☆ 第54話 迷宮
巨大迷路がオープンした。その知らせは娯楽の少ない田舎を一気に駆け巡った。
もともと畑ばかりの土地で、変わり者として知られる爺さんがトウモロコシ畑で何かをしているというのは前から噂になっていた。それが突然「巨大迷路」という立て看板を突き立てて営業し始めたというのだ。
一人千円という参加料は高い気もしたが、話のネタにはなるだろう。素人がたった一人で作り上げた迷路だ。どうせ大したこともないのだろうけれど。
そう見くびって僕らは三人で巨大迷路に挑戦することにした。
爺さんは歯のない口を大きく開け、笑いながら僕らを送り出した。
素人の手作りということもあり、通路の幅はまちまちだった。狭いところは体を横向きにしないと通ることができないほどだ。十分もあれば攻略できるだろうと思っていた。
しかし、歩けども歩けどもゴールは見えてこない。何度か入口に戻ってしまい、そのたびに「諦めるのか」と意地悪い笑顔を向けられた。
「なあ、これ出口なんてないんじゃないか?」
腹立ちまぎれに声に出す。友人たちも同じことを考えていたらしく、強行突破で脱出しようという話になった。
トウモロコシの生垣をこじ開けて隙間を潜り抜ける。その先にあった生垣も同様に掻き分けて進んだ。
その次も、その次も、その次も。
どれだけ進んでもトウモロコシの生垣の外へ出ることはできなかった。
「……どうなってるんだよ」
三十分は歩いただろうか。呆然として呟くと、すぐそばから爺さんの声が聞こえた。
「イヒヒヒ。諦めていいんだぞォ?」
爺さんがいる! ということは入口はすぐそこだ。これが最後、と生垣を蹴破った。
そこにはまた、生垣があった。