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第五話:三条くんちの能力大戦

「そこの能力者、ちょおっと待ったあっ!」

「……む?」


 夜の街の中で。

 カロッソ・ヴディルは声をかけられて、立ち止まった。


「なんだよ。俺だって暇じゃねえんだぞ」

「ふはははは、そうであろうそうであろう。びしっと決めたそのファッション、さしずめデートに行く途中と見た!」

「いや俺はいつもこんなんだがな……つうか、びしっと?」


 レゲエやってそうな己の格好を見て、カロッソは首をかしげた。


「……まあ世の中、いろんな感性もあるもんだな。じゃ」

「待ていっ! こうして出会ったのもなにかの縁! ここはひとつ能力対決と行こうではないか!」

「能力対決……?」


 カロッソは面倒そうに髪をかき上げ、相手を見た。

 おそらくは改造人間であろう、人型をちょっとだけ逸脱した四本の手を持つシルエットを見やり、


「つうかおまえ、登録してるのか?」

「うむ! よくぞ聞いてくれた! ずばり、やり方がわからん!」

「マジかよ捕獲対象じゃん……」


 カロッソはうめいた。

 せっかくこれから飲み会だというのに、仕事が増えた。やってられん。


「わかってくれたならば能力対決と行こうか!」

「いや。あのな、よく聞け。俺は公安に所属していてな」

「そしてそれがしは貴様の能力を知っている! その正体は『相手の性格の地を出させる能力』なり!」

「ちげーよなんだその使えねえ能力は! つうかだから、能力対決ってのは登録能力者同士によるもので、おまえにはその権利ねーの! わかる!?」

「そんなことは関係がない! 夜の街、対峙するふたりの能力者! この状況で勝負以外のなにがあるというのか!」

「あるだろいろいろ世間体とかメリットとデメリットとか! んで俺にはおまえと戦うメリットはなんもねえよ!」

「ふははそんなこと言ったってもう勝負は始まっている! ていや食らえそれがし怒りのぱんち――」

「えい」


 がぎょっ。と、カロッソの靴底が相手の顔面に突き刺さった。


「ごばぁっ!?」

「……こいつは、公安の教本にあったんだけどよ」


 カロッソはぽき、ぱき、と手を鳴らして、


「能力対決をことさらに煽ってくる輩が、しかもこっちの手の内についてなにやらわめき立ててる状況ってよー……こちらの能力に爆弾仕掛けられてる状況っぽいよなあ」

「ぢょ、ぢょっどまっだ靴! ぐづが口にげぼがぼごぼ!」

「だからそういう場合は肉弾戦一択。ザキさんの言うとおりだぜ。鍛えておいて正解、だな」

「がばーーーーーー!」



 ただいま残虐行為が行われております。しばらくお待ちください。



「うーっし。まあこんなもんでいいか」


 大地に倒れ、ぴくぴく痙攣している改造人間を見下ろしながら、カロッソはつぶやいた。


「さて、じゃあ本部に連絡して運搬しますかね。まったく面倒な……お?」


 カロッソが取り出したスマホから、じゃかじゃかじゃん! と、おしゃれな感じの音楽が聞こえてきていた。


「……もしもし。ザキさん? いまちょっと仕事中。優先度? Cかな。あ、そっちA?」


 カロッソは言って、ちらりと改造人間を見やり、


「運がよかったなあおまえ。じゃあな、今度は見つかるなよ」


 と言って、すたすた歩いてその場から消えた。


「うう……う……」


 残された改造人間は、泣いていた。

 嗚咽していた。


「なぜだ……なぜそれがしは……勝てないのだ……!」

「お困りのようブヒね! そこの改造人間!」

「む?」


 気がつくと、彼の頭上にアダムスキー型なんとか的ななにかが浮遊していた。


「でも大丈夫ブヒよ! 小生が解決策を与えてあげるでブヒ! だから安心するブヒ!」

「何者だ!?」

「ふ、問われて語るもおこがましいブヒが、あえてここは名乗るブヒ! 我こそは南オクラホマ星の正当なる王位継承者、その名も――とうっ!」


 頭上の未確認飛行物体の上に立っていた人影は、叫んで地面に飛び降り、

 飛び降りた瞬間、ごきっという異音がした。


「みぎゃああああああああ! 足! 足が! 高いところから飛び降りすぎて!」

「…………」


 あ、これそれがしよりダメな奴だ、と、彼は直感で理解した。



--------------------



「なるほど……事情はわかったブヒ」


 うんうん、と偉そうな宇宙人(?)は路上に座り込みながらうなずいた。


「つまり、あまりに勝率が悪いために悪の秘密結社からクビになってしまって、再就職先を探すためにまずは実績として強い奴に勝たないといけないというわけブヒね」

「うむ、そういうことである!」


 無駄に偉そうに彼はうなずいた。

 宇宙人は少し考えて、


「……そもそも、普通に他分野で再就職したらよくないブヒか?」

「食いつめ引きこもりの末に親に秘密結社に売られたニートをなめるな! それがしが戦闘以外でなんかできるわけないわ!」

「威張ることブヒか……?」

「ふん、そちらこそどうなのだ。こんな流れの改造人間に声を掛けてまで戦力を集めるなど、どうせ貴様もろくなことは考えていないのだろう?」

「失礼ブヒね! 小生はただ単に地球人に寝取られた妹を取り返したいだけブヒよ!」

「…………。

 待った。妹って寝取られたって言うの? 彼氏ができただけじゃなくて?」

「日本のエロゲ界隈では立派に通るブヒよ! 小生地球文化勉強したから知ってるもん!」

「いやそれは特殊な業界の常識……まあいいか。

 とにかく戦力が必要なのはわかった! それがしとてひとかどの改造人間、雇われれば必ずや役に立って見せよう!」

「えー、信用できないブヒ」

「いきなりちゃぶ台ひっくり返された!?」


 がびーん、と固まる。

 宇宙人はジト目で、


「だって勝率悪すぎてクビになる改造人間ブヒよ? それにさっきだって」

「それは相手が強すぎただけである! そこらの能力者程度であればそれがしの敵ではないわ!」

「ま、そう言うと思ってたブヒよ。だから、ここは別口の取引と行くブヒ」

「取引?」

「そうブヒ。小生はそちらを雇うのではなく、再雇用に必要になる実績を挙げられそうな相手の情報提供をするブヒ。そしてその見返りに、そちらは小生の妹を取り戻す作戦に参加してもらう――これでどうブヒ?」

「ほほう!」


 きらりん、と彼の目が光った。


「実績を挙げられそうな相手。興味深いな。なんという男だ?」

「三条真坂というブヒ。最近、O-R-Zとか狭霧暗黒財閥とか、その手のヤバいところから引っ張りだこな超強力な能力者ブヒ」

「……勝てそうになくない?」

「ふっふっふ」


 宇宙人は含み笑い。


「これでも宇宙テクノロジーの使い手。小生にはわかっているブヒよ。そちらの能力、それは相手の能力に作用して使用を邪魔する能力ブヒね?」

「まあ、分類的にはそうであるが」

「そして三条真坂、まだ能力が発現して間もない一般人ブヒ! つまり、能力さえ封じてしまえばそれだけで倒せるというもの!」

「おお!」


 彼は拳をぐっ、とにぎりしめた。


「なるほどそれならなんとかなる! 素晴らしい情報だ!」

「はっはっは、褒めるブヒ褒めるブヒ! 小生の慧眼に恐れ入るといいブヒよ!」


 いい気になって笑う宇宙人。


「では契約成立だな! ぜひともその男の居場所を教えてくれたまえ!」

「うむ。それはブヒね――」



 ちなみに。


(ところで、なんでこの宇宙人、ブヒとか言ってるの? なんかキモい……)

(ひより様に命じられたこのブヒ口調、いい加減嫌になってきたブヒ……)


 などとお互いに思っていたことは、この際伏せておこう。



--------------------



「いえーい、メンタンピン一発ツモドラドラに裏ドラ! 倍満!」

「げええっ、まくられたっ」

「うぬぬぬ、迫られてきましたね……」

「ええい、さっきからこちらにいいところなしじゃありませんの! どうなっているんですの!?」


 いつもの休日の夜。

 三条の部屋は、いつもの面子が集まる溜まり場と化していた。

 今日も今日とて麻雀にいそしんでいる4人は、言うまでもなく三条、四象、真科、狭霧の4名である。

 ちなみにエリーは、この騒ぎを一向に気にせず、すぴーすぴーとベッドで熟睡していた。


「真科! 本当に『絶対勝利』使ってないんですわよね!? さっきからこちらの戦績がひどいんですけれど!」

「しつこいですねえ。そもそも私の『絶対勝利』はパッシブ能力。私自身がオンオフできる能力じゃありません。ですが……」


 真科は狭霧から四象に視線を移し、


「発動した瞬間に有耶無耶になりますからね。これは勝負ではなくレクリエーション。そう暗示を掛けてないとゲームは即座に終わります。使いようがありませんよ」

「そーゆーこと。私との勝負とかマジやめてね? この能力、宇宙が壊れないと有耶無耶にできない状況ではマジで宇宙壊れるから。容赦ないから」


 四象はそう言って、ウインクしながら点棒を回収した。


(ていうか、宇宙壊す能力多すぎだろオイ)


 思うが、突っ込んでも仕方がないので三条は言わなかった。もう慣れた、とも言う。


「とはいえ」


 四象はこほん、と咳払いしてから、三条の方を見た。


「彼が能力を使っていないとは言い切れないわね。私の能力を無効化したわけだし」

「それを俺が疑われてもな……本当に、まったく覚えがねえんだよ。俺が能力を持ってるって言われてもな」

「まあ、たしかにSM遺物の件で言えば、先の四象さんとの戦いの後からぴたっと出現が停止したみたいですし、現状では能力の痕跡はないと言って差し支えありませんわね」

「だろ? だから狭霧、いい加減、俺の部屋をへんな溜まり場にするのをなんとか――」

「いや、それは無理でしょ」


 真科がポッキーを口に放り込みながら言った。


「だって三条さんに能力があることは確定じゃないですか。SMブツとか関係なく」

「……。そのSMってのなんとかしてくんない? せめて英語イニシャルっぽくMSとかさあ」

「あはは、ロボっぽーい。おもしろーい」

「言われると思ったけどさあ!」


 けらけら笑う四象の反応に、げんなりしながら三条は吐き捨てた。

 真科はため息をついて、


「世の中に定着してしまったもんは、もう我々じゃ動かせませんよ。明らかに誤訳なのに定番だから変えられないタイトルとか、よくあるじゃないですか」

「……たとえば?」

「『資本の積極理論』とか」

「それ誤訳なの?」

「積極じゃなくて実証って訳すべきらしいですわね」


 プリッツを食べながら狭霧が言った。……どうも、有名な本のようだ。


「話を戻すと」


 と、真科。


「ともかく、三条さんに能力がないわけがないんですよ。なにがあろうと」

「なんでそう言い切れるの?」

「まず、最初に会った夜、普通に無傷で生き残ったじゃないですか」

「まあ、そりゃあそうだけど」

「あのとき、私が受けていた任務は『話題の三条真坂が危険もしくは無害ならば始末し、有用ならば勧誘』です。なので、さしあたり私の能力の無効化可能性も併せてテストするために、最低でも三条さんが戦闘不能にならなければ私の負けという自己暗示をかけていました」

「さらっと言ってるけど割とひどい任務だよねそれ。無害でも死かよ」

「ですが三条さんは生き延びた。それも、改造人間であるグルルゲール伯爵と戦って勝ったのです。普通ありえませんよ、そんなの」

「あの改造人間がめっちゃ弱かったって可能性は?」

「改造人間ですよ? 変身ヒーローか魔法少女じゃないと肉弾戦で勝つのは普通、無理ですって」

「いやあのときおまえも肉弾戦挑んでたじゃ――待て」

「なんです? この真科ちゃん様が改造人間ごときに拳法で後れを取るとでも?」

「そこじゃねえ。いやそこも気になるが……魔法少女、肉弾戦するの?」

「あー、最近多いみたいだねー。肉弾戦やる魔法少女。私の情報網にもいくつか入ってきてるよー」


 トッポをもしゃもしゃしながら四象。

 狭霧があきれたように、


「ていうか、魔法少女界隈はかなりカオスですわよ。わたくしたち能力者界ともまた違った仁義があるので、簡単に切り込めないと言いますか」

「つーか、普通に魔法少女が実在する時空の話に移行してるの、マジなんなの?」

「三条さんも慣れませんねえ。我々裏社会の人間なら、一度は魔法少女とくらい戦ってますよ。その年になって、そんなことも言わないとわかりませんか?」

「常識みたいに言うのやめてマジで!」

「あ、そうそう。この前共闘した魔法少女がマジすごかったんだよねー。知ってる? この近くの中学校の」

「そして井戸端会議のノリで話続けるのやめて!」

「ああ、この近くの……例のあの子ですわね」


 と、狭霧。


「えーっと、この話続けるの気が進まないんだけど……有名なの? その子」

「ええ。わたくしも報告は受けてますわ。普段はテンプレートなくらいおとなしくて内気な美少女なんですけど、地球の危機を察知するや否やイケメンに変身して壁ドンしようと迫っていくと」

「どこの時空のどんな魔法少女だそれはああああああああ!?」

「うるさいですね三条さん。エリーが起きちゃうじゃないですか。常識で考えてくださいよ」

「ま、真科に常識を諭された……めっちゃ屈辱……!」


 うぎぎぎ、と歯ぎしりする三条をよそに、話は続く。


「我々O-R-Zの情報網にも引っかかってますけど、とても個性的な能力者でしたよね、その魔法少女。イケメンになって壁ドンすればどんなものでも幸せな笑顔になって次の瞬間に爆発四散するという」

「うわあ……聞いただけで頭いてえ……」

「理論的には、壁ドンさえ成立すればそれが地球や太陽であろうと、悪霊や神であろうと、あるいは愛や真実といった概念でさえ、すべて幸せな笑顔になって爆発四散するそうです」

「待て。愛や真実をどうやって壁ドンするんだ」

「ですから理論値ですって。実際には太陽も難しいですよね。太陽の後ろに壁作るのにどれだけの費用がかかるか」

「壁の問題じゃねえだろ。腕が届かねえよ」

「え、なに言ってんですか。イケメンなら腕くらい伸びるでしょう?」

「おまえのイケメン像マジなんなの!?」

「壁さえあれば壁ドンできるのがイケメンですよ。我々がその魔法少女に一目置いているのも、変身するのがイケメンだからです。イケメンには不可能もないし弱点もないしトイレにも行きませんからね」

「待って……マジで待って……理解が……」


 ていうか、こいつら理解しようとするのがそもそも間違っているんじゃあ……? と思いつつ、三条は未開封のきのこの山のパッケージに手を伸ばし


「「「待った!」」」

「うわあ!?」

「三条さんそれ天然ですか!? わざわざあなたが勝負開始するようなことしてどうするんですか、宇宙滅びますよ!?」

「本当よ! 休戦状態を維持するために私たちがどれだけ心血を注いできのことたけのこのバランス取ってるかわからないの!?」

「わたくしですら空気読んでますのよ? きのことたけのこにだけは触れないようにと。そういうのわかりませんの?」

「だったら持ち込むなよ!」

「なかったらパーティ気分が出ないじゃないですか。わかんないひとですねえ」

「空気読めない男はモテないわよ?」

「はあ……まあ、三条さんがイケてないメンなのは、わたくしたちもすでに知ってはおりましたけれども」

「なんでおまえらそういうときだけ息ぴったりなの!?」

「はいはーい、また話戻しますよー」


 やる気なさげに、真科。


「ともかく、なにかがあったわけです。しかしあの事件は関係者が多すぎましたから、もしかしたら三条さんの能力じゃないなにかの影響で都合よくそうなったという可能性はゼロじゃありません」

「ま、まあ、そうだよな」

「が、仲町朱雀と戦えたのはどうですかね? あれは本当に危険な能力者ですが、一応戦闘になる程度に戦えてたのは異常事態では?」

「そんなこと言われてもなあ……結局あいつにとどめ刺したの、おまえだったじゃん。真科」

「まあそうですけど、しばらく様子見してたじゃないですか、私。それで生き残る三条さんは十分異常ですよ。なにかの能力を使ったとしか思えない」

「いや、そう言われてもなあ」


 三条が困っていると、


「わたくしも少し疑問ですわね」


 狭霧が横から口を出した。


「あそこにあった施設はO-R-Zの専用治療施設。能力者も、能力に干渉する装置も満載です。なにかが起こって、能力がないか、あるいはあってもたいして強くない三条さんが戦えた可能性はゼロではないのでは?」

「まあ、だからこそ狭霧財閥の解析には期待したんですけどね。その結果があのコピーロボ騒動ですから」

「あ、あれを収拾つかなくしたのはあなたの登場ですわよー!?」

「ともかく」


 真科は狭霧の抗議をさらっと流して、言った。


「だからこそ、この前の遺跡だったんですよ。あそこには我々、すでに素性の割れた能力者だけしかいない。そこで異常事態を引き起こせれば、三条さんが能力者であることは確定する。そう思っていたわけです」

「あー。だからあの遺跡行ったのか」

「なるほど、理にかなってますわね」

「で、アクシデントとしての四象さんがいたものの、特にそれ以外の問題もなく、普通に三条さんが異常現象を起こしたので、まあ確定かな、と」

「え、俺、なにしたっけ?」

「忘れたの……?」

 四象が、むっとした顔で言った。

「私の初めてを奪ったの、もう忘れたなんて。ひどい男ね」

「オイコラ変な言い方すんな。殴られたのが初めてって話だよな?」

「まあ異常現象ですよね。あの状況で四象さんを殴るなんて、私や狭霧さんにはどうやっても無理ですから」

「そりゃあ、そうかもしれないけどさ……」


 まあ、確かになぜか殴れちゃった、という感じではあったけども。


「でも、それは四象の方に問題があった可能性があるだろ? 俺のせいじゃないんじゃないの?」

「もうひとつ、三条さんは異常現象を起こしてるじゃないですか。そっちが本命ですよ」

「え、なにそれ?」

「ですからあ」


 ぴっ、と真科は人差し指を立てて、


「SMブツ、出現しなかったじゃないですか。挙げ句に謎の自爆装置まで作動して」

「あれ俺マジトラウマなんだけど。なんで自爆したの?」

「私に聞かれましても。三条さんの能力がしたことでしょう?」

「カケラも心当たりねえよ!」

「ちゃんとあのとき、観測班からは報告が来てるんですからね。あの遺跡におけるSM波動関数は確かにSM収束したと。なのにSMブツが現れてないなんてのはSM法則に違反する出来事なんです」

「さっきからその単語並べるなよ! 俺の名前だと思うとマジ腹立つ!」

「ですからテクニカルタームになってしまったら取り返しがつかないと言ったでしょう。

 ともかく、いままでの現象をひっくり返したんですよ三条さんは。そしてそれをきっかけに、遺物がカケラも出てこなくなった。これで能力がなかったらその方が不自然です」

「じゃあ俺にどんな能力があるってんだよ」

「それがわかれば苦労しませんよ。ですが、そうですねえ……」


 真科は少し考えて、


「もしかすると、という仮説ですが」

「ん?」

「三条さんの能力、それ自体に『能力の効果を他人に悟られない』とかいう付随効果がついてるんじゃないですか?」

「そんなことあるの!?」

「能力の付随効果自体はよくありますよ。たとえば『絶対勝利』でも、『この能力に対するカウンターは効果を発揮しない』とかいうのがあります。

 その類であれば、我々がどうやっても能力を暴けなかった理由に説明がつくんですがねえ」

「いっそのこと、真科さんが勝負すればいいじゃありませんの。能力の効果がわからなかったら負け、とかで」

「能力の効果が割れたらカウンターで世界を滅ぼす能力の可能性、ありません?」

「……そうでしたわね。あのSM聖遺物の規模からすれば十分あり得ますわ」


 狭霧はうなった。


「つまり、まとめると」


 四象が言った。


「最低評価でも、私の『有耶無耶』に勝った実績があり。『絶対勝利』を不完全ながらコピーできるロボ相手にコピーされず。そして正体がわからない以上『暗黒資本主義』による値付けも不可能。加えて、最低でも一回は『絶対勝利』の因果操作をかいくぐった可能性が高い……と」

「控えめに見て化け物ですわね。能力を悪用されたら手に負えませんわよ」

「だーかーらー。俺自身がわからない能力をどうやって悪用するんだよ」

「それが狂言だという可能性もあるんですがね。ま、それは喫緊の課題ではありませんので、置いておきましょう」

「というと?」


 三条の問いに、真科はぴっ、と指を立てて答えた。


「そろそろ次の局、始めましょうよ」



--------------------



 対局はぼちぼちな結果に終わり(狭霧が一人沈みしたが)、その夜。


(んー、なんか煮え切らねえな)


 ベッドの上で寝転がりながら、三条はひとり、考えていた。

 当初はここに住みたがっていたエリーだったが、ことあるごとに自殺しそうになる彼女の変な傾向に付き合うには三条は凡人過ぎるので、専用エージェント(女)と一緒に同じ階に住んでいる。毎日遊びに来てはいるが、夜はちゃんと自分の部屋に帰っていた。

 だからいまこの部屋にいるのは三条ひとりだけ。


(漫画的な展開を望んだらそれ以上の大惨事になった。そこまではともかく……)


 ともかく、自分に謎の能力があって、しかし使い方がこれっぽっちもわからないというのは気持ちが悪い。

 いつもこの部屋に来てる連中も、それはもちろん三条の能力に対する下心的なものとかもあるのだろうが、それ以上に、彼らにだけ頼り切るということが、三条には気持ち悪かった。

 自分のことを自分で処理できないのは、気持ち悪い。


(……よし)


 彼はうなずいた。

 とにかく、いまの状況をもう少しでもよくするために。そして、自分が一人で立てることを証明するために。

 まずは。


「カップラーメン食おう!」



--------------------



(……こういう気分のときに限って切らしてるんだもんなあ、カップラーメン)


 夜中の暗い道を歩きながら、三条は愚痴った。

 コンビニの店先で食べて帰ることも考えたが、なんか田舎のヤンキーっぽい気がしたのでやめた。なので、いま手にはカップラーメンの入ったビニール袋が下がっている。


(あー、なんか面白いことないかなー)


 空の星をぼーっと眺めながら、三条は思った。

 もちろん面白いことと言っても、いきなり空から降ってきた真科が部屋を砲撃とかはごめんである。もう懲りた。


(そういうのじゃなくて、もうバリバリ俺が活躍できる系の奴がいいんだよな。なんというか、俺がいなきゃダメじゃないといけなくて……)


 途中まで考えて、力なく首を振る。


(そもそも、能力がなんであるかすらわかってない俺に、なにができるってんだよ)


 本当に、自分がなにか能力を使っているという自覚が、三条にはまったくないのである。

 だから活躍もなにもない。というか、活躍したとしても、その達成感を味わえない。

 いままでの戦いだって、三条がしたことと言ったら、怪人を張り倒したことと、四象を殴り倒したことだけである。どちらも地味だし、後者に至っては絵面が『女の子を殴り倒す男』で、完全に三条の方が悪人である。

 せめて能力の詳細がわかれば――と考えて、


(……お?)


 なんとなく、ひらめいた。

 もしかして、もしかするとこれは……

 直後。

 思わず足を止めていた三条の目の前にレーザー光線が着弾し、派手に爆発した。


「ってまたこんなんかー! 今度は誰だ!」

『ブヒヒヒヒ! 見つけたブヒよ三条真坂!』

「上っ!?」


 三条が見上げると、そこには。


「……あー。

 目の錯覚だな。帰ろう」

『こら無視するなブヒ!』

「うわあっぶね! レーザーやばいレーザー! あちちちち!」


 ぴしゅんぴしゅんと降ってくるレーザーをあわてて回避する三条。


「ていうか、頭の上にアダムスキー型UFOが浮いてたら誰だってスルーするわい! なんだその前世紀の遺物みたいなえすえふ小道具は!」

『ふ、この高貴なる形がわからないとはまだまだブヒね! そこは通好みと褒め称えるところブヒよ!』

「どうでもいいけどブヒブヒ言ってて高貴とか恥ずかしくないの?」

『仕方ないブヒよ小生だってこんな語尾つけたくなかったブヒー! おのれ痛いところを、もう生かしておかんブヒ!』

「お呼びじゃねえ! 帰れ!」

『ふふふ、そんなことを言っていられるのもいまのうちブヒ! 前を見るブヒよ!』

「なんなんだまったくもう……」


 言いながら三条が視線を前に向けると、


「さ、三条……さん……逃げて……」

「うう……ひ、ひどい……こんなの……」

「狭霧!? 四象!?」


 ボロボロになって倒れ伏した狭霧と四象、そしてその奥にいる謎のシルエットがあった。


「ふ……それがしにかかれば、この程度の能力者など造作もない」

『いや、マジ強かったブヒね。正直捨て駒のつもりだったので予想外ブヒ』

「聞こえてるからな! 今度言ったら絶交だぞこのヘンテコ宇宙人!」


 抗議してから、怪人はこちらに向き直った。


「貴様が三条真坂であるな! ふはは、それがしがさぞや憎かろう! では能力対決と行こうではないか!」

「え、なんで?」

「なんでって……え、でも貴様の大事な女二人がそれがしにボロクソに……」

「いやそいつら俺の家を頻繁に引っかき回しに来るだけのよくわからん連中だし。関係ないからそれじゃっ」

「待てええええ! それでも男か三条真坂! 逃げるなあ!」

「嫌だよおまえみたいなのもうホントうんざりなんだよ! あとこれ俺のただの勘だけど四象はともかく狭霧はぜったいわざとやられておもしろがってるだろ!」

「し、失礼ですわね! たしかにわざとやられましたけど、この改造人間が手加減知らないせいでガチで痛くてわたくし泣きそうですのよいま!」

「自業自得だわ知るかボケえええええ!」

『ふはは退路は断たせてもらうぞ! そーれ謎宇宙バリヤー!』

「ぶげっ! この、出せ、てめーっ!」


 前門の怪人、後門のバリヤー。

 絶体絶命の三条であったが、しかし。


「ていうか真科ぜったいこの場にいるだろ! 出てこい責任取っておまえが収拾しろ!」

『えー、嫌ですよ三条さん。私、狭霧さんと違ってわざと負けるとか器用なことできませんし。そしたら面白くな――ではなく、三条さんの能力観測実験にならないじゃないですか』

「本音ただ楽しんでるだけかー! 実験ですらねえのかよこれ!」


 どこからともなく聞こえてきた真科の声に、三条が抗議するも。


「ふ……そんなことを言って、危なくなったら介入するつもりであろう、真科真字」

『さて、どうでしょうね?』

「すっとぼけてもそれがしにはわかる! だからおとなしくしていてもらうぞ! 食らえそれがし必殺の能力、その名は『決めつけ』なり!」

『決めつけ……?』


 不思議そうな真科の声に、怪人はさらに声を張り上げた。


「その効果は絶大! たとえば、三条真坂にはこう使う! 貴様の能力は――『能力の正体を他人に知られない』能力だあー!」

「え?」


 瞬間、三条に軽いめまいが走った。


「っ、な、なんだ?」

「ふはははは! 効いた、効いたぞ! やはり先ほど地獄耳(デビルイヤー)による盗聴で仕入れた情報、つまり三条真坂の能力に『能力の正体を他人に知られない効果あり』は正しかった! 偉いぞそれがしの情報収集力!」

『その分析は私のなんですけどねー……しかし、効いたってことはマジでそういう系の能力だったんですかね。そこの改造人間さんの能力、これ「わざと微妙に間違った説明を相手の能力に与えて決めつけ、その能力を変容させて弱体化させる」のですよね?』

「その通り! 前提として相手の能力効果にカスってないと効かないとかいろいろあるが、有名な能力であればその心配も無い! つまり、情報が知れた貴様らはみんなそれがしの敵ではないのだ!」

『はー。まあ言うだけならただですよね』

「その強がりもここまでである! ふはは知っているぞ真科真字! 貴様の能力は――『絶対にじゃんけんで勝つ』能力だー!」


 怪人が叫ぶと、同時に。


『おや……効いた? 本当に?』


 真科の怪訝な言葉が、あたりに響いた。

 怪人は得意げに胸を張って、


「ふはは、ふははは! ふはははは! どうだすごいであろうそうであろう! 今日は最高の日だ! 三条真坂と真科真字、この能力者界きっての実力者二人を始末したとなれば、それがしの再就職先を見つけることもそう苦労はしないというもの!」

『はあ、いや、気づいてないなら突っ込みませんけどね』

「なにがだ! ていうかそれがし貴様の潜伏場所くらいわかっておるぞ! このそれがしの無敵索敵機能にかかればイチコロぶへぇーーーーーーーーーーーーーー!?」


 言葉の途中で、怪人は思いっきりぶっ飛ばされて数メートルノーバウンドで飛んで壁に激突した。


「なーにがイチコロだこのすっとんきょうが! テメエ俺になんも関係ないのに名を上げたいからとかそんな理由で勝手に巻き込んでんじゃねえ! 邪魔だ! 失せろ!」

「な……な……なぜ!?」


 がばぁ、と怪人は立ち上がって抗議した。


「なぜだ三条真坂! 貴様の能力は封じているはず! なのになんで変身ヒーローの跳び蹴り級の攻撃力でそれがし殴られてんの!?」

「知るかボケ! とっとと帰れ! 俺は帰ってカップ麺食いたいんだよ!」

『まあこうなりますよね』

「真科ぁ! 貴様それがしになにか隠しているであろう!? なにをした!?」

『失敬な。私はなにもしてませんよ。ただ』

「ただ?」

『絶対勝利が「封じられた」ってことの意味を、もうちょっと考えたほうがよかったですねってことです』


 真科は淡々と言った。


『絶対勝利は「絶対に勝利する」能力。それが封じられて勝てなくなる場合には、絶対勝利の効果と矛盾しますので、封じる能力は能力強度での対決に勝たないと絶対勝利を封じられません』

「それがどうした!? それがしの能力強度が強かっただけであろう!」

『ありえませんよ』

「なぜ!?」

『いや、だから能力強度対決って『勝負』でしょう? だから絶対勝利が載ります。このルートでいままで私が負けたことはないんです。残った可能性はひとつだけ――』


 真科はそこで言葉を一瞬切って、


『つまり、私が手を出すまでもなく、勝ちが決定されていた場合だけです。絶対勝利が封印されても勝つなら、絶対勝利とその封印は矛盾しませんから、封じることができます。

 だから、あなたが私の能力の封印に成功していたその時点で、あなたは負けてたんですよ。すでに』

「な、なにいいいいいい!?」


 怪人は絶叫した。


「馬鹿な……それがしの無敵の能力が……なぜ……」

「どうでもいいけどとっとと失せてくれないか? 俺ホント腹減ってるから」

「いや、いや、いいや、まだである!」


 きらーん、と怪人の目が光った。


「三条真坂! それがしは貴様の能力を見誤っていたようだ! ふふふ今度こそ絶対勝てる!」

「あーそうかい。もう面倒だから早くやってくれ」

「ふははその余裕もここまでだ! 貴様の能力は! 『能力を看破されると負ける』能力だあああーーーっ!」

「!?」


 がくん、と三条のひざが地に落ちた。

 身体が重い。


「な……なに!? なんだ!?」

「ふ……解説が必要かね?」


 急に余裕の表情になって、怪人は嗤った。


「つまり貴様の能力とそれがしの能力、これは相性最悪ということである! なにしろたったいま、『能力を看破されると負ける』能力だと看破されたのだからな!」

「い、いや、それ、決めつけだろ?」

「さよう! それがしの『決めつけ』――だがその決めつけは能力の変容をもたらす! つまり貴様は能力を変化させられた結果、能力を当てられたことになって自滅するのだ!」

「ぐっ……こ、この……!」


 身体に力が入らない。


(あ、これ、マジ、やば……!)

『うーん、このままでもいいんですけど、面白くないですねえ』


 遠くから、真科の声が聞こえてくる。


『んじゃ助け船です。三条さーん、助言要ります?』

「なんだよ! 役に立たないこと言ったら承知しねえぞ!」

『大丈夫大丈夫。ばっちり役に立ちますって』


 適当な感じで言って、それから真科はこう続けた。


『要は、論破すればいいんですよ。三条さんの能力がいまそいつが言った能力じゃないことがわかれば、それで終わりです。

 ですから、過去の経験を紐解き、自分の能力がそれでないと実証すればいいんです』

「ふははそんなもんなんの役にも立たんわ! それがしの能力は、過去の履歴とは関係なく現在に作用する! すなわち『それはそれ、これはこれ』の能力! たとえ論破したところで――」

「なあ」

「なんだ?」

「いや、この騒動が起こる直前に考えていたんだけどな……」


 三条は、重い身体をなんとか起こしながら、言った。


「『能力が能力を持ってる』って、ないかな」

「…………」

『…………』


 三条は、少し遠い目をして、


「真科の絶対勝利な、あれ能力が勝利判定しているように見えたんでな。能力自体が自律するとかないのかなって。

 そうすると、発展させてそういうこともあるんじゃないかって……」

「だだだ、だからどうした! それがしの能力は過去の履歴と――」

「俺が四象を殴れたのは、勝負が発生しそうになったと判定されたのが『能力』と『四象』だったから。その上で『能力』は勝負をしなかったんで、その合間に一方的に殴った俺の拳が四象に通ったんだ」

「それが、いや、だから過去のことは関係――」

「するとこう思うわけよ。能力が『正体を看破されると負ける』として、『負ける』対象は『能力』であって、『俺』じゃないよな?」


 ばききききき! と音がして。

 三条を縛る戒めのようなものが、完全に崩れ去った。


「ば……馬鹿なああああああああーーーーーーーーーーー!?」

「俺が能力を使って、その能力に能力を使わせて戦う分には、特に枷にならないよな。なにしろ、これは俺とおまえの戦いなんだから」

「お、おのれまだだ! それがしの力を見よ貴様の能力ぶべら!?」

「言わせなけりゃ勝てるよな」

「ちょ、ま、タイム、タイム待って痛い痛いそこはぐええーーーーーーーーー!?」



 ただいま残虐行為が行われております。しばらくお待ち下さい。



「ふー、よし。勝った!」

「ぱちぱち。すごいですねえ三条さん」


 いつの間にか隣にいた真科が、やる気なく拍手した。


「おまえ最初から出てこいよ! おまえが矢面に立てばこんな苦戦しなくてよかったんだよ!」

「いやですねえ。私が三条さんの味方だとかいつから錯覚してたんですか?」

「そうだった敵だこいつ!」

「いえ敵でもないんですけどね。単に利用するためのドライな関係と言いますか」

「もっと最悪だわ! ていうかあのブヒUFOは!? どうなった!?」

「ああ、あれでしたら、とっくの昔に逃げましたよ」

「……またあれに絡まれるのか。この場で始末つけときたかったんだけどな」

「じゃあ私がなんとかしときます? 近い将来あのUFOが墜落しないと負け、とか勝利条件設定しときますけど」

「あー。そんじゃ頼むわ」

「うしし。恩ひとつですね」

「しまった口がすべった!?」



--------------------



 そんなわけで、翌日。


「なんで毎度毎度おまえら、俺の部屋に集まるわけ?」

「そりゃこの中でいちばん料理うまいのが三条くんだからでしょ」

「おまえはホント毎回夕食無心に来てるよな四象。ある意味尊敬するわ」


 ジト目で言うが、四象はどこ吹く風。ついでに言うと、昨日の怪我もたいしたことがなかったようでぴんぴんしている。


(まあ、他の二人と比べたら、こいつが一番裏表がないんだけどな、たぶん)

「? なんだか妙な目で見られてますね。この裏表のない素敵で頼れるお助け味方キャラである真科ちゃん様になにかご用でも?」

「おまえ人の心読むなよ。というか『面白いから』の一言であんな怪人とやり合わせる薄情者がどの口で言うか」

「いいじゃないですか。その前のモノローグで三条さんが思ってた通り活躍できたんだし」

「なんでおまえ俺のモノローグ読んでるの?」

「企業秘密です」


 すました顔で、真科。根性が悪いことこの上ない。


「こちらは散々でしたわよ……」


 と、ぶすっとした表情で狭霧。


「あの怪人、四象さんより明らかに強くこっちを打ちましたわよ。おかげでまだ腰がちょっと痛くて」

「何度も言うが自業自得だ。俺にああいうの押しつけるな」

「あら。でもよかったじゃありませんの」

「なにがだ?」

「結果として、能力の正体がわかって」

「あー」


 その点だけは、今回の騒動でよかった点だった。


「三条さんの能力が解明されたことで、界隈の警戒レベルは大幅に下がりましたわ。以降、能力者絡みの余分なちょっかいはだいぶ減るでしょう」

「じゃあなんでおまえら今日も来てるの?」

「ごはん食べに来ただけだよ?」

「四象には聞いてない」


 冷たく言い捨てて、三条は狭霧の方を見た。

 狭霧は肩をすくめて、


「べつに三条さんの市場価値が落ちたわけではありませんし。スカウトは継続ですわよ」

「狭霧みたいなブラック企業、絶対入りたくないんだけど」

「幹部待遇を用意しましょうか? それならブラックは天国ですわよ。しわよせが来るのはいつも下ですし」

「心が痛むから嫌だ。

 真科はどうなんだよ。まだ俺をO-R-Zに引き込もうとか考えてるのか?」

「え? いえ私は単に面白いから三条さんにくっついてるだけですよ?」

「迷惑だからとっとと失せろ!」

「えー、いいじゃないですかー。私がいなければ今回だって丸く収まらなかったかもしれないですよ?」

「どうだか」

「ねーねー三条。それより今日のごはんなんなの? できたところでエリーちゃん起こすからさー」

「わかったよ。ていうか、言ってなかったか? 今日の飯は鍋焼きうどんだ」

「うわー超おいしそう! 私うどん大好きなのよねー!」


 目を輝かせて言う四象を見つつ、三条は思う。


(まあ、変な日常だが、もうちょっとこのままでもいいか……)


 直後、がしゃーん! という音とともに窓ガラスが割れ、一人の怪人が部屋に侵入してきた。


「がはははは! 我輩はフレッシュ新鮮海賊団の一の尖兵、その名もネモネモ艦長なり! さあ三条真坂、いざ勝負――」

「「「邪魔!」」」


 声と共に真科の拳がうなってネモネモ船長は光速度の0.1%ほどの速度でぶっ飛ばされて宙を飛び、それでもなんとか空中で態勢を立て直したところにたまたま飛んでいたUFOとぶつかってもろともに破損、墜落した。

 なお、彼らの入院費用は狭霧財閥に差し押さえられていたため、UFOの残骸や海賊船などを代金として没収され、ふたりして無一文で夜の都会をさまよう羽目になるのだが、それはまた別の話。


「さーさー鍋焼きうどんだいぶできてきましたよ。楽しみですねー」

「こういう庶民的な食事が最高のごちそうですわね。皆でいただきましょう?」

「うっどん、うっどん! エリーちゃん、そろそろ起きてー。うどんだよー」

「わーいエリーうどん大好き!」

「……おかしい。トラブルが減る気配がしないんだけど」



 まあ、そんなこんなで。

 地球は今日も平和だった。



『三条くんちの能力大戦』完

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

10年前に書きかけのまま放置してた作品ですが、荒っぽいながらも完結まで書けてよかったです。


【能力解説】

『決めつけ』

使用者:謎の改造人間Z

能力強度:1ピコくらい 能力種別:能力操作系/アクティブ

 相手の能力をこれだと決めつける能力。

 まったく的外れだとなんの効果も無いが、微妙に似ている効果である場合にはその能力が決めつけた通りに変質、弱体化する。

 ちなみに原理的には味方の能力を『決めつけ』て強化することもできるが、能力強度がこの能力を超えた能力に対しては無力であり、そしてこの能力は信じられないほど弱いので……と、後はお察し。


『能力所持』

使用者:三条真坂

能力強度:100くらい 能力種別:自律型/パッシブ

 能力が能力を所持しており、自律的に能力を使用する。

 能力の特性として、付随効果的に自分の正体を隠す効果があるが、おまけ程度である。真に恐ろしいのは、能力解析では「能力の能力」を解析できないため、この能力の真の力を誰も測定できないことにある。

 なお、能力強度は「この能力自身」の強度であり、いわば「ドラえもんの道具の中で四次元ポケットが持つ強さ」みたいなもの。その使用できる能力がタケコプター級であるか、地球破壊爆弾級であるかは誰も知らない。

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