☆ ☆ 第9話 人形
髪の伸びる人形や捨てても捨てても戻ってくる人形など、人形にまつわる怪談話は多岐にわたる。
私の実家にもその類のものがあった。連れて帰っても連れて帰っても脱走を繰り返すという、一風変わったものだったが……――。
人形が最初に脱走したのは、買ってもらってすぐの事だった。私が幼稚園に入園したお祝いに買ってもらったものだ。
寝る前にはきちんと箱に仕舞っておいたはずの人形が、朝起きたらなくなっていた。消えた人形はなぜか台所の食器棚から見つかり、私は酷く叱られたことを覚えている。
それからしばしば人形が姿を消し、奇妙なところから現われるということが続いた。さすがの母もおかしいと思い、家庭用ビデオカメラを設置して部屋の深夜の様子を撮影した。映像には人形が自分で箱を開けて脱出し、部屋を出て行くところが収められていた。
私たち家族は驚き、お祓いをしてもらうため、その人形を神社に持っていった。
珍しいこともあるものだ、と言いながら神主はお祓いの儀式を行った。
それからしばらくは人形は失踪することもなく、おとなしくしていた。しかし、お祓いから半年が過ぎた頃、再び人形が姿を消した。
私たちは、再び人形を連れて神社へ向かった。しかし、神主にこれ以上手の打ちようがないと匙を投げられた。途方にくれた私の母は、人形の手足をきつく結び箱も厳重に縛って押入れの奥にしまいこんでしまった。
あの日から人形は外へ出てくることはなくなった。……が、今でも時々押し入れの奥からガタガタともがき暴れるような音が聞こえることがある。