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想い出にかわる

作者: 志内炎
掲載日:2007/06/10

この小説は完全なフィクションです。

 失恋すると必ず見る夢がある。

 酷くビール臭い車内……いや、私。額に触れる唇。首の後ろを支える大きな掌。

「帰りたくない」

そう言えずに見送る車のテイルランプ。最後に見た光景。

 目覚めても残る、首の後ろの感触が、身動き出来ない程、せつない。

 恋愛の終わりなんて、いつも酷い。痛みはばらばらでも、一律に酷い。

 裏切ったり、裏切られたり。

 待てなかったり、待たせ過ぎたり。

 時には、始めから終わっていたり、始まっていなかったり。

(あの時も始まっていなかったな……)


 彼に出会ったのは、何年前だろう。もう忘れてしまったが、初めて好きになったサラリーマンだった。

 基本的にサラリーマンは苦手だ。人数が多い分、自分が規格外かも知れないと疑わない。人間なんて全員、自分が普通なのに、ちょっとでも自分と違うと変人扱いをする。

 その点では、彼は変人だったに違いない。流通関係の事務方の管理職。なのに現場に戻りたがっていた。

 のんびりした雰囲気。お酒が全く飲めず、いつも頭痛薬をまるでビタミン剤のように食べていた。

 もうはっきりとは思い出せないが、濃い感じではないものの、整った顔をしていたように思う。

 初めてのデートは、郊外の料理屋に行った。とても楽しかったし、いい感じだったと思う。

 ただ、彼の食事の仕方はいやだった。物を噛む度に、くちゃくちゃと音がする。

 でもそんな事、気にならないくらいは好きだった。


 二度目のデートは居酒屋。

 意外と好き嫌いが多い事に気付く。その後はビリヤード。ものすごく上手だった。


 運命の三度目のデート。

 どこで、ご飯を食べたか、覚えていない。

 彼の事が好きだった。いつか許せなくなる食事の趣味も、忙しすぎる仕事も越えていける気がしていた。

 (絶対、帰りたくないっていわなきゃ……)

しらふじゃ言えない。

(一杯飲もう……)

ビールを飲んだ。頭が冴えてきた。

(もう一杯……)

もっと冴えていく。

 プールバーに着いた頃には、すでに浴びる程飲んでいたのに、さらに飲んだ。でも一向に酔わない。

 もっと悪い事に、ナインボールで彼をこてんぱんにしてしまった。

「もう帰ろう」

いつも以上に低い彼の声を覚えている。

 額のキスは、勝利の報酬であり、最後の証になった。


 例えばセックスしていたり、最初から他の誰かのものだったりすれば、諦めも、容易につく。

 (片思いが一番辛い……)

彼の悪いところも知れず、憎む事も上手く出来ない。それどころか、想像で作り上げた『理想に限りなく近い人』と、あさはかな自分の失態によって、永遠の別離を引き起こす。

 (今回もそうかも……)

次こそは上手く立ち回ろうと、心に固く誓っても、同じ失敗を繰り返す。

 上手く伝えようとして言い過ぎたり。控え過ぎて何も伝わらなかったり。

 (きっとやり過ぎた…)

それでもまだ頑張ろうとしている自分がいる。

(無理矢理キスくらいしとけばよかったかな)

苦笑い。そんな事できるくらいなら、上手く行ったかも。


 片思いの失恋は辛い。

 しばらくはあの夢を繰り返すだろう。そして新しい夢が加わった時、初めて想い出にかわる。


今でも想い出になっていない恋はありますか?

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― 新着の感想 ―
[一言] 共感できる内容でした。 片思いって楽しいけど辛いことの方が多いですよね。 小説を書き始めたばかりなので人を評価できる立場ではありませんが、文章も読みやすかったです。
[一言] 私も今、同じような状況だったので凄く共感して読みました。 とても、辛いけどいつか時間が解決してくれると信じて生きて行こうと思います。
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