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『別れ』

3人は急いで村へと戻ってきた。

村の入り口で道具屋のマルコが待っていた。


「よくっ、無事で戻った!それで!?薬はあったか?」


3人は笑顔で答える。

それを見てマルコもほっとした表情になった。


「よしっ、よし。では、急いで村長の家に行こう!実は容体がかなり、おもわしくない。」


4人はすぐに村長の家へと走りだす。



バタンッ!

村長の部屋のドアが開く。


中にはリサと侍女が必死で看病している。

リサも疲れきった顔だ。髪はみだれ、目も虚ろになっている。それでも、相変わらず綺麗だと思ってしまった。


「お父様っ!カノン君!」


アロンはリサに近づく。


「リサっ。村長の具合はどうだ?」


リサは少し涙目になっている。


「お薬は?・・・お薬は手にはいったのですか?」

リサは息を切らしながらアロンに聞く。


「あぁ。安心するんだ。無事手に入ったよ。」


リサはそれを聞くと侍女と手を取って喜び合う。


よく見ると3人は所々ボロボロになっている。

何があったのかは、わからないが大変な思いをしたのだろう。

リサは俺の腕が添え木で固定されているのを見て慌てて近寄る。


「あぁ。カノン君、大丈夫? ・・その腕、なんてひどい。・・・・本当に大丈夫なの?」


リサは俺の腕にそっと触れながら心配をする。



「あぁ。少し大変な目にあったけど。それより、早く、【賢者の蜂蜜酒】を村長へ。」


ガルムはリュックから厳重に魔獣の皮でくるんだ小瓶を取り出す。


アロンは村長の上半身をベッドからそっと起こす。

ガルムが小瓶の蓋を開ける。すると、部屋中が蜂蜜の香りに包まれる。なんて、良い香りだ。蜂蜜の香りは次第に幾千の花の香りに変わっていく。




「さぁ、ガルム。それを村長に飲ませてやれ。」

アロンは促す。



ガルムは頷き、小瓶をそっと村長の口に運ぶ。


しかし、村長は小瓶を手で押さえ飲むのを拒む。



「村長っ!何をしているのです!?早く、これを飲んでください。」


村長はゆっくりと首を横に振る。



「いいんだ。それは私が飲むべきじゃないんだよ。」



村長は力を振り絞りながら喋っているようだ。



「何を仰るのですか!これは、俺とガルムとカノンとでやっとの思いをして貴女のためにとってきた物なのですよ!」



アロンは大きな声で叫ぶ。


村長はやはり首を横に振る。


「ありがとう。その気持ちだけで充分だよ。」

優しく微笑む。


「村長っ!頼む。早くこの薬をっ!」




バタンッ。



その時皆の後ろで大きな音がした・・・・。

後ろを振り返る。










リサが倒れている。

顔は真っ赤になり呼吸が荒い。かなり、苦しそうだ。

首元に何かがある。



・・・・・・・・っ!!!


虫の這ったような後だ。


アロンが抱き抱える。






「なんてことだ・・・・。冬虫病だ・・・・。」


その場の全員が驚く。



(リサが冬虫病!?なぜ?この病気は感染しないはず!?リサは魔法の才能があった?そのせいで?)


わからない。今、原因を考えても意味がない。俺は頭を切り替える。


『おいっ!ビビッド!出てこい!』



俺は懐へ話しかける。


すると、とんがり帽子にマントを着けたハムスターが出てくる。



「キャー!!!!!魔獣っ!!!!????」


侍女が叫ぶ。



マルコも腰を抜かしてへたりこむ。



見た目はこんななのにそこまで驚くのか?俺は一瞬そう思ったが構わず進める。




『ビビッド!【賢者の蜂蜜酒】はまだあるか?』


ビビッドは被っている帽子のツバを直しながら答える。



『【賢者の蜂蜜酒】はお前にやったので最後だ。あとは、あの大蛇に全部取られちまった。』



俺はベッド横のサイドテーブルへビビッドを下ろす。


『ビビッドっ!【賢者の蜂蜜酒】をすぐ作ってくれないか?』


俺は両手をテーブルにつきビビッドに頭を下げる。



ビビッドが驚く。だが、少し悲しげに話す。



『作るのは構わない。だが、完成までどんなに早くても1週間は掛かるぞ。』









・・・俺は絶望の目でアロンを見る。




アロンはそれで全てを悟ったようだ。






「皆、いいんだよ。・・その薬はリサの物なんだから。」


村長が目を開けた。




「しかしっ!村長!いや、かあさまっ!」

ガルムが泣きながら村長にすがり付く。


「まぁ、まぁ、この子は。幾つになっても甘えん坊なんだから・・・。」


そっとガルムの頭を撫でる。



アロンもリサを抱き抱え、村長に近寄る。



「かあさま。すみません。俺は、俺は娘を・・・・・・・・」



村長は少し困った顔をしながらアロンの手を握る。



「いいんだよ。アロン。お前のその気持ちは間違っちゃいないさ。それが親ってもんさね。」


アロンの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。



「本当に困った子供逹だよ。こんな歳になっても泣き虫は治らないのかい。・・・・・・・・でも、二人がいてくれたお陰で私の人生も捨てたもんじゃなかったさ。ありがとうよ。

・・・・・・・・これからも、二人で仲良く助け合うんだよ。」



アロンとガルムは大粒の涙を流し泣いている。俺は一瞬、二人が子供の姿に戻ったように見えた。



村長が俺を呼ぶ。



「勇者様。いや、カノン。・・・・あんたはこれから沢山の選択に迫られる。前に伝えた未来はそのうちの一つにしか過ぎないのさ。これからどう生きるかはお前次第さ・・・・・・・・。リサを、リサを大切にするん・・・だよ。」


ニッコリ微笑む。



俺の頬に涙がつたう。どうせ、また死んだふりだろっ?わかっているんだ。これが、とんだ茶番劇だということは。また、このババァは俺を騙してるはず。そうだ。そうなんだ。








ビビッドが杖を振る。



『せめてもの、はなむけだ。これで少しは痛みも和らぐはずだ。』




村長の体が暖かい光に包まれる。


村長は穏やかな顔で微笑む。


「・・・あぁ、暖かいねぇ。・・・・。

・・・・・・なんてここは、綺麗な花畑なんだい。」


















そして、彼女は旅立った。



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