プロローグ~前世・青年期
思えばブランがうちに来てから運命がガラッと変わった。
あの日、佐藤君と会ったこと。
中学生のクラスが佐藤君と一緒でサッカー仲間に僕を紹介してくれたこと。
佐藤君は他の小学校でも有名だったらしく、さっそくクラスの皆から一目置かれる存在で、何故か僕はマブダチ的なポジションにいるらしくもれなく僕も一目置かれてること。
まるで、小学校の時とは世界が違うようだった。
毎日が楽しく、1日があっという間に終わってしまう。中学はそんな三年間だった。
そして、高校でもそれは変わらず相変わらず目の前にはブランと佐藤君がいる。ただ、ひとつ変わったのは佐藤君の飼っていたゴールデンレトリバーは中学生2年生の時に死んでしまった。人間で言えば100歳を越えてたそうで大往生だった。ただ、死んだのが丁度修学旅行中の時で知らせを聞いた佐藤君はオイオイと泣き出してしまった。他の皆は理由がわからず戸惑うばかりだったが話を聞いていた僕は彼を強く抱き締めた。僕も涙が止まらなかった。
あの時、僕らは本当の親友になったんだと思う。今までブランが一番の友だった。しかし、初めて人間の一番の友達が出来た。僕には一人と一匹の親友がいる。それだけで僕の世界は素晴らしいのだ。
大学に入りもう、三年経つ。実はまだ就職先が決まってない。経団連の取り決めがなんちゃら、かんちゃら有るようだが周りにいる半分位のやつは内定をもらっている。
「好きな事を仕事にね~。はぁー。」
配られたブリントを見ながらため息をつく。
好きな事ねー、ゲームでしょ、漫画でしょ、あとは犬かぁ。どれも想像つかないなぁ。
余談だか両親がゲームをやめさせるためにブランを僕に与える事を決めた時、パパは僕の好きな物を考えたらしい。その時小さい頃に僕をモールのペットショップ連れていった時に半日もそこから離れようとせず困った事を思い出したらしい。自分では覚えて無いが昔から動物が大好きだったようだ。
「あの時は大変だったんだぞ。ママに内緒でビール買いに来たらお前がペットショップから離れようとしないんで半日もいる羽目になって、結局ママにバレて怒られたんだから。」
いやパパ、それ自業自得。
「あの時は一匹一匹に話しかけててなぁー。若い女性の店員さんはそんなお前を可愛い~って言って。無理やり連れていくことも出来なくてさぁ」
「ハッ???」
ママの殺意が鋭い視線で突き刺さる。
「あっそういえば、お前あの時一匹の仔犬の事を『ビョーチ、ビョーチ、ポンポン、タイタイ』って言ってなぁ。」
なんとか話を変えようと額に汗をかきながら必死に喋り続ける。
「あの日の翌週位にあのペットショップの前通りかかったら店員さんから声掛けられてさぁ、あの時の犬、お腹の病気だったらしくあと少し遅ければ命に関わってたかもって」
「ほう。別な日にも若い子と話していたと・・・・」
パパ、自業自得。
しかし、そんな偶然があったんだな。たまたまだったんだろうが1つの命が救えたのならグッジョブ!!昔の自分。
あの時のパパの顔を思い出してちょっと吹き出しそうになった。すると、俊からメールが届く。
【来週末そっちに帰ります!暇なら飲みに行こうぜぃ!】
OK!と返信する。俊君は今、北海道にいる。もともと運動神経が良かった彼はサッカーを続けていたが高校生最後の大会の直前に膝を壊してしまった。選手生命も奪ってしまう大怪我だった。大好きなサッカーを出来なくなった彼は3日間自分の部屋から出てこなかった。多分、毎日泣いていたんだろう。四日目に彼に会ったときは顔中が腫れていた。
・・・・・・「ブスだろ?俺の顔。」
・・・・・・「あぁ。フレンチブルドックみたいだぞ。」
・・・・・・・・・・・プッ!
「フレンチブルドックって!また、犬かよ!ハハハ。」
「だって、本当にそんな顔なんだもん。」
「ハハハッ・・・ありがとな。」
「あぁ。別にだよ。」
俊はその日からサッカーを諦めた。いや本人はそう言っていたが、すぐには切り替えられるもんじゃないだろうと思っていた。
甘かった・・・彼はその後から始めたクレー射撃で僅か2年でオリンピック代表まで上り詰めた。
(こいつ、チート能力者か?)
口には出さないが本気でそう思った。
そして、今、北海道で強化合宿中だ。ちなみに、一足先に就職しており警察官である。
さすが、オリンピック代表選手・・・
その点、僕は・・・・。
あぁー!!彼女でもほしぃー!
背伸びして、助走をつけて学生総合支援センターへ向かうのだった。