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脳筋系自称TS女子による迷宮探索(仮)  作者: 脳筋女子支援の会雑用係4号
第一章「脳筋異世界に立つ」
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波なう

これはアウトでしょうか?

 現在仕事探し中なう。

 ちなみにギルドでは通常の仕事は扱ってませんでした。

 迷宮ギルドは迷宮以外の仕事が請け負っておりません。迷宮内部での仕事をしたいなら踏破数上げてこい素人が、的な事をフランちゃんじゃない受付嬢さんに冷たい視線と共に言われたのが今から五分前程。心が折れそうです。我々にはご褒美ですとか言う余裕ないから、あの視線。……やっぱり冒険者ギルドではなかった。うん、途中で気付いていた。

 まあね、私も夕暮れ時に聞くことじゃないと思ったものさ。でも実際問題お金がなければ食事はできないんですよ、食べないと死ぬんですよ、だから紹介して欲しかった。

 しかし神は私を見捨てなかった。親切な村人Aさんからそれならと請負ギルドなるものがあると言われ、現在はそこに案内してもらっている最中です。いや、いい人ってどこにでもいるんやね。

 細い、一通りの少ない通りを進み、街並みがガラリと変わって寂れた道を進むこと十数分。

 そうして着いたのが酒場である。……え?

 二度見しても酒場である。名前は「ラクリアの祝杯」、入口には風に揺れる看板が吊るされている。開店中らしく、中では様々な人が陽気に歌でも歌いながらジョッキ大の酒樽を手に、ラリホーラリホーと大騒ぎ。いや、ラリホーとは言ってないが。ただともかく大騒ぎしているのだけは間違いない。

 え、ここ本当に請負ギルドなの? 迷宮ギルドみたいな危険な感じはしないけど酒とタバコの臭いだけならこちらの方が上やん。しかも明らかに娼婦らしき格好の人がムキムキな方々にしなを作って寄り添っとる。あかん、あの衣装前開きすぎだ。

 

「その、連れてきていただいて失礼だが、───本当に請負ギルドなのか?」


 振り返るが先程の人がいない。変わりとでも言うかのように無数の男が囲むように背後に回っていた。前からも何人かが歩いてきて、目がギラギラと輝いている。もう慣れ始めているエロい視線に、自分がどうして此処に連れ込まれたのか理解して、とりあえずどうしようかと悩み、


「人身売買ギルドにようこそお嬢さん。今なら全員で歓迎パーティを開いてやるぜ?」

「とりあえず巻き上げるとしよう」


 小遣い稼ぎにちょうどいいし。



 ◆



 グロリーアにも闇がある。むしろ光が強い分その闇も深い。

 グロリーア南部に存在する、旧商工区域は現在では宿を追い出された探索者や職に溢れた半端者、生粋の犯罪者が彷徨く危険区域と化していた。

 そんな場所に住むような輩は基本的に外道、下衆の類いであり、人を食い物にする事をよしとする者ばかりだ。───そして、人を商品にするのは、迷宮都市内外問わずに需要が高い事は今更言うまでもない。


 人身売買ギルド。

 表向きは請負ギルドと言われており、年間何人もの人間が気付かぬ内に奴隷契約を結ばさせられ、そして気付いた何人かには物理的に黙らせた後、強制的に奴隷契約を結ぶような場所である。一応独自のルールがあるのだが、それを守らない者がどうなるかは誰も知らない。

 そんな人身売買ギルドを最近騙り始めた酒屋がある。名を借りる事で自らもと、妄想を繰り広げて現在三ヶ月目の「ラクリアの祝杯」。迷宮探索の際掟破りを行い、追い出された三流以下の探索者達が集まってできた犯罪組織モドキ。彼等自信の末路は人身売買ギルドを騙った時点で決まってはいたものの、それを知らず増長をしていた彼等は、裏の精細よりも先に一人の災厄とぶち当たった。


 引き込み役である男に連れられてきた紳士服の女。今まで見た中でも指折りの美人であり、その無表情を淫らに鳴かせたいと暗い欲望を抱く程度に女の色香は凶悪だ。

 純粋な善意で案内されたと思っていたらしい女は酒場に入る直前に立ち止まり、悩む素振りを見せている。バレた可能性を考慮して背後に回った組員がおよそ15人。隙間など無いと言わんばかりに並んだ男達に気が付いた女は、表情を崩すことなく冷静に周囲を見渡して、更に悩み始める。そこに恐れや怒りといった感情はない。どこまでも自然体である。

 それに苛立った男の一人が女に下卑た笑みを浮かべて最低な発言をした途端、彼女は行動に移る。

 前方で笑みを浮かべていた男に瞬時に肉迫し、反応する間もない速度で腹部に拳が突き刺さる。笑みが苦悶に歪むよりも早く、顎を揺らす一撃を背後に振り返るついでに放たれ、それだけで男の顎が砕け、意識を手放していく。

 それを見て慌てたかのように襲いかかる男達を相手に、女は気負う様子もなく、ただ冷静に身体強化を使用した。全身から溢れる清光に、元探索者達は一つの話を思い出す。高純度の魔力を持つ者が発する清光を、そしてその強大さを。


 そして、女が一歩前へと踏み出して、───弾けた。

 地面が大きく爆散する中、後方で隙を伺っていた男が空を舞う。舞う男の背中には女が張り付いており、空中で押さえ込むかのようにしがみつくと、どのように行ったのか、魔力が爆発すると同時に高速に回転しながら地面へと墜落した。轟音とともに立ち上がる女の背後には砂煙に隠れた男が胸まで地面へと埋まり、垂直に捻れたまま動かない姿が僅かに見えている。あれはもう、生きてはいないだろう。

 

「おい! 魔法使えるやつあいねえか!?」


 慌ただしい店内で大慌てで駆けてくるのが三人。どれもわかりやすく魔法使いであり、隠すつもりのない杖は高級品ではあるものの、彼等の性根を表すかのように品が無い。使い込まれたと言えば聞こえがいいが、手入れもされていないソレは当初の性能は期待できないだろう。

 そんな魔法使いの登場など眼中になく、女は縦横無尽に暴れている。今も一人が股間を蹴り砕かれ悶絶し、屈んだ拍子に膝が顔に叩きつけられている。その攻撃の隙をつこうと駆け寄る者達には、見事なカウンターで骨を砕き、肉を潰している。その様子はまるで鬼のようで、血で濡れた僅かな笑みは蠱惑的で見る者を魅了し、同時に恐怖させるだろう。

 女が暴れる最中、魔法使いの三人組が各々の得意な魔法を詠唱し始める。一人は灼熱の球体を、一人は雷の蛇を、一人は大柄な石人を。どれも人を殺すには十分過ぎる威力を持った魔法が完成すると同時に、周囲の人間は飛び退いて、逆に女は待ち構えるようにその動作を見送っていた。何を思っているのか分からない、相変わらずの無表情で───笑ったのだ。



 ◆



 人間相手の戦闘に緊張とか感じる事なく縦横無尽に殴り、蹴り、投げ、折る。こんな物はただの作業だ、魔物相手とそう変わらん。───何でだろう、何かを殺すのに躊躇がない。

 それはとても悪い事だ。人を殺して何も感じないなんて異常だ。でも、今の私には有り難い。殺して生きる。当たり前だ。だから私は後悔しない。


「おい! 魔法使えるやつあいねえか!?」


 騒がしい奴が一人いる。どうやら援軍要求してるらしい。個人的に有り難いね、パッと見全員貧乏臭いし。増えてくれた方が金になる。もちろん巻き上げ要因的な意味で。


 しかしまあ、今言葉の中に魔法使いがどうとか言っていたような? 遠距離からの一撃必殺でも狙うつもりかね?

 まあ、それならこちらも試してみよう。私が憧れ、そして出来る筈がないと諦めたロマンを。夢を。男達の魂の技を。


 ちらりと視線を向けた先にはそれらしい格好の男女が一人と二人。周囲は次第に離れていき、動かない人間は気絶か、死んでいる者だけだ。あちらさんは仲間殺しも大した問題ではないらしく、容赦なく放つ予定らしい。

 完成した魔法に周囲が四方八方に逃げる中、私は笑みを浮かべて全身強化をそのままに、───「破壊者」を不完全に使用した。



 ◆



 魔力が迸る。

 膨大とは言えない、しかし限り無く高純度の魔力が瞬間的にその場を支配する。

 何が、いや何をしたと女を見れば、女は腰を深く落とし、両掌を向かい合わせるような奇妙な構えのまま、魔法の詠唱を終え、完成した魔法を発射する寸前の魔法使い達に爛ッと輝く双眸を向けていた。

 魔力を発しているのは女の双掌、その中間。渦巻くように高まる魔力の猛りがその規格外な能力により、増幅されていく。視認可能な程に高密度、高純度の魔力がうねり、空間が歪んで軋みを上げる。

 そんな有り得ない現象を前に魔法使いの一人が悲鳴を上げた直後、魔力は先の圧力など嘘のように収縮され、女の掌の中で清光放つ球体と化していた。それは内側に円運動を繰り返し、小さく自らを折り畳んでいくかのようだ。


 ───これはまずい。

 何をしているのかはこの場にいるもの誰もが理解していない。しかしアレが完成しては無事ではすまない。

 予感ではなく確信を持ってその結論に覚悟を決めた魔法使いは、ほぼ同時にその魔法を発動させる。


「フレアシュート!」「サエッタセルペンネ!」「ラグルマアデン!」


 飛来する灼熱の砲撃、 空を這い回る雷の毒蛇、地を踏み砕く岩石巨兵。同時に放たれた魔法の先陣を切るのは爆るように進む灼光の魔弾だった。


 魔法使いと女の距離はおよそ20メートル。着弾するまで三秒と掛かるまい。これならあのキテレツな魔力を使用する暇もないだろう。───と、魔法使いは、実に魔法使いらしい(・・・)考察に唇の端を歪ませた。


 しかし、女は魔法使いではない。そも魔法の初歩すら知らぬ物理特化の筋肉崇拝主義だ。

 そんな女が出来る事など単純明白で、ゆえに魔法使いには理解できない。


 双掌内の魔力が一瞬で膨れ上がる。指の隙間から溢れる清光が眩く周囲を照らし、意図的に制御を放置した魔力により発生した熱量は、使用者すらも焼き付くさんとその双掌を焼き付ける。

 双掌を前へ突き出すと同時に、下手くそながらに制御された魔力の奔流は内側を喰い破るかのように弾け、



「───波あああッ!!」



 炸裂した。

 それは純粋な魔力砲撃。属性などない魔力の奔流。初歩にして究極の魔力弾。

 一直線に進む清光は軽々と魔法を呑み込んでいく。灼熱の魔弾は圧倒的な熱量差に焼失し、雷の毒蛇は掻き消されるように弾け消え、岩石巨兵に至っては融解して周囲へと飛び散てしまう。

 向かう先に待ち構えた魔法使い達は避ける事すら忘れたのか、目の前の出鱈目に思考が停止している。

 そもそも有り得ないのだこのような現象は。

 魔力は何の現象も起こせないエネルギーだ。そのエネルギーを使用して発生させた魔法を圧縮し、より強力な一撃に変化させる術ならばまだ理解も出来ただろう。しかし、アレは違う。アレは純粋な魔力砲撃だ。圧縮しようがそれはただ密度と純度を上げるだけ、周囲に影響を及ぼすような熱量が発生する訳がない。

 ───一つだけ方法がある。

 魔力が不安定な幼年期時代は稀に魔力を暴走させる子供がいる。この際に被害を発生させる子供の中には先天的属性皆無症、つまり無属性の子供も存在している事から魔力が暴走した場合に限り、魔力は破壊力を有したエネルギーへと変換されるのではと、某国の賢者が研究している。それを利用してだとするのなら、なるほど確かに可能だろう。


 だが、それならば何故彼女が荒れ狂う魔力を制御できたのか、それが一切理解できない魔法使い達の一人を突き破り、両隣の魔法使いはその熱量で煮え殺したまま突き進む魔力光弾。

 それは酒場の入口付近に突き刺さり、地を貫いて煙を上げる。そして、爆音と共に魔力が周囲に弾けると、酒場を包み混むかのように膨大な魔力がドーム状の力場を形成し、その内部を噛み砕くかのように融解させていく。阿鼻叫喚の地獄絵図は、しかしドーム外に響く事なく融かされていき、残るは消失した酒場跡のみ。


「ああ、」


 自らが気絶させ、中には殺した者達を尻目に、女は消失した酒場の前で小さく呟いた。


「財布を抜き取るのを優先すべきだったか」



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