qwertyui
──崩れる通路の中で、私は二つの物を抱き上げて速度を上げた。
一つは猫っぽい魔物、助けた事を理解したのか、足元に頬を擦り付けていたのを片手で摘み上げた。
もう一つは先程まで戦っていたコボルトだ。こいつが埋まるのを許容できそうにない。
だって格好いいじゃないか。仲間の為に殿務めて、私だってまだ制御できるか分からない様なチート使った状態相手にして、震えてるのに吠えて立ち向かってきたんだ。こんな気合があった奴をあんな場所に埋められるなんて許せるはずがない。
チートはそのままに、初速は通常時の最高速を軽く超えて、瓦礫は触れるだけで弾け、砕ける。
天井が崩れる中で、罅だらけの床を全力で踏み込み、思考が加速する。停滞した世界の中で、私の視界には最良の軌道が蒼く輝いて見える。
これは<観察眼>の特性なのかもしれない、なんて思えるくらいには余裕だった。
そのルートを奔り抜け、停止すると同時に私の世界は音を取り戻した。背後から響く轟音も、流れる汗も今は気持ちがいい。
正直、崩れる順番に助けられた気がする。天井、壁、床と言う順番に崩落が始まるので、足場がまだある中を駆ける事が出来た。逆なら間に合っていたか怪しいタイミングだった。
あー、それにしても体中クッソ痛い。もうね、頬の辺りとかざっくり逝ってる。再生してるけど逝ってる。ほとんど感覚がない。さっきまでは血がだらだらと流れていたけど、それはもう止まったものの、灯台内部の籠った空気が動く度に傷口を撫でるのがなんとも嫌だ。痛いし、何より気分が悪い。碌な治療も出来ないし傷跡残るんじゃないだろうか。
それにしても、肩から肘に掛けて右腕切られたけど、案外動くもんだ。痛いし、動かしづらいのに、構えてぶん殴る事に支障はなかった。
そもそも痛みに対して私鈍くね? 筋肉達してる傷でも平然と動けるのって割と致命的にやばくね? 痛みってのは我慢する物ではなくて訴える物なのに、訴える程に痛みを感じない。なのに傷口が深いのは理解できる辺り洒落にならねえ。死にそうなギリギリなタイミングもちらほらあったのに恐怖らしい恐怖も全然感じなかったし。生物として壊れてない?
まあ、別に困る訳でもないし、便利だから問題ないからいいんだけどさ。それでも一般的に地球人として少し気になるところだけれどもね。
まあ、それはそうとせっかく五体満足に生きているのだし、今回はよくやったと自分を褒め称えよう。よっしゃあぁ、さっすが私、やったぞ私!! ……テレッテ台詞は使いやすいのう。
──あ、そうだ。レベル確認しよう。
あのコボルト強かったしレベル上がってるかもしれない。
【迷宮探索者№37564】
【名前】ジョン・ドゥ(仮)【出身地】ニホン
【称号】異世界漂流者、一騎当千、霊喰者【加護】寵愛「暴神ティオ」「喰神ベンネ」
【職業】暴喰巫女〈LV6〉【職業補正】魔力感知、治癒力増強、喰神魔法LV1─解体─
【魔力量】620【魔力体質】常時体内循環型/純魔力生成体質
【能力】観察眼、自然体、無之型、再生、魔力操作【神贈】破壊者、無制限、蒐喰家【固有能力】無限スーツ、瞬時着替
【装備】異界の礼装、スニーカー【所持金】0ハオ
【実績】探索回数2、迷宮踏破数1
おお、レベルが6になっている。一気に2も上がっちゃった。
やっぱり強いだけはあったなぁ。……それにしても、霊喰者って地味に失礼じゃね? 私が喰ってるわけじゃないのに、あくまでも食べてるの能力で作った〝口〟なのに。……あと、新たに魔法とか覚えているのがなんとも気になる。と言うか、解体ってそのままズバリかよ。
「霊喰者」霊系統の魔物を捕食した人類。歴史上初の存在。霊系統の魔物を捕食した際に耐魔の基礎値が上昇する。
「喰神魔法」喰神の力の一欠片を魔法として発動させたもの。最も新しい根源を司る神の力は未だに謎めいている。効果不明、詳細不明、神物情報皆無。
喰神魔法「解体」生物の死骸を解体する。
──うん。
色々と突っ込みどころが満載なんだけどナニコレ?
と言うか、私の加護をくれている神様の片割れがまさかの詳細不明だとは思いもしなかった。新しい根源とか意味わかんないんですけど。謎めいているんじゃなくて謎そのものなんですけど。──にしても、神様の魔法しょぼくね?
〝────〟
あれ、今何処からかため息が聞こえたような。周囲を見渡しても誰もいないし空耳だな、うん。
さて、そろそろ今後を考えますか。
どうするべきか、上に上がる道はこの道をまっすぐ行けばいいんだと思う。だってそれ以外の道はもう潰したし。
それにしても円柱状なのに内部は正方形ってのはどうなんだろう。開いているスペース何さ。いやまあ、脳内マップ的には有難いんだけども。
二階までの道のりはもうすぐだと思うけど、このまま行くのは自殺行為か?
傷は徐々に治り始めているけど、それでも血は流れている訳で。──体力的に少し厳しいかも。
多少、モンスタードロップとフィールドアイテムのキノコも一応手に入った。収入としてはプラスの筈だ。
ただ、上の階に行く意味がちゃんとある。まず、このコボルトが所属していた集団が間違いなく上に存在しているのは間違いないし、この猫の親探しもしなければならない。宿屋でこの猫飼っていいか分からないし、こういうのはしっかりとやらなければならないのだ。
それから暫く悩んだ私はとりあえずこの猫の親探しだけは遂行する事にした。子供がいないのなら親だって心配だろうし、しょうがないね。
尤も、上に行くのなら服を直さなくちゃいけないか。それなら早々にスーツを作るとしよう。
そう思って<無限スーツ>を使おうとして、そう言えば素材を使用するとその性質を取り込むことができる事を思い出した。
どうせなら何か作ってみようと〝口〟に収納していたアイテムを取り出した。取り出したもののどう使えばいいんだろうかと悩みながら<無限スーツ>を使ってみようとしたところ、アイテムの名前が移っている。
◆闇纏いの衣×12、石炭×6、シイタケ×8、コボルトの毛皮(低品質)×20、犬肉20ブロック、ルドガーダケ×31、エルメールダケ×4、オーク肉50ブロック
……そう言えばオーク肉の一部はまた食べようと残してたんだっけ。もったいない事をした、後で食べよう。
それはそうとそれぞれの性質をスーツに反映した場合どうなるのかを確認するとしましょうか。
闇纏いの衣【隠遁】石炭【無煙炭】シイタケ【出汁】コボルトの毛皮【連携】ルドガーダケ【薄幸】エルメールダケ【ロリコン】オーク肉【美味】
……まともなの少ねぇ!? と言うか明らかにやばい単語が存在するんですけど!?
とりあえず全部試してみようと片っ端等から取り込んでみた。──結果はこちらです。
◆スーツ【隠遁】【無煙炭】【出汁】【連携】【薄幸】【ロリコン】【美味】
携帯食料兼固定燃料としても機能するスーツ型のロリコン製造衣服。
> 尚、装備中は隠遁+連携を取得するが、不幸に見舞われやすくなり、幼女/少女を見た際に性的興奮を覚えるようになる。
味は個々人の味覚に最も適したものへと変化する。出汁の取り方は鰹節と同じ。
長持ちする煙がほとんど出ない固定燃料として機能する。
最早呪いの装備級に達が悪い代物である。
しかも美味しい上に携帯食料になる。最早スーツじゃない。というか着たくない。
なのでとりあえず完成したスーツはひとまず〝口〟に収納して、新しく<隠遁>の性質だけ付加したスーツを着込んで階段探しの旅を再開する事にした。
……それはそうと、このスーツ美味いんだろうか。あとで食べてみよう。