第四話:三条くんも能力大戦
「うう……とうとう……」
三条は感無量、という感じで言った。
「とうとうマイホーム復活! やったぞ!」
ガッツポーズ。
この長いホテル暮らしもようやく終わりだと思うと、素直に感慨深い。
思い返せばいろんなことがあった。
部屋の中に対人地雷が埋められていたり。
見舞いに行ったら荷電粒子砲で焼かれかけたり。
暗黒財閥に拉致られて危うくブラック研修を受けさせられそうになったり。
(ろくなことがねえな……けど、まあ)
目の前のマンションを見ると、その思いも吹っ飛ぶというものだ。
前に住んでたぼろアパートとは比較にもならない良物件。
家賃も思ったよりずっと安く、良心的だった。
駅からも近い。
(…………。
でもこれ、たぶん変な裏側からの手が入ってそうだよな)
はぁ、とため息をつく。
なんらかの形で監視は入れときますので、と真科からは言われてしまったし。
どうせ狭霧も似たようなもんだろう。三条にプライベートがあるかどうか、怪しいものである。
「ま、それは後から考えるとして!」
エレベータで上って、部屋の前まで到着。
鍵を取り出して差し込み……ふと、考える。
(待て。まずは落ち着こう)
悪い展開を予想しておけば、その後のダメージもだいぶましになるだろう。
(ドアを開けたら狭霧と真科がいきなりお出迎え、という悪夢の展開もあり得るからな。ある程度は覚悟しておかないと)
「ま、とにかく行くか!」
鍵をひねり、ドアを開ける。
そこには。
「あ、おかえりー。お兄ちゃん」
「見知らぬ幼女……だと……!」
事態は想像の斜め上にあった。
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「エリーはねー、お兄ちゃんをずっと待ってたんだよ」
見知らぬ幼女の名前はエリーと言うらしい。
引っ越しの段ボール(事前に運び込んでもらっていた)の山の中で、エリーはにこにこして座っていた。
「ず……ずっとと言われますと、いつからでしょうか?」
「朝から!」
「そ……そう」
なぜか敬語で尋ねてしまった三条に、エリーは元気よく答えてくれた。
(はっ。いかん、意識を持って行かれるな!)
三条はぶるぶると首を振った。
まずは状況整理だ。せめて、真科と狭霧、どっちの差し金なのかだけ確かめないと。
「ええと……エリーちゃんは、どこの所属なんでしょう?」
「所属?」
「そう」
「えっとねー、わかんない!」
「うん、わかんないならしょうがないな」
三条は深くうなずいた。
挫折とはこうも深いものか……とか、三条は考える。
「そんなことよりお兄ちゃん、エリーおなかへったー!」
「あ、ええと。どうしよう。引っ越ししたばっかりで買い置きがないんだよな……」
「えへへー。そう言うと思ってね、エリー材料用意しておいたんだよ」
「え、マジで?」
「じゃーん! 爆弾でーす」
「なぜそれが食材になると思った!」
「え? だって最近はやってるらしいよ。ばくだん丼」
「ばくだん丼の材料は爆弾じゃありません!」
「えー。そんなばくだん丼つまんない」
「無茶言わないの!」
「じゃあばくだん丼じゃなくていいから爆弾使ったご飯」
「あるわけねえだろんなもん!」
「えー……」
ぶすー、とふくれるエリーちゃん。
うん。とりあえずアレだ。
(……『非日常』カテゴリに入れておっけー、と)
「? なにかお兄ちゃんが自分の人間関係メモを更新している気配がするよ?」
「気のせいだ。まあそうだな、とりあえずまだ梱包解いてないところに非常食のカップ麺があった気がするから、まずはそれで手を打とうじゃないか」
「カップ麺! エリー、カップ麺大好きだよ!」
ばんざーいするエリーちゃん。
ひとたび非日常カテゴリに分類すれば案外扱いやすいな、と胸をなで下ろした三条だったが。
「じゃあこの爆弾はもういらないからごみだね。燃やしちゃおう?」
「おい馬鹿やめろ待て早まるな!」
「えーとチャッカマンどこにしまったっけ……きゃあっ!?」
慌てて取り押さえた三条が爆弾を放り投げた、その瞬間。
「どうやら無事入居したようね三条真坂! この狭霧財閥の物件に入ったからにはあなたはもはや――」
「あ、どもですどもですー。とりあえず三条さん、監視の手順を説明しておこうということでちょっとお邪魔――」
ばたーん、とドアを開けて狭霧みやびが、がらがらと窓を開けて真科真字が、それぞれ部屋に入ってきて。
「「……あれ?」」
幼女を押し倒した実にアレな状態の三条を見て、固まる。
……しばしの沈黙。
「おーけーまずは落ち着こう全員。これには深いわけがあって――」
「おおおおおお落ち着けるわけがないですわこの状況で!?」
狭霧が絶叫した。
「ていうか三条真坂! よりによって我が狭霧の物件にな、なんてもん連れ込んでるんですの!?」
「待てこれは誤解だ! これにはやんごとなき事情があって!」
「事情ですかあ……わたしもそれ聞きたいですねえ。是非とも」
「な、なんでこんな修羅場状態になってるの!? ていうかエリーちゃんフォローだ! 代わりに説明!」
「え? えーと、食べちゃおうとしてたんだよね。お兄ちゃんが」
「致命的フォロー乙! ていうかカップ麺だからね!? アレ的な意味じゃないからね!?」
「そんなことはどうでもいいんですわあああああ! それよりなにより、どうしてその子がここにいるかを説明しろと言ってるんですのよ三条真坂!」
「え、だからそれはいつの間にかいてっていうか、おまえらの差し金じゃないの? ぶっちゃけ」
「誰がそんなもの――」
「あー、もし。ちょっとタンマです」
真科が手を挙げた。
「なんですの真科真字! いまそれどころじゃないのが見てわかりませんの!?」
「いやあ。まあそーなんですけど、あまりにみんながすれ違ってるんでおもしろ――ではなく、まず状況を理解してなさそうな三条さんに説明をしてからのほうがよさそうだと思いまして」
「ええっと……?」
「三条さん」
真科が言った。
「よく聞いてください。その、いま三条さんが違法に組み敷いている女の子なのですが」
「違法って言うな。ていうかこの状況までならまだ法に触れてないだろ!」
「裁判員にどれだけ通用しますかねその言い訳?
……じゃなくて。いえ、ですから狭霧さんですが、その淫行条例的な話について言ってるのではないのですよ」
「だから淫行ってどういう――って、え?」
「その女の子は」
真科は言った。
「とても有名なのですよ。名前は雑司ヶ谷絵里子。通称は皆殺しのエリー」
「…………いきなり物騒な二つ名なんだけど、それ以上聞かなきゃダメ?」
「ダメです。なにしろこれから先、たぶんぜったいに必要になる情報ですから。彼女の能力は」
真科はそう言って、ため息。
「彼女、エリーの能力は『ゲームオーバー』――その効果は、『自身が死ぬと宇宙が終わる』という能力です」
「――……
マジ?」
「マジです。有名人なんで」
「ええと、ところでいまそこに宇宙的にやばそうな爆弾があるんだけど」
「えいっ」
かっきーん、と真科のポジトロンライフルが真芯で爆弾を捉え、爆弾ははるか空の彼方へ飛んでいって、そこで爆発四散した。
「よかったですね三条さん。あなたの淫行は宇宙の寿命をすこしだけ延ばしたかもしれませんよ」
「だから淫行言うなっつーの! ていうかわかってんじゃねーか!」
「心臓が止まるかと思いましたわ……というか、エリー。あなたはなぜこの場所にいるんですの?」
狭霧が問うとエリーはにこやかに、
「うん! 今日のテレビの占いで出てたの! 今日のラッキー行為はここでお兄ちゃんといっしょに暮らすことだって!」
「今日で終わる行為じゃねえ! ていうか占いに左右されすぎだろその人生!」
「諦めなさい三条真坂……この子は性質上、マジで誰も手を出せないんですわ……能力者界最大クラスの地雷なんですのよ……」
どんよりした顔で狭霧が言った。
「……おまえの能力で差し押さえとかできねえの?」
「宇宙破壊爆弾なんてどうやって利益を生み出せって言うんですのよ……余裕のプライスレスで買い取り不可ですわ」
「あー、なるほどな……じゃあ真科は? おまえのトンデモ能力でなんとかなったりしないの?」
「トンデモ能力とは失礼ですねえ。
まあ、可能性はありますよ。私が『世界を滅ぼされたら負け』と思い込むことに成功すれば、能力を押さえ込める可能性はあります」
「なんだ。じゃあおまえは大丈夫じゃないか」
「……失礼ですが、正気で言ってます? 三条さん」
「え? なんで?」
「いえ。ちゃんと効いてるかどうか確認するためにはその子を殺さないといけない上に、失敗するとそれで宇宙エンドなわけですがそれでいいんならそれはそれで」
「……ダメか」
「ダメでしょうねえ」
真科は渋面で言った。
「まあ、老衰なんかでどうしてもその子が死ぬような状況が生まれたら、そのときは世界の能力者全員が総出で能力封じ込めを仕掛ける予定ですよ。そのときにどうにかなれば宇宙の寿命はもうちょっとだけ延びるでしょうね」
「嫌な話だなあ……」
「ねー。そんな話よりエリー、おなかすいた。カップ麺食べようよカップ麺!」
「あ、そうだった。飯の時間だったな」
「なんですか三条さん。レディーのご飯にカップ麺出す気だったんですか?」
「おまえ大学生の甲斐性に過度な期待すんなよ」
「手を出しといてそれはないでしょう」
「手を出してねえよ! おまえそれあくまで引っ張る気か!」
「仕方ありませんわねぇ……では、引越祝いということでこちらに出前を取って差し上げますわ」
「あ、ああ。ありがとう狭霧。ところでなにを取るの?」
「さしあたり満漢全席取って、足りなかったらまた考えましょうか」
「足りるどころか明らかに多いわ!」
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「さて、腹ごしらえも終わったところで……なにしにきたんだおまえら?」
三条は言った。
狭霧の取ったミニ満漢全席はそれでもかなりの量で、エリーは満腹になって満足したのかベッドで寝息を立てている。
というか、ベッドこの部屋ひとつしかないんだがどうすんだマジで……という雑念を、とりあえず三条は追い払った。いまはその前にべつの話だ。
言われた真科はきょとんとして、
「はて。三条真坂ハーレムの構成員である我々がこの場にいることになにか問題が?」
「いつからハーレムになった! ていうか構成員がおまえらじゃうれしくねえよ!」
「そうですわよ真科。ハーレムという言葉は名誉毀損で訴えられる可能性があるので、ここはどう考えても同じ意味だけど言葉面だけは丸い三条ガールズとかにしておくのが大人の知恵というか週刊誌の知恵――」
「はい不穏な発言はそこまで!」
放っておくと際限なく暴言を吐きそうな狭霧にストップをかける。
「まあ正直に言うとつまりO-R-Z団の対応としては監視のために隣室に私が引っ越すということになったのでよろしくというかそういう話なんですが」
「あー、まあそんなこったろうとは思ったが……で、狭霧は?」
「ええ。三条真坂が入居すると聞いたのでとりあえずこのマンション買い取ったので、わたくしは大家ですわ」
「相変わらず金遣い荒いな!」
「おっほほほ。こういうときは大家が一番権限が大きいのですわよ。当然真科より立場は上ですわ」
「はあ。まあ、距離が近いほうが断然有利だと思いますけどね。とりあえず三条さん、今日は引っ越しそばってことで夕飯一緒にどうです?」
「む……油断なりませんわね。というか、事前にこちらが仕掛けておいた盗聴器やらはどうやって解除したので?」
「ああ。盗聴されたら負けってことにしました」
「…………。前々から思ってたのですけれど、その能力どこまで便利なんですの?」
「ていうか私、たぶん宇宙滅ぼせますよ。宇宙滅ぼせないと負けって本気で思い込めば」
「あなたも大概爆弾ですわね!」
「伊達にO-R-Zの最終兵器なんて言われてませんよ。
まあ、そのせいで能力発動直後はかなりガクブルでしたけどね。うっかり世界滅ぼしたらどうしようって。いまではマインドセットの訓練をしっかり積んだので、安心できてますが」
「それはまあ一安心ですわね……根本のやっかいさは変わってませんけど」
「ついでにひとつ追加情報。私、不意打ちされたら負けだと常にマインドセットしてますんで。
絶対に勝利する能力なら、勝負になる前に暗殺してしまえばいい――というたぐいの発想は、わたしには通用しませんよ?」
「…………」
「ふふふ、用意した切り札のうち2個くらいはつぶせましたかね?」
「3つはつぶれましたわよ。
……まあ、いいですわ。さしあたりは戦いになる予定もありませんし」
狭霧はそう言って、ため息。
真科はぱん、と手を打って、
「さて、それじゃ本題に入りましょうか」
「あん、本題? 挨拶にきただけじゃねえの?」
「それだけでもいいんですけどね。いちおう、そろそろあなたの能力の正体になんらかのめどを立てておかないとまずそうな気がするんですよ、三条さん」
「え? でも狭霧じゃわかんなかったよ?」
「ええ。でもO-R-Zの方の検証はまだやってないんで。そっちでなにかわかるかも」
「ずいぶんと自信ですわねえ。できる保証でもあるんですの?」
ちょっとむっとした顔で、狭霧。
真科はちらっと彼女のほうを見て、
「まあぶっちゃけあんまりないですけどね。あなただって知ってるでしょう? 例の件」
「……でしたわね」
「例の件ってなに?」
「ですから三条真坂聖遺物です。最近はだいたいどの組織も略してSMブツと呼んでいるようですが」
「おい待て人を勝手に謎卑猥ブツみたいな言い方すんな!」
「つまるところ、各所の自然現象、人工物、天体放射が三条真坂の名前を一斉に出し始めた現象ですわ。ピラミッドに落書きとか」
「あれネタじゃなくてマジだったのかよ……」
狭霧の説明に、三条はがっくり肩を落とした。
「小惑星帯を探査中の宇宙探査機が「三条真坂」という信号を最後に通信を絶って以来、天文ファンの間で地味に名前広まりつつあるようですし、このままだとマジでやばいですよ」
「マジでなんでそんなことに!?」
「だからそれがわかんないから調査するんですよ。
おおかた、能力の発現始めで暴走状態でいろんなことが起こってる状態ですから、あなたが能力を制御できるようになりさえすればそれでどうにかなるはずなんですよ」
「それで、正体を特定か……あ、そういや」
「? なんです?」
「いや。おまえの能力でなんとかなんねーの? 能力当てられたらおまえの勝ちとかそういうので」
「考えはしましたがね……」
と、真科は渋面。
「ん、どうした? 問題あるのか?」
「いえ。あなたの能力が『正体を看破されるとカウンターで世界を滅ぼす』とかだったら嫌だなあって」
「嫌だなあどころじゃねえよ!」
「まあそれも絶対勝利で押さえ込めるかもしれないんですが、さっきと同じ理由でちょっと遠慮したいですね。少なくとも、まだ賭けに出ないといけない段階じゃないでしょう」
「ですわね。少なくとも余波から察する能力規模で言えば、その手のやばいブツである可能性はなくはありませんものね」
「マジかよ……」
げんなりする三条。
「で、具体的にはどうやるんだ? 計測って」
「そうですねぇ……まあ、まずは施設の情報取得からなんで、とりあえず……」
「とりあえず?」
「うちの本部、行きましょうか」
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「というわけでここがO-R-Z団本部でーす」
「…………」
渋面になる三条。
「おや。なんですか三条さん。ノリが悪い顔して」
「洞窟の中のドクロ型施設を見てどう反応したらいいかなんてわかんねえよ」
「割と典型的かつ古典的だと思うんですがね」
「そりゃあ典型的かつ古典的だけど実在する系カテゴリじゃないよなこれ!」
「まあ文句は設計者のドクロシャーク元帥に言ってください」
「そいつにはまず自身のネーミングセンスから問いたいね!」
わめく三条。
と。
「にしても、さすがにわたくし自らここに来たのは初めてですわね。改めて見るとなかなかの外観ですわ」
「だよねー! すごーい、すごーい、悪のUFOだー!」
「いや、飛びませんから。
……ていうか、なんでナチュラルについてきてるんでしょうねあなたたちは」
「三条真坂についての協定は結んだでしょう? お互いの情報はフェアに公開すること。三条真坂の情報に関する限り、わたくしたちが一枚噛む権利がありますわ」
「まあそっちはいいんですけどね……」
「ん? なんでお姉ちゃんエリーのほうを見てるの?」
「この子はなんでついてきてるんでしょうね……」
「んとね、今週のラッキーカラーが、ドクロだったの!」
「もはやカラーですらないことに突っ込む気力も惜しいので、もうスルーしてさっさと入りましょう三条さん」
「あ、うん」
言われるままに、ドクロの口部分にある自動ドアから中に入る三条。
中は、外観からは想像できないほど普通にオフィスだった。
(ちょっとがっかりしている自分がいる……いかんいかん。毒されないぞっ)
ぶるぶるっ、と頭を振って決意する三条。
やがて長い廊下の突き当たりのドアまで来て、真科が言った。
「ではこちらの部屋へどうぞ」
「お、おう」
言われるままに、部屋に入る。
立派なデスク……の向こう側に、ひとりの人物が座っていた。
バーコード頭の中年のおじさんである。いかにも部長というか、中間管理職というか、そんな感じの外見だった。
真科はびっ、と腕を上げて、
「ヘルジャッジメント将軍。三条真坂をお連れしました」
「うむ、ご苦労」
「ってさっきのよりありえねえだろその名前!」
さすがに叫ぶ三条。
言われたヘルジャッジメント将軍はきょとんとして、
「……なにか?」
「いやだから……名前……」
あまりに平然とした相手の対応にとまどって周りを見回すと。
「あなたがO-R-Zに名だたるヘルジャッジメント将軍……名前に違わぬ、恐ろしいひとですわね」
「違わぬ!?」
「ヘルジャッジメントのおじちゃーん、おひさしぶり! 今日もあいかわらずかっこいいね!」
「かっこいい!?」
時空が違っていた。
「狭霧の姫君に、エリーくんとはな。実に珍しい者を連れてくるものだ。
ま、かけたまえ。三条真坂くん、君の噂は聞いている」
「あ、はい……」
釈然としないものを感じたまま、その場の椅子に座る三条。
「君の言いたいこともわかる。……名前、つまりコードネームだろう? 先ほど言ってたが」
「あ、はい……」
「自分としては横文字は避けたかったのだがね……組織の規則でな。本来なら地獄判事としたかったのをやむを得ず英語に」
(地獄判事もありえねえけどな)
バーコード頭を見ながら三条は心の中だけでつぶやいた。
「で、ヘルジャッジメント将軍」
「将軍と略してくれたまえよ真科くん。毎度言っているが、長い呼称は無駄だ」
「将軍。例の遺跡の資料を」
「もちろん。要請通り用意してある。まずはこちらを見たまえ」
言って将軍が机の下のボタンを押すと、なにやらホログラフィ的なものが机に浮かび上がった。
「さっそくだが、この古墳の資料を見てもらいたい。
見ての通り、教科書的な前方後円墳だ。当然管轄は宮内庁――ということになっているがね。実際は、古戦場だ」
「古戦場?」
「さよう。かつて私たちO-R-Zを含む多くの勢力が、この地を手に入れようと相争った経緯のある、いわくつきの場所だ。
いまでこそ実効支配はO-R-Zがにぎっているがね」
「そうなんですか……」
「そしてこの遺跡で最近、未盗掘の新しい通路が見つかった。となると……例の現象が起こる可能性が高い」
「例の現象?」
「三条真坂の名前が出てくる可能性だよ」
将軍は言った。
「我々が誇るO-R-Z団の頭脳、デスピエロ提督によって作られたこんぴゅー太一号の試算によれば、その確率は70%を超える」
「…………。
頭脳の名前がアレすぎて微妙に信頼できないんだけど」
「大丈夫だ。最近の経済学でも頻繁に用いられるサヴェージの確率理論を元に作られた最新鋭の計算プログラムだ。マシンはともかくソフトは問題ない」
「いや、マシンについてフォローしろよ!」
「ちゃんとうちのデスクトップパソコンでも同じプログラム走らせてみたから大丈夫だって!」
「最初からそっちでいいじゃねえか!」
「というか、サヴェージのどうのって要するに主観確率理論ですわよね。適当に確率を割り振ったという解釈でよいんですの?」
「…………」
「…………」
狭霧の突っ込みに、将軍と三条はそろって沈黙。
そして、将軍がぽん、と手をたたいた。
「なるほど。うちのデスクトップと計算結果が違ったのはそういう理由か」
「おおおおおおおい真科マジでダメだぞこの組織!」
「失敬ですねえ。だいたい確率なんてどうでもいいんですよそんなの。だからどうでもいい名前のコンピュータなんかに計算させてるんでしょうが」
「おまえ容赦ねえな!」
「ともかく、今回のコンセプトは簡単です。三条真坂聖遺物の出るところに三条真坂が居合わせたらどうなるか、という話です。この実験はやってみる価値があると思いますが?」
「最初からそう言えよ……」
三条はげんなりつぶやいた。
「ともかく、じゃあ俺がそこに行ってどうなるか確かめてくればいいんだな?」
「その通り。護衛は真科くんひとりでいいかな?」
「……護衛、ちゃんとしてくれるのかな、こいつ」
「む。なにげに信用がないっぽいですね私」
「最初問答無用で殺そうとしたのは覚えてるからな!」
「いらないならなしでいいがね。なにしろ上古の遺跡だ。古代ロボや古代トラップ満載の中を生きて帰れる自信があるのなら止めはしないが」
「ぜひ護衛に頼らせていただきまっす!」
即答だった。
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「というわけでここがその遺跡でーす」
「まさかの日帰りって……つうか、自家用飛行機とかよく持ってるよな」
「持ってるのは飛行機だけじゃなくて飛行場もですけどねー。でないと無免許の私が操縦士で通してくれないでしょ普通」
「いやおまえ無免許だったんかい!」
「ですわよねー……なんか操縦雑だとは思ってたんですわよ……おえっぷ」
飛行機酔いで真っ青な顔で狭霧が言った。
「エリーは超楽しかったよ!」
「……そういえば、この子いたってことは落ちたりしたら宇宙終わってたんじゃないのか?」
「あっはっは。おもしろいこと言いますねえ三条さん。死ねばどうせ同じですよ?」
「もうやだこいつの感性……」
げんなりした顔で三条。
「というわけで、これから遺跡の最深部に向けて出発するわけですが、トラップ多いんで各自気をつけてくださいねー?」
「おっほほほ。わかってますわよ真科真字。どうせトラップで適当にわたしたちと三条真坂を分断して成果を独り占めするつもりでしたのでしょうけれど、そう簡単にわたくしを振り切れるとは思わないことですわね?」
「エリーもがんばってついていくよー!」
「ふ……ま、そのへんは入ってみてのお楽しみということにしようじゃありませんか……おや?」
最初の通路に入ろうとしたところで、真科が眉をひそめた。
「おい、どうした?」
「おかしいですねえ。たしかこの通路にはメタルギア式残虐赤外線トラップを仕掛けておいたはずなんですけど」
「おいいま仕掛けておいたっつったか?」
「失敬言い間違えました。仕掛けられていたはずなんですけどね地底人か未来人か宇宙人かそのへんに。解除されてますねえ」
「…………」
結局この古墳、なにからなにまでこいつらの仕込みなんじゃないか? と三条は思ったが。
「……まあいいや。とにかく異常事態ってことだな?」
「ですねえ。侵入者ありです。しかもこれは……ちょっと、やっかいそうですよ?」
「というと?」
「高度で複雑な罠やアラームを含めて全解除ってなると、うちの一流エージェントでもそう簡単にはいかないレベルなんですよこの遺跡。となると、かなりの手練れか――」
「あるいはそのへんの融通が利く能力持ち、ですわね」
狭霧がつぶやいた。
「となると、急いで奥に行かないとダメか?」
「ですねえ。まあトラップを新たに仕掛け直されている可能性もありますが、相手も急いでいる以上は可能性は低いでしょう。あくまで慎重にですが、なるべく急ぎましょう」
「よし、一刻も早く行くぞ――」
言った三条が一歩踏み出したその足場がいきなり壊れ、谷底に真っ逆さま――となる直前にかろうじて崖のふちに手を引っかける。
「おいこら話違うじゃねえかよおおおおおおおおお!?」
「ああ、このトラップはうちの作ったのですね。なるほど、飛び越えればいいものはわざわざ解除せずに進んだわけですね」
「そういうのは先に言ってくれ!」
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そして、一時間が過ぎた。
「ぜー、ぜー、ぜー……」
「情けないですねえ三条さん、この程度のトラップの山ぐらいで」
「そうですわよ。だいたい岩が転がってくるくらいで大慌てで泣き叫ぶから酸欠になって体力を消耗するんですわ」
「楽しかったよねーあの槍の床飛び越えるの! またやりたいー」
「私は蛇の大群から逃げるほうが乙でしたな。石像はちょっと見かけ倒しでしたけどねー。目からビームくらい撃って欲しかったです」
グロッキーな三条とは別に、三人はけろりとした顔で言った。
(根本的にこいつら、違う生き物なんじゃねえの?)
三条は思ったが、
「――まあ、喜んでいいですよ三条さん。とりあえず我々の仕掛けたトラップはこれで終わりです」
「ま、マジか……」
「そして、どうやら相手にも無事、追いつけたようですよ?」
「え?」
言って三条が顔を上げると。
だだっ広い広間。その中央よりやや奥の、扉の前にその女がいた。
「ふむ? ……おかしいわね。警報装置のたぐいはどうにかしたつもりだったのだけど」
「まあ、偶然こちらの予定とバッティングしまして。
登録能力者じゃなさそうですねえ。そちらどなた様で?」
「四象しずえ。能力名は『有耶無耶』。
悪いけどそれ以上は話しちゃいけないって上から言われてるの」
「……ふむ。どうです? 狭霧さん」
「こちらのデータにもありませんわ。
ま、いいでしょう。客分として来ている以上、わたくしがまず小手調べして差し上げますわ」
言って、狭霧は一歩前に出た。
「それはつまり、この私、四象しずえとやり合うつもりということかしら」
「モチのロンですわ! あなたのその能力、わたくしがしっかり値踏みして値切って買いたたいて差し上げますから覚悟なさいな!」
「やめといたほうがいいわよ?
――あなたでは、私には絶対に勝てない。なぜならそれが、私の能力なのだから」
「言ってくれますわね! その自信に見合う能力かどうか――」
言っている狭霧の胸元で、ぴろりろりん、と音楽が鳴った。
「……緊急回線? こんなときになんですのかしら。
少々失礼。わたくしですわ。一体――なんですって!?」
狭霧の顔色が急変した。
「お、おい。どうした!?」
「南米の株価がえらいことに! こ、これはこんなことしてる場合じゃありませんわー!」
言って狭霧はあわててタブレットを取り出してなにやら操作し始めた。
「あの……勝負は……」
「あなたたちでやって!」
「あ、はい」
と、四象がくすくすと笑った。
「おもしろいの。……で、どうするの? 私としては、あきらめて帰ることをお勧めするけど」
「そういうわけにもいかないんですよねえ、これが」
ずい、と前に出たのは、真科である。
「いちおうここもO-R-Zの土地なんで。部外者に勝手に入られて盗掘なんざ組織の恥って奴です。五体満足で帰すわけには行きませんねえ」
「ずいぶんと自信満々ね。
そういえば事前に聞いていた話によれば、O-R-Zの最終兵器は真科真字という女の子で、能力は『絶対勝利』――つまるところ、あらゆる勝負に勝利する能力だって聞いたけど、あなたがそうなのかしら?」
「答える義理はありませんねえ」
「つれないのね。こちらは名前を明かしたのに」
「ま、いいじゃないですか。
どんな能力持ちか知りませんが――私は小手調べなんて日和ったまねはしません。最初から全力でタマぁ取りに行きますので」
不遜な口調で言って、真科はポジトロンライフルを――捨て、徒手で構える。
「真に大きな戦いとなったときには徒手で……ふふ、データ通りね」
「うわ、ストーカーですよこいつ。気持ち悪いのでさっさと退場してもらいますね」
「やめたほうがいいわよ」
女――四象は、先ほどと同じ言葉を口にした。
「あなたの『絶対勝利』では、わたしには絶対に勝てない。なぜならそれが、私の能力なのだから」
「言ってくれますねえ」
「どうしてもやるの?」
「言うまでもないでしょう」
「実際のところ、本当にやめてほしいんだけどね。
私の能力は、相手が強大なほど余波も大きい。あなたが相手だと――なにが起こるか、保証はできかねるわよ?」
「ま、やってみりゃわかるでしょ」
言って真科はふ、と吐息。
次の瞬間。
「! 三条さん、エリーを頼みます!」
顔色を変えた真科は、そのまま大きく跳躍し――
次の瞬間、大爆発が起きた。
「う、うわああああああ!?」
とっさにエリーを組み伏せた三条の付近に、どすん、どすんと大きな岩の塊が着弾する。
一発当たればおだぶつである。すげえ怖い。
「な、なにが――!?」
「……大気圏外から飛来した隕石が直撃した、か。
さすがはO-R-Zの最終兵器ね。ここまでしなければ――『有耶無耶』にできなかったのは、あなたが初めてよ。真科」
四象はそう言って、ちらりと三条の方を見ると、
「さて、もういいわよね? 行かせてもらうわ」
と一方的に宣言して、去っていった。
「……な、なにがなんだか……」
「お兄ちゃん、あそこ!」
「え?」
エリーが指さしたそこに、倒れたその人物は。
血まみれの、真科だった。
「おい、真科! 大丈夫か!?」
「あ、あ……」
真科はごふっ、と赤い液体を口から吐いて、
「危ないところでした。全身にトマトを仕込んでいなければ即死でした」
「いやだから無理があるっつーかそれおまえもやるの!?」
「? 基本でしょう能力戦闘でトマト・メソッドなんて。つまるところ死んでないと言い張れれば死なないんですよ人間なんて」
「もうやだこの世界観!」
わめく三条をよそに真科はトマトをぽいぽいぽい、と次々放り捨て、
「とはいえ、出血はともかく打ち身はなかなかひどいですね。こりゃちょっと戦線離脱ですかね」
「……そうか」
「三条さん」
「?」
「あなたが最後の希望です。……彼女を、追ってください」
「いや。でも、俺じゃなんにも――」
「あなたしかいないんです」
「…………。
はぁ……仕方ねえな」
三条は言って、立ち上がった。
「まあ実際のところ、別に俺が戦うインセンティブほとんどないんだけどな」
「おや、気づいてましたか」
「馬鹿にすんな。さすがに気づくさ。――とはいえ、まあ」
三条は拳をにぎる。
「おまえみたいなのでも知り合いだしな。知り合いがズタボロにされて――ひとり泣き寝入りってのは、ちょいと、かっこつかないしな」
「お兄ちゃん、かっこいい……!」
「ふう、なんとか急場はしのげましたか……ってなんですのこの惨状!?」
ようやく正気に返ったとおぼしき狭霧が駆け寄ってくるのを見ながら。
「よし、じゃあ行ってくる! 待っててくれ!」
言って、三条は駆けだした。
「……って、結局三条真坂は勝てるんですの?
わたくしは偶然財閥空前の危機だったから仕方ないとしても、あなたがそこまでボロボロになる能力者相手に、自分の能力すら把握していない彼がどうにかできるとは思えないのですけど」
「そだよねー。お兄ちゃん泣きながら帰ってきそう」
「そのへんがあなたたちがわかってないところですよ。
実際のところ、私も確信があったわけじゃなかったんですがね――自分で戦ってみてわかりました。あの相手、『有耶無耶』はたしかに私の天敵で、ぜったいに私が勝てないタイプですが……それにもかかわらず、というか、それ故にこそ、三条さんは勝てます」
「……どういうこと?」
「まあ、三条さんが帰ってきたら説明しますよ。
……というか、マジで全身痛いんでちょっと体力回復するまで休憩させてもらいますね」
言って真科は――ほほえみすら浮かべて、がれきの横に寄りかかった。
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「待ちやがれ!」
三条が声を掛けると、四象はぴたりと止まった。
くるっと振り返る。
「あきれた……あの状況で、まだ追ってきたの?」
「まあな」
三条はばきぼきと拳を鳴らして、
「いちおう、あんなんでも知り合いなんでね。
痛めつけられた礼はしておかねえとな」
「あなたO-R-Zの関係者?
言っておくけど、かの組織最強の能力者ですらあのざまだったのよ。あなたでどうにかできるとは思えない――というか、私の『有耶無耶』に勝てる相手なんて、この世にいないのよ」
「そいつは……やってみないと、わからねえな」
言って三条は拳をにぎりしめ、
「ていやーっ」
「……ふう。まったく」
四象は、面倒そうに髪をかき上げ。
がん。
という音と共に、その四象の顔面にモロにパンチが入った。
崩れ落ちる四象。
「……………………
…………
あれ?」
なんかパンチ当たっちゃった。
というか、前もこんなことがあったような
「いいいいいいったーい!」
「うわあ!」
涙目で立ち上がった四象にのけぞる三条。
「ぶったわね!? よりによってぐーでぶったわね!? パパにもぶたれたことないのにー! なんてことしてくれるのよこの暴力男!」
「いやだって流れ的にしょうがないじゃん!?」
泣きながらぽかぽか殴ってくる四象の扱いに困った三条だったが。
「……えい」
「あたっ」
軽くチョップすると、相手は動きを止めた。
「…………」
「もしもし?」
「うわーん、覚えてなさいよーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
叫んで、四象は元きた道を全力で逃げていった。
「な、なにがなにやら……」
意味がわからん、と思っていた三条だったが。
「あ、よく見たらここ、最深部じゃねえの?」
部屋の奥に、これ見よがしに作られた宝箱的ななにかが見える。
三条真坂聖遺物とかいう意味のわからんものが出てくるとすれば、おそらくはその宝箱の中。
三条はおそるおそる、その宝箱に手をかけ――
開ける。
中には。
『はずれ』
とだけ書かれた、紙切れが入っていた。
「ってなめてんのかこのオチ!」
三条はとっさにその紙切れを破り捨てようとしたが、ふと裏面にもなにかが書かれているのを発見。
裏返すと。
『なお、この遺跡は三分後に自爆する』
どこかで、ぴぴっ、という、タイマーが作動する音がした。
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まあ、そんなこんなで時間が経って。
「……で。結局どんな話だったんだよ?」
三条の言葉に、真科が答えた。
「ですから、『有耶無耶』ですよ。彼女の能力の名前が、そのまま答えだったのです」
「有耶無耶?」
「彼女の能力――それはおそらく、『勝負が始まる直前にその勝負に対するカウンターとして発動し、対戦相手に勝負が続行不可になるアクシデントを引き起こして勝負を有耶無耶にする』能力です」
「あー。だからわたくしの場合、会社の危機だったんですのね……」
狭霧が言った。
「そう。そして私にとっての天敵なわけですよ。なにしろ勝負が始まらないと勝ちも負けもないわけですからね。あらゆる勝負で勝つ『絶対勝利』では、あらゆる勝負を有耶無耶にする『有耶無耶』には、絶対勝てないってわけです」
「なるほどねー。あの隕石はそういうのだったんだー」
エリーは感心したように言う。
「……で、じゃあなんで俺は勝てたんだ?」
「ですから能力でしょう。
三条さんの能力がどんなものか、未だによくわかりませんけどね――彼女の遺跡への侵入方法を考えれば、おのずとわかるわけですよ」
「というと?」
「あらゆる罠や警報について、『O-R-Zとの勝負』だとマインドセットしてたんでしょうね。私のように。
だからあらゆる罠や警報はアクシデントで解除されていた。でも、だとしたら私に追いつかれること自体がおかしいんですよ。私だってO-R-Zの構成員なわけですから」
「なるほど」
「で、となると誰かが彼女の能力を無効化していることになる。
エリーはどう考えても無理として、残り二人が戦おうとして有耶無耶にされた以上、三条さんの能力だけが該当するわけでして。だから絶対勝てると最初から踏んでましたよ」
「まあそれはいいとして、いや、だからそうじゃなくてだな」
「なんです?」
「だから……」
「ねー、これもう十分煮えてるんじゃないの? もういいと思うんだけど」
「ああ、そうだな。ふた取っていいぞ」
「やったー! すっきやっきすきやきすきやっき! お肉いっただきー!」
「ちゃんと野菜も食えよ。
……じゃねえ! だからなんでおまえがここにいるんだよ四象しずえ!」
言われた四象はきょとんとして、
「え? だって言ったじゃない今日から隣に引っ越してきたって」
「いや引っ越した当日に隣家に食事の無心ってのはどうかと……
じゃなくて! こいつなんかまた得体の知れない組織の構成員じゃん! おまえらなんかしなかったの!?」
びしびしっ、と三条が真科と狭霧を指差すと、狭霧のほうが胸を張って答えた。
「もちろんしましたわよ。全力で入居を阻止すべくありとあらゆる対策を打ちましたわ」
「で?」
「全部有耶無耶になりました」
「……わかった。もういい」
「ねえおにいちゃーん。お豆腐取りづらいんだけど」
「ああもうわかったよ! ちょっとレンゲ取ってくるから待ってろ!」
やけになって立ち上がる三条を、のんびり見ながら。
「……ま、当初のもくろみとは違いましたが。
とりあえず――能力の正体の、尾っぽくらいはつかめましたかねえ?」
と、真科はつぶやいた。
【能力解説】
『有耶無耶』
使用者:四象しずえ
能力強度:計ろうとすると毎回有耶無耶になる 能力種別:因果操作系/パッシブ/カウンター
解説:四象しずえを含む勝負が開始されそうになったタイミングで勝負に対するカウンターとして発動し、その勝負の対戦相手に対戦できない程度のアクシデントを発生させて勝負を有耶無耶にする能力。
意識的に能力を切るためには『これは勝負ではなくて遊び』みたいなマインドセットが必要になるため、四象しずえはこのせいで、うかつにじゃんけんすらできない。案外やっかいな能力。
補足:なぜカウンター不可の『絶対勝利』に対抗できるかというと、この能力は「能力」ではなく「勝負」に対するカウンターであるため、『絶対勝利』のカウンター無効化条件を満たさないからである。