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異世界転”世”(仮タイトル)  作者: 山本君
一章、妖怪退治してきた勇者の帰還
6/12

06、異世界転世、一回目決着

 ただいま、賢者タイム中。

 隣で生々しい様子が見えてるけど、気にしないように。


「ねえ、フォウさん」

「はい」

「異世界転世から三日で、あらかたのイレギュラーは片付いたように思うんだけど」

「そうですね。

 余計だったものをゼロにしただけですから、これからスタートですね」


 そう言われると、そうか。

 厄介事というよりは、こっちの戦力確保アンド嫁探しみたいな事やってたしな。

 それじゃあ、こういうことか「長いチュートリアルでしたね!!」とでも言っておくべきか。

 うわー、ヌルいゲームの最終盤を迎えてる気分だったのが、鬼畜ゲーのトレーニングで、やる気が失せる直前な気分に、真っ逆さまだよ。

 でも、現実問題として、積みゲーには出来ないので、それは頑張るとして。


「それで、勇者くん、どうしよう」


 肝心要の用件ですよね。

 あちらさん、ちら見した感じでは、普通に小学生の男の子。

 ただ、百足の胴体にいきなり斬りつけるとか、神社に突撃かましてきたりとか、八重さんにストーキングするとか、行動力というか勇者業へのこだわりが半端ない。

 あれ? 学校は、ちゃんと行ってんのか?


「なんか、関わりあうのが凄い怖いんだけど」

「なら、後ろから、毒矢でも打ちますか?」


 なるほど、それなら!! じゃなくて。

 流石に、ちょっとそれは。

 お巡りさんに、厄介になるのは拙いです。


「ん?」


 表のドアにノックの音。

 こんな時間といっても、昼前か。

 それでも、連絡なしで直に此処に来る知り合いとか、自慢じゃないけど、ほぼ居ないんだが。

 またNHKか? うちは受信料払ってるって言ってんだろ!!

 近所がケーブル加入する度に、確認に来やがって、何か毎回違う業者が来るんで、ちゃんと確認して、何度も来ないで下さいっつっても「いえ、状況が変わってる場合もありますから!!」って、態々此方から申し込んでる、奇特なユーザーくらい信用しろよ!!

 ああ、ちょっと、毒が漏れた。

 で、結局は誰が来た?


「はーい、どなたさん?」

「…………」


 返事はない。

 まさか、聖書広めに来た、親子連れか?

 あなたの幸せの為にって言葉を聞く度に、子供さんにオヤツ上げて、貴方の幸せの為にって声を掛けてあげたくなるんだけど。

 あれは地味に心にくるんで、できれば来ないで下さい。

 って、またノックしてくんのかよ。

 ガマンしないやつだな!!


「はいはい、誰ですか? 今開けますよ」


 と、ふと部屋に視線が。

 乱れた寝床だったり、露わな肌色が転がってたり。

 いやいや、駄目じゃん。

 片付けないと、窓開けて、布団片付けて……お前ら、起きて消えろ!!


「兄ちゃん、ひどいぃ、動けないのは兄ちゃんのせいなのにぃ」

「あははぁはは、流石に、お姉さんも動けないかなぁ」

「ふわぁ、一哉様の匂いがすぅ~ZZZZ」

「お日様が、あたたかぃ~ZZZZZ」


 ああー駄目だ、全体的にダメだ、特に変温動物が駄目すぎる。


「すいません、ちょっと今は出られないんで、後にして貰っても良いですか」


 無言で、ノックが酷くなった。

 だから、今忙しいつってんだろ。


「あの、カズヤさん、表には誰の気配もありません。

 もしかすると隠蔽が掛けられているかもしれません」


へー、マジですか?

 そんな真似するやつ、心当たりが確定じゃないですかー。

 なんで、ここがバレてんだよ。

 くっそ、そうと判ってたら、居留守使いたかったぜ。

 でも、返事しちゃったしな……八重さん、此処に来るとき、付けられてたんじゃ?


「あー、ごめんなさい。

 買い物して、ご飯ノリノリで作ってたから、確実とはいえないかしら」


 かしらーじゃないよ。

 もう……あー、ノックが蹴り入れてるみたいに。


「はいはい、今から開けますよ―」


 こうなったら、誤魔化して帰って貰おう。

 部屋を見られないように、ドアチェーン掛けて、少しだけドアを開けて。

 そしたら、目の前に刀が突き出されていた。

 わーい、綺麗な刃紋ですね。

 じゃねーよ、刺さったらどうしてくれる。


「何しやがる」


 ドアから離れて、部屋に一歩下がる。


「いや、そこは我慢して、うわ~とか悲鳴でも、あげるべきだったのでは?」


 あ、しまった。


「見えるんだよね、この刀が」


 ドアチェーン、鎖に刃をなぞらせるだけで、切り落としやがった。


「おう、そんな凶器が目に入らなかったら、そりゃ腐ってんじゃねーか?」

「普通は見えないんだよ。 だからさ、おじさん、何?」


 お、おじさん!?

 …………OTL


『兄ちゃん、ガンバ』

『一哉様、お気を確かに』

『まだまだピチピチですわ―』

『一哉くんは、ビンビンだよ―』

『性癖はオッサン臭いですが』


 くそ、援護に殺意の混じった、フレンドリー・ファイアが飛んできやがる。


「そっちこそ、何者だってんだよ……人んちのドア壊しやがって。

 まさかとは思うけどな、人んちのタンス開けて、小銭盗む勇者ごっことかじゃないだろうな!!」

「僕は本物だよ!! 」


 ビックリした。

 けど、リアルで勇者宣言とか聞かされても、笑うしか出来ない。

 挙げられる称号が「ある意味で勇者」しか無い現実。


「急に大声上げるなよ、近所迷惑だ。 壁薄いんだぞ」


 あと、土足で家に上がるな。


「もう一回聞くよ、オジサンは何者?」


 なんで、こんな危ない奴が勇者なんだよ。

 ちんちくりんの、俺の半分生きてないようなガキに、刀向けられて脅されてるとか、泣けてくるぜ。

 あーあ、目が釣り上がってやがる。


「あー、はいはい。

 表札見ろよ、習ってない漢字だったか?

 きしまぎ、ってんだよ。 で、なまえは、かずや。 判ったか?」

「そんな事じゃない!!」


 丁寧に教えてやったのに、土足で人んちを地団駄とか……親の顔が見たいわ。


「僕は勇者なんだよ。 それで化け物は、やっつけないといけないんだ。

 だから、オジサンが人間かどうかって、聞いてるんだよ」

「くそ、判ったよ。 言いたくなかったっていうか、自分で言うのは恥ずかしいんだよ。

 ああ、俺も勇者なんだよ。 判ったか? 判ったら、さっさと家に帰れ」


 うわー、自分で言ってて、気持ち悪いわ。


「嘘だ!!」


 うわー、殺人事件起こりまくりそうな、蝉の鳴き声が聞こえた気がするわ。


「黒要」


 右手に黒鉄の釘を出す。

 槍のように構えて、目の前の勇者くんを牽制する。


「とりあえず出てけよ。

 勇者さんは他人の家に土足で上がり込んで、他人のヒロインの裸覗いて回るのが仕事かよ」

「むっ!!」


 むっ、じゃないよ。


「表で待ってる」


 それだけ言って出て行った。

 あーぁ、足跡が……床を拭かないと。

 それにしても、難儀な奴だなぁ。

 勇者って、あんな奴ばっかりだと、本気で今後の付き合いというか対応策が、アサシンばりの後ろから弓矢一択になってくるんですが。


「ま、それでも、皆の気配に気付かれなくて良かった。

 あいつも、意外と余裕がなかったのかな?」

「カズヤさんが、それだけ怪しかったんでしょうね」


 うるさいやい!!

 しかし、どうしようか? 表で待たれてもなぁ。

 でも、放っといたり、逃げても無駄なんだろうなぁ。

 やりあうにしても、頼りの皆さんは腰が抜けてる。


「自業自と「判ってるから、突っ込むのやめて」いえ、むしろ突っ込んだのは、そ「それ以上いけないよ、フォウさん」


 本当にどうしよう。

 あいつ、こうしてる間にも、堪忍袋切れそうになってるだろうな。


「とりあえず、出向くしか無いか」

「殴り合いで友情を?」

「いや、相手小学生だし、殴り合ったら俺が捕まるし」


 だいたい、あいつが相手だと斬り合う事になるよ、きっと。


「一つ情報を、あの勇者が持っている刀ですが、銘を蜘蛛切と呼ばわっていましたね。

 とすると、中二的なメタ推測ですが……」

「あ、そういや、あっても不思議じゃないな」


……

……

…………


「よう、待たせたな」


 スウェットにジャージの下。

 寝巻き一歩手前の格好に、右手に長さ二メートルの黒鉄の封印釘『黒要』

 左手に、数珠『宿星水滸』

 そんな格好で、勇者の前に挑んだ。

 場所は、アパート近くの駐車場の空き地。


「遅いよ」

「そう言うな、大人はそれなりに忙しい」

「昼まで家で寝てるくせに」

「今日は休みなんだ、そっちこそ創立記念日か?」

「うるさいよ、正義の為には学校なんか」


 痛いとこ突いたらしい。

 目つきが厳しくなって、右手に握っている刀『蜘蛛切』が、かすかに震えている。


「それで、どうするつもりだ?」

「試してあげるよ。 バケモノなら切ったら死ぬし、勇者だったら切っても死なない」

「マジかよ……物理的に物を壊してた気がするんだけど」


 って、容赦は無かった。

 両手で握って大上段、駐車場の砂利をけって、一直線に突っ込んでくる。

 右手を振って、槍のリーチで横に払う。

 すると刀の目標を、俺のドタマから槍に変えて、払う途中で縦に叩き落とされた。

 火花が散る。 が、両者の武器には、ダメージは無かったようだ。

 間合いが開く、そして再度の大上段。


「刃くらい欠けろよ、可愛げのない武器だな」


 黒要を手元に引く。

 下手にリーチを稼いでも、何か力で負けそうな嫌な現実。

 数珠の水滸で縛っても、切り裂かれそうな予感もする。


「それなら」


 数珠を握りつぶす。

 バラバラにした、珠を個別に浮かせるイメージ。

 一定範囲に散らばったそれを一軍として、左の手のひらで操作。

 勇者のガキに叩きつける。


「範囲攻撃だ!!」


 散弾のような流星雨のような、日に輝く水晶の一群が小さな体に襲いかかる、バラけているとはいえ、水晶の範囲は対象をすり抜けるほどには密度は薄くない。

 一度、反転して二度。

 素早い移動で、攻撃範囲から抜けだそうとするが、大雑把な感覚で良ければ、認識より反射で動かす此方のほうが早い。

 咄嗟に間違えても、すぐに追いつける。

 勇者くんは、顔を腕でかばいつつも何かを狙っているように、此方を睨めつけているが。


「よーし、お兄さん、顔面狙っちゃうぞ―」


 サイドを叩くように、何度か手首をスナップ。

 流星雨が、左右に往復し、側面を雨のように叩く。

 その左右の攻撃を防ぐ為に、顔を守る腕のガードが少し開いた。

 さらには、左右の視界も防がれて、星が下面に移動するのが見えていない。

 そこに下から正面を撃ちぬく、アッパーカット。

 俯いている場所を真下からの不意打ち攻撃、密度を狭めた塊の一撃に、顔が弾けるように上を向いた。


「貰った!!」


 攻撃に回していた数珠の水晶球を連結、勇者くんの右腕を縛る。

 そして両手で構えた黒要を、思い切り振り被ってフルスイング。

 甲高い破砕音と、耳に残る高周波。

 何かの悲鳴じみたそれが収まると、勇者くんの手から離れた刀の柄と、その傍らに突き立つ刃先の部分が、武器破壊の成功を示していた。


「切れ味はともかく、頑丈さはこっちのが上だったな」


 水滸を戻し、余裕を見せつつ、警戒はのこす。


「くそ、くそっ、くっっっそーーーーー!!」


 先程までの、殺気を溢れさせた危ないやつから、いきなり駄々っ子に変化した。

 その小さい拳を振り回しながら突っかかってくる様子に、その落差に、警戒を続けるのは無用だったかと、気が抜けかけた所で、背筋に氷水ぶっかけられたような寒気が襲った。

 駆け寄ってくるその手に、先程失ったはずの凶器が握られていた。

 いや、先ほどへし折った刀の残骸は、傍らに落ちている。


「死ねよ!!」


 どこが勇者だと言わんばかりの笑顔。

 邪笑というべきそれを浮かべて、手の内の凶器を突き込んでくる。

 距離にして一メートル、あと一歩で、此方に届く。


「芝居かよ」


 思わず顔が引きつる。

 芝居をやめたのは、間合いを潰しきったと考えたからだろう。

 確実な殺害圏内に入ったと確信したからこその、殺意だったんだろうが。


「中二病患者なめんな。有名所の名刀・妖刀、それくらい網羅してるんだよ」


 その刀は、俺の腹5センチ前で止まっていた。


 蜘蛛切、またの名を吠丸であり薄緑。

 そして膝丸である名刀。

 と言うよりは、自我でも持ってそうな逸話を持つ代物。

 そして、その刀と並べて語られるのが、鬼切であり友切、そして……髭切。

 此方は蜘蛛切である膝丸に輪をかけて、強い自我を持っていると思わせる難物。

 それは名刀というよりは妖刀と言っていい逸話を持つからだ。

 なんせ、持ち主を守る事をする蜘蛛切と違い、下手をすると持ち主に牙を剥く。

 同僚が少し長いと実力行使、それを揶揄された友切と名を付けられると、拗ねて力を発揮せず、持ち主の家を滅ぼしかねない原因に。

 そんな代物故に普段は使わないんだろうが……。


「二本あるだろうと読んでいれば、その腕を押さえるのは難しくない」


 勇者くんの両手には、数珠が絡みつき、動きを封じている。

 無論の事、刀も動かない。

 正直、飛んできたらどうしようかと、今頃気がついた。

 でも。


「これで終わりだ」


 俺は再び黒要を振り上げ、絶望の眼差しで此方を見上げてくる勇者くんの目の前で、それを叩き折った。

 折れた残骸は、纏めて水滸で縛っておく。

 いきなり復活されたりしたら、怖いからな。

 下手に勇者くんに返したら、絶対復活するに決まってる。


「さて、これで俺が本物だって、判ったか?」

「嘘だ……嘘だ……」


 ブツブツ呟いている、勇者くん。

 なんか、折れちゃいけない所が折れちゃったか?

 フォロー入れとかないと、記憶をどうにかしても、生活に差し障りそうだな。

 記憶云々は、八重さんが薬で何とか出来そうだし。


「なんで、負けたか判るか?」

「え?」


 おずおずと見上げてくる勇者くん、気弱気になった顔は歳相応に見える。


「お前も勇者、俺も勇者、でも差が付いた」

「なんでなの?」


 ふっふっふ、それはだな。


「おまえは、他所の世界を救ってきたんだろ」

「うん」


 微かに頷く勇者くん。


「つまり、お前が守るべきはその世界だ。

 そして、俺の守るべきは此処……つまり、俺は現世の、この世界の勇者ってことだ。

 だから、お前より早く化け物をやっつけたし、お前にも勝てる」

「……本当に勇者だったんだ」


 今更に納得されても嬉しくないよ。


「お前は、また異世界から救いを求められるまで休んでろ。

 此処の事は俺に任せておくんだな」

「うん」


 勇者くんは、素直に頷いた。

 それじゃあ、そろそろ。

 八重さんは、腰が立ちましたか?


「何とかね」


 いきなり姿を現した八重さんは、背後から勇者くんの口を布で抑えていた。

 どう見ても子供を攫う悪い組織の人ですね。

 そのまま、駐車場の隅に座らせて放置。

 なんでも数分で気付くが、この一週間くらいのことは、記憶からスッ飛ぶらしい。

 細かい調節をして、効かないよりはいいだろうということだが、恐ろしい話しである。


「さて、これで変異は終わりかな?」

「それを封印すれば、なんとか終息するでしょう」


 フォウさんが現れて、水滸に縛られて纏められてる、刀の残骸を見やる。


「封印ねえ。 なんか良い方法ある?」


 此処には、話を振る相手が、八重さんしか居ないわけだが。


「そうねえ、私と蛇で押入れにでも結界を張って、隔離して放り込んどくしか無いんじゃないかしらね」

「そうですね、下手に勇者に感づかれても、戻られても困りますし」

「それじゃあ、任せる」


 俺は帰って寝直すかね。


「そうね、寒くなってきたから、もう一回お風呂入らなきゃ」


 そんな八重さんの格好は、俺のTシャツにトランクス、あとはサンダルをつっかけてるだけ。

 そりゃ寒いわ。

 俺は腕に抱きついて来た八重さんをそのままに、アパートの部屋に戻った。

 まぁ、腕組んでるのを見せつける八重さん共々、留守番連中のブーイングで出迎えられたが、今の気分は悪くないので余裕で流せる。

 今日の残りは、のんびり付き合うことにしよう。


「あーぁ、憑かれる三日だったわ」

「35点」

「兄ちゃんにしては頑張ってる45点」

「わ、わたくしは好きですわ、一哉様」

「さ、流石は一哉様です」

「あははははは、お姉さんとしてはネタじゃなくて状況にウケるよ」


 ひでぇ。


 

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