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☆ 第72話 夢
「こわい夢を見たの」
目を赤く泣き腫らして、彼女は僕の胸に飛び込んできた。
真っ白なツインテールを撫でながら、僕は彼女に問いかける。
「どんな夢?」
「あなたが私を忘れてしまうの。私は一人きり、真っ暗なところに押し込められるの」
そう言った後、彼女は泣きじゃくるばかりで言葉を発することはなかった。
朝、目が覚めて「ああ、あれは夢だったんだ」とようやく気付いた。よくよく考えてみれば僕には彼女なんていないのだ。
ただ、真っ白な毛を撫でる感触には覚えがあった。
机の上で埃を被っていた日記帳に手を伸ばす。
最後の書き込みは二年前の今日。実家で可愛がっていたウサギが死んだ、あの日の記述だ。あれ以来、日記帳を開くとウサギのことを思い出してしまい、日記を付けるのをやめてしまったのだったっけ。
――そうか、お前、女の子だったのか。
何年も一緒に暮らしていたはずなのに、死んだあとになって気付くなんて。
忘れかけてごめん。