第一章4
《魔王》討伐の命が下されると、各地で《魔王探し》を始める者が現れた。それは賞金稼ぎの者だったり、あるいは大国になにか望みを叶えてもらおうとする者だったり、栄誉を欲するものだったりとさまざまな者がいた。その者たちは《ユウシャ》と呼ばれて、世界中を旅している。
やがて《魔王》を一刻も早く探し出したい大国は、そんな《ユウシャ》たちに《魔王探し》の旅が円滑にできるだけの手厚い支援をするようになった。
「だから、私のような田舎のビンボー者が旅をするには、《ユウシャ》になるしかなくなったのよね」
苦笑交じりにレナは言った。フィリアは彼女の横について歩きながらペンを走らせる。
『つまり、どういうことですか?』
「そのー……正直言って、あたし、《魔王》の伝説なんて信じてないし、本気で探してはいないんだけど、ほかに探してる人がいるの。でも、ただ旅をするんじゃ、色々大変だから、名目上、《魔王》も探してるってことにしてる。そうすれば、さっきのカモメみたいな、《運び屋》にもちょっとサービスしてもらえるようになったりするからね」
『そうなんですか』
フィリアがレナと行動を共にすることになり、レナを見る必要がなくなったカモメは、他に仕事があるからとその場を立ち去った。それからは二人で森の外を目指して歩いている。レナは、短い間だとしても一緒に行動するからには最低限のことは話したほうがいいと考えてフィリアに自分の旅の目的のことを歩きながら話していた。フィリアは不思議そうな顔で聞いていた。やがて、やけに真剣そうな顔でこのような質問を返した。
『誰を探しているんですか』
「……お兄ちゃん」
レナは少し迷った後にそう答えた。ほんの少し驚いた素振りをみせたフィリアに彼女は続ける。
「運び屋で働いてたはずなんだけど、急に行方不明になったって聞いて……。そういえばあんたは見てない? あたしと同じ黒髪なんだけど……」
フィリアは戸惑った顔をして目を逸らした。ペンを動かさない彼を見て彼女は彼も知らないと判断して溜息をついた。
「やっぱ知らないかあー。《ユウシャ》として旅すれば運び屋にも合う回数増えるしすぐ情報掴めると思ったのになー」
落胆する彼女をよそに、フィリアは考えを巡らせて、急いで別の話を振ってみた。
『ところで、旅を始めたばかりだそうですが、どこからいらしたんですか』
「あたし? あたしは、ここからずっと東の、ディゼー町ってとこ」
レナが何も考えずに答えると、フィリアはどこかほっとしたような表情をしたような気がした。彼女にはどうして彼がよくわからないところでよくわからない反応をするのか全く見当がつかず、それがもどかしくて気に入らなかった。
「ところで、あたしばっか喋ってるけどあんたは? あんたはなんであたしと同じくらい若いのに2年も旅してるの? 何かの事情で『魔王探し』やらされてるの? それとも他の目的でもあるの?」
レナがフィリアに質問すると、フィリアが飛び上がってレナから距離を置いた。
「いや、だからなんでそんなにいちいちビビるのよ……別に怒ってないってば」
『ごめんなさい』
「うん。わかったから。で、どうなの?」
フィリアは困ったような、それでいて悲しそうな顔で考え込んだ後、文字を書いた。
『世界を知るためです』
フィリアはぎこちなく笑いながら彼女にスケッチブックを見せる。
「へえ、すごいじゃない!」
素直に感心するレナの眼を、フィリアは真っすぐ見ることができず、前方のほうへ目を背けた。
その時に何かが見え、足を止める。彼に気づいて彼女も足を止めた。
「な、なに?」
スケッチブックをしまって辺りを警戒しだした様子のフィリアに、レナも嫌な気配を感じ自分の剣に手をかけて戦闘態勢をとる。耳を澄ませると、かすかに唸り声が聞こえてきた。
「まさか……この声……!」
前方の草むらから出てきたのは、レナを追い回していたあの狼の魔物だった。しかも前方からだけではない。その一匹が出てくると続けて後ろからも左右からも仲間の魔物が出てきて二人を取り囲んだ。その数は、6匹である。とても逃げられるような状況ではない。
「ちょっとそれ、ずるくない? さっきよりましだけど」
レナが強気な態度をとりながら呟いたが、フィリアが彼女に目をやってみると彼女は頬に冷や汗を流し、剣を構える手も震えているのが見えた。
「あんた、武器持ってないようだけど、戦えるの?」
フィリアは強く頷き、彼女に紙切れを見せた。
『目をつむってください』
「え? わ、わかった」
レナが目を強く瞑る。それを確認したフィリアは懐から黄色く光る玉を取り出し、自分も目を瞑りながら真上に放り投げる。それは二人のすぐ真上で破裂し、眩い光を放って魔物たちの眼をくらます。魔物たちがひるんでいるすきにフィリアは彼女の手を掴んで魔物の脇をすり抜けて走り去った。




