と呼ばれていた男は、彼に問いかける。
「それで、場所はどうすればいい?」
「ああ、それはご自由にどうぞ」
「じゃあ俺は考えるのは面倒だから、門から行くぜ?」
「勝手に決めんなよ、てめえ」
「うるせえ、あとは勝手に決めろ」
「じゃあ俺は山からゆっくり行くぞ、雑魚狩りはお前らがやっててくれ」
「だから勝手に決めんじゃねえよ!」
やれやれと、コートを着た男がため息をつく。
やがて、三人の考えがまとまったのか、静かになる。
「決まりましたか?」
「ああ、あんたはどうするんだ?」
「私は念を入れて、準備をしますよ」
「ハッ、そんなのはいらねえよ」
「それを願いますがねえ」
そう言って、四人の男たちはゆっくりと動き出す。
真っ赤な赤い目を、隠そうともせずに。
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「何してんのよ、ほら!」
「わかりましたって」
「うむ、鳥の声が聞こえるな!」
俺たちは、森の中で腰を落ち着かせていた。
鳥の声を聴いて、静かに心を落ち着かせていた。
「たまには、こんなのもいいですね」
「ああ、そうだな」
隣にいる紅炎が、肯定する。
烈火は気持ちよさそうに、目を閉じていた。
そんな彼女に、俺は声をかける。
「烈火」
「ん、何よ?」
「今日はありがとうございます、こんないい所に連れてきてくれて」
「いいわよ、そんなの」
彼女は、そう言ってそっぽを向く。
心なしか、その顔は赤みを帯びているように見える。
紅炎は、少し離れた切り株に腰を下ろしていた。
横にいた彼女は、ふとぽつりと言った。
「あんたには、感謝してるのよ」
「え?」
なぜそんな事を言ったのか。
隣の彼女は、なおも続ける。
「みんな、変わっていってる、アラシのおかげで」
「そんなことないですよ」
「ううん、今日の兄さんも絶対ありえなかった」
そうなのだろうか。
いや、いずれは彼も気づいて考えを改めていただろう。
「ねえ、アラシ」
横にいる彼女が、俺の目を見つめてくる。
なんだろう、じっと顔を覗き込んでくる。
顔が赤くなっていくのを感じる。
「話、聞いてくれる?」
「な、なんでしょうか?」
なんだろう、お願いとかだったらすぐにイエスと答えてしまうだろう。
赤い髪をたなびかせ、彼女は口を開く。
「あたしね、最近」
彼女の後ろで、音がした。
紅炎は離れているので、気づいていない。
獣ならどうしようかと、考えながら目を向ける。
彼女も気づいたのか、話をやめて顔がそちらに向く。
「何?」
その音の主が、姿を見せる。
ソレの目を見て、俺は動いた。
ソレは烈火と俺に向かって、動きだした。
赤い目をした、ソレを俺は腰から抜いた脇差で一刀両断する。
返り血を浴びながら、俺は紅炎に向かって叫ぶ。
「紅炎、鬼だ!!」
気づいた時には、周りには数体の赤い目をしたヤツらがいた。