☆ ☆ 第8話 南無阿弥陀仏
「あんた、お父さんに会いたいかい?」
ある日の夕飯時、突然母に聞かれた。
あまりにも唐突だったので、ついにボケが始まったのかと不安になった。父が他界したのは、もう十年も昔のことである。
父は死んでいるのだし、会いたいも何もない。その旨を伝えると、ああそう、と素っ気無い答えが返ってきた。
それから間もない日のことだった。
二人で街中を歩いていると、母が急に走り出した。
「少し出掛けてくるから」
そんな言葉を残して飛び乗ったのは、空港に向かうバスだった。バスは母を乗せると、すぐに発車した。遠出をするような荷物ではなかったのに、何を思って空港へ行ったのだろう。
戻ってきたら病院に連れて行かなければと思いながら、私は遠ざかるバスを見送るしかなかった。
母を待ちながらテレビを眺めていると、飛行機の墜落事故のニュースが流れてきた。なんでも離陸に失敗したらしい。
母が向かったのもその空港で、嫌な予感がした。
情報を求めてチャンネルを回し続けていると、警察から電話が来た。
案の定、母は巻き込まれて命を落としていた。
――事故を予感していたからあんな行動に出たのだろうか?
胸につっかえていた考えは、母の死体と対面したときに吹き飛んでしまった。
痛かっただろうに、苦しかっただろうに、母は安らかな笑顔を浮かべていた。
私は仏壇に手を合わせて、毎朝亡き両親に声をかける。
――お母さん、お父さんには会えましたか?
私はそろそろ一人暮らしも飽きてきました。早く二人に会いたいです。
いつごろ会えるかな?