第13話「火麗なる一族」
道中の旅は快適だった。
ただし、馬車での移動は運動不足になりそうだったので、基礎体力などの訓練は宿に着いてから欠かさずにやることにした。
道中、たまに獣が飛び出してくるが、それはトドロキが一太刀で斬って捨てた。
彼の一撃は鋭い。
獣は、目で追えない速度で切断された。
「トドロキさん、すごいですね!」
「フッ、当主様から授けていただいた刀のおかげだ」
そう言って、彼は刀を見せてきた。
刀と言うより、巨大な鉈だな。
剣鉈っていう奴だろうか。
彼は、その鉈を誇らしげによく手入れしていた。
そんな旅を続けて、十日ほどがたったある日。
目の前に、大きな屋敷が見えた。
あれが帯刀の屋敷だろうか。
そう思ってトドロキの方を見てみると、彼はゆっくりと頷いた。
「ああ、あれが帯刀家の屋敷だ」
こうして、俺は帯刀の屋敷に到着した。
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屋敷に着いてからは早かった。
まず門の前で立っていた門兵は、トドロキの姿を見るなり挨拶を交わしてきた。
トドロキはそれをめんどくさそうな顔で返し、俺を屋敷に通すように手続きをした。
そして、その手続きを待っている時に俺の顔を見て言った。
「アラシ、オレの任務はここで終わりだ」
「えっ、本当なんですか?」
「ああ、オレはお前を屋敷まで送り届けることが仕事だったからな、ここで別れる」
彼と別れる。
確かに、それは予想していた。
だけど、こうしてその時はやってきた。
彼は、いろんな事を教えてくれた。
仕事だと言ったが、優しい顔をしながら一つずつ説明してくれた。
たまに頭をなでられた事もある。
そんな優しい彼と、別れる。
そう思うと、悲しくなってくるな。
「アラシ、そんな顔をするな。屋敷に行くこともあるだろう、その時は会いに行く」
「はい、トドロキさん……お世話になりました」
「ああ、少しの間だが、お前と居たこの十日ほど、オレは楽しかった」
「はい、僕も忘れません」
こうして、俺たちは別れた。
ともにまた会う事を約束して。
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屋敷に入ると、中は洋風系だった。
天城の屋敷は少し和風系なのだ。
だからそれに、少し違う感じの違和感を覚えてしまった。
とりあえず応接室のような所に通された俺は、ソファのような物に座って待っているように促される。
俺は、その指示に従って、そのソファに身を沈める。
腰を下ろした時に、思い出した。
ああ、この心地よい感触だ、生前を思い出してしまう。
そうやって、ソファを堪能していると扉の前に人がいるのが確認出来た。
「やあ、気に入ってくれたかな?」
目の前に人がいた。
赤い髪の優しそうな男性だ。
そんな彼は、俺を見てこう言った。
「『帯刀』家次期当主、帯刀 玄樹郎だ、よろしくアラシ君」
「い、いえ……天城 嵐です、こちらこそよろしくお願いします」
俺が返事をすると、彼はびっくりした顔をしている。
なんだろうか、何か間違った対応をしただろうか。
そんな事を思っていると……。
「総一郎の馬鹿のガキはどこだ!!」
大声が聞こえてきた。
どんどん近づいてきている。
そして、その声の主は扉の前まで来て、扉をドンと音を立てて開いた。
そこに居たのは、目の前の青年と同じ赤い髪をしている。
だが、目の前の青年よりも年を取っているだろうことは一目でわかった。
そして、俺を一目見て言った。
「お前が総一郎の息子か!!」
「はい、天城 嵐です!
本日よりお世話になります、よろしくお願いいたします!」
彼につられて大声を出してしまった。
しまったか、と思い彼を見てみると、固まっていた。
そして、面を食らったような顔をして言った。
「あの悪ガキの息子がこんなに礼儀正しいとはな!」
「父さん、僕は最初影武者かと思いましたよ……」
「うむ、儂もそう思っている!」
「ですが、これは認めるしかありませんね」
ヒソヒソと会話を二人はしている。
なんか、あんまりヒソヒソ話の声の大きさではないと思うが。
そして、年を取った方の男性が俺を見据えて口を開いた。
「帯刀家9代目当主、帯刀 玄道が許可を出す、天城 アラシよ、屋敷の滞在を許可する!」
「はっ、ありがとうございます!」
その言葉を言って落ち着いたのか、青年の方が口を開く。
「それにしても、本当にあの総一郎の息子なのかい?」
「ええ、そのはずですが……?」
「あの馬鹿の息子とは思えんな!」
「失礼、父さんとの関係を訪ねても?」
「ああ、儂が話してやろう!」
そう言って、彼は口を開いた。
「奴も齢13の頃だったか、この帯刀の屋敷に用になった」
「ほう」
「確か、壁にぶつかったからか、儂らに修行をつけて欲しいと言っていたな」
なるほど、その時のコネか。
その時に世話になって、気に入られたんだろうか?
「なるほど、父さんが帯刀家に世話になったんですね?」
「否、奴は最悪じゃったな」
「ええっ!」
「奴は半年経ったある日、門下生を全員叩きのめした後、壁などとっくに乗り換えたなどと言ってこの屋敷を去って行きおった」
「ええ……!?」
なんて奴だろう。
父さん、最低じゃないか。
そんな事を思っていると青年の方が口を開いた。
「フフ、君の父さんは、昔のあだ名は『悪童』って呼ばれていたからね」
「あの、父さんがですか?」
「ああ、当時は手に負えなかったんだよ」
なるほど、乱暴者だったのか。
すると、なぜ俺をこの屋敷に呼んでくれたのだろうか。
もしや、昔の仕返しを息子にする気か?
そう思って、青年を見ると苦笑しながら彼は首を振る。
「ああ、今さらそんな事は気にしないよ、今は彼とは数少ない、戦場で背中を預けることのできる戦友だからね」
なるほど、そんな昔のことは気にしていない。
じゃあ、なぜ俺を呼んだのだ。
呼んだって事は、それなりに理由があるはすだ。
「で、僕は何をすればいいんですか?」
「ふむ、頭も回るようだね」
「いえ、僕に何かできることがあるならと思いましてですね」
「ふふ、実は僕の息子達は君と同い年なんだがね」
彼は苦笑を続けながら俺の顔を真っ直ぐと見て言った。
「彼らには、同年代のライバルと呼べるものがいない、だから君を呼んだのさ」
なるほど俺と目的は同じ。
なら話は早い。
「わかりました、その話お受けします」
「そうかい、助かるよ」
「では、その子達はどこに……」
そう言った瞬間、扉が蹴破られた。
俺は、音に反応してそっちに振り向く。
その先には、一人の少女がいた。
赤い髪の毛をたなびかせ、腕を組んでいる。
腰には木剣を差し、その格好はまるで剣士。
きつい目つきの三白眼に、端正な顔立ち。
その少女は、俺を見るなりこう言った。
「お父様、そいつ誰かしら?」
帯刀 烈火は凛とそこに立っていた。