01、勇者になった朝
勝手な話で申し訳無いのですが、色々と指摘が有り、一章をガッサリと改稿しました。
ほとんど別物とかしておりますが、今日の内に一章は上げてしまいます。
旧一章は、二章を開始する時に削除します。
あまり無いとは思いますが、保存されるならそれまでに願います。
二章も繋がりの関係上、新しく入れ替えることになりますので、そのうち削除します。
誠に申し訳ありませんが、ご了承願います。
「勇者さまっ、どうかこの世界をお救い下さいっ!!」
は? うぇ? 勇者様? 誰? 俺?
夜食に円盤焼きそば作ってたら、突然何かに話しかけられた。
やばい? とうとう俺も電波拾うような、上級ダメ人間の仲間入り?
いやいや、きっと何かの間違いだろう。
これには何かの仕掛けが有るはず。
となれば、此処は冷静に対処するのだ。
「そういうあんたは誰?」
今気づいたけど、こういう時に冷静なのは、本当に凄いやつか、ラノベまみれな思考のダメな奴な気がする……うん、駄目な方だな。
「わたしは、この世界の意志の遣い。
もし、世界の意志を神と呼ぶのなら、天使と呼ばれるでしょう」
天使さんか……声はすれども姿は見えず。
「じゃあ、天使さんで。 その天使さんが、俺なんかに何のよう?
勇者様って、なんかの間違いじゃない?
俺って、こう言っちゃなんだけど、一般人よ。
パンピー、判る? 工業高校出て、フリーターやってるだけの。
世間的に見ると、碌でもない方からカウントできるような奴なのよ。
趣味に走り過ぎたら、生活費削ってヒィヒィいっちゃうような甲斐性ないやつが、世界系の話なんてとてもとても」
なので、お引取りいただけると嬉しいですよ。
「いいえっ、貴方こそが勇者様なのです!!」
言い切られた!?
「なんで、俺が勇者なの?
どういう基準で選ばれたってのよ。
才能とか、特別なんて言葉は、縁がないんだけどさ」
「貴方は世界の起点となる基準点なのです」
基準点? 何それ?
「なんか大袈裟だけど」
「そうですね、先ずは……あ、三分経ちますよ、お湯を捨てないと」
おっと、焼きそばがふやける。
お湯を捨てて、と。
「わるいんだけど、先に食っちゃっていい?」
「どうぞ、お気になさらずに」
天使さん、いい人だ。
……
…………
………………
「ごちそうさまでした」
手を合わせて、ゴミを片付ける。
「それでは、よろしいですか?」
「あ、はい」
やっぱし、夢じゃなかったか。
「そうですね、基準点云々の前に、お話をしましょう」
「ん?」
「貴方は異世界転生や異世界憑依、あるいは異世界転移という言葉を知っていますか?」
「そりゃ、お話の中のことでいいなら、良く知ってるよ」
はやりのジャンルだし。
「いま、こうも流行っているという事に違和感はないですか?」
「ファンタジーなんて、そんなもんじゃないの?
輪廻転生とか生まれ変わりなんて、昔から良くあるネタじゃない?」
「そうですね、1980年台からこちら、転生という言葉が流行り始めています。
ですが、それはただの流行りというだけではないのです」
なにやら、熱の篭った天使さんの言葉だが、胡散臭いことこの上ない。
「まさか、実は本当にそういうことが起こっているからとか、言わないよな」
「いえ、本当に起こっているのです。
西暦2000年から此方、特に顕著になっています。
その数は2000件をこえており、今も月に2、3件は勇者召還と、それに類した事が起こっています」
多いな!! って、それ大事じゃないか?
「そんな大変なこと、尚更俺には関係ないんじゃないか?」
「いえ、貴方じゃないと駄目なのです!!
異世界に呼ばれそうな、特殊な因子も素質も幸運も不運も意志も動機もとくにない、現世引き篭もり気味の、なぁなぁで生きてる貴方じゃないと!!」
舐めてんのか!! おれだって、ハーレムとかチートで俺TUEEEEEできるなら、異世界行ってやるよ!!
多分……あれ? 面倒くさいか?
「なんか、当たってる気がしないでもないけど……それと勇者に何の関係が」
「あなたは、程々に生きてて楽しめる、この世界が好きなんですよ。
だからこそ、この世界を壊そうとはしないし、守ろうとしてくれる筈です」
そういう風に言われると、何か良い奴みたいに聞こえる不思議。
「でもさ、この世界を守るって、守らなきゃいけないのは、問題抱えてる異世界とかじゃないの?
問題はあるけど、この世界は概ね平和だろ?」
「先程も言いましたが、毎月数件も居世界に勇者が旅立っています。
それが、総て帰ってくるわけではないとしても、幾らかは使命を達成して帰ってくるわけです」
ハッピーエンドでいいんじゃない?
「それらの帰還者は、果たして只の人間足りえるでしょうか?」
「人間じゃないの?」
「只の人間は、魔物を瞬殺したり魔法が使えたりはしません。
そして、他の世界の因子を持ち込んでくるような存在は、この世界にとっては害悪なのですよ!!」
ちょっと、天使さん、怖いですよ。
「更に言えば、戻ってくる時に時間をいじって、出発時と同じ時間座標軸に、イレギュラーな時間的操作をされた存在が帰ってくるのは、害悪を越えてテロ行為です!!」
ハッピーエンドの為のご都合がバッサリだ。
「そして、何より恐ろしいのが、異世界の因子を持ち込んだことに依り、この世界が居世界の理に歪められる『異世界転世』です」
「な、なんだってー!?」
そんな事が? いや、確かにアニメとかでも他所の世界の厄介事が、こっちの世界の破滅の危機とか招く原因って話はあるけど。
「異世界転世が起こると、文字通りに世界が異世界に転換されてしまいます。
規模は勇者の力や、持ち込んだ因子に依りますが、最低でも一つの街。
下手をすれば一地方が、異世界の要素に染まってしまうのです。
そうなれば、異世界の魔物が現れたり、ダンジョンが湧いて出たり、一般の人々に変なスキルが生えてきたりします」
頭の中に、近所がオークの集団に襲撃されたり、近所の学校やら地下鉄の駅がダンジョンになって、そこから怪物が湧いてきたり、平和な日本で安心してたら、近所の不良やらヤクザが剣技やら魔法やらで抗争して人死とか、色々なことが浮かび上がってきた。
「それって、かなりやばいんじゃあ?」
嫌な汗が吹き出てくる。
「だからこそ、貴方の力が必要なんです!! 勇者さまっ!!」
もしかして、これって、まじめにヤバイ話?
この世界を守るためには、受けないとって事?
割りと、ラノベの主人公とかって、「勢いとノリでやってるんだろ」って、思ってたんだけど、当事者になると、なんか強制力と逃げ場のなさというか、ハシゴの外されっぷりが半端ないわ。
最初の焼きそばの件とか何だったんだよ、ゆるい雰囲気で初めて、急にそんな身近な危機に持ち込まれたら、俺はどうしていいのか……。
大体、本当かどうかも判断できないし、嘘ならいいけど、でも本当だったら……。
「なぁ、天使さん。 天使さんに誘われて勇者に為った人って、他にも居るの?」
居るなら、多少は信ぴょう性が……というか、たくさん居るなら、俺じゃなくても。
「そうですね、基準点として選ばれる人は少ないですが、少なくとも日本だけで現在3人いますよ。
貴方に了承していただければ、晴れて4人目の勇者様です」
微妙にリアルな数字が。
昭和ライダーの時代なら、全国規模カバーできる数字だけど、平成ライダーの時代なら、活動範囲が一都市とかだからな、全然足りない数字だ。
そんなに居ると思うべきか、それだけしか居ないと思うべきか……。
「それで、もし勇者になったとして、俺は何をすればいいのさ?」
「それは簡単な話です。
異世界の勇者の持ち込んだ因子を回収、ないしは勇者をぶっ飛ばすんです。
この世界を守る勇者として」
どうやって? 殺しとか、俺に出来ると思うなよ。
絶対無理だからな、普通の喧嘩でも、よっぽど切れないと殴り合いにはならないぞ。
それに大体だ!!
「ちょっと待とうか、天使さん。
この世界に置いとくと危ないような危険物を、唯の一般人がどうしろってのさ?」
「大丈夫です。
その為の力は用意しますし、回収した因子や倒した物の幾らかは、貴方の力にすることも出来ます。
それに元々、基準点は異世界の因子の影響は受けないので、転世変異には抵抗力が有るのですよ。
というよりも、転世変異中に影響を受けないということは、力を持っていないと異端として狩られますよ」
「え!?」
「ある意味で私は、貴方を救いに来たんです」
ちょっと待て!! 最低限、俺に選択肢がある話じゃなかったのかよ!!
ここで、全部聞かなかったことにして、逃げる選択肢が潰されたぞ。
「それにもうすぐ勇者が、この辺りに帰ってきます……そう長い間、思い悩む余裕はないですよ」
本当に待てよ!! 心臓が痛い、胃が痛い、汗が止まらない。
「ちょ、くそっ……一つ教えろ!!」
「なんです?」
「俺が勇者になって、異世界の力を手に入れたからって、それを理由に排除とか無いよな!!」
そんなことだったら、冗談じゃない。
使い捨てとか、最近のアニメでもありがちな話だ。
「それは勿論。 勇者になって貰うためのメリットですよ。
いえ、正直に言うと、勇者は異世界の因子を回収・隔離してくれる、大事な存在ですよ。
回収すればするほど、強くなり効率も上がる。
そして、回収した異界の因子は、こちらの世界の勇者に取り込まれた時点で、こちらの世界には無害ですからね。
ぶっちゃけると、生きた危険物処理場ですよ」
ひでぇ、無茶苦茶だ。
「そんな事を言って、集めさせるだけ集めさせて、処分とかじゃないだろうな」
「そんな事しませんよ。
強くなった勇者は大事ですから、強くなれば長生きして、長く使えるんですし。
安心して下さい、寿命で死ぬまで、お付き合いしますよ」
全く安心できないよ!!
どこに安心の要素があったんだよ!!
「更にというのは変ですが、勇者には綺麗な妖精をサポートに付けますよ。
彼女達は、勇者の為に働くのが使命。
好きにして貰って構いません」
言われて、脳裏にイメージが浮かぶ。
黒髪ストレートロングのスレンダーな姿。
まだ、大人に成り切れていないような儚さと、怜悧な美貌が同居している、まさしく妖精といったイメージだった。
「マジか?」
唐突過ぎて、頭の回転が止まった。
今の俺には望むべくもないような、高嶺の花だ……それが?
「可愛がってあげてくださいね」
俺の心を読むかのような、天使さんの声……。
いや、俺は了承とかしてないし、未だ決めてもないぞ!!
「でも、決めないと、変異によっては何も出来ずに死にますよ。
ファンタジーで良くある、第一犠牲者のモブになりたいんですか?」
逃げ場がない。
くそ、悩む場所もない。
それでも、考えがまとまらない。
こうしているのが凄く辛い。
さっさと、決めて楽になってしまいたい。
どうせ、選択肢は潰されてるんだ。
思い切ってしまうほうが楽だ。
「くっそ、やるよ、やってやるよ!!」
「有難うございます。 それでは、加護を与えますので……」
「うん?」
「覚悟して下さい」
「なに!?」
瞬間、俺の中のブレーカーが落ちた。
人間、耐え切れない苦痛や何かを受けると、意識が落ちるってのを実感した。
覚悟したからどうにかなるってもんじゃ無かった。
脳みそに手を突っ込まれて、何かを繋げられてる感覚とか、どう耐えろってんだか。
いったい、どれ位の時間が経ったのかわからないまま、俺はいつの間にか終わっている地獄に感謝した。
「おはようございます。 気分はどうですか? 勇者様」
目覚めた俺に、天使さん――俺にとっては、悪魔よりもヒデェ存在だ――の声。
眼を開くと、そこには今まで見えていなかった、天使の姿。
金髪碧眼、ギリシャ神話の時代を彷彿とさせる白い薄衣に身を包んだ、紛うことなき天使。
その翼、頭の光輪、あどけない容貌と、真逆の妖艶な体。
目を奪われるというのは、このことかと実感する。
「私が見えますか?
勇者様には、異界の因子に対応する感覚と、ある種のマジックポイントを付加しました。
使い方は妖精に任せれば大丈夫ですから、安心して下さい」
何の罪もないような、なんとも総てを許してしまいそうになる、微笑みを浮かべる天使だが、さっきの苦しみは許しがたい。
「駄目ですよ、私は忙しいのです。
それに、異世界の女神とか精霊なら好きにして構いませんので、私のことは諦めて下さいねー」
チラリと浮かべた考えを読まれたのか、それだけ言って、天使さんは姿を消した。
「くっそ、いつか覚えてろよ!!」
俺には、そういって毒づくことしか出来なかった。