05、雨月質店、お水の花道
「猿、ケダモノ、エロ人間」
朝、目が覚めたら、千連にべしべしと駄々っ子パンチを、暴言と合わせて頂いています。
「普段からエロい事を妄想してる男の腕の中に、可愛い子がスリスリしてきてたら、どうしようも無いと思います」
大体、逃げなかったじゃん。
「逃げようとしても、可愛いとか好きだとか言われて、力抜けちゃったんだもん」
何この、かわいい生物。
ともあれ、一日目にして、三人食っちまったようです……われながら、猿すぎて怖い。
「昨日は、お楽しみでしたね」
やめて、フォウさん。
さて、朝飯トースト焼いてバリバリくってると、フォウさんから、お話があるそうで。
「なんかあった?」
「いえ、報告だけなんですが。
八重谷の方を暫く観察していたんですが、どうやら蜘蛛の気配は全くありません」
腕を組んで、テーブルの上をコツコツとヒールで歩く、30センチ女秘書の図。
「それって、退治されたりとか、どっかに逃げてるってこと?」
「いえ、逃げているというか……。
実は、微かな気配ですが、昨晩の深夜に都市部で、それらしい気配を感知しました。
一瞬でしたので、観察に注視していたのですが」
ですが?
「一瞬の隙を突いて、此方の隠蔽を抜かれました。
私のそういう能力は、特別高い訳ではありませんが、監視に気づき此方を探りに来るというのは、相手が何かしらの技術に長けているということです。
あれが蜘蛛だとすると、厄介な相手かもしれません」
「たとえば?」
「普通に人の間で生活しているかもしれません。
下手な手出しは、此方に司法の手が回るようなことにも」
ああ、世間を味方に付けてるかもしれないってことか―。
「あー、あいつは嫌らしいやつだったよね―」
「たしか、落ちた仙人だとかなんとか」
「眉唾な話ですけれど、姿をくらますのは美味かったですわ」
やっぱし、そうなんだ。
「でもさ、逆に言えば、話が通じる相手って事じゃないかな?」
俺としては、そちらの方が有り難い。
「それは、そうですね。 少々考えすぎていたようです。
場合によると、あちらから何かしらのコンタクトを、取ってくるかもしれませんが。
あちらにも立場があるとすれば、そう無茶な事は、してこないとも言えますね」
「そうそう」
そろそろバイト行こうか。
俺がバイトしているのは、家を出て暫く歩いた商店街の近くにある、雨月質店だ。
昔通りの質屋でもあるが、店舗の一部には、最近流行りのブランド買取り及び、金・プラチナ買いますの看板も出ている。
此処の店主の雨月 達人さんは、オヤジ方の親戚筋に当たる。
人手が足りないってことだったんで、オヤジの伝で近所にいる俺が紹介された。
やってることは、買取商品の分別と梱包。
ここでは、販売はやってない。
買い取りのみやって、販売業者に卸している。
その相手先に送る商品の分別をして、梱包するのが俺の仕事だ。
「おはようございます。 達人さん」
裏口から入って、控室に。
此処にロッカーがあって、着替えたりするのだが、ちょっとした休憩室にもなっていて、給湯室が有る。
どうやら達人さんは、お茶を入れに来ていたらしい。
「おはよう、一哉くん。
んー? なんだか、いつもと違うね。
なにか良いこと有ったんじゃありませんか?」
くそ、無駄に鋭い。
達人さんは、身長180センチ程のひょろりとした痩身を、やや猫背にしている三十代。
つかみ所のない二枚目顔で、雰囲気とすれば、態とらしい疑問をぶつけて粗捜しする、和製コロンボな刑事ドラマの主人公だろうか。
あれにちょっぴり、石坂で金田一耕助な成分を混ぜると、丁度いいかもしれない。
「別に、ちょっと天気が良かったくらいですよ」
「んー? そうかい、それじゃあ、今日も宜しくね」
達人さんに挨拶した後、作業服に着替える。
一応、手袋やマスクも、ちゃんと装着している。
着替え終わったら、達人さんが受付やってるブースの裏手にある、仮置き場からカートを使って、バックヤードに移動する。
この店についてだが、駅前の方に、お水なストリートが有るせいか、買取商品の内訳に、お姉さん方の持ち込む、お客さんのプレゼントらしいブランド品が、やたらと多い事が上げられる。
俺がバイトに入る事になったのも、ブランド品の取り扱いを始めた此処が、思った以上の品数に手が回らなくなった為らしい。
以前は他にも買い取りの店は有ったそうだが、かなり安く買い取っていたようで、こちらが出来てからは、撤退してしまったそうだ。
とはいえ、此処の店の買取額でも結構な儲けになってるんだから、さぞかし荒稼ぎしていたことだろう。
さて、分別と梱包だが、よそから回ってくる買い取り依頼のリストにある分については、倉庫に入れずにFAXで品物を確認後、すぐ梱包送付となる。
依頼ではないが、流行りで値が上がっている物については、組合の取りまとめで分配というか競りが行われるので、その時点で組合長やってる先に、一定数を纏めて発送する。
今ひとつ人気のない物は、少し寝かせるか、纏めて捨て値処分になるので、一旦倉庫に収める。
で、それ以外に、触るな危険の品物があって、何なのか聞いても曖昧な笑みで誤魔化されてたのだが……。
「あー、なるほどね、こりゃ危険物だわ」
普通でないモノが見えるようになって、初めて気付いた誰も知らない世界。
ブランド品に絡みつく、不定形のオドロオドロしい、何か。
「あれ、何?」
『生霊でしょうか? あれだけ強いと転世変異が無くても、何かしらの影響力が有るでしょう』
『凄いねー、人間のドロドロ』
『わたくし、あんなものを見ると、流してしまいたくなるのですが』
『いえ、流してしまうべきですわ』
いえいえ、ヘビさん、やめて下さい。
品物には、お水厳禁なので。
しかし、人じゃなくても、そんな反応なんだな。
とりあえず命名、外道生霊スライム
紛うこと無き危険物でした。
「水滸」
数珠を取り出し、縛と念じる。
数珠が伸び、不定形を縛り上げる。
手にフィードバックが帰ってくるというか、感触はいらねえ!!
「うぎゃぁ、きもい!!」
反射的に、ぐっと握りつぶす。
不定形の何か、仮名称『外道生霊スライム』は、バラバラに千切れて落ちた。
「普通なら、ここまで細分化すれば、消え去るんでしょうが……変異のせいで、消えないようですね」
散らばって、ヌノヌノしてる。
やるんじゃなかったわ。
誰がやったか、バレる前に倉庫に戻ろう。
不幸な事故だったんだ。
多分、霊能力者か、ゴーストスイーパーな人が、何とかしてくれるに違いない。
『『流してしまえばいいのに……』』
止めて。
『しかし、あの品物。
持ち込んだ相手は人間なのでしょうか?
まともな人間なら、平気ではいられないと思うんですけど』
フォウさんの、呆れたような言葉に、確かにそうだなと。
そういや、普段よりパワーアップしてるんだよね。
ちょっと持ち込み者のタグだけでも見とこうか。
「えーと? おやぁ?
八重谷 ハルミ……ハルミさんかよ」
ハルミさん、お水な店のお姉さんで、かなりな人気者である。
恥ずかしながら、俺の初めての人でも有る。
というか、達人さんに店連れてかれて、初めて酒飲んで、目が覚めたら食われてた。
大人のキスとか言われて、何か吸い取られて三日くらい風引いて寝込んだ気もするし、あの人が人間じゃなくても、不思議じゃない気はしなくもない。
「しかも、一つじゃないよ。
同じ日に幾つか纏めて売っ飛ばしてるし。
うわぁ、同じ品物が三つも」
流石はハルミさん、痺れも憧れもしないが、情け無用すぎる。
ストーカーとか居ないんだろうか?
下手な相手だと干からびて、どっかの樹海に捨てられてそうなイメージもあるが。
『その人、何者ですか?』
「謎、それが一番、正解に近いかなぁ」
年齢不詳だしなぁ……というか、なんであんなに怪しい人と、普通に知り合い付き合いできてたんだろうか?
うわぁ、なんか髪型変えるみたいに、顔も違ってたような気がするぞ!?
化粧ってレベルじゃないよなぁ。
黒髪綺麗ねって言ってた次の日、金髪外人枠になってた気がするし。
「もしかして、これって認識阻害ってやつ?」
『可能性が高いですね』
だとしたら、あの人が蜘蛛か?
うわ、本気で色々吸われてたのか?
『変異外で、普通に活動しているのなら、それなりの精気なり何なりを収集しているはずです。
そして、先ほどのプレゼントの成れの果てですけど、普通の人間の生霊で、あそこまで負の念が純粋に染まることも有り得ません。
あれを普通の人間が生み出すなら、それは既に生者とはいえないかと』
「確かに、あんなのが漏れてるような奴は、プレゼントとか考えないかもね」
『推論ですが、あれは念の絞りカスではないでしょうか?』
「は?」
『感情の正の部分。
たとえば、好意や憧れなどを吸い上げた後の、使えない部分。
それがアレなのではないでしょうか?』
あれですか? 心の産業廃棄物的な?
ひでぇ、そしてこえぇ。
「まあ、そのへんは、聞いてみないと判らんけどなぁ」
『そうですね』
「ただ、ハルミさんが、蜘蛛っぽいというのは、頭に入れとくよ」
今は片付けを、やってしまおう。
「いやあ、バッグが多いと、捗らんなぁ」
バックヤードにて発送作業。
宅配便の各種サイズの箱と梱包材、ガムテープと伝票の写し、値段表などに埋もれながら、作業を進めていく……纏めて全部着払いなら、楽なのに
作業机なんか邪魔でしか無いから、地面にダンボール引いて直座りだよ。
本当にバッグの類は、軽いくせに場所とるし、下手に潰せないから、形を保たたせるように、梱包材が中にも要るし。
宅配回収のスペースにも、段ボール箱を沢山置いとけ無いから、引取を待ってても邪魔だし。
結局は少しずつ集配所に持ってく方が早く終わるし……ワゴンに積んでゴロゴロ、辻向いじゃなきゃやってられねえ。
これは、靴でも大して変わらんのだけど、未だちょっとはマシかなぁ。
ただ、微妙な匂いに色々とアレだったりするけど。
「なんとか、表の置き場のは片付いたかな」
未だ査定の決定してない奴は、達人さんが最終チェックしてからになるだろうから、今日は回ってこないだろう。
それじゃあ、後は倉庫に持ってく奴と。
割と小物ばかりなので、カート一回で済みそうだ。
ビニールに包まれた品物の数を確認、問題なければ倉庫にイン。
「……終わった」
「んー、一哉くん、片付いたかい?」
「なんとか、出てる分で終わりですよね」
「そうだね。 あとは、今晩チェックするから」
表から、達人さんが覗きに来た。
控室に戻る途中だったのかな? 手に湯のみを持っている。
「あ、そうだ。 ハルミさんが、さっき来てね。
一哉くんが居るなら、ごはん食べようってさ。
んー、可愛がられてるねぇ」
「あはは、そうですか。 どこって言ってました?」
「ああ、一哉くんの家に、ご飯作りに行くっていってたから、アパート教えといたよ」
「はぁ!? マジですか」
「どうしたんだい?」
「いえ、ストーカーとか引き連れて来てないといいなって」
「あぁ、あははは、がんばってね」
このオッサン……。
「それじゃあ、折角だし、もう上がってもいいよ」
「そ、そうさせて貰います」
俺は雨月質店を出た。
「これってどう思う? タイムリーすぎるよね。
フォウさんが言ってた、コンタクト?
流石に家に御飯作りに来るような付き合いじゃないし」
『その可能性が高いですね』
『もし、蜘蛛が来るなら、わたくし……』
『クスクスクス』
蛇さん達は何とかしないとなぁ。
しかし、晩飯が要らないという事になった訳だけど。
デザートくらいは買っておいた方が良いかなぁ。
「何がいい?」
『チーズケーキ!!』
『羊羹など……』
『最中もいいですわねえ』
『プリンは良いものですが』
酷い統一感の無さ。
幸い、洋菓子屋さんにも、羊羹とかドラ焼きは有る。
さすがに最中はなかったか。
「清姫さん、悪いけどドラ焼きで我慢して」
『餡こがいただければ……』
そうなんだ。
あとは適当に、幾つかケーキを買っとこうか。
洋菓子店から家に帰り着くと、アパートのドア前に立った瞬間、いい匂いが漂ってきた。
換気扇が動いている。
まさか、先に部屋に入ってるとか……。
「ただいま」
外にいても仕方ないので、部屋に入った。
「おかえりなさーい♪」
出迎えてくれたのは、知ってる雰囲気で、知らない顔をした女性。
「一哉くん、御飯にする? お風呂? そ・れ・と・も♪」
「ハルミさん……それが本性っていうか、素顔ですか?」
「まあ、人になった時のベースでは有るわね」
「……黒髪に銀メッシュって、おばさん臭いです」
「うるさいわねっ!! 気にしてるんだから、ほっときなさいよっ!!」
気にしてるんだ。
そんなハルミさんの姿は、黒髪のショートに一筋銀のメッシュ。
タレ目がちの蛇さんとか、どんぐり眼な千連と違い、つり目の切れ長で、眼力の有るキツイ系。
鼻筋や顎のラインはかなりシャープで、唇は薄めの酷薄な印象を受ける。
化粧のせいか、白い肌に血のような紅の唇、は不吉な感じすら与える。
スタイルは、豊満というよりは、モデル体型。
カットソーとスリムパンツのラフな格好で、体の線がよく分かる。
それなり以上のボリュームはあるが、むしろクビレとのメリハリが、現実感を無くすレベルである。
正直、胸と腰の張り出しと、腹からウエストのラインは、蜂や蜘蛛と言われて納得できるイメージだ。
というわけで。
「じゃあ、とりあえず注文はハルミさんで」
「あ、其処に食いつくのね。
まあ、いいけれどね、他に聞きたいこととか無いのかしら?」
「じゃあ、単刀直入に、ハルミさんって、蜘蛛なんですよね」
「そうね、八重谷の谷渡りの大蜘蛛ね。
ちなみに、ハルミって源氏名だから、どうせなら八重って呼んでちょうだいな」
割と安直な名前だな。
「じゃあ、八重さん。 随分前から人に混じってたみたいですけど、どうやって?」
「ああ、わたし、これでも妖怪上がりの仙人だもの。
色々と方法は有るのよ。 一番簡単なのは、蟲毒ね」
なんか、物騒なのが来た!?
「あー、壺に蟲を入れて、共食いさせるとかじゃないわよ。
似てるけど……まあ、この世界のアイドル商法見て、思いついた術なのよ」
「え? 良く判らないんですけど」
アイドルって、そんな怖いことしてんの?
「まずね、ある程度の人数に、媚薬を飲ませて惚れさせるわけよ。
お金持ちそうで、自意識が過剰そうなのが狙い目ね」
「ふむふむ、その時点で犯罪臭が」
「大丈夫よ、検査しても見つからないから罪じゃないわ。
それで、いい感じに狂ってるところで、あんまりお金を持って無さそうな、普通の子に靡いてみせるのよ」
見つからなければって、あんた。
それに、当て馬にされたのって、俺だったんじゃ。
「そしたら連中が騒ぐから、理由をあげるの。
欲しいプレゼントが有ったからなのよ―って、ポソリと餌をまくわけね。
それから、プレゼント合戦になってきたら、いいタイミングで一番派手だった奴に、ちょっとサービスしてあげるの」
「…………」
「で、そいつが調子に乗ったら、次の合戦で派手だった別な奴に、ちょっとサービスしてね。
何度か繰り返したら、執着とか、熱狂とか、嫉妬とか正邪は別にして、熱い精気の篭った感情が良い感じに煮詰まるわけね。
そのうち、プレゼントに生霊がくっついてくる位になったら、そこから熱を吸い取って、残りは質屋に売り飛ばすのよ。
精気もお金も稼げる、いい作戦でしょ」
女こえぇよー。
「あら、水商売の女の子なら、大なり小なりやってるわよ」
「いや、それはいいんですけど、産業廃棄物を、うちの職場に持って来んのやめてくれませんかね」
「いいじゃない、WIN・WINの関係よ」
「人間に染まりきってやがる」
「それより、ご飯食べましょ。 せっかく作ったんだし」
「ああ、肉じゃがですか?」
「ええ、こう見えても、女子力は高いんだからね」
確かに美味しそうです。
「たくさん作ったから、他の連中も出てきていいわよ」
ご飯とお皿を人数分並べて、挑発めいた視線で、そういう八重さん。
まあ、バレバレみたいだし、この段階で隠してても意味は無いだろう。
順繰りに皆が姿を現し、テーブルに付く。
「久しぶりですわね」
「あなたらしい話でしたわ」
「御飯に罪はないからな―」
なんだ? 八重さんがジーっと三人を眺めている。
「流石ね……昨日の今日で、美味しく召し上がっちゃったのね」
「「「「ぶっ」」」」
何を……なんで、バレてんだよ。
「うん、色々と役立ったみたいで、お姉さん嬉しいわ」
「あははははははは」
妙な緊張感が漲ったせいで、言葉少なに食事が進んだ。
そして食事が終わって、デザートを並べた頃、やっと雰囲気が解れてきた。
「それで、八重さんはどうするんですか?
いえ、どうしたくて、俺のところに?」
「うーんとね、最近ちょっと困ったことがあったのよね。
それで、人に紛れて生きるのも潮時かなって思ってたから、昨日の夜に覗かれてるのに気付いて。
調べたら一哉くんで、蛇も百足も一緒に居るし、丁度いいから、私も面倒見て貰おうかしらってね。
一哉くん、お坊さんと一緒なんでしょ?」
其処まで知られてるのか。
「そうですね、同じ状況だと思います」
「だったら、お願いね」
「構わないんですけど、困ったことっていうのは?」
「実は小学生くらいの子に、追い掛け回されてるのよね」
「あ、それ勇者くん」
毎度のことだけど、やたら鋭いなぁ、あの勇者くん。
「やっぱりそうなのね。
どこでヘマしたのかしらって悩んだわ。
それに、どこかで見覚えの有る刀だなって、ちょっと思ったのよね」
「まあ、何事も無くて良かったですよ」
「そうねー、流石にあれでバッサリだと、お姉さんも危ないかしらね。
それじゃあ、これからも、宜しくね、一哉くん。
あんたたちもね」
「「「ブツブツブツブツ」」」
仲良くしてほしいなぁ。
俺は八重さんと手を繋ぎ、フォウさんに契約を結んでもらった。
「じゃあ、久しぶりだし、やろっか」
「ちょ、未だ日が高いってぇえええ」
四人纏めて、色々とされてしまった……思い出したくない。
「あー、太陽が黄色い」
一度は言ってみたかった台詞だけど、あれは楽しんだ方だから笑ってられるんだな。
「あー、なんだか、すっごく久しぶりに、フル充電って感じかしら。
生まれ変わった気分だわー」
くそ、ツヤツヤしやがって。
あーぁ、死屍累々だな。
他の三人は、脱ぎっぱなしの寝っぱなしである。
フォウさんは、呆れて言葉がないようだ。
そんな様子を見て、八重さんは笑っている。
「ねっ、一哉くん、お風呂入ろっか」
本当に元気である。
「ふう、なんでこんなに疲れてんだろ」
湯船に浸かっていると、ホッとする。
「若さが足りないわよ」
八重さんが、湯船に割り込んでくる。
わざわざ、お尻を突き出して入ってくるかな。
目の前で、引き締まったヒップが、器用にくねりながら踊っている。
「えーい、落ち着かないから、湯船に浸かって下さい」
目の前のおしりを抱え込んで座らせる。
「お、元気になってるわよ」
それはいいですから。
「そういえば、ちょっと聞いてみたかったんですけど」
「なにかしら?」
やっと、落ち着いて湯に付かれるようになったので、気になってた事を聞いてみる事にした。
「八重さんは、なんで人に紛れてたんですか?」
「あー、それを聞いちゃうか」
「言いにくいなら、別に」
「そんな大した事じゃないわよ。
実は、お坊さんと、暫く付き合ってたのよね。
それで、あの人が別の土地に行くっていうから、こっそり付いて行って。
あの人の子孫が生まれる先に付いて行って、たまに摘み食いしながら見守ってたのよ。
そのうち、この土地に帰ってきたんだけど」
「もしかして、やっぱり俺って、坊さんの?」
うふふと、笑って頷く八重さん。
まじですか。
「そうなのよね。
まさか、こういう事になるとは、私も想像すらしてなかったかしら」
「縁があったということですかね」
「そうねえ。
でも、あの人、気は多かったけど、人間以外には手は出してなかったから。
見境の無さでは、一哉くんの方が相当のうわてよ」
うわー、嬉しくない話を聞かされたわ。
「だからさ、これも運命だと思って、可愛がってよね」
そう言って笑う八重さんは、存外に可愛らしい顔をしていた。
で、頑張りすぎて、のぼせて動けなくなるまで、反省の二文字は頭に浮かんでいなかったのだった。