第17話「読書」
「ふーん、昔はこんな事があったのか」
俺は先日、玄樹郎からもらった本を読んで過ごしていた。
《鬼狩り伝説》の本だ。
とは言っても、やはりフィクションが混ざっているのだろう。
この本の剣士は雷を使っているしな。
いや、もしかしたら使える一族もあるのだろうか。
そんなことを考えていると、珍しい人物が現れた。
「何してんの、アンタ」
「何って、読書ですよ?」
烈火だった。
珍しく、彼女は剣の稽古以外で俺に話しかけてきた。
彼女はよく、剣を振って一人でも訓練している。
その甲斐あってか、彼女は最近伸びてきている。
そんな彼女は、読書と言った俺に腕を組んでふん、と鼻を鳴らして言った。
「強い者に、そんなの必要ないわよ」
「それは、なぜですか?」
彼女は強い者には教養はいらないと言う。
なぜだろう、そんなことを言う理由は。
「知らないわ、兄さんが言ってたんだからそんなんじゃないの?」
「いやいや、それはおかしくないですか?」
「うるさいわね、なら兄さん呼んできてあげるから話しなさいよ!」
やっぱり彼女はあいかわらずキレるまでの沸点が低かった。
そう言ってダッシュで部屋を出て、紅炎を連れてきた。
「ふむ、なぜ俺は連れてこられたのだ?」
「いや、紅炎はなんで教養なんていらないと言うんですか?」
「むっ、その話か」
すると紅炎は、頭に手を当てた後にゆっくりと口を開いた。
「俺は、教養はいらないと言ったわけではない」
「えっ、でも烈火はそう言ってますよ」
「そうよ、言ったじゃない!」
烈火はキレ気味に紅炎につっこむ。
それを受けて、紅炎はやれやれと言った顔で答える。
「俺たちに、剣術以外は必要ないと言ったのだ」
「理由、聞いてもいいでしょうか」
「ああ」
そう言って、彼は話し始める。
「まず、俺たちは鬼狩りの一族だ。つまり、将来鬼を討伐するために強さが必要になる」
「ええ、それは僕もですよ」
「その時に、剣術以外は頼りにならん。よって、それ以外は必要ないだろう」
さも当然のように、紅炎は答える。
そうだった、彼は烈火の兄だ。
つまり、脳筋だった。
彼は、本当に剣術以外は必要ないと考えている。
「それは違いますよ」
なので、ハッキリ言ってやる。
それは間違っていると。
「何故だ?」
彼は気に入らなかったのか、むっとして俺に噛みついてくる。
この考えでは、将来上に立つことはできなくなる。
玄樹郎のような、立派な大人にはなれないぞ。
なので、俺は反論する。
「まず、勉学は必要でしょう。読み書きができないなんてのは、一族としての恥でしょうしね」
「最低限は、出来るつもりだ」
「それに、考えることがうまい人間は人の心を読むことができます」
「それは、どう言うことだ」
「ひいては配下の者に無理をさせたりすることが減ったり、そのまま剣術の役に立つことがあるでしょう」
例えば、相手の思考が読めるようになったり、周りを見ることができれば弱点を発見するのが上手くなるだろう。
そういうことを紅炎に伝えてみる。
すると、彼ははっとした顔で頷いた。
「そういうことだったのか、ありがとうアラシ」
そして、むっとしている烈火に向き直って。
「烈火、俺が間違っていた。これからは、勉学などにも励もうぞ」
「そうなの?まあアラシが言うなら間違いはないのかしら」
こうして、二人はたまに俺の勉強会に参加することになった。
ちなみに烈火は本を読んだことがなかった。
本当に大丈夫なのか、この一族は。
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そんな話を玄樹郎に話してみると、彼は苦笑を隠しきれていなかった。
「二人とも、父さんの方に似たのかもね」
「そうですね、玄樹郎さんの方にはあまり似てないかと」
俺は思ったことをハッキリと伝える。
こういうのはしっかりしておいたほうがいい。
「二人とも小さい頃に母を亡くしているからね、そこから剣術しか教えれなかった僕が悪いんだけどね」
「すみません」
彼は一瞬暗い顔をした。
辛いことを思い出させてしまったか。
申し訳なくなってしまっていると、彼はそれに気づいたのかフォローを入れてくる。
「いや、彼女は人生に満足していたからね、君は気にしないでいい」
「それは、立派な人だったんでしょうね」
「彼女のおかげで、紅炎と烈火の二人はまっすぐな子に育ってくれた」
「それは間違いありませんね」
あの2人は間違いなくまっすぐに育った。
それは考えや話し方を見ていればすぐに分かるだろう。
あの二人は多少寄り道をしても、最終的にはまっすぐに進んでいくだろう。
それは、間違いなく玄樹郎や玄道のおかげでもあるだろう。
「玄樹郎さんの育て方は、間違っていないと僕は思いますよ」
「ふふっ、そう思うかい?」
「ええ、もちろん」
「君は不思議な子だな」
突然、彼はそんなことを言ってくる。
はて、何かしただろうか。
「どういうことですか?」
「君は、とても10になる前の子どもとは思えないな」
そりゃまあ、前世と併せて30年くらい生きてますからね。
そう言いたくなったが、頭がおかしくなったと思われたら嫌なので黙っておく。
「君は敵に回したくないな」
「敵にはなりませんよ」
帯刀家の世話になってまだ2ヶ月ほどだが。
この屋敷には仲良くなった人がいる。
玄樹郎や玄道、紅炎や烈火。
それにウメさんたち使用人の人たち。
そんな人たちを知って、いまさら敵には回りたくはない。
「ふふ、ありがとう」
玄樹郎はそう言って、薄く笑った。