『肥沃の種』
ショーはカノン達にニッコリ微笑みかける。
今、なんて言った?? 【肥沃の種】を返すと言ったのか?
いや、聞き間違えか?後ろを振り返るとシンやナルケンも驚いた表情をしている。
カノンは先程の発言が聞き間違いではないことを確信した。
『今、【肥沃の種】を返すと言ったと思うが・・・』
『あぁ、たしかにお返しすると言いましたね。 ・・・ただし、あと少しお待ちいただきたい。 満月が頭上に昇る時、その時まで。』
ショーはカノンを見つめ視線をそらさない。
カノンはその瞳に映る月を見ていた。
『おい!小僧!まさか、今の言葉を鵜呑みにしているのではないだろうな!?』
ビビットは怪訝そうな表情でカノンを見ていた。
『わかった。ショー、それでいい。』
その言葉に尚、一同は驚いた。自分で提案したショー自身もその返答を予期していなかったようである。
『ちょっちょっと待て、小僧!奴の話を真に受けるのか!?あの長は言っていたであろう!【肥沃の種】の真価が発揮されるのは満月の夜だけだと・・・・奴が【肥沃の種】を使いきるかもしれんし、そうでなくともその後にこちらに素直に返すとも限らんのだぞ!』
『わかってるよ。ビビッド。でも、見てごらん。あいつの眼は何かを覚悟した時の眼なんだよ。』
カノンは未だショーに視線をむけていた。
『しかし、お主・・・・奴は一族をも裏切った奴だぞ。我々との約束等・・・・・』
やっとカノンはビビットに顔を向け笑う。
『たぶん、大丈夫だ。』
カノンのその言葉と表情に他の魔獣たちも臨戦態勢を解くしかなかった。
その様子を頭上より沈黙のまま観察するショー。
目の前にいる人間に強い興味を抱くがその欲求に抗うように本来の目的に集中しようとしていた。
『皆様!時は満ちました!!今こそ!この【肥沃の種】の出番の時なのです!』
ショーは羽の奥からクルミ程の大きさの緑色の種を取り出しそのまま満月に掲げた。
【肥沃の種】は月光と重なり激しく光る。赤、青、黄色、緑・・・・七色に光る【肥沃の種】はやがて巨大な白色の玉となり徐々に白色の輝きは凝縮していった・・・・
その光は一滴の雫となりショーの持つ小瓶へと落ちていった。
『お待たせしました。お約束通り【肥沃の種】はお返ししましょう。』
ショーは【肥沃の種】をカノンへ投げる。カノンは【肥沃の種】を片手でキャッチするとそのままビビッドへ渡した。
『ショー!!たしかに返してもらった。ありがとう!礼を言うよ!・・・・ところで、その瓶に入っている物は何なのか教えてもらえないか?』
ショーは器用にクチバシで小瓶に栓をし羽に収める。
『ここから先は無用に願います。お互いに望みは叶えられました。これ以上互いに関わる意味はございません。』
ショーの瞳は今までとは違く、冷淡で感情の無いような表情であった。
『待ってくれ!!俺は・・・・・・っつ!!』
カンノが何かを言いかける前にショーの放った声は巨大な音の塊となりカノン達に直撃した。
全員3メートル程吹き飛ばされ、その巨大な音に目がチカチカし足元がふらつく。
『大丈夫かっ!?みんな!!!?』
カノンはナルケン達を振り返り見渡す。どうやらみんな多少ダメージを負ったが軽傷のようだ。
頭上にいたショーの姿はすでになくその気配は完全に消され夜風に大樹が揺れているだけであった。
『ギネ!奴を追うぞ!!』
カノンはギネにすぐに追うように命令するが先程のダメージで未だよく聞き取れていない様子だ。
10分程でどうにか回復しすぐに追うよう伝える。
『かしこまりました。カノン様!奴は気配こそ消せておりますが匂いは残っているようです。これをたどれば追跡できますぞ‼』
『よし!みんな!急いで追うよっ!』
『ちょっと、ちょっと待て!小僧! なぜ奴を追う?【肥沃の種】は回収出来たであろう。我々の目的は完遂できた。それに先程あれだけ呑気に待っていたのになぜ今、こうも急ぎ追おうとする? 奴など放っておけばよいであろう!?』
ビビッドは未だ本調子ではない耳を整えながらカノンに尋ねた。
『 わからない・・・・ビビッド、それはわからないよ・』
『なに! お主、・・・』
『わからないけど。あいつを・・・ショーを今一人にしてはいけない気がするんだ!あの時の・・・俊君の時のように・・・』
カノンはショーの去り際に瞳を見たときに俊を思い出した。修学旅行のあの時の俊と同じ眼をしていた。
カノンにも説明できない感情が溢れすぐにショーを追いかけたい衝動にかられる。
『わかったよ!ご主人様!!』
すぐにカノンの気持ちを理解したのはブランだった。




