始まりは
青い空と白い雲、そしてどこまでも続いているかのような平原。
それを城壁の上から眺めるこの光景は私が長く渇望していたゲームのオープニングだ。
吹く風が背の低い草を海のさざ波のように揺らしていく様はどのVRゲームを見ても出しえていない模写の一つ
視界の下に映る石積み城壁だって石と石との繋ぎ目や、劣化具合を再現されている
ここはゲームの世界ではなく一つの世界なのだと運営が胸を張るだけの要素は十分すぎるほど理解できる。
そうした世界を一通り眺めさせると叫び声に連動して視界がぶれて空の黒点に焦点が当てられる。
豆粒ほどだったその黒点は見る見るその大きさを増し、その全貌を瞬くほどの速さで私に見せてくれる。
見上げるほどの強靭な肉体を支える力強い羽ばたきにぽつぽつと生えている木々が悲鳴を上げている。
そのまま頭上を通り過ぎていくのは赤い鱗の大きなドラゴン。
それが空の彼方に飛び去っていくまで眺めるだけのオープニングであるが、これがゲームであると知った私の喜びは表現できないほどの粗ぶり様であった。
家族団欒をぶち壊し、親にこっぴどく怒られるくらいには荒れたものだ。
あの時の母親のゲンコツは痛かったなぁ。
そこまでの喜びをみせた私だが、βテストに落選し、配信初日にも機材が揃えられなかった私はそれはそれは泣いた。天国から地獄とはまさにこのことであるというかのように泣いた。
しかも悪い事にゲーム仲間の親友三人にはβテストから参加され、感想やらなんやらを聞かさせれもうダム崩壊待ったなしだったよ。
神よ、そんなに私が憎いのか
それももはや一月前のこと。私は手に入れたのだよ。『新世界』を!?
貯めに貯めていたお年玉や、バイトの給金。はては親に泣きつきお小遣いの前借をしてまで手に入れてやりましたよ
成績落とさないって約束どうしよう
情報なんて調べたら血を見ることになることくらい想像に難くなかったからオープニングを隅から隅まで眺めて過ごす一カ月、本当に長かった。
このオープニング見て泣いたのなんて私だけじゃないのか?
いや、きっと私の気持ちをわかってくれる人なんて五万といるよね?
え?この製品でオープニング見た人まだ三万人しかいませんよって?そんなの知らないよ
『貴女を新世界に導きましょう』
『この新世界で活動する自分の分身を創造してください』
ブラックアウトからの白文字燃えるよぉ
創造するする。キャラメイクとか私の大好物です。ありがとうございます。
人が異種とか色モノもあることまで懇切丁寧に説明されたんだからな。泣いてない、これはオープニング見て流した感動の涙だ!あれ?これ結局泣いてるじゃん
なになに?ヒューマにエルフ、ドワーフに獣人、まぁオーソドックスだね。
精霊種に機甲種、龍人に魔人、天使に悪魔に選り取り見取りだねぇ
スライムに角ウサギ、ゾンビにスケルトン、エレメントに精霊、このゲーム逝かれてるな、ドンと来いよ
魔物とかステータス高そうで私的好みだけど、ここは無難に人種から選ぼうかねぇ
人外種とか操作できる自信ないよ
ほうほう龍人のステ高いな。やっぱり数字化されたものは一番信用できるよね
機動力も攻防も魔法適正もあるとかなにそれやん
あぁ、スキル取りにくいし、必要経験値がバカにならないのか。レベル上げ終わる後半ではほぼ一強になるんじゃない?あ、天使とか悪魔も普通に強かったわ。
これちゃんと調整とれてるのか?ステの格差がひどいぞ
あ、人外種のステひっく、これ進化要素でぶっ壊れになるんかね
なんかこれ怖いなぁ、情報もう少し見てくれば良かったなぁ
ん?スキン変更で外見と適応に著しい変化だと、つまり現実知った後からでも変更が効くということか!?やだ、まじでイケメン。
あ、ステータスポイント100も初回くれるんだ。こういうの極振りとかする人結構いそうやね
ほんとは攻撃に振れば序盤サクサク進めて楽なんだろうけど、とりあえず防御面から固めていきましょうかね。
魔法耐性かぁ、序盤いると嫌だし、ハーフハーフで行こうかな
スキルは、低い攻撃と、速さ上げて、あとは防御面をもっと固めてと。
剣術?槍術?知らんがな、そんなのステあれば何とでもなるんだよ。
数字は私を裏切らない!いや、裏切れない!
おしおし、中身は決まったぞ、さぁ楽しい楽しいキャラクリだ。
ほうほう基準は向こうの私がベースなのか。
そしたら、身長を160ください!え、±5しかいじれないの!?なんでだよぉ150にしかならないじゃないかぁ。運営のバカァ!もう少しスリムにして、あれ、バランス悪いぞ、お前のせいか、お胸様覚悟!?え、そんなに小さくすると体感が崩れますって?ウムムム、しかたない、少しリバウンドしてやろう。顔は、もう少し小鼻にして、目を大きくして、唇にふっくら感をプラスして、美化は大事!?あ、小顔化小顔化っと。うん、誰だお前
ゲームの中で位髪伸ばすかねぇ。腰くらいまで伸ばしてぇ。んーストレートじゃなくてもいいぞ、ここは。
前髪は眉くらいまでにして、横は耳が隠れる位に。
肌色はもう少し白っぽくして、髪色は海色!マリンブルーじゃ。目はエメラルドをはめ込んだみたいにして―。
お姉さんになろうと背伸びした可愛らしい中坊、えっと、違うんです。私は子供じゃないんです。大学生なんです。なんでこうなった。
まぁ、しかたない、この会心の出来を壊したくないから許してやろう。
げ、もう3時間経ってるじゃん。初期設定恐ろしいわぁ。
『貴女の旅が良き世界を創ることを祈っています。』
『さぁ貴女だえの冒険を刻みなさい』
あ、誤字発見駄目じゃないか。こんな序盤でこんな誤字を書いちゃぁ
『さぁ貴女だけの冒険を刻みなさい!刻むのです』
大事なのことなので二回かきました!
あ、まって三回目はいいです。お腹一杯です。
‐称号『目敏い者』を手に入れました‐
れ、なにか重要なものが眼に映った気がするけど、視界がブラックアウトして確認でき…
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