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鬼人の國 -風の英雄譚-  作者: 清涼飲料水
第2章「少年期 帯刀編」
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第22話「四人」

 

 ―――最近、夢を見る。

 赤い、真っ赤な空間にいる。

 世界は燃えて、炎に、焔に、包まれている。

 その中に、人がいる。

 真っ赤な着物を着た、赤い髪の女性。

 燃えている炎の中で、手招きをして、笑っている。

 誰に微笑んでいるのか、何を思って微笑んでいるのか、それは誰にもわからない。



 ---



「ねえ、ピクニックに行かない?」


 ある朝、朝食を食べている途中に、赤い髪の少女がそう言った。

 俺は目の前の白米から目をそちらの少女、帯刀 烈火に顔を向ける。


「ピクニック、ですか?」

「ええ、どうかしら」


 ピクニック、久しぶりに聞いた言葉だな。

 というより初めて口から聞いたかもしれない。

 そんな事を考えているが、彼女は続ける。


「お弁当持って、鳥でも見に行きましょうよ!」

「でも、昼からの稽古とかはどうするんですか?」

「うっ……」


 ムッとした顔で、彼女は俺を睨みつける。

 きっとした表情を見て、俺は目をそらしてしまう。

 うう、情けない。


「たまにはいいんじゃないか?」


 そう、横から烈火の兄、紅炎が助け船を出してくれる。

 烈火はそんな兄を見て、舌を捲し上げる。


「ほら、兄さんもたまにはいいって言ってるじゃない!」

「まあ、息抜きくらいなら」

「それに、おじいさまもいないし、お父様は書斎に立てこもっているし……退屈なのよ!」


 本音が出ていたぞ、今。

 まあ、たまに息抜きくらいならいいかと思い、俺は了承する。


「わかりました、ならいつ出発しましょうか?」

「準備できたら、すぐにね!」


 俺は紅炎と肩をすくめながら、苦笑した。


 ---


「お弁当持った?」


 門の前で、動きやすい修行着に着替えた烈火は、俺と紅炎に尋ねる。

 俺は彼女にゆっくりと頷く。


「ええ、持ちましたよ」

「水の準備も、問題ない」

「じゃあ、しゅっぱーつ!!」


 彼女は大きな声をあげ、門を開いていく。



 ---



 ―山の中に、四人の男がいた。

 それぞれに違いはあれど、たった一つ、違いはある。


「じゃあそういう事でお願いしますね」


 生気の薄い、白い顔をしたコートを着た男が他の三人に話しかける。


「ああ、任せておけよ」

「雑魚を仕留めれるレベルのヤツを殺せばいいんだろ?」

「バカは単純だな、クク」

「ああっ?もういっぺん言ってみろよ、赤頭」


 問われた三人は、思い思いの言葉を発し、喧嘩を始めてしまう。

 その様子を見て、やれやれといって、コートを着た男が口を開く。


「成果次第では、上に口を利いてあげますよ」


 その言葉を発した直後、彼らの動きが止まる。

 ぎらぎらとした目をして、コートの男を見つめる。

 やがて、赤頭と呼ばれていた男は、彼に問いかける。


「それで、場所はどうすればいい?」

「ああ、それはご自由にどうぞ」

「じゃあ俺は考えるのは面倒だから、門から行くぜ?」

「勝手に決めんなよ、てめえ」

「うるせえ、あとは勝手に決めろ」

「じゃあ俺は山からゆっくり行くぞ、雑魚狩りはお前らがやっててくれ」

「だから勝手に決めんじゃねえよ!」


 やれやれと、コートを着た男がため息をつく。

 やがて、三人の考えがまとまったのか、静かになる。


「決まりましたか?」

「ああ、あんたはどうするんだ?」

「私は念を入れて、準備をしますよ」

「ハッ、そんなのはいらねえよ」

「それを願いますがねえ」


 そう言って、四人の男たちはゆっくりと動き出す。

 真っ赤な()()()を、隠そうともせずに。



 ---



「何してんのよ、ほら!」

「わかりましたって」

「うむ、鳥の声が聞こえるな!」


 俺たちは、森の中で腰を落ち着かせていた。

 鳥の声を聴いて、静かに心を落ち着かせていた。


「たまには、こんなのもいいですね」

「ああ、そうだな」


 隣にいる紅炎が、肯定する。

 烈火は気持ちよさそうに、目を閉じていた。

 そんな彼女に、俺は声をかける。


「烈火」

「ん、何よ?」

「今日はありがとうございます、こんないい所に連れてきてくれて」

「いいわよ、そんなの」


 彼女は、そう言ってそっぽを向く。

 心なしか、その顔は赤みを帯びているように見える。

 紅炎は、少し離れた切り株に腰を下ろしていた。

 横にいた彼女は、ふとぽつりと言った。


「あんたには、感謝してるのよ」

「え?」


 なぜそんな事を言ったのか。

 隣の彼女は、なおも続ける。


「みんな、変わっていってる、アラシのおかげで」

「そんなことないですよ」

「ううん、今日の兄さんも絶対ありえなかった」


 そうなのだろうか。

 いや、いずれは彼も気づいて考えを改めていただろう。


「ねえ、アラシ」


 横にいる彼女が、俺の目を見つめてくる。

 なんだろう、じっと顔を覗き込んでくる。

 顔が赤くなっていくのを感じる。


「話、聞いてくれる?」

「な、なんでしょうか?」


 なんだろう、お願いとかだったらすぐにイエスと答えてしまうだろう。

 赤い髪をたなびかせ、彼女は口を開く。


「あたしね、最近」


 彼女の後ろで、音がした。

 紅炎は離れているので、気づいていない。

 獣ならどうしようかと、考えながら目を向ける。

 彼女も気づいたのか、話をやめて顔がそちらに向く。


「何?」


 その音の主が、姿を見せる。

 ソレの目を見て、俺は動いた。

 ソレは烈火と俺に向かって、動きだした。

 ()()()をした、ソレを俺は腰から抜いた脇差で一刀両断する。

 返り血を浴びながら、俺は紅炎に向かって叫ぶ。


「紅炎、()だ!!」



 気づいた時には、周りには数体の赤い目をしたヤツらがいた。

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