☆ ☆ 第5話 霧中
ママごめんなさい。許して。僕、これから良い子になるから!
ねえママ……ごめんなさい。ごめんなさい。許して……。待って、待ってよ!
ママ……ごめんなさい。ごめんなさい……。
こんな霧の夜は、若かりしあの日の過ちを思い出す。
あの頃は生活が苦しく、自分の生活だけでいっぱいいっぱいだった。自分一人が食べ繋ぐのもやっとだった。だから、幼い頃に好きだった童話の真似をして子供を森の奥へ連れて行った。
そして、泣きじゃくる子を置き去りにして帰ってきてしまったのだ。
あの頃の私は、仕方のない事だと割り切って考えていた。どうせ捨ててきたって子供は帰ってくるのだから、と童話を鵜呑みにしていた。
しかし、あの子がこの家へ戻ってくることはなかった。初めのうちは、お菓子の家でもみつけたのかしらと呑気なことを思ったりもしていた。
でも、山へ捨ててから一年が経ってもあの子は帰ってこなかった。
代わりに届いたのは、獣に食い荒らされた子供の遺体が見つかったという知らせだった。
それを聞き、己の罪深さを痛感した。
その罪の意識からなのか、霧の夜になると決まってあの子の声が聞こえるのだ。
“ママ、どうして僕のこと置いていっちゃったの? 僕、寂しかったんだよ?
でも、やっと帰ってこられたんだ。ねえ、ママもお外に出ておいでよ。ほら、早く早く!”