ディザの巣④
洞窟の一番開けた円形の空間に、上の方から日が指し始めた。
暖かなその光に、水色の髪の少年の顔が照らされる。
気を失っている少年は、眩しさに顔を背けたところでゆっくりと目を開けた。
「…ん……?」
起き上がると、そこは大量のディザたちと死闘を繰り広げた場所だった。
だが、少しだけだが光が差し込んでいるせいで、別の場所のようにも見える。
「……僕…どうなったんだっけ…」
水色の髪の少年、ミランは、自分の体を見てみるが、特にどこにも傷はない。
…あれ……そうだ、確か僕、ディザに飲まれて…
そこで、ミランの働き出した脳はハッとあることに気づく。
「ティアナは…!?」
そう、一緒に戦った少女の姿が見えないのだ。
立ち上がり、あたりを見回すと、すぐ近くにティアナが倒れているのが見えた。
ティアナが倒れている場所には日は差していなくて、暗闇に溶け込むようにして倒れていたため気づかなかった。
「ティアナ…!」
駆け寄って行ってティアナの体を揺さぶるが、ティアナは目を覚まさない。
顔色も青白く、体調が良くなさそうだ。
…どうしよう……。
おそらく自分の体の傷はティアナが治してくれたのだろう。
だとしたら、ティアナが倒れているわけは力の使いすぎだ。
力の使いすぎで死に関わるのかはミランにはわからないが、一刻も早くティアナを連れて、ここを出た方がいいと思った。
またディザたちが大量に出てきたら、今度こそ一巻の終わりだからだ。
ミランは自分と同じぐらいの身長をもつ少女をおぶると、小さく呟いた。
「上…かな…」
前までは全く差し込んでいなかった光が、今は上から小さくだが差し込んでいる。
ということは、外には繋がっているということだ。
暗さと高さが相まって見えなかった洞窟の天井は、今度は光が眩しくて見ることが出来ない。
だが、相当な高さがあるのは確かなようだ。
ミランは、ティアナをおぶったまま、岩壁の出っ張りに足をかけた。
人一人分の幅しかない出っ張りを、ゆっくりと進み、登っていく。
これぐらいの幅があるのなら、ミラン一人であれば簡単に進むことが出来るのだが、同じぐらいの身長の少女をおぶっているとなると、バランスの取り方も難しくなる。
円形にそびえ立つ岩壁に、人工ではないかと思うほど綺麗に、ずっと同じ幅のでっぱりがなだらかに上へと向かっている。
ミランはただひたすら、それを伝って登っていく。
段々と登っていくにつれて、高くなっていく。
元いた地面が霞ぐらい高くなった時、ミランは外側の足をずるりと踏み外した。
「…わ…!!」
咄嗟に片手を祭器の短剣に伸ばし、鞘から引き抜く。
すると短剣は素早く曲がり、岩壁に突き刺さってミランの体を支えた。
「…ありがとう……ピクシー」
体制を立て直しそう言うが、ピクシーからは何の返事もなかった。
ミランはもう一度集中力を高めると、再び登り始めた。
何十分登り続けたことだろう。
最早下は見えず、頭上の光はどんどんと近づいてくる。
ミランはそこからひたすら、狭い幅の道を歩きながら、その光を目指した。
もう少しだけ歩いていくと、ミランは光に包まれ、眩しくて目を閉じた。
薄く目を開けて、目が明るさに慣れてくると、そこにはディザたちに襲われる前にいた、砂漠の光景が広がっていた。
そして後ろを見ると、どういうわけかミランが出てきたはずの穴も、何も見当たらず、ただ一面に砂漠の砂が広がっているだけだった。
「…何だったんだろう……」
小さく呟きながら砂をなでてみるが、底が抜けるようなことも無さそうだった。
さて…ここからどうしたものか。
灼熱の太陽も、ずっと日の差さない場所にいた身としては心地よいが、いつまでもここに居ては、熱中症にでもなってしまう。
何より、ティアナの体が心配だった。
クレア兄さんたちと合流するには…
そう考えた時、ミランには一つしか方法が思い浮かばなかった。
「……ピクシー」
そんな風に、ミランは祭器に手をかけて呼ぶ。
しかし、何の反応もない。
「…ねぇ、聞こえてるよね…?」
その言葉にも、ピクシーは何も反応しない。
それをミランは無表情で見つめると、ぶんぶんと祭器を小刻みに振ってみた。
すると、祭器の塔以来の声が聞こえてきた。
『ちょっと! 何するのよ!!』
「…久しぶり」
『うるさいわね。何の用なの? さっきは助けてあげたじゃない』
「うん、ありがとう」
『はい、どういたしまして! そんな事言うためにあんな風に激しく振られちゃたまったもんじゃないわよ!』
「…あ、待って」
『なによ!』
「祭器の塔の場所を、教えて欲しいんだ」
『そんなのなんであたしがあんたに教えなきゃなんないのよ』
「…お願い。早くしないと…ティアナが…」
そのミランの言葉に、ピクシーの返事が止まる。
そして次の瞬間、ミランの前に、美しい桃色の羽を持った小さな妖精が現れた。
むすっと眉を寄せ、口もへの時に曲げているが、相変わらず可愛らしい顔をしている。
『…あんたのその主を心配する気持ち…ちゃんと祭器使いらしくなってんのね』
そう言いながらピクシーはミランの人差し指の第一関節ぐらいしかないだろう手である方向を指さした。
『祭器の塔はあっち。でも、あんたが主をおぶってひとりで行く必要は無さそうよ』
そのピクシーの言葉にミランは、どうして、と聞こうとしたが、その前にピクシーは煙のように消えてしまった。
「…ありがとう、ピクシー」
ミランがそう短剣に向けて言うと、短剣が小さく震えた。
それが返事をしてくれたようで、少しミランは嬉しくなった。
…ピクシーは一人で行く必要は無いって言ってたけど…どういう意味なんだろう。
そう思いながら、ミランはティアナをおぶって歩きだそうとする。
こんな所に居たって、クレア兄さんたちが見つけられるはずがないのに。
そう思った時だった。
ピクシーが指さした方向から、人影が見えたのは。
見慣れた三人の人間の顔ぶれに、ミランは安心して力が抜けて、その場に崩れ落ちた。
自分では気づかなかったが、相当気を張っていたようだ。
いち早く駆け寄ってきたクレアが、ミランとティアナをまとめて抱きしめた。
「…クレア兄さん……痛い」
「良かった…無事で……」
久しぶりのクレアの優しい声に、ミランは心底安心したのだった。




