『魔獣と人・・・・その2』
大鰐人族達は河や沼地へ魚を取りに出掛けていた。
彼等は一日に何百匹という魚を捕ってきた。魚の他にも貝や蟹、海老、鰻や蛙なんかも捕まえてきた。
驚いたのが彼等はその獲物をそのまま生で食べる訳ではなく上手に調理していた。
残った獲物は干物にしたり佃煮にしたりと様々な加工までする始末だった。
これに、シザの村の奥様達はやられた。
村に美味しそうな香りが流れてきて、うっかり見に行ったが最後・・・・。
調理中だった大鰐人族に味見させてもらい言葉もわからないのにあれやこれやと作り方を聞いていた。一通り話終わった後、帰りがけにお土産に沢山の河の幸と加工品を貰い奥様方は笑顔で戻ってきた。
「おい!お前たち!」
旦那達は奥様達の帰りがけを待ち構えていた。
「ちっ違うのよ、ねぇ~皆さん?」
「そっ!そうなのよ!ちょっと、見ていたら呼ばれて~・・・・」
「そうですよ。私たちは全く・・・・ねぇ~」
前の日に散々怒られたガルムとマルコは後ろに隠している荷物をジッーと見つめていた。
「お前達・・・・その後ろに隠しているのは・・・・」
ギクッ!
「あぁー、これ!?これは、その~」
「あの魔獣さん達がとうしても持って帰れって言うから仕方がなく・・・・」
「そう!そうなのよ。それに、これとっても美味しくて・・・・」
「もう食べたのか?」
ガルムが冷たい目で見る。
「・・・・・・・・ごめんなさい~。どうしても、我慢できなくて~。」
「でもね、ガルムさん、あの人達やはりそんなに危険じゃないと思うの。話はわからなかったけど作り方を教えてくれるような素振りだったし・・・・」
「たしかに、ワシもそう思う。というか、昨日、ワシも同じ事言った!!!!!」
奥様方がいっそう申し訳なさそうにうつ向く。
「たしかに、今までの魔獣とは違うかもしれん。だが、我々大人が軽率な判断をしてしまい子供達に何かあったらどうする???」
「・・・・・・・・・・・・。」
「今は少し距離を置き冷静に見極める事が重要なのではないか???」
ガルムの言葉に皆が頷く。
次の日村の人達は朝から気を付けていた。
この前は簡単に魔獣を信じてしまったが今日は冷静に注意深くいよう。子供達の為にも・・・・。
この日の朝、狩りに出掛けていたダークウルフ達が帰ってきた。
ダークウルフ達は魔の森に住む鹿や猪、兎等を大量に捕ってきた。その他にも山菜や茸など食べられそうな植物も山のように持ち帰った。
その全てを長であるカノンに献上したのだった。
カノンは朝から家ノ前に山のように積まれた獲物を呆然と見ていた。
『・・・・お前達、これをどうしろと・・・・。』
ギネが先頭に立ち頭を垂れる
『これらは全て我々の長であるあなたの物です。我々はその中から働きに合わせて少しでも頂ければ良いのです。』
ギネは深々と頭を下げている。
『いやいや・・・・こんなに俺貰っても・・・・。』
(そういえばこの世界に来てからあまり肉とか食べてないなぁ。毎日がパンと野菜のスープだけだったし。だからといって、エリザやリサの作る料理は不味いと思ったことが一度もないけど・・・・。)
『わかった。お前達!この中から数日分お前達が食べる分を持っていけ。遠慮はするな。それ以外は俺が頂く。』
『御意!』
ダークウルフ達は各々獲物を持ち帰った。それでも、半分位の獲物は残り大きな山が小高い丘になった。
(さてと・・・・・・・・)
「エリザさん!リサ!ちょっと、来てくれるかい!」
カノンは急いで二人を呼びに行った。
夕方にカノンから村の人達に話があると呼びかけ広場に集まってもらった。
村の人達は今度は何事だと不安になりながらも集まった。
今やカノンは村の勇者であると同時にトラブルを持ち込む存在でもあり、最近村人達から距離をおかれていた。
もちろん、カノンもその事に薄々は気づいていた。
「えぇー皆さん、お集まり頂きありがとうございます。このところ皆さんには色々とご迷惑をお掛けしまして申し訳なく思っています。」
カノンは少し気まずそうに話し続けた。
「実は今朝方ダークウルフ達が森から獲物をとってきました。よければ、皆さんにお分けしたいんです。エリザさん、リサお願い。」
エリザとリサは調理した大量の肉料理を運んできた。
その後に続き蜥蜴人族達も野菜や肉料理を運んできた。
更に大鰐人族は自慢の魚料理を。
亀人族は大量の秘伝のお酒を持ってきた。
「皆さん、今日は魔獣達がこれだけのご馳走を用意してくれました。是非、召し上がっていって下さい。」
カノンが皆に促す。
・・・・しかし村の人達は誰も席に着こうとしない・・・・。
カノンは呼び掛けようとしたが何と言って良いのかわからず立ち尽くしていた。
「ねぇ?お母さん、あのご馳走食べちゃ駄目なの?」
一人の子供がしびれを切らしたように母親に尋ねた。
「しっ!静かにおし!あれはね・・・・」
「いいのよっ!いらっしゃい!」
リサが大きな声で手招きした。
すると、村の全て子供がワーッと席に着いた。
カノンがリサを見る。
リサはニッコリ笑った。
カノンの目から少し涙が溢れた。
「さぁ!皆さんも!美味しいご馳走ですよっ!早くしないと、無くなってしまいますよ!」
「よっ、よーし!どれどれ!こりゃあ、本当に旨そうじゃねぇか!!!」
ガルムが率先して席に着いた。
昨日はたしかに、あぁ言ったがこのままじゃ、カノンの立場ってもんがねぇ。アロンならきっとこうしたはずだ・・・・。
「おぉ。こいつはうめぇ!今まで食ったことがねぇ味だ。それに、この酒もまた・・・・。どれどれ、こっちの料理は・・・・。」
ガルムはバクバクとご馳走を勢いよく食べ始めた。
子供達も美味しそうにご馳走を食べている。
「おいっ!お前らも来いよ!」
村人達はお互いに顔を合わせながら迷っていた。
「でもな~。」
「魔獣達もいるし・・・・」
「うまそうだけど・・・・なっ?」
そんな時イロスがマルコの元に駆け寄った。
「早く!マルコさん!これ、一緒に食べようよっ!」
「えっ!あぁ・・・・うん、・・・・そうだな・・・・。」
イロスのしたようにを他の子供達も自分の親を呼ぶ。
「お母さん!はやく、きてっ!これ、おいしいよ。」
「お父ちゃん!一緒に食べようよ♪」
「えっ!えぇ・・・・。そうね。んじゃあ。」
「おっ!おう。そうか・・・・。んじゃあ、俺も・・・・。」
村人達は少しはにかみながらも全員席に着いたのだった。
「・・・・おぉ。たしかに、これは、、、旨い!」
「本当、美味しいわ~」
村人達は少しずつ少しずつ笑顔になっていく。
魔獣達も空いている席に着いた。
そこらからは大宴会だった。
酒が入ってきた村人達は魔獣達に対して少しずつ恐怖心が無くなり打ち解け始めたいた。
カノンは村人達から通訳してくれと頼まれ休むことなく動き回っていた。
大宴会は夜中になっても続いていた。
マルコさんは秘蔵のお酒を出してきて亀人族の長に自慢すれば亀人族の長も稀少なお酒を振る舞い競いどちらも旨い旨いと飲みあっていた。
フッコさんは大鰐人族の青竜刀を興味深く見せてもらっていた。
「ふむふむ。これは、これは・・・・素材は鋼と軟鉄。なるほど、なるほど。同じようにハサミに応用すれば・・・・」
フッコさんはよほどこの青竜刀が気に入ったらしくカノンはなかなか通訳から離してもらえなかった。
途中でブランがおつまみの追加と言って巨大な大鯰を運んできたがまだ生きており広場が一事大パニックになった。
カノンは、ブランに大説教した。
村人達はその姿を見て最初はポカーンとなっていたがやがて大笑いしていた。
カノンはいきなり皆が笑い始めたのでびっくりしたのと笑われていることにちょっと恥ずかしくなった。
しかし、皆の笑顔を見てると悪い気分じゃなかった。
ブランには軽くげんこつをお見舞いした。




