☆ 第6話 AM0:00
ぺたぺたぺた……ぴたり。部屋の真ん前で足音が止む。
枕元の時計は午前零時ちょうどを示していた。狙いすましたかのような正確さで、アイツが俺を殺しに来る。
ガタガタと戸が音を立てる。鍵のかかったドアをこじ開けようとしているのだ。その程度ではドアが開かないと見ると、ドンドンと力任せに殴り出した。
それでも無視を続けると、奇声を上げながらドアを強打する。
「開けろ、開けろ! 開けろ!!」
廊下の声は言葉にこそなっていないが、そう言っていることは明確だった。
――冗談じゃない。明日は大事な会議なんだ!
尚も沈黙を続けると、廊下の騒ぎは一層激しさを増す。
その騒ぎに気付いた妻が目を覚ました。
「……もう、中に入れてやんなさいよ」
呆れているのか怒っているのか、はたまた寝起きで不機嫌なだけなのか。彼女はぶつくさ言いながらドアの鍵を開けた。
廊下から眩い光が侵入してくる。それと同時にアイツは大声で泣きながら、俺の腹にタックルしてきた。
かわす間もなく、鳩尾にしっかり決まったタックルに、一瞬呼吸が止まる。
五歳になる我が家の小さな怪獣は、一丁前に一人で寝たがる。その癖、夜中に目を覚ますと急に寂しくなって俺たちの寝室にやってくるのだ。怪獣がやってくると、狭い布団から蹴り出され、毛布一枚で夜を明かすことになる。
俺が凍死する前に、こいつは一人で寝られるようになってくれるのだろうか。