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変わり者と妖精の木  作者: きょんしー
妖精使いへの一歩
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祭器の闇

ある日の昼過ぎ、ミスティとヴィレムはやっとのことで城の近くの市場にたどり着いた。


「ヴィレムー…疲れたー」


そんな風に、ミスティが不満そうにヴィレムを見上げる。

その声に、ヴィレムはきっぱりと言葉を返す。


「もうすぐ着くだろう。我慢しろ」


「えー…おぶってくれてもいいんだよ」


「ふざけるな」


ヴィレムの早い切り返しにミスティはぶーっと頬を膨らませる。

だが次の瞬間、ミスティは、はっとしたように首を捻り、斜め後ろに視線を向けた。

勢いよく頭を振ったため、二つに結えられた長い青みがかった黒髪がヴィレムの体を叩いた。


「…痛っ…なんだ…」


長い髪を打ち付けられると鞭のようにしなり思った以上に痛く感じる。

ヴィレムがミスティの方を眉をひそめながら見ると、ミスティがヴィレムの服の袖を引っ張りながら指をさして言った。


「ねぇヴィレム、あの子ヴィレムが連れてきた子だよね?」


そのミスティの指の方に目を向けると、そこには見惑うはずがないような美しい金髪を風になびかせ、市場の通りを走りながら手を振る小さな子供に微笑みながら手を振りかえす一人の女が居た。

ミスティの言葉にヴィレムが頷くと、ミスティはヴィレムににっこりと笑いかけると両手を広げて楽しそうにくるりと回った。


「じゃあじゃあ、ミスティが連れてきてあげるね、ちょっと待っててヴィレム」


「…けどお前のことをあいつは知らないだろ」


「全然問題ないよそんなの!」


ミスティはそう言いながら、走っていき、金髪の女性、ティアナに飛びついた。


「こんにちは!」


そんな風にミスティがにこにこしながらティアナの腕を掴んでそう言うと、ティアナは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにその表情は穏やかな笑顔に変わる。


「こんにちは。私に何か用かしら?」


そんな優しげな声と表情に、少し遠くから腕を組んで見ていたヴィレムが驚く。

あんな顔は見たことがなかったな。

そんな風に思い記憶を掘り返すが、ヴィレムの記憶の中のティアナは眉をひそめた不機嫌そうな顔や顔を赤くさせながら怒っている顔しかしていなかった。

ヴィレムがそう思っている間にも、ミスティは話を続ける。


「うん! あのね、ちょっと一緒に来てほしいんだ!」


そう言ってミスティはにっこりと笑いながら腰にある袋へ手を伸ばした。

そんなミスティの言葉に、ティアナは小さく首を傾げた。


「…どうして?」


そうティアナが問いかけた瞬間、ミスティは袋から鎖を取り出しぶんっと勢いよく振り回した。

するとすぐに鎖は緑色の光に包まれ、その光はミスティも手を掴まれたティアナも飲み込んだ。

そして次の瞬間、ミスティとティアナの姿は元いた場所から消えて、ヴィレムの目の前に現れた。


「…え……え?」


ティアナは何が起こったのかわからないというようにキョロキョロと辺りを見回している。

そんなティアナを他所に、ミスティはにこにこしながらヴィレムに向かって、


「連れてきたよ!」


と言った。


「…あんまり力を使うなよ」


「えー。そんなことよりありがとうが先でしょ?ヴィレムわかってないなぁ」


ヴィレムの返答にミスティは両手の人差し指でバツ印を作って見せながら頬を膨らませた。

そのミスティにヴィレムは何も言葉を返さずに、その頭に少し優しく手を乗せただけだった。

そのヴィレムの声が聞こえたのか、ティアナは驚いたように振り返って、ヴィレムの姿を視界に入れた。

その瞬間、ティアナの表情がくもる。


「…帰って来ていたの?」


「今ここへ着いたばかりだ。で、貴様はこんな所で一人で何してる。あの赤髪の忠犬は居ないのか」


「クレアのことを犬呼ばわりするのはやめて。私はすこしイレブロスさんにお使いを頼まれて出てきただけよ。」


「お前のような城でぬくぬく育ったような女が使いなど務まるのか?」


「……。」


ヴィレムの皮肉たっぷりの言葉に、ティアナはすっかり機嫌を損ね、ふんっとそっぽを向いた。


「あなたが人のこと言えるの? どうせあなただってお父様やお母様に愛されて世間も知らずに育ったのでしょう?」


そのティアナの皮肉に、ヴィレムは固まった。

ヴィレムにとって、両親や家族などに良い思い出など一つも無かったのだ。

なにも言葉が帰ってこないことに驚いたのか、ティアナは背けていた顔をヴィレムのほうに戻す。

そんな時口を開いたのは、ミスティだった。


「違うよ」


「え…?」


「ヴィレムは国のことみんな知ってたよ、随分前から。まだこの国で一番偉い人じゃない時に貧民街ってとこにいたミスティを助けてくれたんだから」


「……。」


ティアナが驚いて何も言えずにヴィレムのほうに視線を向けると、ヴィレムはまるで決まりが悪そうにふいっと視線をそらした。


「それに、お姉ちゃんが思ってるみたいな暮らしも、ヴィレムはしてないと思うよ。だって…」


「ミスティ、もう黙れ。俺の昔のことなどどうでもいい。」


「…うん。」


ヴィレムの言葉に、ミスティにしてはやけに聞き分けよく頷いた。

過去の話が、ヴィレムにとっては一番心が傷つくものだと分かっているのかもしれない。

そんなヴィレムとミスティのやり取りを見て、ティアナは触れてはいけないことなのだと感じ取ったようで、小さく頭を下げた。


「…ごめんなさい」


「別に貴様が謝ることじゃない。それで、買い物は済んだのか?」


「あ、うん。あなたがイレブロスさんが言ってたミスティちゃんよね?」


ティアナはそう言いながら、ミスティの方を振り返り、屈んで目線を合わせた。


「うん、ミスティはミスティだけど…イレブロス、なんて言ってたの?」


「イレブロスさんに頼まれたお使いって、これの事なの」


ティアナはそう言いながら、手に持っていた袋を差し出した。

それをミスティは不思議そうに受け取り、中をのぞき込んだ。

するとそこには、ミスティにとってとても見覚えのある菓子がたくさん入っていた。


「ミスティちゃんたちがもうすぐ帰ってくるだろうから、労ってやろうってイレブロスさんが」


ティアナがそう言葉を続ける。

ミスティはそれを見て嬉しそうに飛び跳ねながらヴィレムに駆け寄った。


「ねぇほら見てヴィレム!! 甘いお菓子がいっぱいだよ!」


そんなふうに喜ぶミスティを、ヴィレムは優しげな瞳で見つめていた。


「ありがとうお姉ちゃん! イレブロスにもありがとうって言わなきゃね!行こう!」


そんなふうに言いながら走っていくミスティに、ヴィレムは小さく溜息をつきながら続いた。


「途中で疲れても運んではやらないぞ」


「わかってるよー!」


ミスティはヴィレムの言葉に即答しながら走っていく。

本当にわかっているのか。

さっきまであんなに疲れたと駄々をこねていたというのに、今は急に元気になって走り回っているミスティを見て、ヴィレムはやはり子供とはよくわからない、と思う。

ミスティを追って歩いていくヴィレムを見たまま歩き出さないティアナに、ヴィレムは少しだけ振り返って言った。


「貴様も来い。二日後には祭器の塔へ案内してやる」


そのぶっきらぼうな言葉に、ティアナはさほど気を悪くすることもなくヴィレムのあとへ続いた。


「……貧民街の人々を助けているの?」


歩いている最中、特に話すこともないというようにティアナのほうを一度も見なかったヴィレムに、ティアナはそっと問いかけた。


「なぜそんなことを聞く?」


「あなたがよくわからないから」


「どういう意味だ」


「私、あなたのこと嫌いよ」


「喧嘩売ってるのか」


「でも、一概に悪い人だというわけではなさそうだし」


「…貴様の悪い人間という基準は知らないが、質問には答えてやる」


偉そうな返しに、ティアナがムッとしてヴィレムの顔を見あげた時、その表情は思ったよりも暗く沈んでいた。


「俺が貧民街から助けたのはミスティだけだ。ミスティは身内から不要だと言われ暴力を振るわれていた。ほかの者も苦しんでいるのは知っているが、それでも俺はミスティしか助けなかった」


ヴィレムは、そこまで言うとそれ以上言う気はないと言うように口をつぐんだ。

そのヴィレムの声には後悔したような響きがあった。

その声色と表情から、ティアナにはヴィレムがミスティしか助けられなかったと悔やんでいるように聞こえた。


「ヴィレムー! 早く早く!!」


少し離れた場所から、ミスティが手招きしながら大きな声で呼んだ。

その声に、ヴィレムは再びため息をつく。

だがその表情は決して本気でうんざりしている訳では無いと物語っている。

ヴィレムにとっては、ミスティの笑顔を見ることが、貧民街の人々を助けられなかったことへの悔やみを和らげることが出来る唯一の方法なのかもしれない。

ミスティが腕を後ろに組んで片足をぶんぶんと落ち着きなく振りながら、ティアナとヴィレムに呼びかける。


「二人共遅いよー。何の話してたの?」


「何でもない」


「ふーん」


さほど興味を示すこともなくミスティは短くそう言葉を返しながら、肩に引っ掛けていた鎖を腰に下げてある袋に仕舞おうとした。


「…ミスティちゃんのそれって、祭器よね?」


ティアナが気になってそう聞くと、ミスティはこくりと頷いた。


「そうだよー! 祭器には、ピクシーちゃんが宿ってるんだよ! 仲良くなれば、いっぱいいろんなお話をしてくれるの」


「それって…祭器の塔にいる妖精のことよね?」


「そう! とっても皆優しいんだよー! ミスティが祭器を受け継いでからも文句言わないで助けてくれるんだ」


ミスティのその言葉に、ティアナは少し引っかかった。


受け継いだ…?

ということは、ミスティが持っている祭器には前の持ち主がいたということなのかしら…?


ティアナが読んだことのある文献には、祭器が継承できるなどというようなことは見たことがなかった。

そもそも、そんなことが出来てしまえば、新しく妖精使いになる者が祭器を集めに行くこともしなくて良いことになってしまう。


「ミスティちゃん、それって、どういう意味なの?」


そうティアナが聞けば、ミスティは袋から弓矢、セスタス、剣を取り出した。


「この祭器たちは皆、貰ったものなの。ミスティが祭器の塔に行ったわけじゃないんだ。前にヴィレムに仕えてた人たちのやつなんだよ」


「…前に…?」


「それに本当は祭器って一人一つしか持っちゃいけないんだけど、ミスティは例外なんだってピクシーちゃんが言ってたの」


「…例外って…」


ティアナは全く話が読めず、ミスティの顔を見つめるばかりだった。

するとそれまで黙って聞いていたヴィレムがここへ来て口を開く。


「祭器使いは普通一つしか祭器を扱えない。なぜなら祭器の塔に入っても、ピクシーはその者を祭器の持ち主と絶対に認めないからだ。故に、今ミスティが持っているその四つの祭器は俺と、他の四人の人間で集めたものだ。」


「それを、どうして今ミスティちゃんが持っているの?」


「四人が全員、祭器に宿るピクシーに殺されたからだ。例外とは、そういうことだ」


ティアナはヴィレムの言葉に耳を疑った。

殺された…?

ピクシーに…?


「貴様も、祭器使いとなる人間はちゃんと選ぶことだな。貴様自身が傷つかないためにも、祭器使いの命を守るためにも」


それがどういう意味なのかティアナにはわからなかった。

ヴィレムがそんな意味深な言葉を放った時、城の城門がやっと見えてきていた。

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