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脳筋系自称TS女子による迷宮探索(仮)  作者: 脳筋女子支援の会雑用係4号
第一章「脳筋異世界に立つ」
11/13

幽霊退治なう

何故か書けた。

<崩落灯台>は一般的な塔型迷宮の一つである。

 洞窟型や森林型のように転移と同時に内部に入る事はなく、塔の入り口付近にてその外観を見物する事が可能なため、多くの者が絶望を感じる事となる。

 最初から分からない洞窟型や、そもそも視覚的に変わり映えのない森林型は精神的な疲労が大きいが、しかし実際はそこまで大きい迷宮は少ない。洞窟型の場合迷路状であるが故に迷い、森林型は限定空間内をループする特殊な結界で閉じられている為どれだけ歩こうが終わりが見えないという絶望感がある。

 対して塔型の特徴は言ってしまえばその長さだ。巨大な塔は天を突き、その頂点は雲よりも遥かに遠い。その階層数は最早馬鹿らしく、果てしない塔の内部には魔物が闊歩し、罠が無数に仕掛けられている。その事が少しでも頭に過れば初心者はもちろん、一人前と称される大鬼級でも二の足を踏んでしまう。

 言ってしまえば、塔型の迷宮に最も必要とされるのは戦闘能力ではなく、一歩を踏み出せる無謀さだ。根拠のない自信、深く考えない楽観主義、──言ってしまえば慎重な者程登れない。

 だが、そんな塔型の迷宮の中で<崩落灯台>は異色と言える迷宮だ。

 視認できる高さしかなく、先端は雲を切り裂くような眩さでその全貌を照らしている。外壁は崩れ、見るも無残な姿はまるで朽ちるのを拒むかのようだ。

 生きながらに死んでいる灯台、その残骸。──それが迷宮として機能してしまった。

 だからこそ、此処は誰もが来たがらない。罠もあれば魔物も協力、だのに元人工物であるせいかアイテムは全て他の迷宮でも入手可能な物ばかり。

 危険な魔物が多い中を、無価値なアイテムを求めて進むものはまずいない。おまけに利用価値が薄いせいでギルドさえもが管理権限を欲しがらない塩漬け迷宮。


 そんな迷宮を前にして、ジョン・ドゥは一切の不安を切り捨てて、塔の内部へと足を踏み入れた。

 恐れがない訳ではない。顔に出ないだけで内心は割と怯えている。──だが、そんな怯えも、まあなんとかなるで流せるのだ。

 自信ではなく、ただの無謀。考えなしではなく、脳足らず。勇気ではなくて、──飲み込むのが得意なだけ。

 言ってしまえば、明日の飯が食べたいからなんて理由で命を賭けるに値する。

 だからこそ、気軽に死地へと足を踏み入れて、踏み込めるのだ。

 

 迷宮内部は外観と比べて異様に広い。仕切りが存在するので全貌こそ不明だが、その広さはさながらダンスホールのようだ。

 魔物と戦う際にはいいが、しかし探索をするとなるとあまりの広さに眩暈がしかねない。マッピングをしようと思えばどれほどの時間が掛かるのか。

 常人ならば、より正確には常識人ならばそれだけで疲労を覚えそうな光景を前に、ジョン・ドゥは顎に手を置いて思考した。

 そしておもむろに掌を眺めて僅かに目を細めた。


「──やるか」


 不意に呟かれた言葉と共にジョン・ドゥは歩き始める。

 向かう先は右の通路、──あからさまに魔物がスタンバイしている方向だった。

 入り口はまだ安全地帯であった為襲われる事はなかったが、待ち構えている魔物はとてもではないがLV2程度が立ち向かえるような存在ではない。

 ガイスト──邪精霊と呼ばれる悪意を持つ力そのもの。実態を持たず、物理的な物を透過する為魔法を使えない存在にとって鬼門と呼べる存在であり、エナジードレインにより精気を奪われた者は凍えながら死んでしまう恐ろしき魔物の一体だ。

 身体強化のように魔力で強化しようとも、魔力による攻撃ではない為すり抜けてしまう。ガイストの様な霊体系の魔物を魔法なしで倒す場合、祝福が掛けられた武具を使用するか、もしくは<火竜の血>の様な属性付加アイテムを使用するのが通例だ。


『ウオオオォォォッ──!!』


 ガイストの声なき声が響く。怨嗟と共に冷気が周囲を漂っていく。

 ゆったりとした速度でジョン・ドゥへと迫るガイストは、獲物の精気を吸い取らんとその腕を伸ばして、


「邪魔だ」


 喰われた(、、、、)

 

 

  ◆

  

  

 ……此処が<崩落灯台>。

 何というか、ぶっ壊れていて灯台として機能してなさそうなのに天辺がなんとも輝かしいのは何故なん? どういう原理だ、アレ。

 最早ファンタジーなら何でもありの法則ですか? あり得そうで困る。

 それにしてもなんというか、この灯台思い切りオバケとか出そうな雰囲気なんですけど。──オバケか、スケルトンの方が云百倍マシだなあ。

 殴って殺せるか殺せないか、それが重要だ。殴って殺せないと攻撃手段が「波」しかないから周囲の被害大きすぎる。

 そう言えばガイストって魔物出るらしいけどアレってオバケ系? だったらどうにか攻撃手段を考えないともしかしたら詰む?

 あれ、よく考えたら私の攻撃手段って物理攻撃意外だと本当に「波」しかなくね? 

 うわっ、……私の手札少なすぎ……?

 んんwwwこれは非常にまずいですぞwww──って、慣れない論者ごっこしてる場合じゃないぞ、これ。

 クーリングオフ、クーリングオフ制度を使うべき、じゃない。

 あそこまで格好つけた手前そんな事したら多分、いや間違いなく冷たい目で見られる。我々の業界でも拷問です、本当にありがとうございました(白目)。

 フランドルに嫌われるのは勘弁してもらいたい。だって天使に嫌われるとか私普通に死ねる。血反吐吐いて死ねる。

 こういう時は男は度胸だ。いや、今は女だけど、と言うか男だった気がするだけで本当に男だったかも定かではないけど、とにかく度胸だ。

 まずははじめの一歩を踏み出す事から始めれば大丈夫だ。……大丈夫の筈。

 とにかくまずは灯台に入るとしよう。当たって砕ければ問題ない。

 

 踏み込んだ先は外観と比べて異様に広い通路だった。

 壁が乱立しているのに何故か広い事が分かると言う不思議な現象が起きているけど多分ゲーム脳が勝手にそう判断しただけだろう。

 RPGとかだと、塔制圧型の迷宮とかって無駄に広いよね。外観とのギャップが酷いにも程がある。そのくせゴール付近で落とし穴の罠とかいじめかと何度思った事か。

 それはそうと、この迷宮も入り口すぐの部分まではどうも安全地帯セーフティエリアになっているらしい。なにせ入り口からすぎにあるY字の右の曲がり角の端っこの方にこっちを除いている魔物がいるし。と言うかアレ半透明なんですけど。フードを被ったミイラみたいなのが半透明ってのは本当に色々と視覚的にきつい。主に下半身は露出している点とかが。変態か。足がないからズボン履けないだけかもしれないけどさぁ。せめてパンツは吐けよと言いたい。

 それにしても、アレやっぱり物理攻撃利かなそうなんだけどどうしよう。壁抜けとか平然とやっている辺りもう色々と確定してる。

 まずは落ち着こう。落ち着いて自分の手札を振り返ろう。とりあえず手持ちの札は──、

 

【能力】観察眼、自然体、無之型、再生、魔力操作

神贈ギフト破壊者ブレイカー無制限ロスト・リミッター蒐喰家イーター

【固有能力】無限スーツ、瞬時着替

 

 まず<観察眼>~<魔力操作>は完全に補助と言うか、肉体に作用するパッシブスキルだから意味がないと思う。

 【固有能力】はそも考慮する余地がない。なので必然的に【神贈】の能力を使うのだけども、まあ、<無制限>は限界突破能力なので今回は関係ないか。

 まず<破壊者>こと「波」は危険過ぎるので却下。身体強化の要領で殴ればダメージ与えられそうなイメージがあるけど、正直使いこなせる自信がない。

 なので使うとしたら<蒐喰家>になるんだろうけど、

 

 「蒐喰家」喰神ベンネの権能の一部。掌を起点に〝口〟を展開する。生物以外の触れた物は〝口〟により吸収される。吸収された物は純粋なエネルギーとして〝胃袋〟に保存され、必要に応じて使用する事が可能。エネルギーに変換する事なく、そのままの状態で保存する事も可能だが、その場合〝胃袋〟内部に時間の概念が存在しない為、食材の熟成等を行えない。

 

 これって戦闘に使えるのかな?

 なんというか、もう一つ口が掌に出来るだけだよね。ただ胃袋と言う名のエネルギータンクとアイテムボックスに保存されてるだけだよね?

 でえも触れた生物以外を吸収するって書いてあるし、もしかしたらワンチャンあるかもしれない。魔法とか生物ではないし、幽霊も生きてはいないだろうし。

 よし、ワンチャンありと考えて能力を発動してみよう。

 意識的に<蒐喰家>を発動させる。両掌の奇妙な感覚が走るのを感じた私はそれを確認するために掌に視線を向けた。

 それは口と言うか、複雑な螺旋を描く魔法陣。複数の円と、その中央を走る稲妻のように鮮烈な無数の曲線。円の外と内を走る読めない文字はこの世界の文字なのだろうか?

 まあ、ともかく。これで準備は整った。ちょっとまだ不安があるけど、気合を入れれば大丈夫だ。

 

 「──やるか」

 

 右の通路に足を踏み出した途端に前方からガイストが躍り出てきた。

 下半身露出したまま壁沿いにそれなりの速度で来る光景、下手なホラーよりある意味怖い。

 というかだ。そんな恰好でこっちに来るなッ! 気持ち悪いし、気持ち悪いし、とにかく気持ち悪いからッ!!

 そ、それ以上オレのそばに近寄るなああーーーーーーーーーッ

 

「邪魔だ」


 逆の様な内心を強制変換されながらも私は平手を一発かました。

 腰の入った、いいビンタだったと後になっても思える様な、そんな気持ちのいい一撃。

 そしてそれがガイストの頬を叩いた途端、掌に呑み込まれるかのように吸い込まれていく光景、硝子を引っ掻いたかのような断末魔。

 叩き終えた後、掌を見たけれど、先程と何一つ変わらない複雑な螺旋が描かれているだけだった。

 ──これ、予想以上に使えるんだけど。

 とにかくオバケ対策は出来た。そう考える事にした私は、喜々として塔をダッシュした。

 殴れば殺せる。なら怖がる事は何一つない。

 

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