☆ ☆ 第76話 視線
こんな時間にホラー映画なんて見るんじゃなかった。
後悔しても時は既に遅い。
レンタルしたDVDの返却期限が明日に迫っていることに気付き、入浴を後回しに黙々と映画に見入ってしまったのだ。映画を観終わる頃には、時計の針は十二時を回っていた。
夜の暗くて静かな空間は何とも言えず気味が悪い。浴室で一人になった途端、恐怖が沸き上がってきた。
髪を洗う間、シャンプーが入らないように目を閉じる。そうすると視覚の代わりに聴覚が鋭くなる。ぽたぽたと床に落ちる水音が耳についた。自分の髪が背に落ちただけなのに、誰かに触られたのではないかと錯覚してしまう。
背後は壁だとわかっているのに、何かの気配を感じるような気さえしてくる。
不安を押し流すように熱いシャワーで全身を洗い流した。
湯船に浸かり、ほっと一息つく。
――ほら、ただの杞憂だ。
思いながら視線を上げると、逆さ吊りになった男の顔が天井から生えていた。
目が合うと男はにやりと笑い、天井に吸い込まれるように消えていった。
お題提供:ムッシュ志乃さま
(元のお題→「風呂場で誰かに見られていると思って振り向いても誰もいないが、オバケは本当は上から見ている」)




