☆ 第92話 絵本①
簡単な絵を描いて文章を添えて。ただそれだけなのに、手が進まない。
書いては消し、消しては書いて、時間だけがただ過ぎていく。
毎月たった十ページ、幼児向けの物語を綴るだけの仕事なのに。行き詰まる日が来るなんて思わなかった。
子供が喜ぶような愉快な擬音が浮かんでくることもなく。子供が見とれるようなキラキラした絵を描くこともできない。
血を吐くような努力をして、それでも私がこの仕事を続けてきたのは、絵本が好きだからだ。
子供の時に感じたドキドキを、他の子供にも伝えてあげたい。その一心で絵本作家を続けてきた。
けれど、好きだけで続けられるわけではないらしい。私は枯れてしまったのだ。枯れ果ててもう何も出てこない。
最後だからお別れの話を書こう。
気がつくと私の手は勝手に動いていた。描き出すのはうさぎのキャラクター、ピョン子。描き慣れて身体に染みついたためか、思考するより早く手が進む。
そうして出来上がったのは「ピョン子はまだ生きたがっている」とでも言いたげな、いつにもまして明るい物語だった。
「……お前は気楽でいいね」
私は書き上げた作品をそのまま削除した。続けざまに過去の作品も消していく。アナログ時代の原稿や設定資料には火を放った。
炎に巻かれ縮みながら丸まっていくピョン子は、なぜか寂しそうに見えた。
「大丈夫、お前一人で逝かせやしないよ」
その日、一人の絵本作家が己の創作物と心中した。
お題提供:AQUA@SHININGさま




