☆ ☆ 第51話 こたつ
それは、我が家に初めてこたつがやってきた年のことだった。
こたつに潜り込み、自堕落に生活する。その幸福を知ってしまった私は、こたつから抜け出すことができなくなっていた。
特に幸せなのがうたた寝をしている瞬間だ。親からすれば迷惑極まりないようで、しばしば私をこたつから追い出そうとする。
「寝るなら部屋で寝な?」
「わかってる……。もうちょい」
答えるのも億劫だが、叩き起こされてはかなわない。適当に返事をして、もう一度瞼を閉じた。
足に何かが当たる。毛のような感触と、私の足にかかる吐息。けれど、私の家では動物を飼っていない。
一体何ごとかと布団を捲って確認した。
こたつのオレンジ色のライトの中に照らされるもの。それは、見知らぬ中年男性の頭部だった。
「あっ……」
私が声を上げると、中年男性の顔も驚いた表情に変わる。そして、ゴロゴロと転がってどこかへ消えてしまった。
私はこたつを抜け出して反対側に回り込んだ。しかし、どこにも中年男性は見当たらない。全く見覚えのない人だし、心当たりだってない。
親に話しても「夢でも見てたんでしょ」と相手にしてもらえなかった。
それ以来、私はこたつに入ることをやめた。