『シザの村』
誰かが俺の顔を触っている。やめろっ!まだ、寝ていたいんだ!・・・触るなって!鼻の穴はやめてくれ。・・・っ!やめろっ!
「やめろよっ!ブランッ!!!」
起き上がると目の前に美少女がいた。
外人さん?コスプレ?
あぁ、まだ夢を見てるのか・・・
「だぁ~!!!」
彼女が押さえているのは、これまた赤い髪の外人の赤ん坊だ。
「あっ!おはようございます。起こしちゃいましたか?すみません、弟が・・・」
じぃーと彼女に見とれる。
ハッとする!そうだ!ここは異世界だ!
「・・・いえいえ。こちらこそ大きな声だしてすみません。・・・・あっ!おはようございます。」
しどろもどろ答える。
「もうすぐ、朝御飯の準備が出来ますので井戸で顔でも洗ってきてください。」
フフッと笑って弟を連れていく。
あぁ~可愛い・・・いやいや、これ条例に引っ掛かるの???大丈夫だよね?だって今は俺、子供だよ。問題ないですよね。いかんいかん、こんなこと朝から考えてる場合じゃない。
さっそく俺は庭に出て井戸のあった場所へ向かう。
井戸の横ではアロンが木刀を振っている。凄い体つきだ。
テレビで年末にやっている格闘技の人みたいである。
「おはようございます。昨日はありがとうございました、アロンさん。」
「おっ!おはよう!昨日は良く眠れたかい?」
何回振っているんだろう。すでにアロンの上半身は汗で輝いている。
「えぇ、ぐっすり眠れました。ありがとうございます。」
俺は井戸の水で顔を洗う。水面に映る自分の顔を確認する。
・・・・っ!外人になってる!!!
しかも、なかなかのイケメンだ!!
前世の顔が65点だとしたら今回は95点を付けても良い!
初めてあいつに心から感謝した。
(ありがとうっ!神様っ!!!)
ニヤニヤしながら自分の顔を見ている俺に心配そうにアロンは話しかける。
「おいっ!・・・大丈夫か???・・・ところでカノン、記憶の方は戻ったのか??」
(そうだっ!俺は記憶喪失で通しているんだった。危なく設定を忘れるところだった。・・・記憶喪失を忘れるなんてシャレにならん。)
「あっ!いえ、すみません。やっぱりまだ何も思い出す事が出来ません。」
色々な意味で申し訳なく思い謝罪する。
「いや、別にいいんだ。そうだ!カノンが良ければ記憶が戻るまで家にいてはどうだろう?もちろん、俺の仕事は手伝ってもらうが何か切っ掛けで思い出すかもしれないだろう。」
アロンからの思わぬ提案にビックリする。たしかに、今すぐ町へ向かってもわからないこと多すぎる。良からぬ事を企む輩にも遭遇するかも知れない。その点、短い付き合いであるがこのアロンは信用に値する人物だ。もう少しこの世界の事を学んでから町へは行くとしよう。
・・・・リサもいることだしね♪
この日はアロンに村を案内してもらった。案内といってもそれ程見るところがあるわけではない。何人か村人に紹介して貰い挨拶をする。最後に村長の家に向かった。シザ村の村長は女性だった。年齢は80~90歳位だろうか。もとは占い師だったそうだ。
「あっ!よっ、よろしくお願いします。」
俺は丁寧に挨拶をする。村長はゆっくりと、まぶたを開けて俺の顔を見ると一瞬驚いた表情になったが、すぐまぶたをとじたのであった。
(そんなに俺はイケメンかな???フフンっ!)
余談だが次の村長はアロンで決まっているらしい。本当は村長に選ばれるの者は元冒険者とか元魔法使いが選ばれることが多いのだか、アロンはその性格と人の良さで選ばれたらしい。
とにかくこれで俺は来客扱いだがこの村の一員として認められたことになる。
「すまんが、ちょっと畑の様子を見てくるので先に帰っていてくれ。」アロンは別れ道に差し掛かったときそう言って家とは逆の方向に歩いていった。俺は先程来た道を辿っていく。
家の少し手前に差し掛かったときに綺麗な後ろ髪の姿の少女が見えた。少女は薪になる枯れ木を拾っている。
これは第2の試練だ!この先、この村に長くお世話になるんだったら早目にリサと仲良くなっておいた方が良い。いや、そんなの関係なく仲良くなりたい!今の俺はイケメン!何を怖がる必要がある!サラッと声をかけてやればいい!そう、サラッと!!!ドラマで見たあの役者のようにサラッと!!!
「あっ、てっ手伝おっか?」
声か完全に裏返った!
「キャッ!」っとリサは驚く。
驚いて落とした枯れ木を俺は慌てて拾う。
「ウフッ。ありがとうございます。カノンさんが手伝ってくれるならもう少し集めていけますわ。」
あぁ、可愛い。そして、なんて良い娘だ。
「あっ、あの、カノンでいいよ。お世話になっている身だし。」
ウフッと笑い頷く。
二人で、枯れ木を集めながらリサの話を聞く。
この村にはリサと近い年齢の子供はいないそうだ。元々少ない村人だったが五年程前に数家族が町へ移り住んだという。それ以降ますますシザの村は寂しくなってしまったとか。いずれ、残った村人もどこかへ移り住まなくてはならないかもしれないということだった。
・・・・なるほど。どこの世界にも過疎化問題はあるらしい。
こんなに良い村なのにもったいないな・・・・。
気づくと辺りはすでに薄暗くなっていた。