第12話 「1人の護衛」
炎の使徒、『帯刀』一族。
かつて崩壊したこの日本で、皇家とともに東京を奪還した一族の一つ。
その時の功績を認められ、五家を名乗ることを許された分家の一つである。
「アラシ、行くぞ」
「あ、はい! 待って下さい、トドロキさん!」
現在、俺はその帯刀の屋敷の前に来ていた。
なぜ俺がここに居るのか、話は少し前にさかのぼる事になる。
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「では、行って来ます父さん、ヒバリ」
「うう、アラシ様ご達者で……!」
「いや、一年くらいで戻って来ますから……」
さっきからヒバリは別れを惜しむような感じでいる。
対する父さんは、のん気そうな顔でヒバリを見ている。
俺が見ているのに気づいたのか、フッと笑って口を開いた。
「帯刀のジジイには俺から伝えてある、しっかりと励むように」
「はい、父さんも健康には気をつけて下さい」
「ああ、お前と会えなくなるのは少し寂しいが、まあ少しの間だ」
「うう、アラシ様〜!」
父さんと挨拶をしているのにヒバリが横でうるさい。
ちなみに、彼女は今回付いてこない。
最近天城家は忙しいそうだ。
俺も、帰って来る頃には12歳くらいか?
なにか手伝えることがないか考えるようにしよう。
「ああ、そうだアラシ…」
そんな事を考えていると、父さんがふと思い出したように言った。
ニヤニヤとして、何か含みのある笑みを隠そうともせずにして。
「帯刀には、双子の怪物がいるらしいぞ」
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その後俺は、天城家の門を閉じて少し考えていた。
この屋敷には、本当にお世話になった。
俺がこの世界に来てから、五年くらいか?
父さんにヒバリ、それに屋敷のお手伝いさん達…彼らには本当にお世話になった。
俺にとって、第二の故郷だろう……。
また、ここに帰って来れるように頑張ろう。
「よし、まずは帯刀の迎えをここで待つか……」
「オレはもういるぞ、天城の息子よ」
突然後ろから声がしたので、振り返った。
すると、そこにはいた。
肩まであろうかというような、長い髪。
目は鋭く、その立ち方からでも達人だと分かる。
腰には二本の刀をぶら下げている。
この方が、帯刀の迎えだそうだ。
「あ、はい、天城 アラシです、よろしくお願いします」
「いい、お前はこれから帯刀家の客人となる、気を使うな」
「いえ、それはいけません」
「……お前は、変わった子供だな」
小さく笑って彼はもう一度、俺に向かう。
そして、口を開いてこう言った。
「轟……それ以上の名は持たん、トドロキでいい」
「分かりましたトドロキさん、よろしくお願いします」
彼と、挨拶を交わす。
初対面での会話は大事だ。
最初の印象次第で、仲良くなれるスピードは変わってくる。
これから帯刀家で生活するのだから、仲良くするに越したことはないだろう。
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移動は馬車だった。
というより、俺は屋敷を出たことがないのだ。
その光景に俺は心奪われていた。
ていうか、電気とかは通ってるっぽいのにこの世界は車とか無いのだろうか?
うーむ、でも車の原理ってどんなだったかな……。
「アラシ、お前、外に出たことがないのか?」
「あ、はい……お恥ずかしながら」
「いい、恥ずかしい事では無い。 五家の者は小さい頃、基本は隠されながら生活する物だ」
「へえ、そうなんですか……」
初耳だ。
だから父さんはあんまり俺を外には出さなかったのだろうか。
そう考えていると、彼は俺の隣に移動して指を動かした。
「あれは畑だ……米を作っている」
「ああ、畑は知っていますよ」
「そうか、ならあっちはな……」
そう言って彼は、1つずつ説明してくれた。
あれは刀鍛冶の店、小物屋だ、商店だ……と小さな子どもに言い聞かせるように。
ああ、そうか俺はまだこっちでは子どもだったな。
そうして、一日を終えて現在宿に泊まっている。
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宿は、中は民宿みたいな感じだった。
そして二人で晩ごはんを食べている最中にふと思った事があったので、トドロキに聞いてみる事にした。
「そう言えば、帯刀家まではどれくらいかかるのですか?」
「天城の領地から、帯刀家までは十日ほどだ。
二週間もあれば、たどり着くだろう」
二週間か。
往復で、一月ほど。
まあ、修行の場所としては、近いくらいだろう。
それくらいなら、大した距離ではないだろう。
ふと顔を上げてみると、トドロキと目があった。
彼は湯上がりで、髪がしっとりと濡れている。
改めて見ると、彼は美形だな。
なんだろう、この世界の強い人は美形になるきまりでもあるのだろうか?
それに、彼は何者なんだろうか?
そう思ったので質問してみる。
「そう言えば、トドロキさんは何者なんですか?」
そう聞くと、彼は少し黙った後にゆっくりと口を開いた。
「帯刀家、当主が左腕『断頭』、そう戦場では呼ばれている」
断頭……ていうか今、左腕って言ったな。
という事は、NO.3か。
そんな人が俺の護衛をしてくれる……父さんと帯刀家の当主は、一体どんな関係なんだ。
うんうんと唸っている俺に、優しい顔をしてトドロキは声をかける。
「フッ、まだお前には分からないか」
その態度を見て、俺は気づいた。
彼は、俺を世間知らずの天城家の子どもとして見てる。
ちょっとは礼儀を持っているが、初めて外に出る……普通の子どもとして。
そんな人なのだ、目の前の人物は。
「明日からもよろしくお願いします、トドロキさん」
「ああ、お前は必ず屋敷まで送り届けてやる」
彼にもう一度感謝を述べ、その日は眠りについた。