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『春の訪れ』

朝から雨が降っている。今日は春が一足先に来たように暖かい。だが、空は泣いているようだった。



「リサ、そろそろ行こうか。」


アロンはリサの腕を繋ぎ支えながら歩く。

リサの片方の腕には村長に貰った本が大事そうに抱えられていた。


アロンはそれを見て少し悲しげな顔になる。






村長の家には沢山の人達が集まっていた。すでに、家の中には入りきらず大勢の人々が傘をさして家を取り囲む。



家から棺が運び出される。

棺は沢山の花が飾られ、まるで大きな花束のようにも見える。



俺はふと、庭に目をやる。


あの時、俺を手招きした村長が同じ場所に座って笑っている気がした。






顔に雨が当たる。

顔は当たった雨以上に濡れていた。












すべての儀式が滞りなく終わった。




家ではリサはまだ泣いている。

アロンも座って顔を両手で覆っているがその顔の下には光るものが流れている。


エリザは寝ているイロスに泣きながら子守唄を歌っている。



俺は泣いているリサの側へそっと近寄る。

リサの肩へブランケットを掛けるとリサはワァッーとまた泣き出してしまった。


ふと、俺は思った。俺の両親も俺が死んだ時、こんな風に泣いていたのだろうか。きっと、パパやママは悲しんだだろうな。俺は二人に何も出来なかったし、伝えられなかったな。


あの時は言えなかった感謝の言葉。今更遅いが、本当に大好きだった。二人への愛の言葉。


(俺を育ててくれてありがとう、パパ、ママ。大好きだよ。どうか、俺の分まで長生きしてね。)


そっと、天にむかい祈りを込める。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




村長が旅立ってから3ヶ月が過ぎた。季節は冬から春へと変わる。少しずつ気温は上がり春の風が吹いてきた。




『おいっ!カノン!この、暴君をどうにかしろっ!』


ビビッドはイロスに尻尾を捕まれている。

必死に降りきろうとしているがイロスの力の方が上回っている。

必死の抵抗も虚しくビビッドはイロスに捕まり頬ずりされている。


ビビッドは放心状態でされるがままだ。




「あらあら。だめよ、イロスちゃん。ビビッドちゃんがかわいそうでしょ。」

エリザがイロスの手からビビッドを取り上げ床に離す。


ビビッドは急いで俺の所まで逃げてくる。




『おいっ!なぜ助けぬっ!あの御方が助けてくれなければ俺はまたあの暴君に頬ずりされヨダレまみれにされるところだったんだぞっ!』

ビビッドは俺に泣きながら訴えてくる。



『あぁ。すまんすまん。ちょっと、考え事をな。』


俺は適当に返事をする。


ビビッドは俺に着いてきた。あの後、一族の皆からまた妖精の森の王に戻るよう説得されたが、いくら勝利の為といえども人間の力を借りた魔獣に王になる資格は無いとビビッドは思ったらしい。


引き留める一族をよそにビビッドは俺の懐へ飛び込んできた。

『おいっ!魔獣の言葉を話す人間よ!お前に興味がある。少しの間、お前に同行してやるからこの私を運べ!』



偉そうに言うもんだから最初は摘まんで放り投げてやった。

その姿を一族全員に冷たい目で見られている元、森の王は焦りながら急いでまた俺の懐に入ってくるのだった。

今はアロンの家で一緒に暮らしている。最初はエリザも怖がっていたが段々となれてくると、その愛らしい姿に恐怖心を失っていた。イロスにとっては絶好のおもちゃである。





そういえば、俺が考えていたことは自分のスキルについてだ。

俺が死んだとき確かに神様はこんなことを言ってた。


生前生まれつき持っていたスキル《異獣思念会話:ビーストテレパシー》これは、たぶん俺が魔獣と会話出来ているこの力だろう。あれから、羊や犬にも話かけてみたが何故だか喋ることが出来なかった。この世界では魔獣だけなのだろうか?まだ、魔物と呼ばれる生き物には会ったことがない。この辺りには魔物は生息していないらしい。



そして、《神体強化術:ジンガ》大蛇と戦ったとき一瞬だが身体中に力がみなぎった。たぶん、あれはこの能力だったんだと思う。というのも、あれから何度試してみてもあの時の力が出せないのである。発動条件???みたいなものがあるのか???



あとは《超回復術:キュアペリン》本当はあの時、すぐにこれを使いたかった。俺の両腕は骨折し最近やっと、まともに動かせるようになったからだ。それに、もしかしたら・・・・・・・・。




あとは《魂の共有化:リンク》か。これについてはさっぱりわからん。あいつは供を作れば力がどうとか言ってたが、まったく意味がわからなかった。


俺は自分の力について、それほど過信していない。だが、あの時まで俺は自分の力について確認もしていなかった。もし、俺になんらかの力があれば村長も・・・・・・・・。




何度後悔しても仕方がない。今やれることをやらなければ、また後悔することになるかもしれない!




俺は両手に力をいれる。




『ふんっ!魔法も使えんお前が何をかっこつけているのかっ。』


ビビッドが俺の肩に飛び乗る。



『うるさいっ!いいだろ。やっと、両手が使えるんだ!』



この世界に魔法があることは以前にも触れたと思う。多かれ少なかれは有るものの魔法はこの世界の誰もが使えるのだそうだ。

まず最初にある特殊な水で扱える属性を確かめるのだが、俺は該当無しと出た。村の皆はもしかして上位魔法の資格者かと期待されたのだが、詳しく調べた結果、魔法の素質無しだった。

村人は皆、大笑いだった。

村長が亡くなって皆、少し暗かった気がしたから俺は笑われても嫌じゃなかった。



しかし、魔法の素質無しとは・・・・・・・・。

皆、こんな結果を見るのは初めてらしい。

アロンは土の属性。

エリザは水の属性。

あの、イロスでさえ火の属性だ。


そして、リサについては土と水の属性が出たそうだ。つまり、彼女は生まれつき二種魔法を使えることが約束された非常に珍しい人間だった。



魔法も使えて美しい。まさに完璧な奥さんだ!

俺は妄想する。



『何をニヤついておる。気色の悪い・・・・。』


ビビッドが呆れたように呟く。



ウォーン!!!

遠くで狼の声がする。


『おいっ!小僧っ!聞こえたかっ?』


『あぁ、・・・・・・・・俺を呼んでいる。』


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