最初の村
「…い、…ろ」
遠くで誰かが何かを話している。
そんな声じゃ私聞こえないよぉ
「おい、おきろ」
あ、聞こえた聞こえた。
ん?おきろ?私何してたんだっけ。確か…
「そうだ、げ『ゴチン』」
い、いたい。何がぶつかったし。
「おうおう、威勢がいいな、命の恩人に頭突きをかますったぁ教育を施してやろうかぁ」
ちょっと、まって、ほんとに痛いんだって。いま話しかけてこないでよ
「うつむいてないでこっちを見たらどうなんだ。って、でこが真っ赤じゃねぇか。待ってろ、今塗り薬付けてやるからな」
すごんでいた割にはこちらを心配し始める声からしておやっさんがタンスの中から何か持ってきおったよ。
ってか、機甲種に塗り薬って意味あるのかい?
「あ?機甲種?なんだおたく同族か。ならこれ意味ないな。」
「あ、声出てました?」
「おう、おやっさんってのも声出てたからな。そういうもんは心の中に収めとくもんだぞ。俺はまだ30代だ!?」
あら若い。でも仕方ないと思うんだよね。バイク乗るときに被るようなフルフェイスメットつけてたら判断基準声しかないし
にしてもこの人シャープだなぁ、メインカラーが黒なのと薄暗い室内の性かもしれないけどずいぶん細いぞ。
「あん?俺のスキンがそんなに珍しいか?軽戦士なんて身軽でなんぼだろ」
流線形で組まれたメタリックな体は確かに余分なものをこそげ落としたかの様で動きやすそうではあるが、一撃貰ったら終わりなのではないだろうか
「かっかっか。そんなもの一撃喰らわなければ何とでもなるだろう。たらればで話すからいけねぇんだ。そんなものは絶対の自信の前には無力なんだよ」
なるほど、それはわかる気がするぞ。視点は違うかもしれないがいい理解者になってくれそうじゃないか。
「でも、慢心は破滅を招くかもしれませんから。万が一は重要です」
「おう、こりゃ手厳しい。お兄さん泣けちゃうねぇ」
どこがじゃ、豪快に笑ってるではないか。
にしても機甲種の住む家なのに木造の掘建て小屋感がすごいのだがどういうことだ?
もっとメカメカしいものを想像していたのに
「んで、お前さん。そんな手ぶらの恰好でなんでまた森の中にいたんかね?」
あ、これマジのやつだ。声の重みが違うぞ。
でもなぁ、気づけばここだったしなんとも言い難いなぁ。『ゲーム始めたらこうなったんです』って?あほらしすぎるわ
「ん?おまえさんもしかして落とし子か?ずいぶん季節はずれな落とし子だなぁ。神『ファラド』が落とし子を落としたんは6か月前だぞ?次の予定よりもずいぶん早いか。遅い到着だったな」
このゲーム6倍速もしてるのか。4時間で一日経つじゃないか。いいぞもっとやれ
にしても、落とし子ねぇ、ネトオクで競り落としたから微妙な時期なのは仕方ないとしても、どういう設定になってるのかねぇ。
「あれ?伝わってない?記憶喪失?でも機甲種の村にこんなやついないしなぁ。落とし子なんてこの村には5人しか来てないし」
ん?なにか不穏な言葉が聞こえたぞ?3万も人がいて5人だと。
え、不遇種族でしたか。マイボディは
「あの、機甲種の里は他にもあるのですか?」
「あん?そんなわけないと思うぞ。俺らは他の種族から差別を受けるからな。この村が俺らの世界だと思うぞ」
おぉう。何ということだ。まさかの最下層人種でございましたか。ありがとうございません
「それはなんとも、生きづらい世の中ですね」
「じじばばどもは平然としてるが、機甲種も他の種族に並べるように俺が変えてやるんだ!王都で名を馳せて、機甲種の力を見せつけて、ふんぞり返ってるやつらをぎゃふんと言わせてやるんだ」
おーおー。あっつい30代だなぁ。これでイケメンなら女子がほっとかないだろうに。
「そう思って出発したら木の上から女は落ちてくるし。意識は失ってるわ。起きたら頭突きをしてくるわで、散々だ」
わー誰だろうそんな破天荒な女は
「おまえじゃ、そっぽ向くんじゃねぇ」
でーすよねぇ。知ってました。でもそれはこのげーむ…が…なんだと!?これがゲームだと!?
「あん?なに目を丸くしてやがる。ま、俺は王都に向かっちまうから、この家はやるから好きにしな。そんで、強くなって俺に恩返ししてもらいたいもんだねぇ、かっかっか」
あれ、なにあのイケメン。ちょっと話が急だけど去り際少しかっこよかったぞ。
気前良すぎるし、悪い人ではないんだろうなぁ。夢見すぎだけど。笑い方あれだけど。
さて、おやっさんは王都に向かったみたいだし。私は私で楽しみますかね。
確かあいつらはヒュマにウィンディネにスケルトンだったかね。少し前に王都で合流したって聞いた覚えあるし、わたしも後々王都行かなきゃならんか。
その前には機甲種の仕様を確かめなければならんな。とくに不遇の理由とか!
これ急務。まじでやばい仕様があるならおやっさんには悪いけどキャラデリ案件です。
とりあえず村探索してみるか。
えっと、向こうに森が見えて、向こうに平原が見えて、向こうも平原で向こうは崖っと。
おい、村が見渡せる規模ってやばいんじゃないですか。
あたしゃ、少し挫けたよ
「おや、あんたはジルフィスが拾ってきた子だねぇ。あの坊やになにもされなかったかい?かわいいお譲ちゃん」
ちょっと涙がでそうだった私に話しかけてきたのはやさしそうなおばあちゃんです
腰が90度くらい曲がってるけど、顔しわしわだけど、おいくつでしょうね、
いや、女性に年なんて聞きま「今年で105になるかねぇ。でも若いもんには負けないよ」あ、そこまでいくと年齢もステータスになるんですね。はい。
「まぁ立ち話もなんだし、うちによってお行き。すぐそこのお店だから」
そういっておばあちゃんが指し示すのは向かいのこの村の中では大きめなログハウスです。
ほんと近くて驚きでございますわ。おーほっほっほ。はぁ
「おまえさん落とし子じゃろ。それなら、初めくらい支援してやらんとのぅ」
そういって朗らかに笑うおばあちゃんが扉を開けると見えるのは腕や頭と体の部位に分かれたパーツに剣や盾などの武器。あ、このおばあちゃん武具屋だったんね。
「財布など探さんでもよい。この村はギブアンドテイクじゃ。持ちつ持たれつ。皆が皆を支える。そんな村じゃよ」
それは商売になるんですかねおばあちゃんや
「さぁ、お前さんはどんなモノをお望みかね」
そういえば、機甲種って飲んだり食べたりしなくていい種族だっけ。この村見た感じ娯楽施設とかなさそうだし、最下層種族ならこんな村が出来上がったりするんだろうか。現代社会じゃ全く未知の世界ですな
「まぁ、初心者じゃろうし、こんなもんだろうね」
そういって目の前に並べられたのは3つの全く外見の異なるパーツ達
一つはおやっさんが着けていた様な流線形のシャープな見た目のスキン
余分なものをこそげ落としたかのように細いシルエットが特徴である
一つは無駄に大きな装甲が至る所に張り付けられた重圧的なスキン
腕に取り付けられた大きな盾の様なものが特徴の、全身鎧を纏ったかのような出で立ちは迫力がある。あれ、おばあちゃんて力持ち?
最後は人種の軽装の様な標準体型なスキン
ヒュマにライトアーマーを装備したかの様な極力機甲を捨て去っている
肘から先と膝から先を機甲にし、胸にプレートアーマーが付けてある。
「あたしらはスキン変更で簡単に全様が変わるけどねぇ。この3つのスキンから一つを選んで極めることをお勧めするよ。」
ふむふむ、それぞれに良いところと悪いところを出して細別かするのが機甲種なのね。でもそれだと苦手なものの克服がつらいんじゃないかな
「おばあちゃん、スキン変更って一瞬で出来るの?」
「そうじゃの、機甲種ならだれでも2・3秒で変更がかけられると思うぞ」
「それなら全部で」
「はい?あたしゃ耳が故障でもしたんかね。全部なんて聞こえちまったよ」
「大丈夫だよ。おばあちゃん。わたし、これ全部使えるようになる」
「やめときなよ、あんた。二つのスキンの使い分けだって勝手が違いすぎて大変なのに3つもなんてとても扱えないよ」
「やってみなくちゃわからないじゃない。それに自分の特化を変えられるってすごいことじゃないですか。相手に合わせて七変化するなんて、すてきです」
でもこれステータスがネックになるのかねぇ。でもそんな変則的に振ったらただの器用貧乏だよなぁ
「お前さんたち落とし碁はモノ好きがおおいのう。一昔前にもそんな無謀な事をした落とし子がいたと聞いておるが、いつの間にか消えておったそうじゃぞ?ほんとに大丈夫かえ?」
うぐぅ、それってβテスターのことか。もしかしてプレイヤーに機甲種少ない理由ってそれか。スタイル変化は無理がありすぎたってことなのか
「まぁ、止めたところであんさん方は聞かんじゃろ。よかろう、自分の思う通りにしてみんしゃい。それがあんたの世界を創っていくんじゃろ。ほれ、受取な」
まって、おばちゃんもう少し考えさってなにそのひかりの玉!え、なんかこっち来るんですけど!?ぴえぇぇ
‐種族スキル『スキン変更』を獲得しました。‐
「かっかっか。いいもん見せてもらったよ。説明なしでやると大抵驚いてくれてわたしゃこれが楽しくて仕方ないよ」
あかん、腰が抜けた。このおばあちゃん見た目通りじゃないよ。きれいなバラには棘があるってそんな感じの人だよきっと。
「それじゃ説明しようかね。私ら機甲種の一番の特徴はスキン変更じゃよ。スキン一つで私らはどんな可能性も見出すことができる。ただ、可能性なだけでそれを実行できるかはその人自身の資質がモノを言うんだけれどね」
ちょ、こんな状況の人にすっごい大事な説明始めないでもらえませんかね。耳から抜け落ちていっちゃうんですけど。
「あくまで可能性。じゃから私らは一つのスキン特性を極めてその可能性を十全に引き出せるよう努力しちょるんじゃけどの。お主ら落とし子は夢を見すぎていかんの。あ、いや、あの子も例外に夢を見すぎておるか」
あの子?夢見すぎさんと言えば
「あぁ、おやっさんのことか」
「そうじゃ。私らはマナが枯渇した土地では容易に動くことが出来ぬ種族じゃからの。魔法なる力に食い物にされている土地では動き回るにはつらいというのに。」
え、たしかおやっさんのスタイルって回避型戦士なんだよね。それって死ににいったようなものなんじゃあ
あれ、まった、それこれからの私にもかなり重要なファクターじゃんか
‐ワールドクエストが進行いたしましたこれより『新世界』はあなた方を本当の意味で迎い入れます。どうぞこの世界を堪能してください‐
‐機能に一部制限がかかりました‐
‐それでは貴女の手で良き世界を創ってください‐
「それじゃ頑張るんじゃぞ。かわいい落とし子さん」
「どこかに行く前に引っ張り上げてください。腰が抜けて動けないんです」
「なんとも締まらん子じゃのう」
原因はおばあちゃんにあるんですからね
そんな冷めた目で見つめないでください