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プロローグ~前世・青年期 その2

やっと内定通知が届いた。80社は受けたのに結局内定が出たのはこの一社だけだった。割りと有名なペットショップ。まだ、周りには就活をしている人達が何人かはいるが俺はもう就活をする気はない。

(もし、続けられないような会社だったら辞めて次を探せばいいや。)

そんな軽い気持ちで就職を決めたのだった。思えば自分の成績はそんなに悪い方ではない。それなのに、これ程内定を貰えないのは、やはり自分の性根はコミュ障であり面接官には容易く見透かされているのだろう。とにもかくにも、これでとりあえずはこの就活地獄から解放されたのだ。


今はそれで良いのである。


「あっ!もしもし。俺だけど。」

早速、俊君に報告をする。


「おっ!どうした?」


「いやぁ、ようやく内定貰った。」

少し照れ臭いが一応報告と思って連絡したのだ。


「おぉ!おめでとう!良かったな。やったじゃん。それで、それで、何の会社なの?」

思ったよりも喜んでくれてるので余計に照れ臭い。あちらはオリンピック代表選手。内定1つ貰った位でなんだっつーの、と思われてもおかしくない。一般的には。


「駅前に大きなモールあるでしょ。そこに入っているペットショップわかる?そこの地元店に採用になった。」


「あぁー、はいはい。あそこって結構全国にある店でしょ?凄いじゃん。ペットショップってお前にピッタリでしょ。」


「うん。好きな事を仕事にすると長続きするって教えて貰ったから狙ってみたんだ。」


本当は80社も落ち続けダメ元で受けてみた。何よりエントリーするだけでお店で使える割引券を貰えたのだ。むしろ、そっち狙いだったなんて恥ずかしくて言えるはずがない。


「俺、明日からイギリスだから帰ってきたらお祝いしてやるよ!」



「いや、別にそんな大したことじゃないし・・・」



「何言ってるんだよ!おめでたいことだろ!とにかく、帰ったら連絡するから待ってろよ!あっ!あと、お土産も買っていってやるからな。」 


「あぁ、・・・ありがと。」


彼のこういうところは昔から変わっていない。と、同時に安心もしている自分がいる。


「うぅーんっ!」


と両手を高く上げ背伸びをする。

隣で様子を伺っていたブランはチャンス!とばかりにあぐらの真ん中に入り込み丸まった。

俺はブランの背中を撫でながら考えた。


イギリスのお土産ってなんだろう・・・

ブランは大きな欠伸をした。







~~~~~~~~~~5年後~~~~~~~~~~








俊君は今年、ニューデリーで開催されたオリンピックで金メダルを獲った。4年前のオリンピックでは惜しくも銅メダルだった俊君はとにかくこのオリンピックに全てをかけていた。

遠くで見守っていた自分でさえも彼が並々ならぬ想いをもって望んでいたことを知っている。

彼がテレビの中で崩れ落ちて泣いている。彼の泣いているところを見るのはこれで2度目だ。今回も同じく、俺も泣いている。

嬉し涙が止まらない。横で寝ていたブランが俺の顔をチラッと覗いたがすぐに再び寝てしまった。

ブランは俺の感情が分かっているんだと思う。何故なら俺が辛いときや悲しいときは必ず励ましてくれるからだ。今回はそんな必要がないと理解してくれてるのだと思う。




僕はというと相変わらず地元のペットショップで働いている。ちなみに先月店長に任命された。まぁ、店長といってもスタッフは全員で四人しかいないのでやる仕事は以前と殆ど変わらない。それでも、この年齢で店長になったことは快挙らしい。

そのことを俊君に話したらテレビや取材やらで忙しい中、今夜お祝い会をしてくれることになった。

なんだか、いつも俺ばかり祝って貰ってるようで悪いので今回はサプライズでプレゼントを用意した。


「あっ!その店、ペット同伴OKだからブラン連れてきてくれよ!」


俊君は今でもブランの事を可愛がってくれている。ブランも俊君のことを慕っているのがわかる。


「おまたせっ!」

俊君は帽子にサングラスをかけている。似合っているから変につっこむことも出来ない。


「久しぶり!あっ!金メダルおめでとう。」

オリンピック後にこうして会うのは初めてだった。電話では何度かやり取りしたが忙しいようなのでなかなか自分からは誘えないでいた。


「おぉ。ありがと。」

俊君は少し照れながら帽子とサングラスをはずした。


「ワンっ!」


「おっ!ブラン~。お前も祝ってくれてるのかぁ~」

俊君はブランを抱きかかえ高い高いをしている。


ブランは尻尾を左右に激しく振っている。


飲み物と料理を適当に店員に頼む。個室をおさえてくれたおかげで伸び伸びとくつろぐことが出来る。


「あっ!ここ、ペットの料理もあるから頼もうぜ。ほらっ、これ。見てみ。」

へぇー、ペット専用の料理があるなんて洒落たお店だなぁーと感心する。どれどれ・・・・ッ!!!


俺より先にブランがメニューに食いつく。



「おっ!流石ブラン。どれどれ。これが食いたいのか?」


「ワンっ!」


イベリコ豚の柔らか煮・・・なんじゃそりゃ。本当に選んだよこの子。俺と俊君はお互いに顔を見合せ大笑いした。


「あっ!そういえば、俊君にプレゼントがあるんだ。」

横でブランは先程来たイベリコ豚を堪能している。


「えっ!マジで?うぉつ!何?何?」

俊君はキラッキラッした目でこちらを見ている。



「いやっ!大した物じゃないんだけど。これ。」

俺は後ろに隠したいた包みを彼に渡す。


「おぉっ!開けていい??」

俊君は受けとるとすぐに包装紙を破り中身を取り出した。


「いやっ!本当に大したもんじゃないんだよ。」


彼が箱から取り出したのは銀時計だった。


「えっ!何これ?マジでいいの!?すげっー格好いい。」

いや、俺も喜んでくれるといいなと思ってそれを選んだんだけどまさか、ここまで喜んでくれるとは思わなかった。


「サンキュー!あっ!俺、なんも用意してねーぞ。わりー」

彼は少し申し訳なさそうに銀時計を見ている。


「いや、いいよ別に。ほらっ、俺いつもお祝いして貰ってるからさ。」

彼は申し訳なさそうにしていたが一瞬ハッとした表情になった。


「わかった!今度は俺がお祝いのプレゼント持ってくるよ。なんか、お前に合うの探すから楽しみにしてろよ。」


彼がそう言い出したら何があってもそうするだろう。僕はそれを知っているのでこれ以上はなにも言うまいと思った。

俊君はそれからずーと、銀時計を見ては格好いいだの素晴らしいだのを繰り返していた。


三時間ほど楽しい会話して美味しい食事を食べた。

店員さんから閉店の時間と言われなかったらあと、二時間はいただろう。外に出ると秋の夜風が身にしみた。


「んじゃあ、このへんで!また、近いうちに飲もうなっ!」

俊君は来たときと同じく帽子とサングラスを付けながら手を降った。


「あーまたね。今度は・・・・・・・・っ!危ない!」




一瞬だった!大型トラックが俊君に猛スピードでむかってきた。気づくと僕は俊君を庇うように飛び出した。





『危ないっ!ご主人様!』






(あっ!しまった!ブランのケージも持ったままだ!このままじゃ・・・)









ドンッ!!ガシャーン!!!!!












目の前の世界が赤と黒で覆われた。それが、俺の最後の記憶だった。



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