第一章2
どうして、僕は死なないんだろうか。
どうして、死ぬべきヒトが死ななくて、死ぬべきじゃないヒトばかりが死んでいくのだろうか。
望んでこうなっているわけじゃないのに、どうして、それを責められなきゃならないんだろうか。
僕は、そこまでして生きたいとは思っていないのに、どうしてぼくより生きたいと強く願っているヒトばかり死んでしまうんだろうか。
やっぱり全部、僕のせいなんだろうか。
僕なんて、この世から、いなくなれば、いいのに。
なのに、なのにどうして、ほかのなによりもずっと簡単なはずのその願いだけは、叶えられないんだろうか。
それに……どうして、また失敗したのに、こんなにもあたたかいんだろうか……
▽▽▽
大きな鳥の影は落ちる二人に向かって急降下する。そして、地面すれすれのところで二人を受け止めた。
崖の下に降りたち、少女と子供を転がすようにして降ろすと、大きな鳥にまたがっていた若い青年が少女に話しかけた。
「おいおい~。いきなり一つ目の取引をするなんて、早すぎじゃないかい? レナちゃん?」
青年は温厚そうな顔立ちに、毛先だけ少し黒味がかった白い髪で、水色と白の水兵のような帽子と服装をしていた。
レナと呼ばれた少女はその青年と大きな鳥に向かってサファイア色の瞳でキッと睨みつけると、子供を離して立ち上がる。
一つに結わえられた、青みがかった長い黒髪が揺れる。彼女は、故郷の『和服』というものを模した服の上に簡単な革性の鎧を装備し、背中にはすこし反った長い剣が下げられていた。強気そうな吊り目の上にある前髪で、黄色いヘアピンが日の光に反射している。
少女は子供を少し振り返って無事そうなのを確かめると、鬼のような形相で青年に詰めよる。
「ちょっと!! 降ろし方が乱暴すぎるわよカモメ!! 怪我したらどーすんの!!」
「まあまあ~そんだけぴんぴんしてるんだからいいじゃないか。ぼくとエリザベスがいなかったら確実に死んでたよ? もっと感謝してほしいよ。ね~? エリザベス~?」
カモメと呼ばれた青年は笑いながら、人間三人ぐらいは裕に乗ることのできるほどの大きな真っ白い鷲のような鳥を撫でている。エリザベスと名付けられているその鳥はレナにあきれたような眼を向けていた。レナはその視線に気づくと顔を真っ赤にして更にわめいた。
「し、仕方ないでしょう! まだ旅を始めたばっかなんだから! お金も装備も道具もまともに整ってないし!!」
「レナちゃん……? 前の町で、狼の魔物を怒らせるなって忠告受けたくせに、一番の親玉をもうカンカンに怒らせて逃げ惑って挙句の果てに関係ない人を崖から突き落とすっていうのは…………お金も装備も道具も関係ないと思うなあ…………」
「…………? ……っ! ……って全部見てたんじゃんあんたあああっ!! なんで魔物に襲われた時点で助けてくんないの!!」
「いや、だって、きみが呼んでくれるまで手は出さないって約束だったじゃん。別に面白かったとかじゃないよ。うん。別に面白かったとかじゃぜんっぜん――ブフゥッッ!!」
「吹きだしてんじゃないわよっ!! もうほんとに切り倒すよ!!」
「え~? それはやだなあ~ぼく痛いのは勘弁だな~。それに魔物相手にもまともに戦えないきみ相手だとねえ~?」
カモメがレナをからかっている間に、レナに巻き込まれてしまった子供もおずおずと起き上がり、二人と一羽をじっと見ていた。カモメがさりげなく子供に目を向けると目が合う。
その子供のエメラルド色の瞳を見て、青年の黒曜石色の瞳が一瞬だけ見開かれて陰った。しかしそれは少女に気づかれる間もなくすぐに消えた。
「うっさい!! そんなの……こ、これからよこれから!! 今から魔物もあんたもぼっこぼこにできるくらい強くなってやるんだから!!」
「はいはい。ガンバレガンバレ☆」
「ほんっとムカつくわねあんたっ!!」
「グルルッ」
エリザベスがレナを遮って彼女に振り向くよう促す。レナは怪訝そうな顔をしながら振り向くと、不思議そうな顔でじっとこちらを見ている子供の姿があった。
レナは、自分のしたことを思い出してすぐさま子供に駆け寄る。
「あああっごご、ごめんなさい! 大丈夫? 怪我は?」
緑がかったぼさぼさな茶髪と一房だけ横に飛び出しているくせ毛が特徴的なその子供は、コクンと頷いた。少女はほっと溜息をついて立ち上がり、座ったままだった子供に手を差し出す。
「私はレナ。レナ=シードル。最近、《魔王》を探す旅を始めたの。さっきはごめんなさい。よろしく」
子供は、ごく普通に挨拶をした彼女に、驚愕と戸惑いを見せて、すぐに手を取ろうとはしなかった。レナにはその理由がよく解らなかったが、それでも彼が手を取ることをじっと待っていると、子供は怯えたように目を背けて、自分で立ち上がった。
「あら、自分で立てたの。よかった」
レナはそれに対して気にも留めていなかった。しかし、その様子を見ていたカモメは、二人に聞こえないように小さく呟いた。
「…………こんなところにいるとはねえ…………」




