『それぞれの事情』
予定よりかなり遅れている。商人の話ではこのあたりの筈なのだがそれらしい建物は見えてこない。どこかで道を間違ったのか、それともあの噂自体がデタラメだったのか?3人の表情は疲労と不安の色が濃くなる。その時だった。
今までの森とは明らかに違う風景が飛び込む。
綺麗に整備された庭には色様々な花が花壇に植えられていた。その先にはあきらかに誰かが作ったであろう建物がそびえ立つ。その形はあの話に出てきたものと同じように岩の城であった。
『ここが、あの城か・・・・。』
アロンは強く剣を握り直す。ガルムもアロンから貰ったナイフを取りだす。
ゆっくりと3人は城の中に入る。城の中はとても綺麗だ。土や埃は落ちておらず絨毯や絵まで飾られている。
ただ、城の中はとても暗く窓から入る陽の光で歩くのがやっとである。3人は一塊になりゆっくり奥へと進む。
その時だった、急にパッと蝋燭に明かりがつく。一瞬、眩しかったがすぐに目がなれる。奥には扉がある。そっーと、アロンが開ける。部屋の中にはシャンデリアや蝋燭立てがあり、中世のヨーロッパ貴族の部屋のような感じがする。調度品は木で出来たアンティーク品で立派な細工が施されている。前の二人はポカーンとし周りを見渡す。
中央にテーブルが置いてある。ガルムはそれを見つけると足早に近づく。アロンもそれに続きテーブルに近寄る。
二人はテーブルの上を確認するが何も置かれてはいない。すぐさまテーブルの下や部屋にある調度品を確認したがそれらしい小瓶は置いてはいなかった。
一通り探し終えたが、あの小瓶は見付からない。ガルムがテーブルを思いっきり叩く。
「くそっ!やっぱりあの話はデタラメだったのか!!!」
アロンは目を片手で覆う。
その時俺の耳にどこからか声が聴こえた。
『馬鹿な人間達。また、性懲りもなく盗みに来やがった。盗人には死あるのみ。』
俺はすぐに部屋を見回す。
どこにも、それらしい姿は見つからない。
二人は俺の姿を不思議そうに見ている。
どこだ?たしかに聞こえたぞ!
俺は最初からこの部屋を隅々まで見渡すが魔物らしきものはどこにも見付からない。
少しすると、俺も見ていた二人が同時にハッと気付く。
「どうした?カノン!魔物かっ!??」
二人は武器を構える。
「さっき魔物の声が聞こえたような気がしたんです。」
俺が二人に伝えたその時だった、
ガタガタと調度品が震えだし、アンティーク風の家具の中から沢山のナイフやフォークが宙に浮かび始めた。
3人は驚きの表情でそれを見つめる。
それらは空中でピッタっと静止するが一斉にナイフの刃先とフォークの矛先がこちらに向く。
ヤバイ!
慌ててテーブルを倒し、立て掛ける。
「二人ともれ急いで隠れてっ!」
二人は慌ててしゃがみこむ。
間一髪だった。飛んできたナイフとフォークは全てテーブルに突き刺さっている。
『ちぇっ!一本も当たらなかった。』
やはりどこからか魔物の声がする。
どこだ?俺は目をつぶり全神経を集中する。
『次は、はずさない。』
パッと目を開け、声の聞こえた方へ走り出す!
目の前には花瓶が置いてあった。
その中には何かが隠れている。俺はサッと花瓶に手を入れ、中にいるものを捕まえる。
・・・・ネズミだ。
いや、これはゴールデンハムスターだ。
愛らしいつぶらな瞳に丸い尻尾、間違いない。普通のハムスターだ。しかし、このハムスターはとんがり帽子をかぶりマントを付けている。ハムスターは目をつぶりブルブル震えている。
間違いなく、こいつは魔獣だろう。先程の攻撃もこいつの仕業だと思う。俺はじっと顔を見るがハムスターはまだ瞳を閉じ震えていた。
『おいっ!さっきのはお前の仕業だろ!』
ハムスターはビクっとし、おそるおそる片目を開ける。
俺は睨んでいる。ハムスターは目が合うとまた目をつぶってしまいガタガタ震えだした。
『おい!お前に聞きたいことがある!』
俺はハムスターを椅子の上にそっと置く。
3人はハムスターの前に腕を組み仁王立ちする。
ハムスターはやっと目を開けたがまだガタガタ震えている。
だが、ようやく話し始めた。
『・・・今の声はおっ、おっ、お前か?』
俺は頷く。
『なっ、なんで、にっ、人間が、まっ、魔獣の言葉をはっ、はなせるんだ?』
俺は少し困ったが
『俺は魔獣の王だ!(元ペットショップ店長※2度目)魔獣の言葉位喋れるわっ!』
ハムスターはビクッっとするが興味深かそうに俺を見てくる。
ここまでマジマジと見られると魔獣といえ、コミュ障が自動発動する。
『うん。まぁ、昔から魔獣の言葉はわかってた訳よ。ところで、お前に聞きたい事があるんだけと・・・・。』
ギリギリ誤魔化せた!・・・はずだ。
ジーっとハムスターはこちらを観察している。
『おっ、お前とはなんだ!わっワシには名がある。魔術栗鼠ビビッドだ。』
急に心臓が熱くなる。そして、痛み出す。
うっ。
『・・・・どうした?』
ハムスターがこっちを伺っている。
痛みはすぐに無くなった。それより、話の続きだ。
『ところで、ここに【賢者の蜂蜜酒】があると聞いたんだがお前、何か知らないか!』
ハムスターは急にこちらを睨みはじめる。
『ワシの名はビビッドだ。お前の言う物など知らん!早く、ここから出ていけ!』
ハムスターはまた、目をつぶり明後日の方向へ顔を背けてしまった。
『・・・わかった。すまん、ビビッド。今までの非礼はお詫びするよ。俺達はどうしてもあれが必要なんだ。頼むっ!教えてくれ!』
俺は必死に頼む。
ハムスターは俺に頼まれ、立場が逆転したのに少し気を良くしたようだ。
『知らん知らん!そんな小瓶など見たこともないわ!』
上から強気に物を言ってくる!
『おいっ!誰が小瓶に入っていると言った?普通、酒と言えば樽か大瓶に入っている物なんだろ!?』
俺は顔を近づけ凄む。
ハムスターはしまったという表情になりガタガタ震え出す。
ガルムが辛抱出来ず、ハムスターにナイフを突きつける!
「えいっ!何を言っているか、わからんが持っているのならさっさと出しやがれっ!」
鬼の形相でハムスターを睨み付ける。
ハムスターは観念したように目を開ける。
『わかった。お前達にそれを渡してやる。その代わりお前らもワシのいうことを1つ聞け。』
俺はアロンとガルムにそれを訳し伝える。
ガルムは「いいから、さっさと渡しやがれ!」と脅しをかけたがアロンがそれを止めに入った。いくら、魔獣とは言え力で言うことをきかせるやり方は気がのらないのであろう。たとえ、恩人の命がかかっていたとしても自分の信念を守る、それがアロンという男である。
『いいだろう、その条件を早く言ってくれ。』
俺はすぐに返事をする。
ビビッドは少し険しい顔で話始めた。
『今日の夜、ある魔獣がここにやって来る。その魔獣の欲しがっている物もあんたらと同じ【賢者の蜂蜜酒】だ。もし、あんたらがその魔獣を追い払うか、退治出来たらあんたらに望みの物を渡してやるよ。』
『わかった。それでいい。だが、その魔獣の事詳しくもっと教えてくれ。』
ビビッドとの話ではその魔獣は1週間程前からここに来るようになったという。最初のうちはただ、話をするだけだったのだがビビッドはうっかり【賢者の蜂蜜酒】について喋べってしまったという。すると、その魔獣はガラッと態度を変えそれを渡すよう脅して来たらしい。ビビッドは応戦したがその魔獣の方が力は強く仕方がなく言うことを聞いているらしい。
その魔獣はなんとこの森の王。ブラッドスネークとい魔獣らしい。この森とはいえ、相手は本物の魔獣の王。以前、ダークウルフとは戦うことはなかったが、この小さなハムスターでさえ先程のような攻撃が出来るのだ。魔王の王など初めて戦う魔物にしては荷が重すぎる!!!!!!
俺は憂鬱な気持ちになったがアロンとガルムは既に戦いの準備をしている。
俺はそっと溜め息をつく。もし、リサから懇願されていなければいくらこの二人の頼みでも今の時点で退散を決めていただろう。だがリサの前で引き受けた以上ここでおめおめと引き返すわけにもいかない。それに、目の前には将来の義父もいる。今、ここで頑張ればリサとの結婚も現実味をおびてくる。それに、無事目的を果たして帰れれば、ご褒美にリサと・・・・・・・・ムフフッ♪俺の堕天使が騒ぎ出す。
いかん、いかんと雑念を振り払う。
(ブラッドスネーク。蛇の魔獣か・・・・・・・・蛇か。もしかすると・・・・。)
俺はアロンとガルムにあることをお願いした。




