11、魔鋼戦記のスペアさん
増えたメイドさんと騎士さんは、フォウさんのオプション装備です。
基本的にジト目の火力増やす以外の仕事はありません。
あと、加倉井さん要員。
それにしても、加倉井さんが頑張りすぎて、三番目の人が出てこない。
加倉井さんと会ってから、数日経った。
バイトに行ってたのと、実験してたので遅くなったが、今から人形を片す事にする。
今、俺が立っているのは、操車場の外。
こないだ入り込んだ、金網に穴の開いているフェンスの辺りである。
色々と試したが、このくらいの距離だと、アイテム・ボックスから賢者の石をチラ見させると、刺客人形が反応して寄ってくる。
他の場所だと、距離のせいか寄ってこないので、此処をお巡りさんが立番していると、手の出しようがなかったのだが、昨日から巡回だけになったので助かった。
そうなれば、元々人通りはないので、多少騒いでもなんとかなる。
「と、いいなぁ」
近場の木立に隠れて、暫く待っている。
刺客人形は、なんとも頼りない足取りで、ふらふらやって来ているのが、金網越しの向こうに見える。
他の死霊人形の姿は見えないので、ホッとしている。
最近、某音響会社の犬とか、薬局のカエルとかのマスコットが、夜に歩いているという噂まであるので、そんなのに飛びかかられたら、怪我じゃ済まない。
最近のは、中身が空洞の樹脂製だけど、昔のはミッシリとコンクリなんだよ。
あちこち欠けてる笑顔のカエルとか、子供の頃のトラウマだったよ。
で、廃棄されてる類のマスコットも、どうやらそれっぽいので、激しく遠慮したい。
「来ました」
フォウさんの声に意識を戻す。
どうやらそろそろ、人形がフェンスに辿り着く。
賢者の石は、シーナさん入りの魔剣を身に付けた、えーこさんが持っている。
人形は、此方を気にする事はなく、真っ直ぐに、えーこさんに向かっている。
俺はそっと木立から出て、様子を見る。
この距離なら気付かれてそうだが、相手は賢者の石を優先しているみたいだ。
「これなら、脇から一撃できそうだな」
あとは、フェンスを登る時に、隙を見せてくれると助かるのだが……。
一気に飛び越える!! とかなアクションされると、割と困るのである。
「お、普通に張り付いて、登るのか」
「これなら、正面から撃てますね」
金網なだけに登ってる間、相手の無防備な姿が此方から見えるわけで。
「さっさと片付けよう」
極近距離から、金網越しの人形の頭に向けて、矢を放った。
この距離なだけに外すことも無く、頭に矢を突き立てた人形は、フェンスから剥がれ落ちた。
「で、さっさと回収すると」
閉じられてた所を、再度広げた穴から操車場に入り、落ちてる人形をフォウさんにアイテム・ボックスに回収してもらう。
グズグズしていると、アイテム・ボックスからメイドが出てきて、人形を持って行こうとするから、さっさと片付けないと。
人形を他もろともアイテムボックスに回収すると、周囲に漂っていた変異の影響が、久方ぶりに晴れたのを感じた。
「終わりましたね」
「流石にアイテムボックスに入れっぱなしでも、多少漏れているから、最悪でも人格コピーの入った石は片付けないと」
あれが死霊に誤認されてるというか、あれが活動する為に使っている、劣化版の賢者の石から力が漏れて、同じように湧いたのを引き寄せてるっぽいからなぁ。
「初期化して取り込みました」
一回やってるだけに仕事が早いな。
「これで、解決かな」
さて……連絡しないといけないんだなぁ。
「加倉井さんに、電話か……」
悩みながらアパートに帰るが、仕方ないと覚悟を決め、聞いていた携帯番号に連絡を取る。
「もしもし」
着信を確認して、声をかける。
『はーい、かくらいでーっす♪ ただいま留守で―っす♪ 用事の「すいません、か、加倉井です」ぴーってなったらメッセージ入れてネ♪ ピー、なんちゃって♪』
「えーと、「忘れて下さい」はい」
なにやら、変なテンションの留守電メッセージの後、凄く素のような加倉井さんの声を聞いた。
「普通に話せるんですね」
「電話だけです……人がいると無理……です」
戻ってる戻ってる。
「あのメッセージ「使うことなんて無いと思っていたので、ちょっとハッチャケただけです!! 忘れて下さい!! イイね!!」ア、ハイ」
どうやら、対面して無ければ、それなりに話せる模様……だからって、あの趣味はどうかと思うが。
「それで、一応片付いたので、連絡をしたんですけど」
「よ、寄らせて貰います」
マジですか……それじゃあ。
「アパートで待ってます。 三十分位で戻る予定です」
「分かりました、直ぐ行きます」
三十分後だってんだろうに……。
で、アパートに帰ってみると。
二十超えてる割に、良く似合ってムカつく、フリフリなワンピース着た加倉井さんが、アパートの前で体育座りして待っていた。
近所のオバちゃんが、指差して噂してるんですが……。
「あの、何時からここに?」
「……来ちゃった……十五分位?」
来ちゃったじゃねーよ!! 勘弁して下さいよ。
「とにかく入って下さい」
「……お邪魔します……ただいま?」
「ただいまじゃないです」
初っ端からかよ。
で、サクッと済ませますが。
「メイドのびーこさんと、騎士のディーナさんと、鬼切り改めオーガ・スレイヤーです」
メイドさんも護衛人形も魔剣も、最初と同じ商品でした。
結果、栗毛セミロングのメイドさんと、金髪ポニーの女騎士が増えました。
騎士さんには、オーガ・スレイヤーを渡してあります。
そして、刀のくせに両刃の剣に化けました。
加倉井さんが、一人クレクレと騒ぎましたが、断りました。
「これで、今回の変異は終了でいいのかな?」
「……おめでとう……おめでとう、シンジくん?」
「やめて、セカイ系の話に巻き込まないで下さい」
俺は一哉ですし。
加倉井さんは、こんだけ飛ばしておいて、なんでコミュ障なんだろう?
「……濃い? ……じゃなかった恋?」
「たぶん前の方ですよね……もしかして、同類認定されてるんですか? 俺?」
「……あ」
そこで、ポンとか手を打つの、辞めてくれませんかね。
立ち直れ無くなりそうなんですけど。
「……まるで……自宅のような安心感?」
「勘弁して下さい」
「……杵島木くん……まいふれんど」
「人差し指いらないから」
なんか、疲れてきた。
「楽しそうですね」
「そう見えるなら、変わろうか?」
「遠慮します」
会話に割り込んできたのは、お茶の用意をしてくれたフォウさん。
なんとか数日掛けて、賢者の石を取り込んで、等身大モードが安定した。
こうなると、三十センチモードの時でも妖精めいた美人だったが、現実感を伴って存在するのと合わせて、尋常じゃない雰囲気を放っている。
正直な話、手を出すと罰が当たりそうで怖い。
「布団を治そうとしたら、抱き枕にされましたが」
しーっ、しーって、それは言わんで下さいよ。
無意識って怖いよね。
「……大人……ひゅーひゅー」
「きりがないので話を進めますけど、加倉井さんは今回、報酬がない訳ですけど良いんですか?
いや、悪いんでしょうけど、どうにも出来ない訳ですけど、一応。
俺の出来る事が有るなら、相談には乗りますよ」
「……強引な……話の切り替え」
「何も無いんですね」
「……あー、メイドさん……派遣良い?」
「あげませんよ」
加倉井さんは、少し考えている様子だ。
「……えーと、バイト?
……日当出す……ご飯とか、掃除……お願いしたい」
あー、なるほど、そういう話か。
「工房でしたっけ? 駅前?」
「……そう、歩きで十五分……商店街と駅の間くらい。
……あと、個展の手伝いとか……警備に騎士さん?」
それくらいなら、問題ないかな?
「フォウさん、それくらいの距離なら、離れても問題ない?」
「賢者の石持ちは、基本的に独立して存在できます。 問題ないかと」
「まあ、住み込みはちょっとあれだから、相談しながらなら良いか」
「という事なんだけど、えーこさん、びーこさん、シーナさん、ディーナさん。
お願いしても、大丈夫かな?」
「「畏まりました」」「「承知した」」
妖精さんサイズに姿を揃えた、メイドさんと女騎士さんが各々一礼し、了承の言葉を返してくれた。
ただ、元が同じだと、綺麗に揃うなぁ……。
「加倉井さん、OKですってさ」
「……おお、ご飯……手作り」
目が怖いよ、加倉井さん。
まあ、この人は自炊とか、しそうに無いもんなぁ。
「……さ、早速……今日から……お願いしたいの」
判ったから、縋り付いてこないで下さい、ちょっと色っぽい絵面なのに、軽く恐怖を感じるんですけど。
「はいはい、落ち着いて下さい。
じゃあ、えーこさん。 帰りに付いてったげて、買い物とかもして、ご飯食べさせてやって。
あ、こっちの道具とかは? 使えるのかな?」
「フォウさまに、知識は頂きました。 問題有りません」
便利ですね……。
「それじゃあ、そろそろ暗くなるし、シーナさんも付いてったげてくれるかな?」
「承知」
「……おお……両手に花」
手をワキワキさせる加倉井さんに、若干シーナさんが引いている。
「……あ」
「加倉井さん?」
そんな加倉井さんの視線が何処かに釘付け?
追って見る……あ、達人さんとこで貰ったフィギュアの箱か?
「ま、魔鋼戦記のコレクターズ第二弾……未開封とか凄い」
おおう、素になってる。
そんなに珍しいものなのかな? 人気のあるものだとは思うけど、主人公格は入ってなくて、全部サブキャラなんだよな。
人気キャラのコレクターズだから、値打ちは有るんだろうけど、主人公格が入った第一弾のほうが高いんじゃないか?
「こ、公式の薄い本入り、くっ殺専用パッケージと言われた第二弾」
「どんな公式だよ。 てか、そんなもん入ってたのか、下手に誰かにあげてたら……」
確かに、光と闇の乱舞する、修正入りまくりの描写が連続してたけど。
二次創作も、その手の物ばっかりだったけど、公式からしてそういう認識だったのか。
帝国・王国・傭兵ギルドの三つ巴が、覇権と利益を掛けて繰り広げる、どシリアスな戦記モノで、激しくモブに厳しい作品だったんだけどなぁ。
主要キャラとか、勇者の因子を持つのが女性なだけに、負けたり捕まったりすると酷い目に合うので、くっ殺アニメとか言われてたのは間違いないんだけど……。
「あー、加倉井さんが欲しいんなら、あげますよ。
どうせ、貰い物ですし、箱壊れてるけど」
加倉井さんが居世界で貰った報酬とか、こっちで回収しちゃったし、それくらいは。
「あ、ありがとう。 でも、私も、持ってるから、気にしないで」
顔を輝かせる加倉井さん、良い笑顔なんだけどなぁ……物がエロっぽいフィギュアでなければ。
「あ……」
「なんですか?」
加倉井さんがジーっとこっちを見つめてくる。
「……賢者の石……余ってる?」
「あー、未だ五つ使ってないですけど」
「……これに……使う?」
は?
フィギュアに? 確かにエロい美人のキャラですが。
なんつう事を思いつくんだ、この人は。
「いやいや、どんなのに成るか判らんって聞いたでしょうに」
「……多分……公式の設定……雛形。
……ファンの妄想……守護者ばりのパワー」
うわー、そう来たか。
「でも、しくじったら、それだけ危険なんですよ。
やるにしても、もっと大人しい題材が」
「……でも……作中最大の…‥ちょろイン……スペアさん」
加倉井さんの指差すフィギュア。
このパッケージの中の一体、それは帝国と王国の勇者の因子を、意図的に掛け合わされて作られた勇者。
自然発生の勇者である、ギルド側主人公が現れなければ、祭り上げられていた筈の予備。
悲劇のキャラにして、戦記中最大の大戦犯にして、裏切りの騎士。
優しくされたり拾われるだけで味方について、死ぬ気で戦ってくれるという、二次創作でオリ主のパートナー率が、ぶっちぎり第一位のちょろイン。
ただ、原作中では、誘われた相手に裏切られる率が150%
利用されてるのが判明してすら縋り付いて、其の上で主人公の替わりに、敵に差し出される確率が50%。
残りの50%は、殿とかに送り出されて行方不明になるので、ほぼ200%ではあるのだが。
そんな、生まれの予備と、主人公の代わりにされる予備ということで、付いたあだ名がスペアさん。
ランツェ・ベータスピアって名前なんだけども……。
見かけは、銀灰の髪と目を持ち、褐色の肌を持つグラマーさん。
当初は仮面を被っていたんだけど、実はギルド勇者と瓜二つの顔をしている。
ただ、黒い髪と白い肌でスレンダーなギルド主人公と比べると、色味とスタイルが全くの別人なんだけど、何故か入れ替えてもバレないというか、気付かれないという謎がある。
本人達も、お互いを見て鏡写しとか言って、愕然というか驚愕するんだけど、視聴者は総ツッコミをコメントで入れるのが慣習と成っている。
戦闘力は、作中でも最強クラス。
何度か放り込まれた殿戦では、其の度に勇者が死を覚悟する、各陣営の最精鋭を相手に単騎で全滅させ、戦争を泥沼にしたという実績の有る、正に一騎当千。
ただし、タイマンでは、殆ど勝ったことがない……というか、殿戦でボロボロになってから、敵の将軍格に捕獲されたり、谷から落とされたりする。
でも死なない……。
そんなキャラクターがスペアさん。
あるいは親しみと、陣営の危機が一話でひっくり返る意味を込めて、乱ちゃんと呼ばれる人なのである。
「確かに、無駄に説得力が……つか、スペアさん言うな」
「……ファンなんだ……興味ない?」
実を言うと、スッゲーありますが。
誰だって、好きな作品のキャラを、現実で見れるとかなったら悩むだろうし、それが目の前にチャンスとして転がってると、飛びつきたくもなる。
くそ、加倉井さんめ、アンタは悪魔か。
「そうなると、時期が問題か……。
原作で登場時の仮面被って中二病患ってる時か、最後の最後で目のハイライト消えてる頃か」
「……中の薄い本……裏切られて……谷から落ちて……誰でも良いから助けてよ……呟きながら流されて……拾われて……ベッドで目が冷めて……伸ばされる手……ハイライト消しながら……何でもするから捨てないで……握られる手……ハッピーエンド」
「ヒデェ話しだな!! それハッピーなの? まぁ、マシなのかなぁ?
絶望から能力暴走で、消えちゃう原作より」
「……次のページ……奴隷商人に売られてる……アンハッピーエンド?」
「公式が酷すぎる……なんか、スペアさんに恨みでもあるのか!?」
聞くんじゃなかった……。
「……多分、既に落ちてる……手を握って完了?
……助けると思って……やっちゃえ」
落ちてるって、谷からですよね。
えーと、箱開けてみるか……うわ、出来いいなぁ。
武器から鎧から仮面まで付属で付いてやがる。
これが、公式の薄い本か……分厚いんだけど……うわぁ、ほんとに最後、売られてる。
このページ捲ったファン、俺も含めて泣くぞ。
「……フォウさん、どう思う?」
「哀れですね」
「いや、そっちじゃなくて、危険性?」
「ここ迄、筋道が立っていると、ある意味で、絶望的ではないでしょうか」
ですよね……逃げ道があんのかって意味で……。
「じゃあ、やってみるぞ」
「……ワクワク」
加倉井さんは、離れてて下さい。
スペース空けて、寝床の上にフィギュアを置いて、賢者の石を乗せる……吸い込まれて消える石。
次の瞬間、フィギュアが消え、グッタリと力なく横たわった女性の姿が現れる。
こうもアッサリと変化すると、怖い位に思える。
褐色の肌、腰まで流れる銀灰の髪。
凛々しくも儚い美貌が、疲れきって絶望に歪み、救いを求めるように歪んでいる。
何かを求めるように、手がそっと宙に伸ばされる。
これを握れば、この人は救われるのだと思っても、凄まじく罪悪感ががががが。
「……か、かわろうか?」
加倉井さんの声が、此方を気遣っている筈なのに、どことなく邪悪な気配を感じるのは、欲望を隠しきれてなくて息が荒いせいか。
下手な事されるのも怖いので、覚悟を決めて伸ばされた手を握る。
其の瞬間、歪んでいた表情が、ふっと柔らかく解けた。
微かに目蓋が動き、ゆっくりと目が開く。
どことなく何も知らない子供のような、総てを捨て去った後の悟ったような微笑み。
「あなたはだぁれ?」
「一哉だよ。 杵島木 一哉」
ホンニャリした口調に、なんか過去に退行しているような様子を感じる。
追加で罪悪感が凄まじいんですが。
で、此方の顔が引きつりそうに成っていると、彼女の表情に戸惑いが混じり、何かを認識したように理解の光が目に宿った。
「ボク、助けられたの?」
ボクっ娘きたー!! と、加倉井さんが騒いでるが無視する。
「助けたかどうかは判らないけど、好きなだけ此処に居ていいよ。
だから、ゆっくりとお休み」
思わずそう言ってしまったのは、俺がヘタレなだけじゃない。
「ほんとに?」
「うん、本当だよ」
それくらいの責任は取ります。
「じゃあ、ボクも。 なんでもしてあげるし、なんでもさせてあげる。
だれとも戦ってあげるし、だれでも殺してあげる。
だから、捨てないでくれる?」
こくりと、何気なく首を傾げて問いかけてくる目。
それの光には、全霊掛けた思いが見えた。
お、重いよこの子、っていうか、怖っ!?
いや、思い詰めて、病んでても不思議じゃないとは思ってたけど、所詮はお話のことだと甘く見てたか。
リアルで聞いたら、シャレにならないセリフだった。
更に言えば、この子の戦闘力って、原作再現できる条件は満たしてるんだよな。
賢者の石の出力と、原作ファンの思い入れ。
腐っても二次創作での人気っぷりは伊達じゃない。
いや、俺もファンとして逃げちゃいけない所だよな。
あぁ、ファンですよ。 悪いか!!
「誰が捨てるか勿体無い!! 嫌だって言われても逃さないぞ!! コンチクショウ!!」
思わず、涙こぼしながら抱きしめたよ。
二人して大泣きだよ。
加倉井さんが、視界の隅でイイハナシダナーって風情で、拍手してたのが見えたよ。




