☆ ☆ ☆第52話 エダマメ
虫のお話です。苦手な方はご注意ください。
アルコールは苦手だが、おつまみとして出される塩味の効いたエダマメには目がない。そんな私はビール片手に野球観戦に興じる父親を横目に黙々とエダマメを口へ運んでいた。
プチプチとした食感と、口の中に広がる風味がたまらない。次から次へと豆を押し出しては咀嚼しているうち、一粒が口を逸れて床に落ちてしまった。
「三秒ルールっ!」
小学生の時から習慣になってしまった呪文を唱えつつ、床のエダマメに手を伸ばす。
その時。緑の粒が動いたように見えた。エダマメは丸まった身体をゆっくり伸ばし、緩慢な動きでのそのそと這いだした。
見間違いに違いない。
手のひらに乗せてみると、丸々と太ったそれが確かな感触を伴って蠕動している。
「きゃっ……」
反射的に手の上のものを放り投げた。
エダマメが盛られた皿に目を向けると、まだ手を付けていないエダマメのさやがごそごそと動いている。
口の中に不快感が広がり、青臭さに吐き気が込みあげた。
「どうした? 虫でもいたか?」
冗談っぽく笑う父親の口の中には、潰れて緑色の汁を滴らせるなにかがこびりついていた。
お題提供:アラタナナナシさま