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鬼人の國 -風の英雄譚-  作者: 清涼飲料水
第1章 「幼年期」
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第10話「別れの手紙」

 

 俺、は1週間も気を失っていたらしい。

 そして、眼が覚めると直人(なおと)(にお)は、屋敷から居なくなっていた。

 そりゃあ、そうだろう。

 任務が終われば、もう天城の家にいる必要はないのだ。

 だったら出て行くだろう、だけど一言も無しだった。

 それが俺の心には、チクリと刺さっていた。


 それ以来、俺は部屋の外には出ていない。

 絶賛引きこもり中だ。

 何もやる気が起きないのだ、仕方ないだろう。

 あんな化け物と殺し合いをして、本当に殺されかけたんだ。

 それですぐにピンピンしてるほうがおかしいだろう。

 そんな奴は、今すぐに人間をやめるべきだ。


 そんなことを思っていたある日、ヒバリが俺の部屋を訪ねてきた。

 彼女も、少しの休暇を取って家に帰っていたのだ。


「アラシ様、お元気ですか?」

「そんなに元気に見えますかね?」


 そんな俺を見て、彼女は口を開く。


「ええ、そんな軽口を叩けるくらいなら大丈夫そうですな」


 俺はムッとして、彼女を睨みつける。

 こう見えても、俺は傷ついているのだ。

 ガラスの十代なのだよ、ヒバリ君。

 ああ、まだ9歳か。


「しばらく、一人にしていただきたいのですが」

「フ、分かりましたよ、では手紙を置いておきますね」


 手紙…?

 そう疑問に思ってヒバリが去った後に机の方を見てみると、そこにはあった。


 霧隠 直人(きりがくれ なおと)と、鷲宮 鳰(わしみや にお)と書かれた二つの手紙が。


 俺は飛び起きて、二つの手紙をゆっくりと開いた。


 「二人とも、怒っているよな……?」


 先に開いたのは、手に取ってしまった直人のだ。

 鳰の手紙を見るのは、まだ少し怖かった。

 なにせ、突き飛ばしたのだ。

 もしかしたら、鬼に身代わりにしたと思われているかもしれない。

 だから、直人の手紙を先に開いた。

 その手紙には、こう書かれてあった。


 -拝啓、天城 嵐(あまぎ あらし)様。

 この手紙を読まれているでしょうか?

 まず、1つ謝らせて頂きたいことがあります。

 あなたを置いて逃げたこと、そして礼を言わずに去ってしまったことです。


 置いて逃げたなんて、思っていない。

 あれは俺の言ったことだし、最善の策だった。

 あのまま三人あの場にいたとしたら、間違いなくみんな死んでいただろう。

 故に、直人は悪くなどない。

 おっと、手紙の続きを読まなくては。


 -天城様に、情けない所を見せた私は変わろうと思います。

 もっと心と体を鍛え、強さと知性を磨いて今度こそ天城様と共にいられる男になろうと思います故、もう一度会った時に……もし天城様が宜しければ、部下にして頂けますでしょうか。


 そんな文が、手紙には綴られてあった。

 彼は、強くなると言っている。

 そんな彼が、俺の姿を見てどう思うだろうか?

 二人が居なくなったくらいで部屋に引きこもって、うだうだと女々しいことを考えるこの俺を見て。


 直人の手紙を読んで、俺は立ち上がる。

 訓練を再開するためだ。

 ヒバリに久しぶりに稽古をつけてもらおう。

 そう思って手紙を直そうとすると…鳰の手紙が目に入った。


「怒ってないかな……」


 怒っている時は、それも受け入れよう。

 そう思い、俺は鳰の手紙を開いた。


 -拝啓、天城 嵐様。

 この手紙を読まれているという事は、ヒバリ姉様があなたに手紙を渡したということですね。

 先日は、命を救われたにもかかわらず……礼も言えない立場なのを、悔しく思います。


 何を言ってるんだ、鳰は。

 謝るのは、いきなり突き飛ばした俺の方だろう。

 もっと方法があったはずだ。

 だが、俺にはあの行動しか取ることが出来なかった。

 情けない男だ。


 そう俺は思っていたが、手紙の続きが気になったので

 手紙に向き直る。


 -鷲宮 鳰は、アラシ様に命を救われたのです。

 尊敬をして、これからはそばに居ても恥ずかしくないような女になるように努力して行きます。

 故に、もし鳰がそばに居てもおかしくない様な女になりました時は、もう一度……三人で話、語り合いましょう。

 では、また会う日まで…鷲宮 鳰。


 読んだ後……俺はもう一度考えていた。

 鳰も、直人も……俺を尊敬していると。

 こんなに情けない俺を……。

 気づいた時、俺は刀を振るっていた。

 素振り、型の練習だ。

 もっと、俺は強くならなければならない。

 俺には、責任がある。

 あの二人に、恥じないような強さを持たなくては。



 そう思い、次の日にはヒバリと訓練を始めた。

 ヒバリは、誇らしげに笑いながら俺に稽古をつけてくれた。

 その次の日には、父さんに稽古をつけてもらいたいと話に言った。

 その時は、驚きながらも父さんは俺の眼を見た後、頷いた後に稽古をつけてくれた。


 俺は、強くなるのだ。

 強いだけでなく、目の前の人達くらいは守れる様にならなくては。


 もっと、もっと、速く…。

 もっと、もっと、強く…。



 そんなことを思って俺は、天に向かい、刀を振りかぶった。

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