☆ 第61話 スイカ割り
海水浴というのはどうにも乗り気になれないけれど、友人に砂浜でのんびりしているだけでもいいと言われたので付き合うことにした。レジャーシートを広げ、パラソルを立てて砂浜の一角に陣取る。水着を着てはしゃぎながら海へ突撃していく友人を見送った私は、ビーチに視線を向けた。
少し離れたところで、親子連れが何やら動き出したのが目に入った。おもちゃのバットとスイカ。スイカ割りか。
夏のイラストの定番ではあるけれど、実際目にするのは初めてだ。ワイワイキャッキャとスイカ割りに興じる家族を遠巻きに眺めつつ、レジャーシートの下からでもわかる太陽に熱された砂の熱さに辟易する。
スイカ割りをする家族の傍に若いカップルが近付いて行く。二人は何やら揉めているようだった。
女の方は手を握ったり開いたり何とか怒りを散らそうとしているようだ。男は困ったように眉尻を下げながら何か弁解しようとしている。
その時。ついに女の堪忍袋の緒が切れたようだった。握り拳を思いきり振り下ろす。その拳が向けれらたのは男ではなく親子連れの用意していたスイカだった。
女の拳はスイカを打ち砕く。愕然とする親子連れを睨み付けながら女は二度三度とスイカに拳を叩きつけた。
連れの男は手に負えないと判断したのか、愛想笑いを浮かべながらゆっくり後ずさりして逃げ出そうとしている。
浜辺で展開される一部始終に目を奪われていた私とスイカを叩き割る彼女の視線がぴたりと合ってしまった。彼女の口角がゆっくりと上がる。
――殺される!
友達がまだ海水浴を楽しんでいることなど頭から消え去って、私は逃げるようにその場を後にした。




