ギルド登録なう
Q,ファンタジーの定番と言えば?
A,ギルドに決まってるじゃないですか。
そんな感じで現在ギルドを探し中。ただまあ、それだけの理由では探していない。状況も分からなければ金もない。ついでに家なき子。そんな状況で頼れるのは誰でも入れる冒険者ギルド以外にないじゃないですか。ファンタジー小説知識的に。それで大抵の小説は事なきを得てるから問題ないよね?
色々な人に話を聞きながら、現在は街の中央にあるらしいそこを目指している。大きな看板が目印ですよと言われているので探しているのだが、どこもかしこも看板だらけでどれがどれだかわかりゃしない。しかも文字が読めないという残念具合だ。どうだ参ったか(泣)。
それでも諦めずに歩き続けて15分。ようやくそれっぽい看板が見えてきた。
大きさとしては一変が2メートル程の正方形、文字は読めないけどなんとなく達筆っぽい。装飾は少ないけど、その代わりと言うかのように掘られた矢印がデカデカとしている。こっちに行けば大丈夫なのだろう。……あれで間違いないよね?
これで間違ってたらどうしようか。行った先には荒くれ者とかだったら洒落にならないんだけど。
ええい、男は度胸だ女は愛嬌だ。今はどっちかと言えば女だけどその場合は真逆になるので問題なし。
気合を入れて矢印方向へと突っ走る。いや、本当は歩いてるんだけど。気分的に突っ走ってる。周囲の視線もエロくてウザイし。と言うか、確かに胸とかデカいけど、元が私やで? 予想やけど私悪鬼羅刹のような無表情やろ? どうして身体だけを見て発情できるん? あれか? 顔よりもボディ派か? ううむ、彼女いない歴年齢の私にはその辺はよくわからんのよ。
しばらくして見えてきた建物、西部劇に出てきそうな酒場を小綺麗にしたかのようなソレを前に私はようやく安堵した。近くの人に確認したらこれがギルドで間違いないらしい。確かにそれっぽい格好の人ばかりいる。実際の大剣って予想より細身なんですね、魔法使いっぽいお姉さんの露出凄まじいです。起伏に乏しいのが残念だけ、───やべえ、視線が合っちまった。
何も考えていませんよと内心で口笛吹きながら、いそいそとカウンターへと突撃する。
そこにいたのは門番の天使ちゃんに似た、しかし彼女よりも強気そうな少女。もしかしたら強大なのかしら? だとしたら強気天使と癒し天使のセットで2時間何円ですか?
「───あん、何かようか巨乳?」
眼力凄まじい。口調荒っぽい。天使と正反対にも程があるぞこのお嬢さん。でも可愛いから許しちゃう。ああもう、可愛いって素晴狡い。そしてお嬢さん、貧乳はステータスです。ですから私の胸に指向けるのやめてくださいお願いします。刺さってる、刺さってるから! そして周囲の野郎共の視線も突き刺さってるから!
「登録をお願いしたい」
「正気? まあ、いいけど」
その後、少女のツンデレが似合いそうな声での説明を受けながら悦に至る。
ただし内容はちゃんと聞いてたよ。ようするに他人に迷惑をかけない、全部自己責任、カード無くしたら再発行のそれなりの金額が必要ってことらしい。
「この書類に記入をしなさい。文字が書けないのなら代筆するけどどうする?」
代筆頼んじゃおっかな。でも一応私は日本語も、簡単な内容なら英語も書けるわけで。一応年上だし、小さな子供に代筆頼むのもなんか恥ずかしい。よし、通じるか分からないけど自分で書くとしよう。
「必要ない。……ただ、各項目の説明を頼む」
「……名前、出身地、主要武器、特殊技能よ」
手渡された書類に、ペンを走らせる。
取り敢えず名前や出身地は正直に書くとして、それ以外に項目を頭を悩ませながら書き込む。
「名前」匿名希望「出身地」日本「主要武器」肉体言語「特殊技能」パルクール
よし、こんなもんだろう。名前はあえて書かない、何故ならその方が格好いいから。
ソレを受け取った天使から「バカジャネーノ」と言いたげ視線を受けてちょっとゾクゾクしません。むしろオロオロします。やっぱり日本語じゃ通じへんかった?
席を立って奥に消えた少女を不安に思いながら、おとなしくその場で立ち尽くす。これからどうなるんだろう、ハナモゲラ語扱いでなかった事にされるのだろうか。くっそう、私は(一部を除いて)本当の事しか書いてないですよ!
しかしそんなことはなく、戻ってきた少女に次の作業を支持された。
次はカウンター右にある扉の向こうで作業を行うらしい。特に疑問に思うこともなく普通に入室する。
そこは奇妙な部屋だ。床一面に広げられた魔法陣──ちなみに魔方陣ってのは間違いらしい。本当は魔円陣が正解だとか──が描かれている。なんというか、アレである。魔法陣の知識なんてないようなものなんだけどすげえ形である。一つの魔法陣の中に小さな五芒星の魔法陣が5つ存在している。そしてそれ等を繋がえるように描かれた螺旋状の文字列もなんとも特徴的だ。ぱっと見アルファベットのようにも見えるけど細部が違う。なんかこう言うのに使われてる文字ってラテン語とかヘブライ語のイメージがあるんだよね。まあ、違うだろうけど。
中にいる係員の人の指示に従ってその魔法陣の中央へと移動する。
何が起こるんだ? なんか魔法陣がピッカピカと赤く光ってるんだけど。こういうのってトラップっぽいよね、何と言うか。それとも私はモンスター扱いでこの魔法陣から何かを得て進化でもすんの?
表面上は平然と、しかし内心ハラハラドキドキしている私に襲いかかったのは突然の激痛、それはまるで内側から溶けるかのような、同時に血液とともに何万もの刃が巡るかのようなおぞましいさ、胃が何度もひっくり返り、脳が勢いよくシェイクされる。
徐々にその激痛が引いていき、冷や汗、脂汗を垂らしながらもなんとか倒れずに済んだ。ただし視界に燐光がちらつくし、ついでに胃液ぶちまけたい類の気持ち悪さが襲っている。ううむ、なんだこれ。訴えてもいいと思うのは私だけか?
「うわっ、耐えやがった」
おい、耐えれない前提の作業かよ。せめて事前に情報を与えてくれよ。
そう、無言の威圧で伝えるが、相手は溜め息を吐いただけで退室を促してくる。ああ、腹が立つなと思いながらも、しかし私は子供ではない。耐えれない前提の苦行を耐えた事に内心でドヤ顔しながらゆったりと扉をくぐり抜ける。───べ、別に気持ち悪くて早く動けないわけじゃないんだからね!?
……すまん、誰得だった。
先程のカウンターに戻ると、天使が目を見開いてこちらを見つめている。はて、何か変なところでもあるのだろうか?
「あ、あ、あんたッ!? なんで普通に出てきてるのよッ!?」
「作業が終わったからだが、何か問題でもあるのか?」
仏頂面と無愛想な口調、全体的な雰囲気からして鉄のように固い私を前に周囲も沈黙した。
周囲の視線がエロではなくなったのは僥倖だが、しかしなんともこそば痒い視線へと変化されても、なんだ、少し、困る。……女になってから色々な視線向けられるなぁ、やれやれだぜ。
「うわっ、コイツ本当に人間?」
さりげなく人間否定されている気がするが別にどうでもいいや。
だって周囲からの視線もそういうのが多分に含まれてるんだもの。安定と信頼の「>どうでもいい」で乗り切るんです。「>そっとしておこう」でも良かったかも。どちらも格好いいので大好きだ。現状どちらも解決には至らないけどね。
「あー、まあいいや。アンタのカード自体は出来てるから、……はい」
渡されたのは門番天使レベッカちゅわんが持っていたタブレットモドキの小型版。暗い画面を指で触れると途端に明るくなり、そこに私の情報が事細かに記されていた。
【迷宮探索者№37564】
【名前】ジョン・ドゥ【出身地】ニホン
【称号】異世界漂流者【加護】寵愛「暴神ティオ」「喰神ベンネ」
【職業】暴喰巫女〈LV0〉【職業補正】魔力感知、治癒力増強
【魔力量】500【魔力体質】常時体内循環型/純魔力生成体質
【能力】観察眼、自然体、無之型、再生【神贈】破壊者、無制限、蒐喰家【固有能力】無限スーツ、瞬時着替
【装備】異界の礼装、スニーカー【所持金】0ハオ
【実績】探索回数0、迷宮踏破数0
……私なんか神様に気に入られているっぽい?
そして色々と突っ込みどころが満載な気がするのは気のせいなのだろうか。……と言うか、なんだこの無限スーツって。
適当に画面を弄っていると隠せることが判明した。なので「名前」「装備」だけを閲覧可能状態にしてそれ以外は閲覧不可能状態にしておく。これは他人には見えないけど、自分には見えるという現在社会も真っ青なファンタジー的特殊機能である。ファンタジーすげえ。
ふふん、何はともあれこれで私も冒険者である。先ずは簡単な仕事でも探して、金が貯まり次第野宿から宿にランクアップを目指すのだ。
「早速だが仕事を回してもらいたい」
「はぁ? あんたが行うのは先ずはチュートリアル、初心者用の迷宮の探索しろってさっきの説明の時に教えたわよね?」
「聞いてないな」
「……あれ? マジで?」
マジマジと頷く。
「……あー、ごめん」
「気にしてない。それよりもその迷宮は何処にある?」
「そこに階段を下りた先に転送ポータルがあるわ。慣れたら自分で操作してもいいけど、今は担当者に任せなさいよ? それで何人も未帰還者が出てるんだから」
それは怖い。よし、絶対に手順覚えるまで勝手に構わない事にしよう。
しかし転送ポータブルとは、ファンタジーと言うかSFの単語だと思ってた。もしくはゲーム。
「承知した、それではまた」
「生きて帰ってきなさいよ、死んだら仕事が増えるしさ」
「ふむ、まあ、増やす事はないだろうさ」
チュートリアルクエストの始まり始まり!
にしてもこの天使の名前聞くの忘れてたや。ま、いいか。帰ってきてからでも聞けるしね!