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異世界転”世”(仮タイトル)  作者: 山本君
一章、妖怪退治してきた勇者の帰還
2/12

02、二木神社

「どう考えても、嵌められたって気しかしないなんだが。

 あれ、本当に天使だったのか? 悪魔じゃねーのか?」


 俺が怒りを持て余していると。


「天使も悪魔も使いという意味では、所詮同じものですよ」


 そんな身も蓋もない答えを返してくれたのは、感情の乗らない冷徹な声。

 それでも、その持ち主が美人だろうと確信できるような声だ。


「えっと、もしかして妖精さんってやつか!?」


 抑えきれない好奇心と下心に負けて、凄い勢いで首を回した。

 その先に居たのは、先程のイメージ通りに見事な高嶺の花。


「マジか……」


 ただし、その姿は身長約三十センチの、人形サイズだった。

 テーブルの上に、姿勢の良い綺麗な立ち方で、此方を見上げてくる。

 恐る恐る手を伸ばし、そっと触れてみる。

 サラサラの髪に、握りこんだら、折れてしまいそうな細い体。

 ただ、なんで女秘書ルックのスーツ姿なんだ?


「業務内容としては、間違ってはいないと思いますが。

 それと、人形趣味というのは、あまり世間的には表沙汰に出来ない気がしますよ」


 触れる手を、気にしていないのか避ける様子もないが、その声は結構痛い。

 激しく余計なお世話だ。


「いや、何か騙されたかなーと」

「普通に餌に引っかかってると判断できるでしょう。

 ただ、こちらとしても手段を選んでいられる状況ではないというのも、納得も理解もして欲しいとは言いませんが、知っておいては貰いたいです。

 ただまぁ、先々で何かしらの要因を獲得できれば、私も等身大での相手も出来るでしょう」


 それは慰めなのか気休めなのか、良く判らないんですが。


「ちょっとした、士気向上のための配慮ですよ」


 さいですか。


「まあ、いいか。

 それより自己紹介、俺は杵島木 一哉(きしまぎ  かずや)だ。

 どれ位の付き合いになるか判らんけど、よろしくな」

「はい、私は四番と呼ばれています。

 長い付き合いになる事を願っています」

「いや、それ名前じゃないだろ」


 単なる番号ですよね。

 あと、さらっと死亡フラグ建てるな。


「では、名前を決めて下さい」


 俺が?


「はい」

「それじゃあ、四番だからナンバー・フォー。 フォウさんでいいかな?」


 どっかで聞いたことのある名前だけどな。


「安直ですが、判りやすいのは良いでしょう。

 了解しました。

 これからも、よろしくお願いします」


 さて、自己紹介は終わったけど、これからどうしたら良いんだ?

 なんか、そろそろ勇者が帰ってくるような話だったけど。


「そうですね、かなりの干渉が有ると思いますので、気を強く持って下さい」

「え?」


 また、さっきの見たいな事が、起きるんじゃ無かろうな。


「来ます」


 フォウさんの声に、歯を食いしばって待つ。

 脳裏に俯瞰した街の風景。

 其処に宙から滴った水滴。

 それが波紋を広げ、その波紋がアパートに届く。


「んぐぅうっ」


 腹の中をひっくり返されるような衝撃が、体を突き抜けていった。

 それは一回だけではなく、波紋の届く度に二度三度と続く。

 それは脳裏から俯瞰映像が消えるまで続き、いつの間にか終わっていた。


「異世界転世による変異が起こりました。

 範囲は半径10キロ圏というところでしょうか」

「それって、大きい方? それとも小さい?」


 未だ体の不調に呻きそうになるけど、黙ってるのも辛い。

 気が紛れるかと思い、聞いてみる。


「規模としては小規模と言えますが、幾つか特殊な点がありますね……。

 いえ、最初の案件としては、願っても居ない好条件といえるでしょう」


 チュートリアルの段階で、特殊とか言うのはやめて下さい。

 まあ、ラッキーなのか? 現時点で、酷い目にしか在ってない気がするけどな。


「それで、何をどうすればいいんだ?」


 俺の勇者デビューとしては。


「今日はもう、休んでください。

 流石に色々と無理が掛かっていますので。

 幸い、この変異では、今日明日に急激な変化は起きないでしょう」


 そっか、まあ夜中だしな。

 大人しく寝るか。

 あちこちに違和感の残る、思い体を引きずりながら、布団を敷いて横になる。


「それじゃあ、お休み。 ……フォウさん、一緒に寝るか?」

「このサイズで、潰されたくないですから結構です。

 おやすみなさい」


 確かに、そうだ……それじゃあ、おやすみなさい。



 さて、休みなのに目覚ましを、いつもの時間にセットしたまんまで寝たな。

 ベルで叩き起こしてくれた時計の針は、朝の7時を指している。

 窓からは明るい日が差しているが、今日が休みだと思うと、なんだか損をしているような気がする。


「今日は予定ないけど……何をすりゃいいんだ?」


 何もなければ、本屋めぐるか映画でも見に行くとこだが。


「先ずは、丁度いい戦力増強のアテが有りますので、そちらに」


 妖精さん、フォウさんの声。

 夢じゃなかったか。

 ため息が出る。

 だが、出来る事はやっておかないと、今は勇者なんてのは名ばかりの、毛の生えたモブだからな。

 死にたくなければ動くしか無い……どこが勇者なんだよ。


「で? 丁度いいって、そんな上手い話が本当に?」


 すっごい疑わしいんですが。


「カズヤさんが、……カズヤさんと呼んでも?」

「構わないよ。 ちょっと照れるけど」

「それではカズヤさんと。

 今回については、安心していただいても結構です。

 私達が用意したのではなく、先の基準点存在。

 いうなれば、カズヤさんの先輩とでも言う存在が、残したものですから」


 ほう、そういうこともっていうか、俺以外にもこの土地に勇者が居たのかよ。


「カズヤさんが、ご存知かどうか判りませんが、この近隣には封印されたモノが幾つか存在します」


 そんな物騒な話、聞いたこともないぞ?


「今回の勇者の、恐らくは先祖が召喚された際に、此方に連れ込んだものでしょう」

「そんな前にも勇者召還ってあったのかよ!!」


 先祖って……最近の話だけじゃないのかよ?


「約400年前でしょうか。 その際に基準点存在が対処、妖精が確認しています」


 おいおい、さっきの先輩って、そんな昔に居たのかよ。

 俺はトースト焼いてバターを塗り、ホットミルクをマグに注いだ。

 いくら命の危機とか言われても、普通に腹は減るんだ。


「フォウさんも食べる?」

「少し頂きます」


 食うんだ。

 トーストの端を千切って、ホットミルクに浸して、あーんする。


「はい、あーん」

「……あーん」


 割と素直にやったな。

 流石に、一口というのは無理なようで、手で掴んでモグモグしてる。

 やべぇ、可愛い。

 そっと、ウェットティッシュを傍に置いておいた。

 暫くしてから話を再開した。


「封じられた存在の確定している場所は二箇所、二木神社と巻山です」

「どっちも、割と近所だな」


 実際に行ったことはないけど、自転車で二十分掛からない場所にある。

 そんな近所に、厄物が眠っていたとは。


「まず二木神社ですが、奥宮にある二本の御神木の根本から、病払いの温泉と火傷に効く霊水が湧き出ていたことから、信仰を集めて建てられたとされています。

 今は唯の池になっていますが、当時は二つの流れが流れこむ所に、小さな滝流れが出来ていたことから、二つ滝と呼ばれ、後に流れが絶えた際、二木(ふたき)という字を当てたと言われています。

 また、この二つの滝には清め口(きよめぐち)浄い口(あらいぐち)という名が付けられており、この地に疫病が流行った折、それを憂いた僧侶が祈りを捧げると、夢に二頭一身の大蛇が現れ、病人に霊泉を飲まえせて清め、その身を温泉で浄えと告げたとも伝えられています」

「そんな謂れがあったのか」

「そして、その当時の基準点の存在、僧侶だったそうですが。

 次に同じ異世界かの接触があった際には、二木神社に行けとメッセージを残しています」


 先輩が居たのも吃驚だが、こんな外道案件の最中に、そんな出来た人が居たのも吃驚だ。


「それじゃあ、二木神社へ?」

「行くのが良いかと」

「それじゃあ、二木神社に向かおう」


 神社には、原付き乗っていけないかな……自転車で行くか。

 あ、そうだ。


「フォウさんは、どこに隠れて……あれ?」


 いつの間にかフォウさんの姿が見えない。

 どこ行った?


『一時姿を消しています。 傍に居ますので、好きに動いてくれて結構です』


 フォウさんの声が、肉声から頭に響くものに変わった。


「了解」


 久々に自転車を引っ張りだし、二木神社に向かって走らせる。

 二木神社は、駅前の方からは外れた、商店街の裏手に当たる。

 普段の行動範囲は商店街辺りまでなので、そこから更に奥に行くことになる。

 人通りは少なく、地元の年配の人が、空き地などで日向ぼっこしているのを、僅かに見かけるくらいだ。

 夏だか秋だかには、夜店も並ぶらしいが、立ち寄ったことはない。


「自転車、置くとこないけど、此処に置いちゃっていいのかな」


 参道の脇、原付バイクが置いてあったので、その隣に置かせて貰う。

 そして、階段を上がり、鳥居の前で一息。


「結構立派なとこだな」


 敷地はだいぶ広そうだ。

 正面には社があって、その奥にも何かしらの建物がある様子だ。

 二本の木が見えることから、御神木も奥なんだろう。

 そして、正面から左手に、池が見える。

 見た感じ、亀やら鯉やらは居無さそうだ。

 緑に濁った池の奥側には、昔流れが有ったらしい、滝口が二つ見える。

 謂れのあった物だろうかね。

 その奥は茂みに隠れているが、話通りだと、奥宮の御神木に通じているんだろう。

 池に近寄ると、立て看板に「二木神社縁起より」という、一文が書かれていたので読んでみた。

 色々と回りくどいので、ざっと意訳してみると。


 昔、清姫と浄姫という二人の女神が、外の国から流されて来た。

 二人の女神は不思議な力を持っていたため、この土地の住人と争いになった。

 その争いを、とある僧侶が仲立ちして治めた。

 二人の女神は、僧侶を慕ったが、僧侶と結ばれることはなかった。

 二人の女神は、この地にとどまり神として崇められたが、僧侶をずっと待っているという。

 時折現れる白蛇は、女神の花嫁装束の名残だと言われている。


 だそうですよ、先輩の坊さんが割と酷いやつっぽい?

 

「で、ここで何を?」


 フォウさんに問う。


『はい、池の中に、なにかしらの反応を感じます。

 済みませんが、探してみて頂けますか』


 うわぁ、あの池か……緑色してるぞ。

 だが、仕方がない。 命の危機には替えられん。

 何かしらの助けになるものなら、手に入れておかねば。

 ということで、靴脱いで、靴下脱いで、ズボン捲ってと。

 あんまり深くないと良いんだけどな。

 緑の池に足を進める。


『何か感じませんか?』


 油断するとズルリと行きそうな、ぬかるんだ感触にビビりながら、池を睨みつける。

 何となく感じる感覚……おおう、これはなんとも言えない感覚。

 もしかして霊感ってやつか? ファンタジー体験だな。

 ふむ、何か見えるけど。


「これか?」


 導かれるように手が伸びて、池の中を探る、

 水から拾い上げたのは、黒白の水晶を連ねた、こんな池の中にずっと在ったとは思えないような、何かの力を感じる……数珠?


「なんで、神社に数珠? あ、そうか、先輩は坊さんって言ってたか。

 神社だから、てっきり神職だと勘違いしてたな」


 じゃらりと拾い上げた数珠をじっと見る。

 珠に抜け落ちたり千切れてる部分は無さそう。

 普通なら水の中に四百年とか、糸なんて保たないだろうに。


『名前を付けてあげて下さい』


 え? 数珠に名前?


『使用者認証の様なものです』


 数珠に名前とか……玉が一〇八個で、煩悩の数だっけ?

 えーと、一〇八星ってなんだっけ? 水滸伝か、水滸とか? 宿星水滸とか、カッコイイ。

 まあ、普段は水滸呼びでいいんなら、本名が宿星水滸ってことで。


「それじゃあ、宿星水滸(しゅくせいすいこ)で」

『実は意外に余裕ありますね、カズヤさん。

 了解しました。 宿星水滸、登録します』


 すると、フォウさんの声が終わるのも待たず、数珠が勝手に動き出し右手に巻きついた。

 どう見ても、さっきの長さよりはるかに短い。

 さっきは、あやとり出来るくらいに長かったのに、輪の直径が五〇センチ位まであったのに。

 今は、ちょっとしたパワーストーンを手に巻いてるくらいにしか見えない。

 というか、石の数が減ってるよ!!


「ちょ、これ外れるんだろうな」


 と、思ったら、長さがズルリと伸びて、手首が自由になった。


「なんか凄い。 もしかしたら、消えたりもするのか?」


 言う前に姿が見えなくなった。


「出ろ、水滸」


 右手に出てきた。

 見えなくなってるんじゃなくて、完全に重さも感触もなかった。

 本当に消えてるんだな。


「もしかしたら飛べるかも……」


 軽く投げ上げてみた。

 円を描いて回転しつつ、数珠は宙を飛んでいる。


「マジ?」


 手のひらを向けて、ピザの生地回しのイメージをしつつ、向きを変える。

 数珠は回転しながら、それに付いて来る。

 回転を増し、木立の枝に向かって翔べ。

 そう念じながら、手を振り下ろす。

 数珠は回転を増し、音を上げながら枝に向かって飛び、狙い過たず枝を切り落とした。

 枝の所まで歩み寄って、落ちた枝を拾い上げると驚きの結果があった。


「なんで、切れてるんだ? 折れてるんじゃなく。

 水晶球の連なりなのに、断面がチェーンソー張りの平面になってる」


 ヤバイ危険物だこれ。


『先代の基準点でも有る、僧侶が使っていたという武器ですから』


 なるほど、心強いと考える方がいいのか。


『おや、懐かしい気配がすると思いましたら』

『貴方は、お坊様の縁者ですかしら?』

「はっ!?」


 誰だ? 頭にフォウさんとは違う、何やら妙に色っぽい声が響く。


『恐らくは、この二木神社に眠っていた神格です』

「神様?」

『異世界から来た存在ですが、情報によると僧侶と同盟していたようですね』


 って、もしかして、二人の女神様って奴か?

 フォウさんの説明を聞いて、成る程と考える。


「縁者という訳じゃないが、関係者では有ると思う」

『では、貴方ですのね!!』

『待ちわびた方!!』


 何事!? えらくテンションが高くて、なんでこんなに好意を持たれてるんだ?

 ちょっと、怖いんですけど。


『さあ? 情報に有ること以外は、私にも何とも。

 もしかすると、僧侶の方と何かあったのでは?』


 そっけないフォウさん。

 ただ、さっきの立て看板のあれ読んでみたとだと、何かしらあったのは間違い無さそうなんだけど。

 なるほど確かに……判らんことは、聞いて見るしか無いな。


「あの、すいません、何事なんでしょうか?

 話が有るのなら、聞きますけど」


 あちらが友好的な様子なのだから、下手に敵対することもない。

 ただ、なにやらテンション高いですけど。


『わたくしは、お坊さまから聞いたのです』

『哀れなわたくしを、娶ってくださる方が来ると』

「え!?」


 どういう事? 娶る? 結婚? なんで、坊さんがそういう話を?

 結婚の相手は、坊さんだったって話じゃなかったのか?


『良いのではありませんか? 神格、それも女神ですよ。

 更に二柱の上に、何やらチョロい感じですし』


 聞こえないからって、ヒデェこと言ってるよね、フォウさん。

 確かに声を聞いてると美人そうで、良く判らんうちから好かれてるのは、困惑しつつも嬉しいとこなんだけど。


「此処の神様、蛇じゃなかったっけ?」

『蛇は駄目ですか?』

『あさましい蛇は、好みではありませんか?』

「いや、ちょっと待って」

『カズヤさん、大丈夫です、蛇なくらいなんですか。

 今日びのヲタなら、角生えてようが猫耳だろうが尻尾も羽根も、可愛ければいけるでしょう。

 本性が蛇なくらい!!』


 フォウさんが無茶苦茶言ってやがる、某地図系スペースオペラのゲンさんかよ!!

 確かにあれも、勇者だけどさ!!

 現実で、こういう状態になったら、流石に二の足踏むわ!!

 とりあえず、神様二人を止めないと。


「先ずは、話を聞かせて下さいませんか?」

『構いませんわ』『かしこまりました』


 てな事をやりとりした瞬間、いきなり池に流れこむ滝口に飛沫が上がって、二つの滝が生き返った。

 片方は透き通った清水。

 もう片方は、少し白濁し湯気を上げる温泉。

 それらの流れは勢いを増し、池が溢れるかと思うほどに。

 緑の濁りは驚くほどの勢いで薄まり、過去こうであったのではと思うような姿を取り戻していく。

 それは単に綺麗な水が流れ込んでいるというだけではなく、流れ来る水によって池が浄化されているということなのではないだろうか。

 清め口、浄い口とは良くも言ったものだと思える。

 そして其処に現れる、人の胴程の太さを持つ鎌首を擡げた、二頭一身の大蛇。

 陽の光にパールホワイトの鱗が煌き、水面に幻想的な模様を映しだす。

 これが本性ってヤツ?

 なるほど、現実感のなさに加えて、綺麗なもんだな。

 特に蛇に忌避感が無いからかもしれないけど。


「わたくしは清姫(きよひめ)

「わたくしは浄姫(じょうひめ)


 大蛇に被さるように、透き通った映像が二つ現れた。

 声が頭に響くものから、現実の肉声に変わる。

 白い和装に身を包んだ二人の女性、特に蛇の要素は見受けられない。

 黒髪に白い肌、ロングの姫カットが似合う、どことなくオリエンタルな風貌。

 元居た異世界も、東洋風の世界だったのだろうか?

 ただ、スタイルが良くても寸胴気味になる和装で、隠し切れないほどの胸元と腰つきの豊満さ。


「あまり見ないで下さいませ」

「見苦しい姿で申し訳ありません」


 恥ずかしげに頬を染め、隠すように両の腕で、己の身を隠すように抱く。

 まあ、隠れてないけど。

 余計にヤバイことになってるけど。


「えっと、お二人が、この神社に伝わってる女神様?」

「恥ずかしながら」「そうではないかと」

「ずっと眠ってたんだよね」

「「はい」」

「お坊さんに、何か言われてた?」

「お坊さまは、僧侶の身ゆえ妻を持てぬと」

「今は眠りにつき、後の世に己の縁者が訪れたなら、身を寄せ助力して欲しいと」

「「そう、仰っておられました」」


 あー、なるほど。

 坊さんは、結婚できないって時代だったか。


『あの、記録では「デカイのは萎える。 あと好意が重いのも、ちょっと」というコメントが残ってます』


 誰の? 坊さんの? それ以上いけない!!

 というか、その感じだと、坊さんって生臭だった可能性が?


『それ所では無い女の敵のようですが……普通に子供が居たようですし、因子の発現から武器の受け継ぎのスムーズさを考えると、普通にカズヤさんが縁者であるという可能性が』


 俺、この土地の生まれじゃないんだけど。


『後ろ暗い事があったから、この土地から逃げたのでは?』


 うわぁ、とんでも無い説得力を感じる。

 これは絶対に、表沙汰には出来ない。

 そこはかとない罪悪感を感じながら、二人を見詰める。

 なんとなく不安と期待を入り混じった、上目使いの視線で見返してくる。

 坊さんめ、何が不満だったというのか、贅沢な!!

 いや、残してくれた事に関しては、大感謝してやるが……リア充め。


『それでは、カズヤさん的には、受け入れる方向で?』


 女性に関して何か言えるレベルの存在じゃなかったですし、年上美人のお姉さんとか、依存系ヤンデレ風味とか、本性が蛇とか、特に障害にはなりませんね。


『意外とレベルの高いアレだったことに驚愕すればいいのか、懐の深さを賞賛すればいいのか、少し悩んでいます』


 ほっとけ。


『まあ、こちらとしても異世界因子を封じて眠らせるよりは、直接の回収が望ましいですし。

 カズヤさんの戦力UPも叶う訳で、問題はないですね』


 確かに。

 それじゃあ、二人に話をしてみようか。


「あの、お二人さん。 なんと呼べばいいのかあれなんですが。

 俺でいいの? 其処が一番の問題なんだけど」

「はい、貴方は、お坊さまに生き写し!!」「きっと、あの方の生まれ変わりに、違いありません!!」


 此処で子孫だとかいう思考が出てこないのが、確かにちょっと重い気がしなくもないが。


「俺としては、いきなり好かれてる部分に、戸惑いを隠せないんだけど。

 俺で良いって言うのなら、よろしく」


 俺は両の手を差し伸ばした。


「「はい、幾久しく!!」」


 なんか、バトル・ロワイヤルする巨乳の幻が。

 ともあれ、言葉とともに大蛇の頭が消え、映像だった二つに姿に重みが加わり、二人の姿が現実に変転した。

 そして、彼女たちも此方へと手を伸ばす。

 お互いが、そっと触れた瞬間、俺は大きな存在に接続された熱量を感じた。


『契約は完了しました』


 淡々とフォウさんが結果を伝えてくる。

 ふむ、これで俺も、リア充の仲間入りということか?

 ご先祖様(かもしれない人)ありがとう。


「それでは此方を」「お受け取りください」


 二人の手に、何かの形が浮き上る。

 それは一メートルほどの弓と三本の矢になった。


「えーと、それは?」

「私達が眠りに入る前に献上されたものですわ」

「お坊さまには渡せなかったものです。 遠慮は無用ですわ」


 さあさ、とばかりに目の前に差し出される、弓と矢。

 まず弓を手に取ると、どう見ても古いものには見えない。

 時間的な経過も感じられない上に、何か物がオーパーツすぎる。

 まあ、出たり消えたりしてるし、現実のモノじゃないかもしれない。

 大きさ的に和弓じゃないのは勿論――そんなもん貰っても、手に余るが――持ち手あたりは籐や絹糸で装飾してあるにしろ、素材が謎だ。

 弓の事を良く知ってるわけじゃないけど、竹や木材ではないし金属でもない。

 強いて言うと生物的な、キチン質のように見える。

 そのくせ、継ぎ目は無い一メートル弱の一枚素材で、節も目もなく。

 それを何層か貼りあわせてある。

 表面は、赤い滑らかな光沢。

 漆でも塗ってるのかと思ったが、素でぬらっとした光沢の有るものらしい。

 あと、何やら蛇皮にしか見えない物が巻いてあったり、弦が撚っていない一本糸、ただし太さはテグス並み。

 なにより軽いし、引きまで軽い。

 片手に持っても重さを感じないし、引いても抵抗を感じない。

 そのくせ、弦を離して戻るときの勢いは、凄まじい勢いを感じる強さだ。

 単なる半月型の単純弓で、こんな強さが出るんだろうか?


「これは、何で出来てるんだ?」

「弓自体は欠け落ちた大百足の甲冑を削りだし、重ね合わせたものですわ」

「それを大蜘蛛の糸を使い、貼り合わせて」

「更にわたくしの皮で巻き締め、最後に蜘蛛の縦糸で弦を張ったそうですわ」

「鍛冶の匠が、社に献上して来ましたの」


 二人の答えを聞いて、思う。

 そいつ二本足で歩く、器用な猫又か何かじゃねーですか? 清姫さん、浄姫さん。

 思った以上にゲーム脳な現実だ。

 これはモンスターやっつけて、素材を剥ぐゲームの武器ですか?

 とすると、この三本の矢も?


「わたくしの抜けた牙ですわ」

「巻山の大百足の牙ですわ」

「八重谷、谷跨ぎの蜘蛛の牙ですの」

「やっぱしそう来たか」


 さっきも出てきたけど、何その怪物達。

 つか、蛇、百足、蜘蛛って、毒属性まっしぐらじゃねぇかよ。


「なぁ、フォウさん、話に出てくる百足と蜘蛛の事なんだけど」

『そうですね、この近隣の伝承ですが、この二木神社と同じく、勇者により此方へとやって来た存在で、僧侶によって封じられた物だそうです。

 伝承としては、二つ。

 一つは八重谷の街道を旅人が歩いていると、日暮れ前なのに影が差し、天を見上げると大きな蜘蛛が谷を跨いでいたという話です。

 もう一つは、巻山の山道を歩いていると、道が揺れたので慌てて逃げると、道は山を巻いていた大百足だったという話です』

「おお、スペクタクル」

『巻山の大百足については、要石で頭を抑えたという情報が残っていますが、大蜘蛛については不明です』


 ああ、当てがあるのは神社と、もう一つは巻山って言ってたっけ?

 どうやって封印したんだか?

 いや、大蜘蛛の素材は、どうやって手に入れたんだ?

 坊さんのやることは、チョイチョイ謎があるなぁ。

 おっと、忘れてた。


「清姫さん、浄姫さん、ありがとう。

 ありがたく貰っておくな」


 色々と貰ってばかりで良いんだろうか?


「ひゃぁあ」「あうう」

『チョロいですね』


 体をくねくねしている。

 嬉しそうなら、まあいいか。


「それでは、此方にも名前を」


 弓を示して指摘してくる。

 いつでもフォウさんは冷静だ。

 そうだな、あかがね色の半月。


朱金半月(あかがねはんげつ)だな」

『登録完了しました』


 弓と矢が消えていく。

 しかし、それが何処かに有るのは感じている。

 必要な時には、すぐに取り出せるだろう。


「さて、帰ろうか」

「「はい」」

『……』


 色々と収穫を得て、二木神社を後にした。

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