『第2の故郷』
朝日が出始めた頃に起きる。井戸で顔を洗い、アロンに剣術を教えてもらう。アロンは田舎剣術だと言っていたが、なかなかどうして教え方が理論的である。朝の稽古をしているとリサが朝食が出来たことを知らせに来てくれる。エリザが作る料理はどれも美味しい。姿は外国人なのに日本人向けの味付けだ。それにどことなく懐かしい味がする・・・・。朝食を食べ終わると畑仕事へ向かう。最初のうちは身体中が筋肉痛になるほど辛かったが今では一人前の仕事量をこなしてる。
夕方位に帰ってきて、リサと一緒に薪を拾いに行く。この時が一番幸せである。リサは意外とおしゃべりで色々な事を話してくれる。料理やお菓子のこと、村の仕立て屋のこと。時々くる商人やこの世界のおとぎ話や伝説の事。僕は黙ってそれを聞いている。時折、わからないことがあるとリサは丁寧に説明してくれる。この世界の読み書きも教わった!しゃべる事は出来たが文字は全然読めなかったのである。
そんな毎日を過ごしてるうちに冬が来て、春が来て、夏が来て、そして、2度目の秋が来た。
アロンが汗を拭きながら周りを見回す。
「今年はカノンが居てくれて助かったな。冬までにやるはずだった畑仕事がもう、終わっちまったよ!こっちはもう、大丈夫だからリサの相手でもしてやってくれ。」
アロンは裏のおばあちゃんの畑を見に行くそうだ。自分も手伝うと言ったのだか大丈夫だと断られてしまった。
・・・今の時間ならリサはあの場所だろう。俺は急ぎ足でその場所へ向かった。
道の途中で村長の家の前に差し掛かったときに、ふと庭を見ると村長は外に出ていて椅子に腰掛けていた。珍しい事だ、いつもは家の中に入っており滅多なことでは外出などしない。体力的な問題もあるのだろうが、村長が外に出てるなんて初めて見たのである。話し掛けずに通り過ぎようとした時、村長は俺に手招きをした。
(えっ???俺???なんで???なんだろう??)
裏口から回り庭に向かう。
「おっ、おじゃましまーす。」
コソ泥のように静かに入って行く。村長は目をつぶったまま動かない。
「しっ、失礼します・・・・」
村長の向かいの椅子に座る。そういえば、村長の目は初めて挨拶に来たときしか見たことないな・・・・
「・・・お主、たしかカノンとか言ったか。」
不意に話し掛けられびっくりする。
「あっ、はっはい。そうです。」
初めて村長の声を聞いた。
「お主を以前見たとき2つの未来が視えた。」
えっ????未来??うそっ!ほんと??あぁ、そういえば、村長は元占い師だったな。えっ?まっまさか、もうリサと結婚の未来が見えちゃったってこと???
「1つ目はお主が魔物に囲まれて楽しく笑っている様子」
えっ????なんだそれ???俺が魔物と???なんで???
「2つ目はお主自身が魔物になり暴れてる様子じゃった。」
??????????????????
どういうこと????俺が魔物になる???変身してるってこと???
訳が解らない。失礼ながら村長はお歳もお歳だ。ボケていても仕方がない。認知症は立派な病気だ!犬だって高齢になればボケてしまう。しょうがないことだ。ボケても恥ずかしくはないんだ。
「お主、ワシがボケていると思っておるな?」
ドキッ!!!えっ?何?口に何か出してました???
「混乱するのも無理はない・・・・良く聞くのだ。これからお主の歩く未来には多くの試練や困難が待ち受けている。その運命から逃げる事も出来るだろう。しかし、すでにこの世界の運命はお主に託されておるのじゃ。っん、決して・・・忘れるな、お主のっ・・大切な物を。守りたい者を・・・・っ。」
村長は静かに眠りにつく・・・・・・・
全ての力を使ったんであろう。今は安らかに眠っているのだ。
ただの迷い人である自分にこの村の人達は親身にしてくれる。
誰もよそ者扱いになどしなかった。
温かい・・・・そう!この村の人達は温かいのだ。
そっと、手を握り呟く
「・・・・ありがとうございます。ご進言しかと受け賜りました。」
・・・・涙が溢れってっ!!!?????
村長がムクッと起き上がり俺を見て叫ぶ
「マリコさんっ!!!飯はまだかねっ???」
・・・って、ボケてんじゃねーか!!!!
2度目の秋が来た。




