『初歩』
足下のタンポポに似た花は風に揺れる度に白くなったり黄色くなったり変化している。ここが異世界であることは間違いない。
・・・とりあえず、移動してみるか。
一彦は体育座りから立ち上がり歩きやすい方へ足を進めた。
ふと、一彦は気づく。服は生前着ていた服ではない。なんというかウエスタンのようなデザインの服になっている。
(某遊園地でこんな服を来たスタッフがいたなぁ。)
左の腰にはシザーバックが付いており早速歩きながら中身を確認する。500円位の大きさの金貨が10枚入っていた。他には赤い玉の付いた指輪が1つ。女物だろうか?一彦は生前におしゃれで指輪なんかしたことがなかった。なので、指輪は、はめることはなくそのままバックへ戻した。
街道であろうか。ようやく一彦は草原を抜ける。鋪装された道ではないが先程と比べると遥かに歩きやすい道である。
(さてと。←に行くべきか。→に行った方が良いのか。)
左右を交互に見るがどちらも果てしなく続いている。もちろん人影も無い。
一彦は5分程どちらに進むか悩んでいたが少しずつ左の空が薄暗くなってきていた。
よし、右へ行こう!
少し風が冷たく感じる。先程まで咲いていた花はみな閉じてしまった。
若干の不安を感じたが少し小走りに進むのであった。
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少女は枯れ木を拾いながら時々吹く突風に飛ばされないように必死に集めた枯れ木を抱き締める。遠くで何かの遠吠えが聞こえる。かなり、遠くにいるようだが少女は怖くなり急いで家に戻るのだった。
少女はたった今集めてきた枯れ木を何本か暖炉にくべる。残りは脇に置いておく。
「リサ!終わったらお食事にするわよ。」
金髪の女性が鍋を運びながら少女に話かける。
「はい、お母様。」
テーブルには赤い髪の男性とその息子であろう、同じく赤い髪をした赤ん坊が座っている。
女性二人も席に着く。
「よし、では食事にしよう。神よ私達に糧を与えてくださったことに感謝いたします。・・・・では、食べようか。」
母親は皆に鍋からスープをよそう。その間少女はパンを配っている。父親はそんな二人を優しく眺める。
「あうっ!」
赤ん坊はスプーンを手に持ち激しく上下に降っている。
「こらっ、イロス!お行儀が悪いぞ。」
父親は優しい顔で話しかける。そんな様子に二人は笑みを浮かべる。
暖かい食事風景だ。決して豊かではない食卓だが家族はそれを苦にしてはいない。家族が皆、揃ってることが幸せなのであろう。
食事をしながら会話を楽しむ。父親からは今年の芋の出来具合について。母親からは隣のおばあさんの体の具合について。そして、リサと呼ばれる少女はこんな事を話した。
「そういえば、さっき枯れ木を集めていたとき魔の山の方から声が聞こえたわ。」
父親はスープを飲む手を休める。
「姿を見たのか??」
急に真剣な表情の父親にリサは少し怖くなる。
「いいえ、大丈夫ですわ。かなり遠くの方から聞こえましたし。もしかすると、風の音かもしれなかったですわ。」
父親は何か考えてる様子で黙ってしまった。
そのまま食卓には沈黙が続いたが妻がテーブルの上の夫の手を握る。
「・・・・あなた。」
ハッとした表情で夫は妻を見る。
「あぁ!すまん。食事を続けよう。」
再びスープを口にする。蝋燭は1つも消えてない。だがリサは少し暗くなったような気がした。
「先週隣の村にダークウルフの群れが出たらしい。幸いたまたま冒険者が滞在していて少数の犠牲で済んだらしいが・・・」
母親は驚いた表情で聞く。
「あそこの村長様は元冒険者の方でしたわよね?それなのに犠牲者が出たのですか?」
父親は黙って頷く。
「とにかく、数が多かったらしい。普通は魔物と言えども少数で襲ってくるものなのだがその時は100体はいたらしい。」
母親の表情は恐怖に変わっている。魔物といえど今まで人里を襲うことなど殆どなかったのだ。時々、旅の人や商人が出くわし襲われることはあったが今回のような事は初めてらしい。
村ではなく街になるとギルドというものがあり、そこで魔物の討伐依頼が出来るらしいがこんな冒険者も立ち寄らない田舎ではあるはずもなかった。ここから一番近い街までも片道3日はかかってしまう。
「リサ。今度同じような声が聞こえたらすぐに家に戻るのだぞ。」
「わかりましたわ、お父様。」
母親も心配そうな顔で娘を見ている。その時だった!!!
ドン!ドン!ドン!
扉から音が聞こえた!!
母親は慌てて息子を抱き抱え部屋の隅に寄る。娘も母と弟の側に行き扉を睨む。
父親は壁に立て掛けていた干し草用フォークを手にする。そーと、扉へ近づく。緊張が走る。やはり、魔物が近くにいたのか。魔物ならばこの家の扉など容易く破壊してくるだろう。その時はなんとしても子供達だけでも逃がさなければ・・・・
恐る恐る扉へ近づく。せめて、一太刀でも浴びせられたら逃げるチャンスが作れるはずだ。ゆっくりと扉を開ける。
そこには見たことがない少年がひきつった笑顔で立っていた。