ステータスなう
「蒐喰家」の説明文変更
ギルドから飛び出して一時間。
人々に道を尋ねながら必死に駆けずり回り、変な道に入って奇妙な若者ABCと殴り合いの末に小遣い500ハオをもらい、そのお金で露天に並んでいたゴリの実(ぱっと見マッチョな男性がラットスプレット・フロントをしているかのような果実。見た目に反して爽やかな酸味が特徴的である)を頬張りながら、泣いてる子供に飴をあげたお返しに案内してもらってようやくたどり着いた。
木造建築のその宿は一回部分がカフェテラスになっているらしい。開けっ放しのガラス戸の向こう側では女性客が中心になってランチをしている。そんな中、肩身が狭そうに縮こまって食事している男性客が少しだけ不憫だった。あれ、視線とか向けられると本当に辛いんだよな。
ともかく扉を開けて入ると鈴の音が響く。あ、こっちでもそういうのあるんだ。
入ってすぐのカウンターには色っぽいお姉さんがたおやかに微笑んでいる。本日三回目の赤い髪で、燃えるような鮮烈さでなんとも印象深い。顔立ちも似ているような、……気のせいかな?
「あら、いらっしゃいませ。宿泊ですか、御食事ですか」
「宿泊したい。初心者支援が云々と言われたのだが、カードを見せればいいのだろうか?」
「その通りです。それではカードをお借りしますね」
手渡したカードはメカニカルな機械に通され、緑色のランプが灯る。……もしかして、カードリーダー? 古代技術が云々って言ってたけど、もしかして科学方面の発展をしていたのかな?
ううむ、にしてもこのカードリーダーはどこかで見た事があるような、ないような? あれ、なんか思い出せん。割と身近にあった気がするんだけど。まあ、思い出せないんならどうでもいいか。
「はい、確認しました。確かに登録されたばかりのようですね。それでは何日宿泊されますか?」
「手持ちがこれだけでな、とりあえず食事無し温水支給無しで構わないので泊めれるだけ止めさせて欲しい」
「それでしたら初心者価格で一週間までお部屋をお貸しします」
「有難い。ところで初心者価格はいつまで可能かお聞きしても?」
「登録から半年が経過するか、ギルドから十分な収入を得る事ができると判断された場合此方に連絡が来る事になっています。あまりに急に変えると追い出すような可能性もありますので、停止1ヶ月前には連絡下しますのでその点はご安心ください」
「把握した」
「部屋は二階の最奥にあります。カードに一週間だけ鍵としての機能を付加してありますので扉にかざして頂ければ平開ができますので」
便利だな古代遺産。
そしてそれを平然と使いこなしている現代人に敬意を覚えるよ。楽する方向には理解が早いのは人間的だとじい様が言ってたような、そういうあの人はケータイを川に放り投げたけどな。らくらくホンバイト代で送ったのにその結果、あまりにあんまりだと内心滂沱の涙だったのは言うまでもない。ちなみに外面は完全なる鉄仮面である。
まあ、ともかく。これで部屋は確保した。荷物など何もないが、とりあえずは部屋に行ってみるとしよう。二階の一番奥らしいし、迷うことはないだろうし。
階段を上り、廊下をひたすらに突き進む。故郷の宿のように途中で花や絵画が飾ってあるわけでもない、どちらかというと田舎の安いホテルのように殺風景な廊下の先に扉がポツンと会った。近くにスキャナーらしきものがあったのでカードをスライドさせると、ピッという聴き慣れた音が響いて扉の鍵が自動で開いた。うん、なんて現代的。
部屋の中は廊下よりも殺風景だ。周囲を一望できる窓と、外からの視線を遮る為のカーテン。硬そうなベットに、椅子と机。あとは何故か宝箱がひとつ。たったそれだけの部屋だった。
それでも私が知っている部屋と比べれば物が置いてある方だろう。なにせ私の部屋はこれに輪をかけて殺風景だった。枕と布団のみ。そんな部屋だったのをよく覚えている。就寝とか10時だったしね。
ともかく一度ベットに腰掛けて、ちょっと自分の能力とやらを試してみよう。そういうのもなんか主人公っぽいし、なんとなく自然と頬が緩んだ。
さて、という訳で先ずはカードをチェックして───、うん?
【迷宮探索者№37564】
【名前】ジョン・ドゥ【出身地】ニホン
【称号】異世界漂流者、一騎当千【加護】寵愛「暴神ティオ」「喰神ベンネ」
【職業】暴喰巫女〈LV2〉【職業補正】魔力感知、治癒力増強
【魔力量】520【魔力体質】常時体内循環型/純魔力生成体質
【能力】観察眼、自然体、無之型、再生、魔力操作【神贈】破壊者、無制限、蒐喰家【固有能力】無限スーツ、瞬時着替
【装備】異界の礼装、スニーカー【所持金】0ハオ
【実績】探索回数1、迷宮踏破数1
テレテッテー! ジョン・ドゥはレベルアップ!
……本当にゲームみたいだよね、レベルとかさ。命のやり取りして、その成果が現実として知ることが出来るって能天気に考えてる私からしても違和感が酷い。まるでゲームシステムを基準にこの世界の法則とかが作られてるんじゃねとか思う程度には違和感だらけだ。
まあ、そんな疑問は今は何処かに投げっぱなしジャーマンするとして、とりあえず能力やらがどんな物かを調べてみるとしよう。えっと、カードを適当にいじってステータス詳細表示を選択して、……おお、やっぱりあったぞ説明文。
えっと、なになに?
【称号】成した功績により神々から贈呈される。能力とは別に補正が発生する。
「異世界漂流者」異世界より流れ来た者。成長率に大幅な上昇補正。
「一騎当千」一度の戦闘で千を超える敵を屠った者。戦闘時に敵対する対象が複数存在した場合、能力値に大幅な上昇補正。
【加護】神々、精霊、英霊等、人知を超えた存在から気に入られた物に贈らられる祝福。興味以上で祝福、親しみ以上で加護、愛された場合寵愛と表記される。
「暴神ティオの寵愛」暴神ティオから愛された証明。権能の一部が贈呈される。神殿で連絡を楽しみにしているらしい。
「喰神ベンネの寵愛」喰神ベンネから愛された証明。権能の一部が贈呈される。神殿で連絡を楽しみにしているらしい。
【職業】自らが選んだ道。適性の有無に関係なく選択可能だが、才能がなければ成長することができない。神々に愛された者は自動で巫女、神子になる場合もある。
「暴喰巫女」暴神ティオ、喰神ベンネの巫女である証明。神々が対応する属性の魔法を習得可能。神々の肉体を捧げる事で能力の強化が可能。
【職業補正】その職業に付くことで得ることが可能な恩恵。
「魔力感知」意識せずとも魔力を感知する事が可能。魔法軌道、規模が先読み可能。
「治癒力増強」生物が持つ治癒力を増強させる。治癒速度が上昇する。
【魔力量】魔力の総量。属性、質等は関係がない為実力に繋がるわけではない。
【魔力体質】魔力の特性、体質。魔力の性質や、純度等が極めて特徴的な場合のみ記される。
「常時体内循環型」体内を魔力が常に循環している。治癒力の増強、微弱な肉体活性等が常に発生する。
「純魔力生成体質」純度の高い魔力を生成している。純度の高い魔力は燃費が非常にいい。結果として魔力消費の軽減に繋がる。
こうして見ると案外凄い物ばかりである。
と言うか、私千体も骸骨倒してたんだ。個人的に無双じゃヒャッホーと言う気分だったのであんまり覚えていない。しかも時間で消失するらしいから尚の事だ。そして魔力体質が優秀すぎやしませんか、いやまあ、有難いんだけど。これはアレですか? 主人公補正と言う素敵仕様ですか?
まあ、それはそれとして、次は能力を見るとしよう。これからの戦法にも反映しなければいけないしね。
【能力】行動により習得する技能、特性の総称。生まれ持った才能が左右するため同じ技能でも個人差が生じる。
「観察眼」何かを観察する際の注意力、直感力の上昇補正。
「自然体」環境適応能力上昇系能力。肉体が環境に左右される事がなくなる。
「無之型」行動の省略化。予備動作等を飛ばし、即座に行動が可能となる。
「再生」肉体の自然治癒力を補正。肉体欠損が発生した場合でも時間があれば修復が可能。
「魔力操作」魔力の操作方法に習熟した証明。魔法使用時における魔力の効率化。
【神贈】神々の寵愛を受けた者に贈られる神々の権能の一部。それ以外での習得は不可能。
「破壊者」暴神ティオの権能の一部。魔力の増幅、圧縮、暴走、制御を同時に行う事で魔力を高密度、高純度の神力へと変換する。変換された神力に更なる増幅、圧縮、暴走、制御が自動で行われ、暴神力へと変換される。攻撃を行う際は光速で射出される暗黒色の球体として発生し、その弾道状に超神聖爆発を巻き起こす。強化に使用する際は闇紫色の神気を纏い、単純な肉体の強化以外に、神気によるブーストが可能。尚、暴神力を経由して稀にティオが姿を見せることもある。
「無制限」暴神ティオの〝本質〟の一部。所持者の限界値を破壊する事で制限機能を消失させる。この制限は成長力や肉体性能のみではなく、所持者が有する能力、神贈、個人能力に対しても発生し、場合によっては能力等を上書きし、上位の能力へと昇華させる。
「蒐喰家」喰神ベンネの権能の一部。掌を起点に〝口〟を展開する。生物以外の触れた物は〝口〟により吸収される。吸収された物は純粋なエネルギーとして〝胃袋〟に保存され、必要に応じて使用する事が可能。エネルギーに変換する事なく、そのままの状態で保存する事も可能だが、その場合〝胃袋〟内部に時間の概念が存在しない為、食材の熟成等を行えない。
【個人能力】何らかの理由で稀に習得する個人専用能力。便利な物から不便な物、特に意味の無い物等当たり外れが大きい。
「無限スーツ」時間経過による消失が発生しない、一点特化による完全なる創造能力。スーツはカスタマイズ可能で、持っている物品を材料として選択する事でその性質が反映されたスーツが現れる。その際に登録した性質はいつでも使用可能状態となり、複数選択も可能。実はスーツのみではなく、下着や靴も創造可能。ただし選択できる特性は二つのみ。
「瞬時着替」衣服の早着替えが可能。どのような条件下でも可能で、着脱だけでも問題ない。着ていた衣服は戦闘中以外は畳まれた状態でその場に現れ、戦闘中は敵の眼前に現れる。何故このような特性があるのか不明。
「いやまてなんだこれ」
思わず言葉が漏れた。
通常の能力は、まあ分かる。普通にゲームとかでもあってもおかしくない代物である。
しかし神贈と個人能力がおかしい。前半後半両方性能がぶっ飛んでる。バランスブレイカーと言うか、チートと言うか。ゲームバランスが破壊されてしまう。いや、ゲームじゃないからワールドバランス? って、そんなことはどうでもいい。
おかしくね、なんで私こんなの持ってるの? 神様私の何が気に入ったん? と言うかコレ、誰かにバレたらやばくね? ヤバくね?
───よし、こういう時はあれだ。寝よう。現実逃避しよう。
せっかくなので「瞬時着替」を使用して、ルパンダイブでベットに飛び乗ってみた。